「40歳定年」を行ったゴールの果てに見えたものとは:前編(家族・健康・社会貢献)
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以前の記事、「『40歳定年』で得たもの・失ったもの」の結論編です。
まず、おさらいですが、「40歳定年」とは、40歳でリタイアするということではなく、人生100年時代の半ばにいったん立ち止まって、これからのライフキャリアについてじっくり考える時間を確保するということ。
私は40歳で会社を退職し、フィジーで5カ月、日本で4カ月の合計9カ月間、「無給育休」期間を過ごしていました。そして2018年の9月に41歳をむかえ、無事に「40歳定年」を終了することにしました。
「40歳定年」をやってみた結果、人生の構成要素である「家族」「仕事」「お金」「健康」「趣味」「社会貢献」「価値観」にどんな変化・学びがあったのか。
今回は前編として、「家族」「健康」「社会貢献」について書きたいと思います。
1. 家族
(1)両親
普段はフィジーにいるので、両親と会う機会は日本に一時帰国している短期間に限られます。でも、「40歳定年」の間は日本滞在中の4カ月というまとまった期間をほぼ実家で過ごし、高校生のとき以来の長い時間を親と一緒に過ごしました。
いろいろな話をすることで、親に関する多くの新たな発見がありましたし、親孝行もできました。また、普段は離れて暮らしているのでLINEを通じてしか「孫の笑顔」を見せることができていませんでしたが、「ライブ(生)」で孫を感じてもらえました。
また、疎遠だった親戚とも飲みに行く機会が何度も生まれ、血縁者との関係がリフレッシュしたと感じています。
(2)妻
会社を退職したことで、たくさんの可処分時間が生まれ、いままで部分的にしか見えていなかった「育児・家事」の全貌を見て、そして体験することができました。
その結果、想像よりも妻に負担が大きくかかっている状況を身をもって把握でき、夫婦間の役割分担を見直し、適正化することができました。
夫婦を1つのチームとして、チーム力を最大化するポイントが見えてきたように感じています。
これまでチームの司令塔として、「チーム内のタスク」を把握できていなかった点を猛省しています。妻に感謝です。
(3)子ども
家族での学びとして、最大の成果は「子どもと本気で遊ぶ力」を得たことです。
我が家の子どもは、息子3歳と娘0歳。会社を退職する前の育児は、「平日の夜」と「週末」が主でした。
短い時間なので、特に工夫をしなくても、飽きずに楽しく育児に関わることができていましたが、仕事を辞めて多くの時間を子どもと過ごすと、育児の奥深さを体験します。
無職(主夫もどき)なので「育児するのは当たり前」となり、義務感が強くなります。また、連続的に長時間子どもと一緒にいるので、「子どもを飽きさせない」「自分が飽きない」マンネリ化対策が必要になります。
また、最初のころは息子に対し「遊んであげている」感覚がどこかにあり、子どもと遊んでいる最中でも隙を見つけてはスマホをチェックしていました。
でもそれだと、スマホも遊びも中途半端。息子も自分も心から楽しめていないことに気づき、「ながら」をやめて「本気で遊ぶ」ようになりました。

本気で遊ぶために「息子の興味」に興味を持つようにしたら、予想だにしない結果につながることがたくさんあり、それが「自分の楽しみ」に変わっていきました。
たとえば、「紙ひこうき」の作り方なんて1パターンしか知りませんでしたが、息子が紙飛行機が好きなので、5種類くらい作れるようになったところ、公園で子どもたちのヒーローに。それに子どもたちに作り方を教えていたら、ママ友もたくさんできました。
また、息子が好きなアニメ『おしりたんてい』を一緒によく見ていたら、そこで得た知識が、ある国際協力団体の「企画」に役立ったなんてことも。
「自分の興味」をベースに行動するのとは違い、「他人(息子)の興味」をベースにするので、いままでとは違った種類の発見が増えるのは当然なのかもしれません。
そういう経験をたくさんしていくことで、自分の新しい可能性が拓けていくような感覚があり、それにともない、「育児への義務感」はなくなっていきました。
「子どもと一緒にいる時間」が長くとも、飽きずに心から楽しく感じられるようになったことは、人生を楽しむ上で大きな財産となると思います。
2. 健康
次に健康面です。特にいままで大きな病気をしたことはなかったのですが、フィジーでの食生活は食材のバリエーションが日本ほど豊富ではありませんし、慢性的な運動不足など、自分自身の健康については目をつむってきました。
「40歳定年」で時間的に余裕ができたことで、人生初の人間ドックへ行ってきました。結果はおおむね良好でしたが、「多血症」の疑いがあるとのこと。
そこで対策として、長時間じっとせずに1時間おきに体を動かすようにしたり、血液がドロドロにならないよう、こまめに水分をとるように心がけるようにしたりするなど、生活習慣の改善へ一歩踏み出すことができました。
また、会社員時代と比べると、「やりたくないことはやらない」という選択をしやすく、ストレスがかかる場面もほとんどないため「ストレスフリー」で過ごしていたので、精神的にも健康でいることができました。
3. 社会貢献

