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コミュニケーションにおいて「沈黙」が重要な理由

コミュニケーションにおいて「沈黙」が重要な理由
Photo: 印南敦史

私たちは、毎日、無数の会話を交わしています。 うまくいく会話もあれば、うまくいかない会話もあります。(中略) うまくいかなかった会話の代表的なものは、「沈黙が続いてしまった」というものです。 沈黙は重苦しく、つらく、逃げ出したくなるものです。 (「はじめに」より)

こう語るのは、弁護士である『「沈黙」の会話力』(谷原 誠著、フォレスト出版)の著者。たしかに沈黙が訪れると気持ちが焦ってきて、必要以上に「なにか話さなくては!」と焦ってしまったりもするもの。その結果、「話す必要のないことまで話しすぎてしまった」ということにもなりかねないわけです。

しかし実のところ、沈黙には相応の効果があるのだといいます。

ずっとしゃべりっぱなしでいると、聞いているほうは、疲れますし、だんだん話が頭に入ってこなくなってしまいます。 しばらく黙って観たり、言葉を減らすことによって、相手は「次に何を話すのだろう」と思ったり、こちらの話を整理したりすることができます。

沈黙をすることで、場を作り、相手の気持ちをコントロールすることができるのです。(「はじめに」より)

そこで本書では、そんな沈黙の力が明かされているわけです。第2章「パワー・サイレンス<part 2>ーー沈黙がもたらす人生の分岐点」のなかから、いくつかのポイントを抜き出してみたいと思います。

「話しすぎ」にご注意

著者の職業である弁護士には、法廷で流暢に話をしたり、スラスラと会話をして相手を説得してしまうというようなイメージがあります。ところが実際には、有能な弁護士が必ずしもよく話すわけではないのだそうです。

大切なのは、ミスを犯さないこと。そしてミスを犯さないためには、無駄にしゃべりすぎないことが大切だということです。

そのことを解説するために、著者は次のような会話を引用しています。

会社員の前田さんは、日曜日に出勤して仕事を片づけないといけなくなりました。しかし、日曜日は家族で遊園地に行く予定があります。どうしても前田さんがやらなければいけないという仕事ではないので、誰かに代わってもらおうと思い、同僚の真由美さんにお願いすることにしました。

前田「真由美さん、今度の日曜日に出勤しないといけなくなったんだけど、悪いけど、代わってもらえないかな?」

真由美「えー? どうして?」

前田「実は、日曜日は家族で遊園地に行くことになっているんだ。今度、何かおごるからさ。頼むよ」

真由美「私も予定があるのよ。困るなあ」

前田「以前、仕事で助けてあげただろ? 今度だけだからさ。それほど難しい仕事じゃないよ。真由美さんなら、仕事が速いから、3時間くらいでできるはずだよ」

真由美「そうねえ。どうしようかなあ」

前田「頼むよ。遊園地に行かないと、家族の信頼をなくしちゃうよ。いいでしょ。真由美さんは、まだ家族がいないんだから、1日くらい大丈夫だよね」

真由美「それどういうこと? 私が結婚してないからヒマだと言いたいの? ひどくない? もう代わってあげない。勝手に家族の信頼をなくせばいいでしょ!」

(53ページより)

ここで前田さんは説得するため、いろいろ理由をつけて承諾を得ようとしたわけです。ところが、相手の自尊心を傷つける余計なひとことを口にしてしまったため、説得が台なしになってしまったということ。それがなければ、休日出勤を代わってもらえそうな雰囲気だったにもかかわらず。

つまりはこのように、会話においてはしゃべりすぎると、つい余計なことを言ってしまう可能性が高まるということ。そのため、むやみにしゃべりすぎないことが大切だと著者は言うのです。

重要なことを言ったあとは静かに沈黙していたほうが、話した内容が相手の頭と心に浸透していき、説得もしやすくなるというわけです。(52ページより)

沈黙することで相手が自己崩壊する

ビジネスなど、相手から“YES”を引き出さなければならない交渉のような場合、「ただ沈黙しているだけではどうしようもないのではないか?」と感じたとしても無理はありません。

