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大切なのは疑うこと。「くまモン」を成功させたクリエイティブディレクターの発想術

大切なのは疑うこと。「くまモン」を成功させたクリエイティブディレクターの発想術
Photo: 印南敦史

いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(水野 学著、ダイヤモンド社)の著者は、クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント。

相鉄グループ「デザインブランドアッププロジェクト」、熊本県「くまモン」、東京ミッドタウン、オイシックス・ラ・大地「Oisix」など、数々のプロジェクトを手がけてきた人物です。

そんな実績に基づいて書かれた本書のテーマは、ずばり「段取り」。というのも、同時に進む何十件もの仕事をストレスなく順調に進めることができるのは、きちんと段取りをしているからだというのです。

「段取り」という言葉は少し古くさいかもしれません。それでも、仕事においてとても大切なことです。仕事の目的を定め、きちんと計画し、あらゆる突発的なことも先回りしながら、時間どおりに実現させる。

段取りがなければ、いつもバタバタして、日々トラブルが起き、プロジェクトは糸の切れた凧のようにどこに飛んでいくかわかりません。

段取りは、仕事の「超基本」です。 しかし、なぜか「段取りはこうするんだよ」と学校でも会社でも教えてくれません。ならば「段取りの教科書」をつくろう、と思ったのがこの本を書きはじめたきっかけになりました。(「はじめに」より)

段取りを考えるにあたって著者が大切にしているのは「ルーティン化」であり、それはどんな仕事でもすべて同じなのだといいます。

そして、あらゆる仕事をルーティンにしていれば、目の前のやるべきことを淡々とこなしていくだけなので、仕事もどんどんすすんでいくということ。

段取りによって仕事をルーティン化し、ベースをきちんとしておくことで、仕事のアウトプットのレベルが上がるというのです。また、仕事を「やりとげる」ためにもそれは大切。

きょうはCHAPTER 1「段取りは『目的地』を決めるところから」に注目し、段取りをするためにまず必要なことについて考えてみたいと思います。

プロジェクトのゴールをイメージする

「仕事」を分解すると、大きく次の3つに分けられるそうです。

①目的地を決める

②目的地までの地図を描く

③目的地まで歩く

(14ページより)

一般的には、③の「目的地まで歩く」ときの最適な手順を「段取り」と呼ぶことが多いはず。しかし、そもそも①や②ができていないから、うまくいかない場合が多いのだといいます。目的地が曖昧なまま歩き出すのは、いきなり登山をはじめるようなもの。

違う山に登ってしまったのでは話にならないので、まずは「正しい目的地」を定めることが大切だというわけです。

なぜなら仕事には「明確なゴール」がとても重要で、それを「きちんとイメージできているかどうか」が仕事の成否を分けるものだから。

だとすれば、目的地を決めるためにはどうすればいいのでしょうか? この問いに対して著者は、「想像すること」が大切だと答えています。

それも、ただぼんやり想像するのではなく、ビジュアルで、リアルに想像することが重要だというのです。そして、ここで引き合いに出されているのは、著者がかつて手がけた「くまモン」の例。

このとき、熊本県はまず、県のアドバイザーである小山薫堂さんに熊本のPRについて相談したのだそうです。そこで薫堂さんが提案したのは、2011年に九州新幹線の鹿児島ルートが全線開通するのに合わせ、「熊本のいいところを世の中に発信しよう」ということ。

それが、市民を巻き込んでのプロジェクト「くまもとサプライズ」だったわけです。

「熊本のこんなところがすごいよ!」というネタを集め、おみやげや特産品に「くまもとサプライズ」のロゴのシールを貼って盛り上げていこうというもの。

著者への依頼は、その「くまもとサプライズ」のロゴのデザインだったそうです。

ところが著者は、ロゴを完成させてからも、「ウェブサイトやロゴをつくるだけで、ちゃんと盛り上がるかな?」「効果的に広める手段はないかな」ということが引っかかっていたのだといいます。(14ページより)

「本当にうまくいくか」を疑う

著者はいつも、プロジェクトの完成形をビジュアルでリアルに想像することを心がけているのだそうです。

おみやげ屋さんの売り場にたくさん並んでいる箱に、「くまもとサプライズ」のシールが貼ってある。そこに自分がいたとしたらどう思うだろうか。

八百屋さんの軒先に並ぶメロンやスイカ、トマトなどに「くまもとサプライズ」のロゴのシールが貼ってある。そのとき、「ああ、熊本か、じゃあ買おう」と思うだろうか。そのように、具体的に考えてみるわけです。

そしてその結果として思いついたのは、「ならば、このスイカやメロンを両手に持って『熊本いいよ! 熊本の食べものはおいしいよ!』と言われたほうがいいな」ということ。

シールを貼るより、宣伝マンがいたほうがいいという考え方です。

そこで思い出したのは、当時、宮崎県の宣伝隊長として活躍していた東国原英夫さん。熊本にも東国原さんのような存在が必要だということです。しかし適任の「人物」が思いつかなかったため、「キャラクターをつくろう」という発想に至ったというのです。

