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働き方改革の本質は「価値交換」に。sio店主・鳥羽周作が描く料理業界の10年後【後編】

働き方改革の本質は「価値交換」に。sio店主・鳥羽周作が描く料理業界の10年後【後編】
Image: 中山実華

海賊シェフ”は料理業界に革命を起こすのか?

東京・代々木上原のレストラン「sio」店長・鳥羽周作に、料理業界の10年後を聞くインタビュー後編。

内装に音楽、カトラリー、おしぼりに至るまで、レストラン運営に対するこだわりや、そこに至るまでの経歴は前回の記事でもお伝えした通り。

前編:

薄給の料理人を働き方改革で救う。sio店主・鳥羽周作が描く料理業界の10年後【前編】

今の料理業界が抱える問題点、料理人たちの置かれている経済的環境についても伺ったが、その対策として、現状では鳥羽自身が別会社で得た収入をsioのスタッフに分配しているという。

近い未来には「料理人のプラットフォーム」をつくるために奔走している。そのために実践していることは? 後編では料理人の「働き方改革」、その具体的な構想について聞く。

人との出会いは全てチャンス。だから僕は全力で話す。

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Image: 中山実華

──鳥羽さんが外部から稼ぐ以外の方法も、考えにはあるのでしょうか。

鳥羽:sioのスタッフには料理だけじゃなくて経営に携わりたいという人もいます。それならsioで働くことに加えて、僕の会社でも仕事を手伝って月に10万円もらえるようになると、年間で120万円の所得が増える。

能力が上がり、もっとコミットして月20万まで増えたら、sioの収入30万と合わせて月収は50万円です。そんなふうに、能力を発揮して働くことで給料も稼げるとなれば、今度は能力のある人がうちに集まってくる。すると、全体のクオリティも上がりますよね。

僕は3年以内に、自分の会社から1億円を投資して、二つ星を狙えるクオリティのレストランをオープンする予定です。そこでミシュランの結果も出し、料理人的にも世間的にも認知されたうえで、自分たちの改革を伝える場所にしていきたいですね。

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Image: sio

──その鳥羽さんの姿勢に、外部のクリエイターも集っています。外部との共闘を意識されたきっかけは?

鳥羽:以前の店の「Gris」で売れてきたとき、マンパワーの限界を感じたんです。僕は欠陥だらけの人間で、自分の能力を六角形で表すとメルセデス・ベンツのマークみたいになっちゃうんですよ。

そこから、チームで働くべきだ、と。みんなをファンというよりは仲間にした、大海賊団を作ろうという発想に切り替わったんです。

いろんな人に会って、自分のやりたいことをプレゼンして、お願いしました。「僕らを応援しないで誰を応援するの?」というくらいに。

……たぶん今、「鳥羽ってめっちゃしゃべるな」と思ってますよね?

──僕としてはうれしいですが、たしかに速度も量もすごいです。

鳥羽:いや、そう思われていいんですよ。それこそ、焼き鳥屋のアルバイトにも同じテンションで話してます(笑)。

だって、出会いの可能性って、天文学的数字ですよ。その機会に自分の思いを120%伝えられないヤツが、世の中を変えられるわけないと思っているんです。

それぐらいに人と会って何かを伝えるのは全部がチャンスです。それを「チャンス」や「必然」と思ってない人は、何もつかめない。だから、僕は来てくれたお客さんに毎日こんな話をして、「応援してほしい」と伝えています。

sioは16人で満席だけれど、そのうちの8人に響くとするじゃないですか。週に6日は営業しているから約50人、月にならすと200人のファンが増えていくかもしれない。

だから、「青臭い」とか「変わってる」なんて思われても喉が枯れるまでしゃべり続けます。自分については何を思われてもいい。僕が全力で話す先には100万人の幸せが見えているから。

本質を見ることで、日本流の「才能つぶし」に抗える

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Image: 中山実華

──お話を聞いていると「本質」という言葉をよく使われますね。なぜ、本質を重視されるようになったのでしょうか?

鳥羽:両親の影響だと思います。たとえば、父親が「シャツはブルックスブラザーズのボタンダウンが好きだ」と言っていて、僕もそれにネイビーのセーターを着て、デニムを履くような格好が好きなんです。シンプルな形なんだけど、上質だからつい選んでしまう。

シャツなら着心地がいい、料理ならおいしいといった、本質を押さえていないと結局は続かないし、飽きてしまうのではないかと。

──なるほど。本質は飽きないんですね。

鳥羽:そうです。だから、本質はいつでも新しい。昔に買ったシャツだけれど、今に着てもやっぱり良いよね、みたいな。

僕がディナーに出す冷製パスタは、具が入ってない「超本質」の一皿ですが、毎日食べても毎日感動するんです。やっぱり、毎日感動できるものが本質だと思いますよ。

──SNSや口コミ、あるいはレコメンデーションエンジンの発達を見ていても、「周りが良いと言っているから良い」というような、ある種の流され感を覚えます。

鳥羽:それ、すごく小学校的な考え方ですよね。「右向けば右」じゃないですか。みんなが「やりたい」と言っているときに、手を挙げて「僕は違う」と言ったら集団行動が出来ないとみなされてしまう。

