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「包帯パンツ」開発者が実践する人とのつながり方。シンガーの上田正樹さんを納得させた「キラー質問」とは?

「包帯パンツ」開発者が実践する人とのつながり方。シンガーの上田正樹さんを納得させた「キラー質問」とは?
Photo: 印南敦史

日本の小さなパンツ屋が世界の一流に愛される理由』(野木志郎著、あさ出版)の著者は、苦心の末に「包帯パンツ」を開発したという人物。それは、46歳になった年のことだったそうです。

包帯パンツとは、わが社が「SIDO(志道)」というブランドで展開する、文字通り包帯素材で縫製したパンツです。 包帯は医療用に作られたものですから網目が広く、蒸れることがない。

さらに伸縮性が高く、体にフィットするのでズレ感もありません。とはいえ、包帯でパンツを作る(創る)など前代未聞でしたから、商品にするまでが大変でした。(「はじめに」より)

しかし苦労のかいあって、2007年11月に発売された包帯パンツは、ロバート・デ・ニーロ、ビリー・ジョエルなど、世界中の著名人やセレブの方々から支持されることに。

でも、そんな実績は、自分ひとりで生み出せたものではないのだと著者は言います。

仕事はひとりでは絶対にできません。周りの人に助けられながら努力を重ねてやっていくもの。私はそう思っています。 その周りの人とどうやってつながっていき、信頼関係を構築していくのか。そして、どうやってそのつながりをひろげていくのか。

ビジネスだけでなく、人生を楽しむためには一体どうしたらいいか。それらを、私自身の(失敗も含めた)包帯パンツ開発にまつわる経験や、包帯パンツを通じて出会った大切な人たちの行動、そして発言を中心に、まとめさせていただいたのがこの本です。(「はじめに」より)

Part 1「ヒトとつながる」のなかから、いくつかの考え方を抜き出してみたいと思います。

名刺に執着してもつながりは生まれない

著者は、交換した名刺は半年で倉庫の奥にまとめてしまいこんでいるのだといいます。なぜなら、その後ビジネスでなんらかのつながりが発生している人とは、名刺交換をしてから1カ月以内にメールのやりとりをしているから。

一度でもメールのやりとりをしているのであれば、メールアドレスは残っているはず。しかもメール末尾の署名欄には、その他の連絡先も書いてあるのが一般的であるため、それで充分だという考え方です。

逆にいえば、名刺を交換してから1カ月以上経ってもなんのやりとりも発生しないということは、少なくともビジネス上では今後つながることはほとんどないということになるわけです。

ちなみに著者が名刺に頼らなくなったのは、何気なく机の引き出しを開けて名刺の束をしげしげと見つめたことがきっかけだったのだそうです。

というのも、モノを整理しようとすると、いちいち昔のことを思い出して作業がストップし、そこからじーっと見つめ、考えはじめてしまうというのです。

最初のうちは残しておくべき名刺を仕分けしていたものの、あまりの量に途中で嫌になり、時間を浪費していることに気づきもし、「直近半年以外はすべて倉庫行き」という英断を下したということ。

アーカイブした名刺が1000枚あったとして、そのうち2、3枚はアーカイブしないほうがよかったかもしれません。

でも、その選別をして昔を思い出しているヒマがあったら、今やれることをやり、新しくつながれる人とつながることに時間を割いたほうが、よっぽど有意義です。(54ページより)

もし、あとになって、アーカイブしてしまった名刺の人に連絡を取りたいと思ったとしても、まったく心配はなし。いまの時代は、その人が所属する組織なり個人なりのウェブサイトなどを頼りにすれば、いくらでも連絡のつけようはあるからです。

むしろ、もったいないのは思い出に浸る時間。そのため、「名刺は半年で倉庫行き!」と決めてしまってもいいと著者は言うのです。(52ページより)

お礼は取り替えのきかない言葉で

大切にしたい人への感謝の気持ちは、具体的に表明しないことには伝わらないもの。

たとえば、誰かにいい店に連れて行ってもらって、ご飯をご馳走してもらった時。翌日に電話なり、今だったらメールなりでお礼を言うのは当然ですが、「うまかったです」だけでは足りません。

たとえば、「あの餃子、めっちゃうまかったです」といった具体的な言葉があったら、より効果があると思います。(68ページより)

著者に言わせれば「おいしかった」は、「ありがとうございました」「またよろしくお願いします」などと同じく“コピぺの言葉”。他の人にご馳走してもらったときにも、取り替えがきいてしまうということです。

しかしご馳走してくれた人は、自分のお気に入りのお店を教えてくれて(情報の提供)、忙しいなかで連れて行ってくれた(時間の提供)わけです。

その情報と時間は、自分のためだけに提供してもらえた大切なもの。だからこそ、ひとことでいいので、具体的な言葉を添えることが大切だというのです。

そうした「具体的な感謝」のひとことがない人もたくさんいますが、著者はそういう人に会ったとき、つくづく残念だなぁと思ってしまうのだそうです。

ちょっとした気配りだけで、次に会ったときの印象が代わり、さらにその次へと広がっていくものだから。

しかし現実問題として、お礼の電話にすべきかメールにすべきかは判断が難しいところでもあります。電話だと、より細かいところまで感謝の気持ちを伝えることができますが、予告なしに相手の時間を奪うことにもなります。

