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ヒトの寿命は250歳に? AIの超知性化だけが、近未来の脅威じゃない

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ヒトの寿命は250歳に? AIの超知性化だけが、近未来の脅威じゃない

2045年、人工知能(AI)と人間の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えたら、私たちの仕事や暮らしはどう変わる?

ITジャーナリストの林信行さんを迎え、前編では、「シンギュラリティ」議論の中心となるAIについて、とくに私たちに身近な「専用人工知能」にフォーカス。

今回は、シンギュラリティの要因やグローバルな動きについて伺いました

AI棋士は人類の対戦相手を必要としていない

——前回は、シンギュラリティといえども、人類よりも優れた知性をもつ機械=「汎用人工知能」の誕生はまだ先で、現時点で実現化されている「専用人工知能」について、スマホアプリやAIスピーカーなどを例にあげてお話しいただきました。

今、最先端のAIはどの程度まで進化しているのでしょうか?

林信行(以下、林):2017年5月、Google DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラムAlphaGo(アルファ碁)が、韓国人の世界トップ棋士のイ・セドルに勝ちました。このAlphaGoは、過去の人間棋士の対戦を学習して世界一の座につきましたが、トップ棋士に勝つという衝撃的な事件の後、引退をしました。

では、Google DeepMindは囲碁から離れてしまったのかというとそうではありません。実はAlphaGo Zeroと名前を変え、これまでの人類との対戦を一切無視して、AI同士でひたすら対戦を繰り返し、学習を始めたのです

学習開始から3時間目くらいまでは、初心者の打ち方でしたが、休まず学習しつづけること19時間ほどで高度な技を発見し始め、70時間後にはかなり優れた人間の打ち手にも理解不能な凄い打ち方をするようになりました。

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Image: GettyImages

——まさに(囲碁のゲーム世界内における)シンギュラリティが、そこで引き起こされてしまった感じがしますね。

林:そうですね。シンギュラリティの日本語訳である「技術的特異点」の「特異点」には「それまでの基準が通用しなくなる点」という意味がありますが。近未来の特異点は、「AIの超知性化」に限りません。

250歳まで生きられる未来がくる!?

たとえばロボット技術の周辺でも、これまでの価値観を崩すような動きが加速しています。身体の一部を機械に置き替えるロボティクス技術などが、その好例ですね。

最近、手足のない乙武洋匡さんに義足を装着してオリンピックの聖火ランナーにしようという動きが出てきて話題になっていますが、ちょっと先の未来には、生身の身体よりも改造した身体の方が高い能力が発揮できるから自らの肉体を機械で改造する、といったことも起きてくるかもしれません

またバイオサイエンス(生命科学)の分野も特異点を迎えつつあります。

Google創業者のひとり、ラリー・ペイジが今、興味を持って投資しているテーマのひとつは、検索などのデジタル技術ではなくて「不老不死」です。ヘルスケア事業を扱うCalico(キャリコ)という会社を立ちあげ、病気や老化の原因を究明しています。

これ以外にもNMNやメトホルミンといった長寿薬の研究も進んでおり、最終的には人類の寿命を250歳ぐらいまで引き上げられるという人も出始めています

ヒトの寿命が変われば当然、人生観も変わりますよね。バイオ関連でいえば、DNA操作による遺伝子組換え技術から、頭に与えた電磁波や薬を飲むことで集中力など意識の状態を変える試みまで、さまざまな研究が行われています…

それらが人類の発展をもたらすのか、それともテクノロジーが暴走して、怖いSF映画の未来を招くのか。我々は、ある意味その岐路に立たされた世代だと思っています

こうした最前線のテクノロジーの前では、既に従来の法律は用をなしません。そんな時代だからこそ今、我々は倫理とか哲学とか、人間性といったものを勉強して、これからの社会がどうあるべきかを話し合うべきだと思っています

一方で、最新のテクノロジーはいずれも大きな富を生み出す可能性もあるので、多くのプレイヤーがグローバル規模で拡張しつづけている「資本主義の論理」で開発を進めて、立ち止まっての議論が行われていない、というのは非常に危険なことだと思います。

シリコンバレー一強時代からの揺り戻し

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IT(情報技術)の最先端といえば、アメリカ西海岸のシリコンバレーを連想する人も多いでしょう。