それこそが日本で、この何十年間で行われてきた「才能をつぶしてしまうやり方」だと思います。でも、実際のところは才能に関していえば、昔も今も「天才の総数」は変わらないはず。手を挙げて、やるかどうか。成る人は成るが、成らない人は成らない。

sioはレストランであり、クラウドファンディングでもある

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価格違いのコースから、メインデッシュのひとつである「牛」。外側と中心部で焼き加減を変えてある。すき焼きの風味を閉じ込めた泡と椎茸のソースをそえる。「焼肉とすき焼きを一緒に楽しめる」という、鳥羽さんが得意とする言わば「再構築系」の一皿。ソースの飛び散りにも、実は「サスペンスのような、見てはいけないもの」を想起させる狙いがある。僕らの暮らしのごちそうも、鳥羽さんの手にかかると事件になる。
Image: 中山実華

──sioという場所については、どのような成功のイメージを固められていますか?

鳥羽:sioのレストランとしての在り方は、提示している1万2千円のディナーに対して、「お客さんがお金を払うこと=僕たちを応援する」という意思表示だと思っています。

だから、食べに来て、お金を払ってもらうことが、言ってみればクラウドファンディングなんです。sioは「応援型共創レストラン」なんです。みんなが応援しているレストランだから、愛着もあるし、家族のようにも思える。それこそが10年続くレストランだと思うんですよ。

僕らも得た利益で、次に来たときはもっと良いグラスや食材を使える。そこをちゃんとお客さんに説明しますし、僕たちが安売りをしない理由です。


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「この肉の泡はさながらパンチラ。泡をめくったところの質感と肉の色、これはもう食べるエロス。これこそ現代破廉恥」と鳥羽さん。セクシーさは料理にとって重要なのだと力説されるほどに、その狙いがわかり、気づけなかった官能を悔やむ。
Image: 中山実華

1万2000円のディナーって、はっきり言って高いですよ。一つ星や二つ星レストランの値段ですから。

なぜその価格かといえば、おしぼりが無臭であるとか、聞こえてくる音楽が最高とか、店名のロゴはトップクリエイターが手がけたとか、そういう料理以外の僕のこだわりが他のレストランよりも格段にすごくて、そこにお金を払ってほしいと思っているからです。

つまり、「ここで過ごす3時間半という時間に対して、どれだけ満足したか」に対する値段だったら、僕は「安い」と思う。それをわかってくれる人のお店にしたいわけですよ。

もし、これを8000円で提供したら、お客さんは「また来たい」って喜ぶと思う。だけれど、それではこの店は3年後に潰れているんですよ。

自分の好きな店を、自分が殺しちゃう。安いだけでは何も助けられないんです。本当の意味でお互いが支え合うというのは、ちゃんと適正価格の「価値」をお互いに見い出して満足することにあります。

僕らのコース料理で、お客さんが最も感動する料理って、何だと思います?

──やはり、メインディッシュの一皿なんでしょうか。

鳥羽:さっき話した具の入っていないパスタなんですよ。当然、原価は安い。ただ、それに値段がつくのは技術料でありセンスで、その価値をわかってもらっていたい。

お客さんが喜んで帰り、僕らも潤うという関係こそが、そもそも対等ですから。今後10年の商売は、そういうふうになっていかないと絶対にダメだと思っています。

働き方改革の本質は「価値交換」の仕組み作りにある

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Image: sio

──直接期な物の売り買いではなく、あたかも「価値の売り買い」なのですね。

鳥羽:そうです。価値交換なんです。

なぜ「価値」を大切にするかといえば、僕らは料理人であり、クリエイターだからです。クリエイターとは、物よりも価値を売る仕事だと思っているので、料理だけを切り取るのではなく、レストラン全体としての価値を高めたい。

自分たちだけでなく、仲間にとっても純粋に能力を発揮できる環境にしたいですね。そんなこと誰もやらないし、他の料理人ができないなら、僕がやる。だからこそ、応援してもらえる仲間を集めているんです。各界のクリエイターだけでなく、投資家や起業家といった人とも会っているのは、そのためです。

これからは世界と勝負するのではなく、世界に真似されるモデルケースを仲間と作っていきたいです。それは料理業界だけの問題ではなくなってくるんじゃないかな。より価値のある人が評価されやすい仕組みを作るとか、一生懸命で能力のあるやつが稼げるようになるとか。そこにこそ「働き方改革」の本質がある。

良いものに対価が払われ、その人の価値と権利が守られれる仕組みを作る。僕らの世代が、今後の10年を賭けてやらなければいけないことだと思います。

僕らはその第一世代として動き、いかに次の世代へバトンタッチしていくかまで、見ないといけない。僕らの会社のモットーは「100年先の食と職を変える」ですから。

僕にとっては、社会的にインパクトを与えるツールが料理だったんですね。料理を通して、価値のあるものに、しっかり価値をつける。その仕事こそが自分自身の価値を高めることにもつながっていくと考えています。



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Image: 中山実華

Source: ジモコロ

長谷川賢人

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