キャラクターがバーンと前に出て「熊本ってこんなにいいよ!」と宣伝したほうが盛り上がるんじゃないか。

そのほうが人の目にとまると直感したのです。 熊本だから、やはりクマがわかりやすいなと考え、家でパジャマのまま、Macに向かい、クマのキャラクターを描きました。

すぐにそれをスタッフに送って、そこからパターン検証をし、プレゼンにもっていったのです。(19ページより)

つまり、これが「クマモン」の誕生秘話。そもそも「キャラクターをつくってほしい」という依頼があったわけではなかったけれど、プロジェクトの最終形を想像してみたら、くまモンが「熊本、こんなにいいよ!」と宣伝しているほうが盛り上がるのではないかという発想につながったということ。

大切なのは、「本当にそうかな?」「もっといいやり方はないかな?」などと疑うこと。そして、その際に有効なのが、「ビジュアルでリアルに想像する」ことだというのです。(17ページより)

「発想のチャンネル」を替える

ゴールをイメージするとき、すなわち答えを出そうというときに人は、その道筋は一本だと思いがち。だから、一歩一歩ゴールに近づこうとするわけです。

しかし進もうとするとき、飛行機から新幹線まで、その手段は多種多様です。そんななかで、「答えまで最短距離でたどりつくこと」を諦めてはいけないのだと著者は主張します。

たとえば以前、「農場に集客してビジネスができないか」という計画を検討することがあったのだそうです。農場で乳搾り体験をしたり、野菜を採ったりして、みんなに楽しんでもらえないかというもの。

そんなとき、普通であれば「じゃあ、どういう農場にしようか? どういうデザインをしたら人は来てくれるだろうか?」などと考えるはずです。

しかし著者はそれを聞いたとき、「農場だと人を集めるのは難しいかも」と直感したのだそうです。

「農場体験」というのはよく聞きますが、一度行けば飽きてしまうものでもあります。つまり「農場に人が来る」というのは、そもそも幻想なのではないかと思ったということ。

仮に農場へ行くとしても、毎週行くようなイメージはなかなか持てるものではありません。一時期は話題になったとしても、ただの「流行り」で終わってしまっては無意味。

つまりは、継続的に農場に来てもらえなければいけないということです。そこで、著者が考えたのはこういうこと。

「逆に、毎週毎週行くところってどこだろう…?」

その結果、出て来た答えは「公園」。同じビジネスをやるにしても、「公園」と言ったほうが人は来るのではないか。そんな仮説を導き出したということです。

「公園なのに牛がいる」「公園なのにキャベツを収穫できる」「公園なのにパン屋さんがある」ーーそんな公園があったら、すごく楽しいのではないかとイメージしたということ。

「農場」ではなく「公園」として打ち出すだけで、盛り上がるのではないかと考えたというわけです。

ぼくは依頼を受けたときに、まず疑うところからはじめます。99%疑う。それは、もう「クセ」なのです。

この案件でも、まず疑ったことで「農場」から「公園」というチャンネルに替えることができました。(22ページより)

一見、「アイデアの出し方」のような話ですが、こういったことも仕事を早く進めることに大きく役立つというのです。

多くの人は、答えにたどり着くまでに時間がかかるため、段取りが悪くなってしまうもの。しかし徒歩ではなく、飛行機や新幹線でゴールに到着するようなアイデアが出せると、スピードはぐんと加速するというのです。(20ページより)

「お客さんがなんと言っているか」想像せよ

では、どうすれば「発想のチャンネルを切り替える」ことができるのでしょうか?

「農場ビジネスをしたい」と聞いたとき、著者がまず頭に思い描いたのは、自分自身がベビーカーを押して「△△公園」に行っている場面だったそうです。

そして、その光景をリアルに想像したとき、「ベビーカーを押してまで農場に遊びに行きたくないな」と思ってしまったというのです。

人はみんな「自分がどういう暮らしをしているか」「どういうところに遊びに行くか」ということを大切にします。

住むところひとつとっても「湘南エリアに住んでいる」とか「横浜に住んでいる」といったことが重要になる。 ようするにみんな「自分の価値を上げる」ことに神経を集中させているのです。

流行りの「インスタ(インスタグラム)」もその延長線上にあるものでしょう。だから「ベビーカーを押してどこに行くか」ということはすごく大事なのです。(23ページより)

早くいい答えを出すためには、完成を全力で想像することが重要。そして「完成したものをみている人」のことを考える。つまりは消費者、お客さんになりきる。

そのプロジェクトの完成を見て、「誰が」「どう喜んで」「なんと言っているのか」「どういう表情をしているのか」といったことを映画のように想像する。

そうすれば、自然と答えに近づいていけるのだと著者は言います。(22ページより)




このように本書では体験を軸としながら、発想の仕方などがわかりやすく解説されています。

そのため、自身の仕事に応用してみれば、段取りの仕方を向上させることができるかもしれません。


Photo: 印南敦史

印南敦史

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