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部下をやる気にさせるために必要なこと

部下をやる気にさせるために必要なこと
Photo: 印南敦史

部下を元気にする、上司の話し方』(桑野麻衣著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、学生や新入社員、若手社員などの「部下世代」、中堅社員や管理職といった「上司世代」という幅広い層に向け、話し方や言葉を使ったコミュニケーションをテーマに、研修や講演を行っているという人物。

特徴は、社会人12年目を迎える年であるため、ビジネスパーソンとしては上にも下にも挟まれた中間の立ち位置にいる点です。そのため、上司と部下の双方からコミュニケーションに関する悩みを聞くことが多いというわけです。

上司は部下にかける言葉に悩み、部下は上司からかけられる言葉に悩んだうえに、信頼することすらできなくなってしまうーー。

そんな現実を目の当たりにしているからこそ、両者のコミュニケーションにおけるすれ違いや無駄なストレスを減らせないかと考え、本書を執筆することにしたというのです。

人材育成や部下指導というのは、生きている限り、私たちにとって避けては通れないもの。誰もが必ずどこかのタイミングでその時を迎えます。

その時を最大限に楽しみ、人の成長に携わることで自分のことも成長させることができたらどんなに幸せでしょうか。

本書では、育成においての伝え方や聞き方、言葉の使い方について、私自身の失敗や成功エピソードから学んだポイントを1冊にまとめています。(「はじめに」より)

きょうは第1章「男性・女性、年上・若手、論理的・感情的、どんな人でも伝わる話し方」のなかから、いくつかのポイントを抜き出してみたいと思います。

「褒める」こと、「叱る」ことよりも大切なこと

著者は企業研修や講演をしていると、「褒める」ことより「叱る」ことに苦手意識を抱いている上司のほうが多いと感じるのだそうです。

著者自身も叱ることがとても苦手で、「部下に嫌われたくない」「恐い先輩だと思われたくない」という気持ちから叱れなかったこともあるのだとか。

しかし、毎年多くの新入社員や若手社員などの部下世代と本音で触れ合っているからこそ、強調したいことがあるのだといいます。部下は上司から、「自分に深く関心を持ってもらうこと」を求めているということ。

自分のことをよく見てくれて、関心を持ってくれている人からであれば、叱られても愛を感じるものだというのです。すなわち、単に褒められることを望んでいるのでも、叱られることを嫌がっているのでもないということ。

逆に関心を持ってくれず、自分のことをよく見てもいない上司から、適当な表現で褒められると、なにも響かないうえに信頼もできないという意見もよく聞くそうです。

これは私がANAにいた時の話です。私はまったく後輩を叱ったり、注意することができなかったのに、非常に厳しく後輩を指導する同期がいました。

彼女は私の親友でもあり、同じ教育訓練インストラクターという役割を担っていました。自ら嫌われ役を買ってでも熱く指導する彼女を心底尊敬しつつ、私にはできないなぁ、自分が後輩ではなく同期でよかったなぁと思っていたのも事実です。

しかし、新入社員は私にこう言うのです。「○○さんは確かに厳しい先輩ですが、いつも私たちのためを思って言いにくいことを言ってくださるので、本当に感謝しています」と。(21ページより)

その同期はたしかに厳しく指導していましたが、ひとりひとりのことを本当によく見ていたのだそうです。そのため、褒めるにしろ叱るにしろ、新入社員たちは厳しさ以上に愛情の深さを感じていたということ。

そこで著者は、自身も少しずつ姿勢を変えていったのだといいます。

具体的には、相手に関心を持ち、決めつけることなく、よく観察をする。わからなければ直接質問をする。そのように指導していけば、その場ではうっとうしく思われたとしても、嫌われることはなく、最終的には「この上司がいてよかった」と思ってもらえるということを知ったというのです。

今の若い世代の人たちは、私たちが思っている以上に冷静に上司を見ています。ゆとり・さとり世代と一緒くたにされ、叱るとふてくされるだろう、褒めれば伸びるタイプなのだろうと安易に決めつけられることをもっとも嫌います。(22ページより)

実際には褒められて伸びるタイプもいれば、叱られて伸びるタイプもいるもの。それどころか、どちらとも言い切れない部下もいるはずです。

いずれにしても大切なのは、とにかく相手に関心を持ち、部下をよく観察し、それを言葉や態度にして体現すること。効果的な褒め方や叱り方などのスキルは、それからの話だというわけです。(20ページより)

部下を元気にする上司が使わないフレーズ

部下がミスをしたり、こちらが想像していたこと、望んでいたこととは違う行動をしたときには、「自分だったらこんなミスはしないな」と思ってイライラしたり、「普通はそんなことしないよね」と同僚に愚痴をこぼしたり、あるいは「一般的にこういうのはね…」と部下に指導してしまったりすることはあるもの。

しかし、こうしたフレーズを投げかけることは、部下のためになることは一切ないと著者は断言しています。それどころか、自分自身の部下育成に関するストレスを増やしてしまうことになるとも。

