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社員の「幸福度」を高めることが会社を強くする

社員の「幸福度」を高めることが会社を強くする

わたしたちアイディール・リーダーズの考え方は、仕事を遂行するための「パーツ」としてメンバーがいる、というものでなく、一人ひとりが「際立って」いて、それが上手く組み合わさることで、仕事の規模が大きく発展したり、異なる分野へと広がっていくーーそんな多様な価値観がベースになっているのです。

そのほうが皆の意欲が高まりますし成果も上がるのです。幸せに働くためには、自分の存在意義ややりたいことと仕事をリンクさせることが鍵を握っているんだ、ということをアイディール・リーダーズのメンバーと共に、そしてさまざまなクライアントと向き合うことで日々確認しています。(「はじめに」より)

パーパス・マネジメント――社員の幸せを大切にする経営』(丹羽真理著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、自身が共同経営者を務めるアイディール・リーダーズのミッションについてこう説明しています。

しかし、そうはいっても、個々人の工夫や努力にも限界はあるもの。そこで、「各人が幸せに働ける組織をどのようにデザインしていくか」「そのデザインは誰が主導していくのか?」と考えていったとき、本書のテーマであるCHO=Chief Happiness Officerという、経営職あるいはその機能を持つ役職が果たす役割が重要になってくるというのです。

幸せな状態とは、すべての社員がやりがいを持って働けること。そして、そんな環境、組織を生み出していくことがCHOの役割だという考え方。ちなみにCHOは新たな経営職ですが、必ずしも役員でなければならないわけではないのだといいます。各部門のリーダーやスタッフも、CHO的な役割を果たすことは可能だということ。

だとすれば、まず気になるのは、「社員が幸せな状態になると、なぜ会社の業績が上がるのか?」ということであるはず。そこで、その答えを第2章「ポジティブな感情は仕事のパフォーマンスに影響する」のなかから見つけ出してみたいと思います。

「幸せ」って測れるものなの?

「幸せ」とはどんな状態なのか、その定義は人それぞれ。しかも、売上や利益といった「お金」、残業時間や離職率などの「時間」は数字で表すことができますが、そもそも基準が曖昧な「職場の幸福度」を測るのは難しそうです。

しかし、いま政治や学問の世界では、この「幸福度」を図ろうという取り組みが相次いでいるのだそうです。必ずしも科学的な正確さを追求したものではないものの、それでもお金や時間とは異なる「幸せ」を測定することの有用性は高いと、著者自身も考えているといいます。

ところで少し前、ブータン王国のGNH(国民総幸福度)という指標が話題になりました。1970年代に国王が提唱したこの指標は、2011年に国王・王妃の来日がきっかけとなってクローズアップされ、「ブータンが世界一幸せな国である」というイメージを広げることになったわけです。

単純に生産を合計したものにすぎないGDP(国民総生産)への批判から生まれた概念であるGNHは、5年ごとの国勢調査を通じ、国民に「自分が幸せと感じているか」「幸せになるにはなにが必要か」といった質問をして集計するもの。

こういった動きはブータンのみならず、中国や、開発途上国にも広がりつつあるそうです。

こうした幸福度を図ろうとする取り組みで見えてきたのは、「経済的な豊かさが必ずしも幸福には直結しない」ということ。それは、経済活動のひとつの単位としての「企業」に視点を移しても同じことが言えると著者は言います。

もしも会社の業績が低迷していたり、社員の元気がなかったり、社会に対してプラスの影響を与えられていないというような課題があるとすれば、それは幸福度の向上を図ることで改善できるというのです。(58ページより)

研究が示す幸福度向上の有効性

国という単位においても幸福度の重要性が高まるなか、社員の幸福度を向上させることの意味はどこにあるのでしょうか?

この問いに対して著者は、「それは業績向上につながるということ」だと断言しています。そして、そんな考え方を裏づけるものとして、いくつかの調査結果を引き合いに出してもいます。

☆ 幸福度の高い社員の生産性は31%高く、創造性は3倍高い

☆ 幸せな気持ちで物事に取り組んだ人は、生産性が約12%上昇する

☆ 幸福度の高い医者は、そうでない医者と比較して平均して2倍のスピードで症状を分析し正しい診断を行う

☆ 幸福度の高い人は、視野の広い考えやアイディアを思いつきやすくなる

☆ ポジティブ感情を持った人は、視野が広く、情報処理能力が高くなる

(64ページより)

これらの調査結果からわかるのは、「幸福度が高い人ほど、生産性が高く、想像力に富む」ということ。幸福度の高い医者に正しい診断ができるのなら、それが会社員であった場合、仕事上のミスも減ると読み解くこともできそうです。

いずれにしても、こうして数字やデータで示されると、普遍性のある原則だということが見えてくるわけです。

☆ 幸せな人は、健康、教育、政治、宗教などの組織で、チャリティや奉仕などのボランティアを行う傾向が高い

☆ 仕事を行う際にポジティブな感情を示す人は、親切で同僚を助けるなど、仕事上すべきこと以上の行動をする傾向が強い

☆ ポジティブな感情を示す人は、他の社員を助け、組織を守る傾向が強い

(65ページより)