また、シリコンバレーの創業者の中には、かつてのカウンターカルチャー(対抗文化)を根っこに持つ人物も少なくありません

——スティーブ・ジョブズあたりが、その典型例ですよね。

林:そう。しかし、地球規模で覇権を広げつつあるグローバルIT企業の行動論理は、功利や合理性といった資本主義的価値観によって左右される部分が大きくなってしまった

僕は、AppleやGoogleなど、アメリカの巨大IT企業を取材する機会が多いので意外と思われるかもしれませんが、じつはシリコンバレー的な価値観があまり好きではなく、むしろヨーロッパ的価値観の方が好みです。

2018年の5月、個人情報の利用を制限する「一般データ保護規則(GDPR)」がヨーロッパで施行され、そのタイミングに合わせてフランスで「VIVA TECHNOLOGY」というテクノロジーイベントが開催されました。

そこでの基調講演は、マクロン仏大統領自らが行い、そのタイトルは「Tech for Good(善良をめざすテクノロジー)」というものでした。

じゃあ「善良じゃないテクノロジー」とはどこの国のものをいうのでしょう?

ちょうどマクロンの後の登壇者が、当時情報流出問題で揺れていたFacebookのマーク・ザッカーバーグで、ちょっとだけ公開処刑みたいな雰囲気も漂っていました。

イノベーションはシリコンバレー以外でも…

——やはり“かの国(米シリコンバレー)”のテクノロジーは資本主義的な論理に偏りすぎだ、という反動が、ヨーロッパ側から出てきたわけですね

林:はい。シリコンバレーでもアップルだけは他の会社と一線を画していますが、他の多くの会社は、そもそもの収益モデルがネット広告などに依存していたため、ユーザーの個人情報の売買などに依存せざるを得なかった。

そのことが問題になり、シリコンバレーに逆風が吹き始めたタイミングで、実はシリコンバレー以外の国のテクノロジーが徐々に頭角を現し始めました

先に触れた「VIVA TECHNOLOGY」を毎年開催するなど、フランスのITもまた独自のブランディング化に熱心に取り組んでいます。

最近、世界各地で行われる展示会では「La French Tech」の旗を掲げたフランス企業の存在感が増してきました。フランスのハードウェア製品の中には、かのフィリップ・スタルクがデザインしたものもあったりします。

かたやアメリカのハードウェア・ベンチャーから出てきたIoT(Internet of Things:インターネットに接続された)製品は、機能こそ最新かもしれないけれど、素材は安手なプラスチックだったりする。

デザイン意識が高いユーザーには「できれば家に置きたくない」と思われてしまうわけです。

中国の深圳(しんせん)なども、ハードウェア・ベンチャーの巨大な集積地になりつつあります。シンガポールもまた、政府ぐるみで情報化先進国をめざしています。

こうした“シリコンバレー以外”から出てきた一連のイノベーションが、少しずつ注目されてきたのが最近の動きです。

では、日本はどうなの?

——日本の動向はどのようなものでしょう? 世界の潮流の中で、日本が目指すべきところは?

林:ご存じのように、日本には世界中からリスペクトされるような“技(わざ)”や“匠(たくみ)”、そして過剰なまでの品質へのこだわりという強みがあります。

実際にこの品質の高さ故に、アップルをはじめ多くの企業が、日本の電子部品だったり、やや高価だけれど高品質な製造技術に頼っています。

食にしてもサービスにしても、日本品質は世界の人々を魅了しています。

その世界を魅了する日本品質を土台にして勝負をすれば、日本もまだまだそれなりに世界に存在感を示せると思うのですが、なぜかIT系のベンチャー企業などは、アメリカや中国のベンチャーを真似て、どこの国の誰がやっても起こせるようなイノベーションを狙って、低い品質の製品やサービスをつくってしまっていることが多い

しかも、そこで行なっているチャレンジも、規制などの厳しさもあり、大胆さの面で中国の深センなどの足元にも及ばない中途半端なレベルということが多い。

私はもう少し器用に「日本品質」を後ろ盾にしたアプローチもあると思っているのですが…

そのあたりの話は、また次回にお話しましょう。

後編に続く>

林信行(はやし のぶゆき)さん/ITジャーナリスト 1967年生。テクノロジーやデザイン、アートにファッション、教育や医療まで幅広い領域をカバーし取材、記事やTwitter、FBで発信。欧米やアジアのメディアで日本のテクノロジー文化を紹介するなど、海外でも幅広く活動している。ifs未来研所員/JDPデザインアンバサダー、著書多数。

Image: GettyImages

カフェグローブより転載(2018.11.21)

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聞き手: 木村重樹, 撮影: 中山実華, 構成: カフェグローブ編集部

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