これらのフレーズの共通点は、「自分のものさし」がすべての基準になっているということ。もちろんビジネスパーソンとしても、上司としても、「自分のものさし」や軸となる価値観があることは大切です。

しかし部下との関わりにおいては、自分のものさしだけを振りかざしてしまうと、多くの不具合が起きてしまうということ。部下育成を楽しむポイントはたくさんありますが、私はその中でも特に「相手と自分は違う人間である」ということを心の底から理解できてから、楽しめるようになったと感じます。

そう思えてからは、いちいち相手にイライラすることもなくなりました。これまでの「自分だったら」「普通は」「一般的に」というものさしではなく、極力相手の世界観や価値観で物事を見るよう心がけたのです。(68ページより)

「部下はどのような価値観や思いを大切にしているのか」「どんな理由からこうした行動をしているのか」について、自分の色眼鏡を外した状態で観察し、質問をしたのだそうです。

なぜなら、「上司は自分のことを理解しようとしてくれている」ということが部下に伝わらなければ、知らぬ間に部下との間に深い溝ができてしまうから。部下の物差しで物事を見るように努めることが、部下にとっても、自分自身にとっても大切だということです。

とはいえ、いままで積み上げてきた思考の癖をなくすことは難しいもの。そこで著者は、つい出てきてしまう「自分だったら」「普通は」「一般的に」と言うフレーズを使わないと決めて見ることからスタートしてみようと提案しています。

そうした言葉が出そうになったらぐっと飲み込んで、視点を「自分のものさし」から「部下のものさし」に置き換えてみる。それが、部下育成を楽しめる第一歩になるというのです。(67ページより)

指示するときには、部下の明るい未来(メリット)を想像してもらう

上司である自分にとってはやりがいのある仕事だったとしても、部下にはそうだと感じてもらえずに悩んだという経験はないでしょうか? 著者も、過去にはそんなことがしょっちゅうあったのだそうです。

著者自身は基本的に仕事が大好きで、「仕事は自分をもっとも成長させてくれるもの」だと心から思っているため、どんな状況であっても楽しむことが可能。

しかし、自分がそうであるからこそ、仕事を楽しめずにやる気のない後輩の気持ちが理解できず、「自分の力でどうにかやる気を出してもらえないか」と悩むこともすくなくなかったというのです。

ところが「楽しんでほしい」「成長してほしい」と一方的に願い、熱くなればなるほど、部下の心が冷めていくこともしばしば。

いま与えられている仕事がどれだけやりがいのあるものなのかを一方的に力説しても、部下の心には響かなかったということです。

そこで、そんな状況を乗り越えるための策として、著者はジャパネットたかたで働いていたときのエピソードを紹介しています。当時の社長のトークから学び、いまでも育成者として、常に実践し続けている方法だそうです。

それは、相手に行動してほしい時には、「相手の明るい未来(メリット)」を相手に想像してもらう、というもの。

その仕事をすることで、部下はどんな明るい未来を手にすることができ、部下自身にとってはどのようなメリットがあるのかを想像してもらうということです。

あなたは、ジャパネットたかたの通販番組やCMで、商品紹介をしている場面を見たことがあるでしょうか。

(中略) ジャパネットにおける商品紹介では、その商品の“スペック”と呼ばれる性能の高さを説明するよりも、その商品をお客様が使うことでどのような豊かな生活が待っているのか、その便利さからどれほどの生活の変化が起きるのかを伝えることに重点を置いています。(78ページより)

「モノの向こうにある生活や変化」を伝えることにより、多くのユーザーに「自分の生活が豊かになる、便利になる」という未来を想像させ、それが購入という「行動」につながったということ。

そして、上司と部下とのコミュニケーションについても同じことが言えるというのです。

もちろん仕事の手順そのものや、その仕事が会社や組織にとってどれほど重要なことであるのかを伝えることも大切です。しかし、人というのは論理で納得し、感情で動くものと言われています。

論理の感情もどちらも大切ですが、行動するとなった時にはどうしても感情へのアプローチは無視できないのです。(80ページより)

つまり、上司として部下にやる気になってもらいたいと願うときには、その仕事をすることによって、部下にどんな明るい未来や変化が起きるのかを想像させたり、伝えることが重要だということ。

「自分が若いころは、メリットや損得なんて考えずに仕事をしていた」という意見もあるでしょう。しかし変化のスピードが速い現代においては、働く意識も多様化しています。

だからこそ上司に求められているのは、組織における仕事を、部下の人生における成長や喜びと結びつけていくこと。著者はそう主張しています。

その際の具体的なアプローチ法も本書では紹介されていますが、方法はいくらでもあるはず。まずは、仕事が部下に与える具体的なメリットをイメージしてみることが大切なのではないでしょうか。(77ページより)




著者の経験をベースにしていることもあり、とても明瞭で実践的な内容。自分ごととして応用できることが多いので、部下とのコミュニケーションについて悩む上司に役立つ内容だといえます。


Photo: 印南敦史

印南敦史

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