一方、メールやSNSは相手の時間を邪魔しないものの、テキストだけだと少しそっけない印象もあります。

私の場合、仕事オンリーでお付き合いしている人へのお礼は、メールで、できるだけ早く入れます。プライベートも混じった関係の人は「今電話しても大丈夫ですか?」とSNSなりショートメッセージなりで聞いてから、電話をかけるようにしています。

このあたりは相手の世代やキャラクター、自分との距離感、連絡する時間帯などさまざまな要因が絡みますので、一概には言えません。ただ、「お礼の気持ちを具体的に伝える」のが非常に重要であることは確かです。

かくいう私が、おごった相手から具体的に礼を言われるのが、嬉しゅうてしゃあない人間ですから!(70ページより)

当然のことながら、出会った人とその後つながる場合もあれば、1回こっきりでその後つながらない場合もあることでしょう。だとすれば、その差はなんなのでしょうか?

著者は、それは「お礼の内容」なのだと思っているそうです。事実、お礼をきちんとする方とは、最初に会ってから何年も間を開けて再開したとしても、そのときと同じ感覚で話すことができるというのです。(67ページより)

“キラー質問”で、人のこだわりをズバリ聞く

相手の核心を突く“キラー質問”は、キラーパスのごとく、さまざまな局面を打開し、ものごとをいい方向に展開させてくれるのだと著者は主張しています。

そして、その重要性を説くにあたっては、シンガーの上田正樹さんとのエピソードを引き合いに出しています。

上田さんは学生時代から大好きなアーティストで、ライブにも何度も足を運び、アマチュアバンドをやっていたころは曲のコピーもしたのだとか。

そんな上田さんを知人からご紹介いただき、何度か食事に行った時、ある質問をしたのがきっかけで、「野木ちゃん!」と呼んでもらえる関係になりました。

それは、「ブルースってアフリカの魂の叫びなんですか?」という質問。 私がこの質問をしたのは、上田さんがアフリカまで行ってレコーディングをしたアルバムを聴いて素直にそう感じたからでした。その時、私は見逃しませんでした。上田さんのサングラスの中の目がキラリと光るのをーー(ほんまか?)。

そしてその日、上田さんが「野木ちゃん、包帯パンツの曲作ったるよ」と言ってくださったのです。もうビックリ! 数カ月後、本当にレコーディングされた包帯パンツの曲をプレゼントしていただけました。マジで感謝感激です!(93~94ページより)

つまり、「ブルースってアフリカの魂の叫びなんですか?」という“キラー質問”が上田さんの心を開いたということ。

もちろん、初対面でいきなりこのような質問をすることは簡単なことではないでしょう。しかし、何度か会ったり、話を聞いたりして、相手のことがなんとなくわかってくると、その人がいちばんこだわっているものが見えてくる瞬間があるもの。

“キラー質問”のぶつけどころは、そこだということ。そうすれば相手は生き生きと答えてくれ、信頼関係を深まるというのです。

ただし、そのためには、「相手について心から興味がある」ことが大前提。打算に基づくような質問では、すぐに見透かされてしまうわけです。(90ページより)

ギブ・ギブ・ギブ・ギブ・アンド・テイクの気持ちを忘れない

人のために尽くすという「利他の精神」を実践する人のもとには、自然と人が集まってくるもの。そして、その考え方を軸として、著者が人とのつきあいのなかで大切にしている精神(言葉)があるのだそうです。

それは、「ギブ・ギブ・ギブ・ギブ・アンド・テイク」

自分の成績や成功はあとからついてくるもの。まずはまわりの人たちに感謝し、ギブ・ギブ・ギブ・ギブ・アンド・テイクの精神を実践していくべきだという考え方です。

最近、私もテレビや雑誌に取り上げられることがあります。「包帯パンツの開発者」とか、「下着業界の革命児」とか。

でも、自分に言い聞かせているのは、「お前ひとりでできたんやないぞ! チームがあるからできたことやぞ!」ということです。 取材されても、必ず工場のことを表に出す努力をします。

「編み」「染め」「裁ち」「縫い」という4つの工程を明らかにして、それぞれの巧を表に出すようにしたりします。(114~115ページより)

自分ひとりで見せようとしても限界はあります。でもチームということになると、その奥行きは無限大。そのことを忘れてはならないということです。

なぜなら、自分ひとりを大きく見せることに力を注ぐより、チーム全体を見せるほうがチームの信頼関係も高まり、それを見せている人自身の価値も高まっていくものだから。

それこそが、著者の強調する利他の精神の重要性だということです。(109ページより)




ここに書かれていることは、成功するためのものではないと著者は記しています。ビジネスを成功させるのも、ひろげるのも「人」

だからこそ、愛される、魅力があり、信頼でき、かわいげのある「人」になるためのノウハウを詰め込んだというのです。

その言葉どおり、著者の人間味が表れた好著です。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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