「40歳定年」期間では、フィジー滞在中も日本滞在中も、いろんなコミュニティーと関わることができ、社会の一員としてできることをやってきましたが、いちばんの「気づき」だったのは、「日本のママたちの苦悩」でした。
日本滞在中は、幼稚園(送り迎えやイベント)や公園、子育てプラザ(地域の子育て支援施設)、習い事(レッスン中の待ち時間)など、日本のママたちと出会って話を聞く機会がたくさんありました。
ママたちのいろいろな話を通して、ニュースで聞いていた「ワンオペ育児」(配偶者の単身赴任や残業などを理由に、1人で仕事・家事・育児のすべてをこなさなければならない状態)が、リアリティをもって感じられるようになりました。
「自分が倒れたら終わり」「相談できる人もいない」とキャパオーバーで育児ノイローゼの一歩手前になっている方の話を聞き、子育てプラザでお子さんを4時間ほど預かったこともあります。自分の息子にとっても、遊び相手がいるのはいいことですしね。

「イクメン」という言葉はありますが、「イクママ」という言葉はありません。「男性は育児するかどうかの選択権があり、女性は選択権がない」ということのように思えてなりません。でも、育児は「人間」の仕事です。
夫婦で参加するような「育児」セミナーに参加したときに、「この10年、男性の育児時間が増えているにも関わらず、女性の育児時間が減っていない」という話がありました。なぜかというと、「男性が育児をしているとき、女性も一緒に育児しているから」だと。
女性側に育児負担がかなり大きくなっている日本社会で、女性に休んでもらう(男女の負担バランスを調整する)ためには、男性側が「ワンオペ育児」の時間を増やす必要があるということなのかもしれません。
「40歳定年」の期間中に、家事・育児に大きく関わることで、いままで見えていなかったタスク細部が見え、それをこなし続けるママたちへの尊敬の念が高まりました。町でベビーカーを押すママたちを見かけると、心から「お疲れ様です」と一礼したくなるくらいです。
と同時に、「ママたちの負担過多」な現状を目の当たりにし、この社会問題の解決に自分自身もできることがあるだろうと感じています。
父親の子育て支援の活動をしている安藤哲也さん(NPO法人ファザーリング・ジャパン 代表理事)は、「男性の子育て参加は、さまざまな社会課題を一気に解消する“一番ピン”」といいます。
「40歳定年」での体験から、ママたちのコミュニティーに男性が入ることで、パパの視点が加わるため、コミュニケーションがより深く、より多様になる効果があると実感しています。
厚生労働省が2018年5月に発表した「平成29年度雇用均等基本調査」によると、女性の育休取得率は83.2%に対し、男性は5.14%。まだまだ育児参加の男性率が少ないので、これから各所で自分自身の気づきを発信し続けていきたいと思います。
まとめ
今回は「家族」「健康」「社会貢献」についての変化・学びを取りあげました。
グリコのCMでこんなコピーがありました。
子どもは1日平均400回笑う。大人になると15回に減る
子どもの笑顔をたくさん見たい。多くの親がそう思っているはず。
であれば、子どもが大人になって笑う回数が減ってしまう前に、1日400回の笑顔をなるべく見逃さないようにすることが、最善策なのではないかと思います。
私はこの9カ月という期間で、息子の側でその笑顔を何万回と言っていいほど見ることができました。もしかすると、「多忙で子どもの寝顔しか見れていない父親たちが生涯で見る子どもの笑顔」の回数を越えているかもしれません。
「40歳定年」中に家族と過ごした時間はかけがえのないものであり、生涯にわたって色褪せない「最高の財産」となることを確信しています。
さて、次回は「40歳定年をやってみた結論:後編」です。「仕事」「お金」「趣味」「価値観」の変化・学びについて書いてみようと思います。
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永崎 裕麻(ながさき・ゆうま)|Facebook

Photo: 永崎裕麻
Image: tomkawila / Shutterstock.com
Source: 平成29年度雇用均等基本調査
永崎裕麻
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