あるいは、「相手から“YES”を引き出すためには、相手よりも多くしゃべって説得してしまわないといけないのではないか?」という疑問が湧いてくるかもしれません。しかし交渉においても、沈黙は有効な手段になるのだと著者は断言しています。

交渉しているとき、相手がなにもしゃべらず沈黙していたとしたら、どう感じるでしょうか? おそらく「これは納得していないな」とか、「なにか気に触ることを言ってしまったかな」などと不安を感じるはず。

その結果、沈黙に耐えられなくなり、さらに話し続けてしまったりするわけです。

しかも、その話の内容は、不安を解消するための会話にすぎません。そのため、相手の機嫌をなおすための情報であったり、相手に有利な情報を提供するなどというミスにつながってしまうこともあるというのです。

ビジネスの交渉の場面を例にとってみましょう。

営業「いかがでしょうか?」

客「……」

営業「どこか、気になるところがございますか?」

客「……」

営業「お値段でしょうか? この点は、もう少しなんとかできますが」

客「どういう風に?」

営業「そうですね。……こんな感じでいかがでしょうか?」

客「……」

営業「難しいですか?これ以上だと会社に持ち帰って、上司と相談しなければいけません」

(58ページより)

このように、沈黙を使うと、相手は不安になるもの。そして「なにかが気に入らないのだ」と想像し、その点を補うような話をしてしまうことがあるわけです。いわば沈黙自体が、ひとつの交渉テクニックになるということ。

「相手に沈黙されることで、自分ら不利な会話をしてしまいがち」だということは、逆に自分が沈黙を有効活用すれば、相手から情報や譲歩を引き出せるということでもあります。

もちろん、ずっと沈黙したままでは相手に考えは伝わりません。そのため自分の主張やその論拠については、明確に伝えることが必要でしょう。

しかし、交渉中に適宜、沈黙を入れれば、それが相手の不安を増大させることになるということ。そのため相手から、有効な情報や上皮尾を引き出せるようになるわけです。(55ページより)

怒りを鎮めるための効果的な方法

怒りは、ときとして人間関係を破壊しかねず、必ず双方が嫌な気分になるもの。余計なことを口にしてしまい、あとで後悔することも少なくないでしょう。交渉においては、冷静な判断力が失われ、不利な結果となることも多いはずです。

そのため会話をするときには、自分の怒りの感情をコントロールすべき。もし会話中に怒りを感じたときは、沈黙を使うことによって怒りの感情を解消したほうがよいという考え方です。

相手に怒りの感情をぶつけそうになったときに大切なのは、「いま、自分の目的を達成させるために、怒りをぶつけるのは正しいことなのか?」と吟味すること。

そのためには、沈黙を使うのがいいというわけです。

たとえば相手からひどいことを言われ、怒りの感情が湧いてきたとしたら、相手に対して即座に怒りの感情をぶつけないことが重要。大切なのは、一瞬でもいいので沈黙し、自分の感情に集中すること

「あっ、自分はいま怒りを感じているな」と自覚することに意味があり、場合によってはそれだけで怒りが収まることもあるといいます。そして怒りを自覚したら、自分に対して次のように問いかけることが大切。

・これに対して、私が怒ることは、果たして正しいことなのだろうか?

・私のアイデンティティに合っていることなのだろうか?

・相手との関係を維持することよりも、怒るほうが重要なのだろうか?

・私は、怒ることによって、何を得ようとしているのだろうか? その目的に対して、怒ることが最も効果的なのだろうか? ほかにもっと効果的な方法はないのだろうか?

(63ページより)

こういったことを自問すると、すべての答えが出るころには怒りが収まっているというのです。なぜなら多くの場合、目的を達成するためには怒るよりも効果的な方法があるものだから。

そういう意味において、沈黙は必ずしも相手に対して行使するだけのものではなく、感情をコントロールするためにも有効だということです。(60ページより)



緊張したとしても焦ることなく、沈黙を活用してみる。そのテクニックを身につけることができれば、いろいろな意味で余裕を持てるようになるかもしれません。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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