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HOW I WORK

「他人には6割で良しとしろ」。フラットな組織文化にこだわる星野リゾート代表・星野佳路さんの仕事術

「他人には6割で良しとしろ」。フラットな組織文化にこだわる星野リゾート代表・星野佳路さんの仕事術

敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。

今回登場してもらったのは、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」などの施設を運営する星野リゾート代表の星野佳路(ほしの・よしはる)さん。

“リゾートの革命児”との異名を取る星野さんの、独自のビジネス理論やライフスタイルを参考にしている人も多いことでしょう。

そんな星野さんの頭の中を探るべく、ビジネスにおけるルールやコンディションの作り方、人生において大事にしているアドバイス、愛用の仕事道具まで、根掘り葉掘りお話を伺いました。

愛用している仕事道具や、仕事をする上で欠かせないものを教えてください

・FREITAG(フライターグ)の財布、iPhoneケース、クラッチバッグ

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Photo: 柳原久子

私は、FREITAG(フライターグ)が好きです。トラックの幌を再利用したブランドで、最初はその思想に惚れ込みました。1993年にスイスのチューリッヒでフライターグ兄弟が立ち上げたのですが、彼らは来日時「星のや」に泊まってくれたこともあり、話をしたら、ますます意気投合しました。

最近は、どんな財布やiPhoneケースでも、それなりに機能性が考えられていますよね。驚くほど粗悪な製品は少なくなったと思います。しかも、ネットで手軽に購入できます。

だからこそ、使っているモノの思想背景をより重視するようにしています。それが、愛着にもつながりますよね。もちろん、製品としても使いやすい。ポイントは、利便性が高く、丈夫で長く使えるところだと思っています。

・メガネ

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Photo: 柳原久子

今日掛けているのは取材用のメガネです。これ以外にも、会議用や海外用など、複数をシーンによって使い分けています。メガネをかけるようになったきっかけは、自分の顔写真が掲載された記事を見たこと。あまりに何の変哲もなく、ガッカリしてしまったのです

会社のイメージアップにもつながるかと思い、あえて印象的なメガネを掛けたりもしました。すると、掛けるメガネによって自分のなかのモードが変わることに気づきました。それ以来、気分を変えたいときや気合いを入れたいときなど、自己暗示的にメガネを利用することもあります。

・自転車

今乗っているのは、「星野リゾート トマム」を手掛け始めた2004年に買ったものです。もう14年も愛用しています。それまで「星野リゾート」は軽井沢と八ヶ岳でしか展開していなかったので、軽井沢に住んで八ヶ岳に通っていたのですが、トマムが加わったことで東京が働く場所のメインになりました。

そうなると、満員電車で通勤するよりも自転車のほうが遙かに気持ちがいい。風を切って進む感触はスキーにも似ていて好きなのです。それに、移動時間短縮と運動不足の解消にもなります。

・VECTOR GLIDE(ヴェクターグライド)のスキー板

スキーと仕事はほぼ関係ないのですが、愛着がある道具なので持ってきました。私は年間60日、スキーをすると決めていますが、その時に履いているのが「VECTOR GLIDE」です。かなり太い板で、パウダースノーやバックカントリーに適しています。海外に行くときも持っていきます。

「VECTOR GLIDE」は日本のブランドで、これにもまた思想や背景があります。実は日本のスキーの歴史は100年以上で、アジアの中では最も長く、雪も多い。そのため、スキー分野でもっと世界に進出できるはずだと思い、一生懸命応援しています。

スキーの良さは、非日常のスピード感や浮遊感が味わえること。そしてなによりも、旅との連携です。雪山の景色は素晴らしいです。この景色だけでも、非日常の体験となります。そのためにも、同じ場所ではなく、日本国内はもちろん世界中のいろいろな山に行くことを大事にしています。

今の私のテーマは、「必ず違った場所で滑る」こと。今年は、2月にオーストリアのレッヒで、8月に初めて南米のチリで滑りました。 スキーができる山の数は世界遺産の数より多く、年間60日、一生行き続けても、とても全部を滑り切れない。そういった意味で、人生の重要なテーマになっています。

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Photo: 柳原久子

たまに、「スキーをしているときにアイデアが浮かんだり、スキーでのリフレッシュが仕事に対してプラスになったりしているのでは?」という質問をいただくのですが、まったくないです(笑)。スキーはスキーです。ある意味、仕事より優先しているかもしれません。

ある程度の年齢になると「自分の人生における最後の後悔はなんだろう」と考えます。私は「星野温泉(星野リゾートの前身)」の4代目。いわば、「星野リゾート」の仕事は家業です。

お陰様で私たちの事業は成長してきていますが、ビジネスの成長は終わりがないですよね。きっと、いずれは次の経営者にバトンタッチして、「星野リゾート」は続いていく。そう考えたとき、「もっと仕事を一生懸命やっておけばよかった」という後悔は、私のなかにはおそらくないと思うのです。

むしろ、考えられるのは、「もっと滑っておけばよかった」という後悔。私は58歳ですが、星野家は代々、80歳以上まで生きた人がいないのです。そこで、私も仮に人生80年と考えると、残りは22年。この22年を、前半の11年と後半の11年に分けたら、体力的にもスキーに向いているのは最初の11年に決まっています。つまり「今」です。

70歳を過ぎてから「もっと滑っておけばよかった」と思っても、時すでに遅し。それで、今は仕事よりも大事にしています。

スピード感を持って意思決定や判断を下すために、意識していることはありますか?

