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自立型社員を育てるために必要な、「人材育成」の6ステップ

自立型社員を育てるために必要な、「人材育成」の6ステップ
Photo: 印南敦史

社員が「いつの間にか」成長するスゴイ育て方 自ら動く社員をつくる最高の人材育成』(富士通ラーニングメディア著、ダイヤモンド社)の著者である富士通ラーニングメディアは、富士通グループにおいて人材コンサルティングを担当している会社。

1994年に富士通の研修業務を継承して24年、それ以前の歴史も通算すると40年以上にわたって人材育成を任されてきたのだそうです。

その過程においては「変化の激しい時代に必要な人材育成とは」ということについて悩み、考え、試行錯誤を繰り返してきたのだとか。

そうした実績を軸として強調するのは、これからの時代に求められるであろう人材についての考え方。「優秀な人材」といわれる人物像が、時代に変化に伴って様変わりしているというのです。

おそらく、これからのビジネスで求められるのは、教わったことを忠実に実行するだけの人物ではなく、自ら考えて実行する自律型の人物であろう。

さらには組織そのものも、自律自走できる人材が増えることにより、変化の激しい不透明な時代に耐え得る自律型の経営が可能になっていく。 (「はじめに」より)

では、どうすれば自律型の人材を育成できるのでしょうか? このことについては、従来の人事制度の延長線上で考えることは難しく、いままでとは違う人材育成の考え方、しくみが必要だとしています。

企業の持続可能な成長を実現するためには、現代の事業環境にマッチした新しい人材育成法を早急に導入する必要があるというのです。

そこで本書においても、これからの人材育成に必要なノウハウを明かしているわけです。特徴的なのは、人材育成の段階を6つのステップに分けて解説している点。そのアウトラインを確認してみることにしましょう。

STEP①人材戦略を立てる

人材育成の最初のステップは、「人材戦略を立てる」こと。変化が激しい時代だからこそ、ぶれないための指針が必要になるという考え方です。

そして人材戦略の立て方の基本は、経営戦略とのつながりを意識すること。人の成長は企業の成長に直結するだけに、中長期的な目線が重要になるのだといいます。

組織を構成しているのは人であり、組織のパフォーマンスを生み出すのは各人の能力とその配置のバランス。つまり人材戦略は、経営戦略と同じレベルで大切だということ。

ただし、誰でもいいから育成すればいいというわけではなく、育成対象も資質や意欲をもとに「選ぶ」ことが重要。

ビジネスを新しく生み出せる人材の育成が求められる時代だからこそ、従来の枠組みにとらわれない「突き抜けた」人材をつくるためには、従来のような一様の研修では不十分。本人の適正と意思を考慮してこそ、「一流」は生まれるというのです。

人材戦略に求められるのは、多様な「一流」たちを生み出すこと。そして、多様な「一流」たちが「共創」してビジネスを生み出していくための指針を立てることが重要だという考え方です。(33ページより)

STEP②人材育成のしくみをつくる

著者によれば「しくみ」とは、維持するためのものではなく、変えるためにこそ存在するもの。

変化が激しいのだから、しくみも都度PDCAを回さなければ、陳腐化してしまう。 ただ、アジャイルにしくみをどんどん変えていくにしても、土台となるしくみがないことには柔軟な変化もできない。 KPIを一度設けるからこそ、「このKPI設定は本当に正しいのか」という議論ができ、それを変えることができる。

「そもそもKPIを設定すること自体正しいのか」という議論が生まれてきてもいい。 あくまで「しくみとは変え続けるためにある」ことを前提としてご理解いただきたい。(36ページより)

人材育成のしくみをつくる際に注意すべきは、人材育成に携わる人間が経営視点を持つことだそうです。「私たちが経営に寄与する人材を育てているのだ」という意識を持ち経営視点に立って業務に当たらなければ、育てられる側の人材もまた、経営視点で自分の仕事を捉えることは難しくなるから。

目的は、「新しいビジネスを創出できる人材」を育てること。そのためには現場の担当者が経営視点を持つだけでなく、経営層もまた、「ビジネスを創出できる人材を育てるしくみ」がきちんと機能しているのかどうか、PDCAが迅速に回っているかどうか、折にふれてチェックする必要があるというわけです。(36ページより)

STEP③現場定着の仕掛けをつくる

次は「定着」のフェーズ。一般的に「定着」というと「社員“全員”に浸透」という解釈をする人もいるでしょうが、そもそも変化が激しいのだから、全員に浸透するころにはその仕組みが陳腐化してしまう可能性があります。