これらの研究から見てとれるのは、「幸福度が高い人ほど、他者を助け、組織を守る」という傾向。

組織心理学の世界では「組織市民行動」と呼ばれ、幸福度が高い人ほど、自分の役割外の他者をサポートする行動をとる傾向にあるというのです。

このことは、特に職務範囲が日本よりも明確に定められ、成果主義が中心となっている欧米圏で強い関心を持って研究されているのだとか。こうしたエビデンスからも、生産性が高く、しかも他者を助ける傾向も認められる「幸せな社員」の姿が浮かび上がってくるわけです。

また、「幸せな社員」は会社の業績向上にも貢献しているという研究結果もあるそうです。

☆ 楽観的な生命保険エージェントは、そうでない人と比較して売上が37%高い

☆ 人生満足度の高い従業員が働いている小売店の店舗面積利益は他店のそれより21ドル高く、小売チェーン全体では利益が3200万ドル増えている

☆ 人生満足度の高い社員は顧客から高い評価を得る可能性が高い

(67ページより)

しかも「幸福度を上げる」という取り組みは、業種や触手が異なっても大きな違いはないのだといいます。そういう意味でも、幸福度を上げる取り組みは、業績を向上させるうえで非常にコストパフォーマンスがよいアプローチであるということ。

さて、次に紹介されているのは、「幸福度が高いリーダーは、組織として高いパフォーマンスを上げるだけでなく、そこで働く従業員の幸福度にも好影響を与える」という研究結果です。

☆ 幸せなリーダーを持つサービス部門は、高いグループパフォーマンスを上げ、顧客からも高い評価を受ける

☆ 楽観的なCEOは、パフォーマンスが高く、経営する会社への投資のリターンも大きい

☆ 製造業においてポジティブな影響を与えるCEOがいる組織には、自分自身を幸せで健康的と評価した従業員が比較的多い

(68ページより)

以前、「疲れは伝染する」という研究結果がネット上で話題になりましたが、同じように「幸せも伝染する」ということ。組織のリーダーが幸せであれば、その下で働く社員も幸せになり、顧客満足度も上がり、投資家も幸せになるわけです。

さらに、「幸福度が高い人ほど、エネルギーにあふれ、ストレスからの立ちなおりも早い」という研究結果からは、疲れ・ストレスに対しても高い幸福度は有効だということがわかるといいます。

☆ 最も幸福な従業員は、最も幸福でない従業員より、活力を感じる時間が65%増える

☆ 幸福度の高い社員は、仕事への疲弊をあまり見せない傾向がある

☆ ポジティブな感情を持つ人は、そうでない人と比較して、ストレスによって生じる身体的変化(血圧や心拍の上昇)から速やかに回復する傾向がある

☆ ポジティブなムードで仕事をしている人は、仕事で燃え尽きにくい

(69ページより)

日本においても、「レジリエンス」(心の回復力)という言葉が浸透しつつありますが、幸福度を上げれば業績が上がるだけでなく、レジリエンスも高まるわけです。

また、「幸福度が高い人ほど、上司からの評価が高く、周囲からも好まれる」という研究もあるそうです。

☆ 上司による仕事のパフォーマンス評価は、仕事への満足度とは相関しないが、幸福度とは相関する

☆ 幸せな人々は、周囲から、知的で有能であり、フレンドリーで温かく、利己的でなく、道徳的であると判断される

(70ページより)

従業員満足度では、解決できない問題があるのだといいます。それは、会社に対する満足度が上がっても、生産性や創造性は必ずしも向上するとは限らないということ。

たとえば社員が会社の待遇に満足していることは、業績を上げていることとは直結しません。「仕事は楽なのにお給料がいいからうれしいだけ」というケースもありうるわけです。

対して幸福度の高さは、仕事のパフォーマンスに相関するもの。つまり、自分の仕事ぶりが認められていること、周囲からよいサポートを得られていること、自分の人生の目的と会社が目指すものが一致していることによる充足感が、結果的に幸福感をもたらすということ。

したがって、社員の幸福度が高ければ上司や周囲からの評価も上がるというわけです。

なお、その他の関連項目として、次のような結果も紹介されています。

☆ 人生満足度の低い従業員は、仕事を休んで家にいる時間が通常よりも月平均1.25日多い(年15日の生産性を損なっている)

☆ ポジティブなムードで仕事をしている者は、離職率が低く、会社への報復的行動をしにくく、組織市民としての行動を行う

☆ 幸せな人々は、自身の仕事に満足する傾向が強い

(71ページより)

こうした研究においても、社員の幸福度向上に取り組むことの重要性が現れていると言えそうです。(64ページより)




これまで「幸せ」は抽象的な概念であるため、数値として測ることはできないと考えられてきました。そのため、経営指標にも組み込まれてこなかったわけです。

しかし今後は、会社を強くするためにも、幸福度を指標として取り入れ、その向上を図ることが重要。著者は本書において、その点を強調しているのです。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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