会社が「フラットな組織文化」であることです。社員が私を代表だと過度に意識したら、それはフラットではない組織。発言は忖度され、判断が正しくない方向に流される恐れもあります。

そういった状況では、私の判断が正しいかどうか、自分自身で精査しなくてはならない。当然、意志決定は遅れます。

「フラットな組織文化」では、誰が何を言っているかではなくて、その発言自体が正しいのかを、それぞれが自分の発想で確認します。そういった組織では、私は自分の判断を改めて精査する必要がない。結果として、意志決定はスピーディになります。

ただ、マネジメントという観点では、「フラットな組織文化」は言いたい人が言いたいことをいきなり提案するから大変だという人もいます。

しかし、代表自らが「フラットな組織の中の一員」として、自分の意見をダイレクトにぶつけて、正しいか正しくないかを精査してもらうのは個人的にストレスがない状態です。

私も思いつきを話しますし、正しいかどうかもあまり気にしていません。その分、部下からダメだしされることも少なくありません。

立場にかかわらず、自分の意見をダイレクトにぶつけることは、現場の意見が通りやすいということ。最近では、「星野リゾート アルツ磐梯」での事例があります。

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Photo: 柳原久子

福島県の磐梯町(ばんだいまち)にあるスキー場を併設したホテルなのですが、未だに原発事故の風評被害が残っており、インバウンド需要が伸びないといった問題を抱えています。

私は、いちスキーヤーとして、ホテルではできるだけチェックアウトを遅くしてほしいと思っていました。それだと、朝滑ってから昼頃部屋に帰り、支度をしてチェックアウトという過ごし方もできます。

通常のホテルはチェックアウトが10時頃なので、それができない。そこで「星野リゾート アルツ磐梯」では、チェックアウトを15時にしてチェックインを16時にできないかと提案しました。

ただ、それは現実的に難しいと現場から却下されました。それでも、どうにかできないかと現場のスタッフが試行錯誤している中で、チェックアウトを13時まで伸ばすことが可能となりました。すると劇的な変化が現れて、お客様の多くが午前中は存分にスキーを楽しみ、午後に帰るという流れが見て取れました。

これだけで、半日分の需要が新たに生まれたわけです。私が提案した15時は無理でも、現場のスタッフが意見を出し合って、現実的にできることを話し合う。それが成果につながったのです。

「フラットな組織」は、現場からもフラットに意見が出ます。実はこれが重要で、私や経営層では分からない本当の困りごとや課題が見えてきます。 しかし、組織が大きくなるとフラットの度合いが拠点によって変わってきます。もしかすると、私の仕事で最も重要なのは、このフラットさを維持することかもしれません。

フラットな組織を壊す大きな要因は、人事権評価制度です。弊社では総支配人やディレクターなどの管理職を立候補制にし、スタッフの共感によって管理職を決定しています。そうすることで、一部の人に集中しがちな権限を分散化しているのです。

評価制度は、まさにこれからのテーマだと思っています。ただ、間違いなく言えることは、フラットな組織文化は、組織のトップが本気で取り組まないと維持できないということだと思います。

いつもベストなコンディションで居続けるために、実践していることはありますか?

一番重要なのは睡眠です。理想は8時間、最低でも7時間は取るようにしています。

私の重要な仕事のひとつが会議です。複数の課題を把握して、経営のアイデアを発想します。また、会議自体をファシリテートしながら、参加者のモチベーションを維持していくために、十分なパフォーマンスを発揮しなくてはいけません。

睡眠不足だと、そのためのベストコンディションが整わない。もしかすると、アスリートが試合でパフォーマンスを発揮するためにコンディションを整える考え方に近いかもしれません。

睡眠を意識するようになったのは、40歳を過ぎてからです。睡眠不足だと疲れが取れず、パフォーマンスが落ちてくるのがわかるのです。「今日はいま一歩だったな」とか「きちんと反応できていなかったな」とか。

それまでは、「長く仕事をしていることはいいことだ」という感覚もあり、会社の中で一番長く働くことが責任を果たしていることだと思っていたのですが、まったく変わりました。

睡眠以外では、食生活による体重コントロールも気をつけています。今は朝食と夕食だけで、お昼は食べません。お昼を食べた後には眠くなり、自分の生産性を下げるのではないかと危機感を持っています。会食も、出席する必要がない限り、あまり顔を出すことはありません。

嫌いなことや必ずしも必要ではないことは、無理には行わないようにしています。「出たくない会議には出ない」「会いたくない人には会わない」「行きたくない会食には行かない」の「3ない主義」と名付けています。

私たちが日々行うことの中には、意外と必要のないことが多く存在しています。必要ではないのに参加している集まりや、定例だからと開催している会議などです。自分が取り組まなくても問題のない仕事は、たくさんあると感じています。

私は、そういった仕事は人に譲る。そうすればスキーの時間は長くとれるし、自分にしかできない仕事に集中できます。

これまでの仕事のなかで最大の失敗は?