変化し続けることが前提となるので、本書では「定着=しくみや施策の評価ができるまでの時間」と定義しているわけです。

しくみをこれまでよりも細かなサイクルで評価する。評価の結果、現場の声や最新動向を踏まえて改善をする。改善したしくみはまた細かなサイクルで評価をし、改善していく。

じっくり時間をかけて吟味するのではなく、まずはやってみる。そして、やってしまってから考える。 現場の声や最新動向を踏まえながら、どんどん改善していく。これが肝になる。

コアになる考え方や目標だけ固めたら、素早くPDCAを回し続ける。このアジャイルなしくみやカルチャーが欠かせない。

だから、常に現場に合ったしくみであり続けるために、これまでは「全員への浸透」だった定着の定義をもっと前の「評価ができるまでの時間」と認識を改めることが今の時代に合った考え方だと捉えている。(38ページより)

かつて奨励された「ホウレンソウ(報告`・連絡・相談)の徹底」などは、指示待ちの人間をつくるだけなので、「一流」人材の現場力を上げることにはつながらないと著者は言います。むしろ、自律性を損ねてしまう可能性が高いとも。(38ページより)

STEP④現場力を向上する

先の見えないいまの時代には、全員が同じでは不測の事態が起きたときに対応できなくなります。

重要なのは、社員それぞれが自分の持ち場で最高の成果を発揮する「一流」をたくさん育てること。たくさんの「一流」を組み合わせて事業を想像していく必要があるというのです。

なお、ここでいう「現場力」は一般的には「ビジネス現場で発揮される能力」というような意味で使われますが、「未知の現場も含む」という意味も込め、「業務力」と使い分けているのだそうです。

英語でいう「パフォーマンス」に近いニュアンスで、「現場力」という言葉を用いているのだといいます。

そして、それらに共通する軸が「自律」。自ら自発的に目標を持ち、自身をコントロールしながらプロジェクトを前に進めること。それは、少なくとも幹部社員以上の人たちには必須の素養だというわけです。

現場は、企業にとってもっともお客様に近いビジネスの最前線。そんな現場に自律した人材をうまく配置できるかどうかで、企業の実績は大きく左右されることになるというわけです。

かつて奨励された「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)の徹底」などは、指示待ち型の人間をつくるだけなので、「一流」人材の現場力を上げることにはつながらない。

むしろ、自律性を損ねてしまう可能性が高い。(42ページより)

だからこそ、個人の現場力を高める育成が大切だということ。(40ページより)

STEP⑤人材力を診断する

個人も組織も変わる姿勢が大事だとはいえ、社員に実際に変わってもらうのは簡単なことではありません。そこで意味を持つのは、社員ひとりひとりの現状を客観的な数字で示すこと。

そうすれば診断結果によって、社員自身が自分の課題を認識し、成長していけるわけです。

つまり、人材力診断は社員の自律性を高めることにつながるということ。そして組織としては、多様な人材が育っているかを常に可視化し、その結果として足りない分野がわかったなら、それを補う対策を講じることが可能になるわけです。(42ページより)

STEP⑥人と組織の「才能」を引き出す

人材育成の最後のステップは、タレントマネジメント。「一流」の人材を育てるためには、資質や適性のある人材を育てる必要があります。

そういう意味でタレントマネジメントは、個人の資質を可視化し、適性に合った人材を育てることを意味しているというのです。

ただし人材が「確実に戦力になる」確率を上げるためにも、対象は全員ではなく、伸びしろや見込みのある人を選ぶべき。客観的に考えて、そのほうが早いというわけです。

「タレントマネジメント」は、もともと欧米から入ってきた言葉だが、向こうには育成という概念はない。なぜなら文化的な違いもあり、欧米人は自分になにができるのか、自分の強みはなにかを、そもそもはっきりと自己認識している場合が多いからだ。

一方で、日本人はどうだろうか。 与えられた仕事をコツコツ真面目にこなし、最後までやり遂げることは得意であるし、それを美徳とする文化であるが、自分の強みや特性を聞かれたとしても、「これです」と自信を持って言い切れる人材は、まだまだ少ない。

その意味でも、日本におけるタレントマネジメントは、人材育成、人材配置、採用といった多方面で取り入れる意義がある。(45ページより)

また、個人の資質や適性がわかったら、適切な配置についても考えることが可能。育成だけでなく配置を変えるだけで、パフォーマンスが上がる人材はいくらでもいるというのです。(44ページより)




こうした各ステップを着実にこなしていくためのメソッドが、以後の章ではわかりやすく解説されます。そのため段階的に、「これからの人材育成」に必要なことを身につけられるのです。

優秀な部下を育てるために、上司やリーダーはぜひとも目を通しておきたい1冊です。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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