ブラウジング、Facebook、Twitter、Messenger…6個以上のメディアの同時使用は認知機能に悪影響
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マルチタスクが生産性を下げてしまうことは、ライフハッカー[日本版]の記事でも何度か取り上げている話題です。たとえば、生産性が40%低下したり、IQが下がったりすると言われています。
しかし、閲覧しなければならないメディアは増加するいっぽうです。多くの人がChromeのタブを行き来しながらTwitterやFacebookを頻繁にチェック、さらにはSlackやMessengerの通知にも対応しているのではないでしょうか。
そこで、マルチタスクによる弊害をしっかり把握したいところです。メディアをマルチタスクで使い続けるとどうなるのか、ここ10年でわかってきたことを総括した論文がPNASに掲載されています。
ヘビー・メディア・マルチタスカー(HMM)の定義とは
メディアをヘビーに同時使用しているか判断するための指標は、2009年にスタンフォード大学の研究者Ophirさんが考案しています。
「MMI:Media Multitask Index」と呼ばれるこの指標は、ザックリいうと"いくつのメディアを同時使用しているか"を数値化したもの。
メディア・マルチタスカーの人口上位3分の1(MMIが高い人)を「ヘビー」、下位3分の1(MMIが低い人)を「ライト」と分類しています(同時に5~6個以上メディアを使っている人が「ヘビー」に相当しそうです)。
そして、ヘビー/ライトなメディア・マルチタスカー(HMM/LMM)の能力差を調べた研究はいくつも発表されており、注目すべき内容となっています。
ヘビー・メディア・マルチタスカーは低パフォーマンスに

「自分はマルチタスクでやるほうが効率が良い」と感じる方もいるかもしれませんが、それは"やってる感"によるものだという研究結果を以前の記事でも紹介しました。
認知機能の領域によってはヘビーなメディア・マルチタスキング習慣が悪影響を与えるとは言い切れないものもあるようです。
ただ、現段階においてはHMM劣勢を伝える研究結果が殆どだそうで、論文で紹介されているもののなかで、HMMの低パフォーマンスを示した研究件数(認知機能ごと)は以下の通りです。
- 作業記憶:24件の約半数
- 長期記憶(宣言的記憶/手続き記憶):それぞれ1件のうち1件
- 注意の持続・受動的/能動的な注意:3件のうち2件
- 流動性知能(問題解決能力):3件のうち3件
- 内的な刺激のフィルタリング:3件のうち2件
- 外的な刺激のフィルタリング:14件のうち6件
- タスクの切り替え:10のうち3件
- 衝動的な反応の保留:6件のうち2件
HMMが低パフォーマンスを示さなかった研究のほとんどは、顕著な差が確認されなかったものです。
HMMの高パフォーマンスを示した研究が混ざっていますが、ごくまれです。たとえば、外的刺激(知覚)のフィルタリングに関しては、HMMでは聴覚による刺激が視覚ターゲットを見つけるうえでパフォーマンスを高めるとの研究結果が示されています(1件)。
ただ、以前の記事にあったように、脳には音楽を聴くための別の部位があり、視覚によるタスクと競合しないということも関連しているのかもしれません。
どんなテストで判定されたか
判定が行われたテストは、発達検査などで一般的に用いられているものも多くあります。
たとえば、提示された図形の向きを覚えておいて、後に提示されたときに向きが変わっているかを答える「変化検出課題」や、アルファベットを順番に表示していき、現在表示されている文字とN文字前(2文字前や3文字前など)が同じ文字だったかを答える「Nバック課題」などが頻繁に用いられています。
そして、妨害課題(ディストラクター)の挿入で負荷が調整されます。たとえば「変化検出課題」では、思い出すターゲットとなる赤色の図形以外にも青色の図形が表示されます。ディストラクターの数が増えるほどテストの負荷が重くなるのです。
作業記憶の容量不足がほかの認知機能にも悪影響を与える
ポイントは、記憶の定着と保持に関して負荷が軽度のテストではHMMの成績は悪くなり、中~重度の負荷では大きな差がなくなることです。
ここから、HMMは作業記憶の限界値が低いことがうかがえます。そして、作業記憶の容量不足は長期記憶をはじめ、ほかの認知機構にも大きく影響を与えている可能性があります。
たとえば、内的刺激のフィルタリング能力に関しては、「記憶の順行干渉(以前に覚えたものが新しくモノを覚えるのを妨げる現象)」を用いた研究が行われていますが、HMMはテストが進むにつれて成績が悪くなっています。妨害課題の記憶が累積的に増加したことが原因と考えられます。
マルチタスクの能力は訓練できるか

仮に、マルチタスクの能力が訓練できるとすれば、タスクの切り替えにおいては、HMMほど高い能力を発揮することになります。
そのことを調べた研究は10件ありましたが、ほとんどの研究結果はパッとしないものでした。
ただ、優劣の判定のつかない研究がほとんどななか、その種のタスクを常日頃から行っているときには、HMMがLMMよりも早いタスク切り替えができたとの研究結果がありました(1件)。
とはいえ、事前に訓練を受けていないときは、HMMのタスク切替パフォーマンスはLMMよりも低くなるとの研究結果も示されています(1件)。
MMIを用いた研究には課題も
論文の著者、Melinaさんらは、おおむねHMMが劣勢との判定は認めつつ、10年間の研究内容に対していくつかの課題を提示しています。
まずはMMI自体の見直しの必要性について。確かに10年前と現在では、メディアをとりまく状況がまったく違ってきています。
Chromeが登場したのが2008年で、その後のタブブラウザの普及によって、ブラウザのメディア・マルチタスクに占める割合が大きくなったと考えられます。
また、10年前はiPhoneやTwitterを利用している人も少数派でしたし、Slackにいたっては、影も形もありませんでした。それ以外にも現在は新興アプリやサービスがあふれかえっています。
こうした、メディアの重みを再考慮して指標を作り直す必要があるでしょう。また、そこにはコンテンツ作成など、新しいメディアのタスクを含める必要があるとしています。
さらにはMelinaさんらは、テストが能力の個人差を吸収した設計になっているかを疑問視しています。
作業記憶の容量1つとっても、年齢による差は大きく、またデジタルネイティブの能力や、遺伝的ないし環境的な能力差の影響も考慮する必要があるはずです。
タスクを限定して認知機能をキープしよう

研究結果が今の時代に完全にマッチしたものでないとしても、どうやら私たちは、日々の生活でヘビーにメディアのマルチタスキングを行っているために、さまざまな能力を犠牲にしていることは間違いなさそうです。
知らず知らずのうちに劣化させている能力には、作業記憶や長期記憶の能力、注意の持続力や問題解決能力などが含まれるのではないでしょうか。
そこで、できる限りマルチタスクを軽くして能力を保ちたいものです。ライフハッカー[日本版]で紹介してきた、以下の記事が参考になりそうです。
マルチタスクが避けられない状況だからこそ、そのやり方を工夫することが大切です。
余計なタスクをブロックして一度に行うタスク量を徹底的に制限することで、いつのまにか作業効率が上がっているのに気づくかもしれませんね。
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Image: Shutterstock.com(1, 2, 3), Pixabay
Source: Minds and brains of media multitaskers: Current findings and future directions/ PNAS
山田洋路
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