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Photo: 柳原久子

よく失敗談を聞かれるのですが、あまり「これは失敗だ」と強く認識したことがありません。うまくいかないことは結構あるのですが、それをあまり失敗と捉えていません。失敗をどのように定義するかという問題かもしれません。 何かを行うと副作用は必ず出ます。「星野リゾート」のなかにも、当初は実績が上がらなかったホテルがあります。「星のや」最初の海外運営である「星のやバリ」も、日本式でやってみたら上手くいった部分もあれば、そうでない部分もありました。

失敗と言えば失敗なのですが、上手くいかない部分を把握できたのは、プラスだったと思っています。 みなさんが失敗と呼ぶものは、私のなかでは、「思っていた以上に大変だった」「やってみなければ、わからなかった」という話が多い。

それならば、やらなければ良かったとかといえば、決してそんなことはありません。なぜなら、やってみないことには成長もなく、次になにをすべきかも分からないからです。

それをある時点だけを見て、業績や実績だけに落とし込むと、計画通りにいっていない=失敗ということになります。しかし、計画通りにいかないことは失敗ではありません。

業績や実績に表れるまで、単に時間がかかっているだけです。現に、オープン当初1年以上結果が出なかったリゾートも、今は順調に運営しています。「失敗」という言葉は「発見」や「学び」にもつながる気がします。私は、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院に通っていたのですが、あるレセプションで、初めてフォーマルウェアを着る機会がありました。スーツを着用して出席すると、クラスメートはみな自国の民族衣装を身につけている

「なぜ日本の伝統的なフォーマルウェアで来ないんだ」と言われました。とても恥ずかしかった。しかし、このとき、世界の人が自分たちに期待していることや、どう見ているかを理解できました。

私にとっては発見であり学び。「星野リゾート」は日本文化を大切にしていますが、今でも自分の仕事や決断に対して、「あのときのクラスメートたちはどう思うだろう」と考えます。

私の中での「失敗」がどういったものかといえば、「その時点に立ち戻れたら、違う方法でやるだろうな」と感じることです。私が最初に「星野温泉」(星野リゾートの前身)に入社したときの話をします。

「星野温泉」の代表に就任したのは1991年なのですが、その前の1989年に取締役として就職しているのです。当時は同族会社だった「星野温泉」が抱える課題を解決し変革しようとしたのですが、組織内外からの反発で辞職に追い込まれました。

これは挫折かもしれませんが、失敗ではありません。なぜなら、私は改革に着手したことに、なんら後悔をしていないし、間違っているとも思っていないからです。その時点に戻っても、きっと同じことをすると思います。ただ、当時よりも過激さを抑えるかもしれません。

人生でもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください

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Photo: 柳原久子

私はあまり人付き合いが良くないので、誰かに言葉をもらった体験が多くありません。ただ、学生時代、体育会のアイスホッケー部に所属して主将まで務めたのですが、そのとき監督からもらった言葉は覚えています。

私は完璧主義者だと自覚していますが、当時は自分だけでなく、人にも厳しくなっていたと思います。それがチーム全体の不協和音につながり、居心地の悪い場所になってしまったことがありました。

そのとき、監督が言った言葉が「他人には6割で良しとしろ」。そういった発想がなかったので、転換点になった一言でした。自分の中にない概念だったので、徐々に変えていくというよりは、全然違う世界に移動するという感覚で、考え方を変えることができました。

今では、6割どころか3割程度で人に接している気がします(笑)。そうでなければ、スタッフがついてきません

今は、スタッフが私たちを選ぶ時代です。私たちは、この危機感を90年代から持っていて、経営課題としての社員へのアプローチを認識していました。「星野リゾート」が大事にしている、「スタッフ一人一人に満足して働いてもらえる職場づくり」や「スタッフ全員に対する情報開示」、そして「フラットな組織文化」も、この経営課題から生まれました。

3割や6割という概念を更に進化させ、社員のモチベーションを高く維持して、働きやすくすることが経営者の責任だと考えるようになったのです。

この考えは、経営コンサルタントであり、行動科学者のケン・ブランチャード氏の理論を踏襲したもの。彼は、1982年に出版して大ヒットとなった著書『The One Minute Manager』で、「社員のやる気のなさは本人の責任ではなく、やる気を出させることができない経営者に問題がある」と説きました。また、96年には『Empowerment Takes More Than a Minute(邦題:1分間エンパワーメント)』を出版しましたが、そこでは「フラットな組織文化」について触れています。

そういった意味では、彼の経営理論は、私が得たベストなアドバイスのひとつです。


Photo: 柳原久子

Source: 星野リゾート公式サイト

林田孝二

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