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さまざまな「つながり」が生み出す、「クリエイティビティ」の本質とは?

さまざまな「つながり」が生み出す、「クリエイティビティ」の本質とは?

広告が黄金期を迎えていた1990年代、『「ひらめき」はこう生まれる クリエイティブ思考ワークブック』(ドルテ・ニールセン、サラ・サーバー著、岩崎晋也訳、CCCメディアハウス)の著者は、世界最大級の広告代理店でクリエイティブ部門のアートディレクターをしていたのだそうです。仕事は順調で、次々に受賞し、多くの賞賛を受けたのだとか。

そんなある日、母校であるデンマークの「グラフィックアート・インスティテュート」から、短期講習のゲスト講師をしてほしいという依頼を受けることになります。

テーマは、クリエイティビティとクリエイティブ思考について。しかし親しかった人たちからは、「クリエイティビティを教えるなんて時間の無駄だし、キャリアの妨げになる」と忠告されたといいます。

突き当たったのは、「クリエイティビティを高めるということを、どうすれば教えられるのか」という疑問。そこで周囲を見回し、代理店で働くクリエイティブのプロがアイデアを生み出し、賞を獲得するようなキャンペーンを観察することに。

その結果、明確な規則性があることがわかったのだそうです。

アイデアを生みだすのがうまい人はつながりを見つけるのがうまい。(「はじめに」より)

結果、著者が思い立ったのは、つながりを見つけることを中心にクリエイティビティのカリキュラムを組むこと。そこからいくつものエクササイズが生まれ、それがクリエイティブな思考を伸ばすカリキュラムの中心になったのだといいます。

現在は、毎年およそ500人も入学希望者が訪れるほどの人気に(入学が認められるのは24人)。

そして、その流れを受け、「しっかりとした学術的基盤を持ち、具体的で実践的な方法でクリエイティビティを伸ばすことができる独自の書」として本書が誕生したということ。

シカゴのイノベーション企業フォーサイトの業務執行役員であるサラ・サーバーとの共著です。

クリエイティブな能力は生まれつきのもので少数の人だけが持っているという神話は、本書によって打ち砕かれるはずだ。クリエイティビティを発揮するための秘訣を多くの読者に広め、持って生まれたクリエイティビティをさらに高めるための知識と技術、練習法を共有することができることを願っている。

ドルテ・ニールセン

(「はじめに」より)

きょうはPart 1「つながりを見つけること」に注目したいと思います。クリエイティビティを発揮するための秘訣を明らかにした章です。

クリエイティブな人の考え方

たとえば、「火星に移住しようよ」「そのサンドイッチ、ヒゲがあるみたいだね」というような発想と言動。

クリエイティブな人は、あまり現実的でなくとも魅力がある思いつきや、ありえないアイデアによって他人の気をそらさないもの。まるでサーカスのようにめまぐるしく、頭のなかで拡散させ、収束させ、つなぎなおすというのです。

クリエイティビティの低い人は物事を論理的に、また直線的に考えます。しかしクリエイティビティの高い人は連想によって網目のように思考を広げ、古い考えにとらわれていたのでは結びつけられないようなものであってもつなげてみるといいます。

広告代理店のクリエイティブ部門では、クリエイティブ担当はさまざまな話題のあいだを軽やかに飛びまわり、どこからともなくアイデアを生みだし、速く、しかも正確な手つきでアイデアをジャグリングしているかのように手当たりしだいに多くをつなげ、データから飛躍した発想をする。

ヘアケアであれ、ヘリコプターであれ、どんな話題でもしっかりと要点を押さえ、知識のレベルも高い。クリエイティブな人はほかの人とまったく同じものに目を向けながら、良きにつけ悪しきにつけ、ほかの人とは違うものを見ているのだ。(31ページより)

そのためクリエイティブな人が行っていることは、まるで魔法のように、あるいは意味不明に見えるかもしれません。しかしクリエイティブな人は、いつもそうやって、つながりを生み出しているというのです。

そして、つながりを生みだすのは、小さな気づきの瞬間に似ていると著者は言います。そういう意味では、発見や驚きと同じなのだとも。

誰にとっても、毎日、何かに気づく瞬間が訪れる。その多くは単純なことだ。ほかの人たちにとっては変わりばえのしないことでも、自分にとっては新しく有益なことなら、それは「つながり」とみなすことができる。(35ページより)

つまり、その「気づき」を自分のなかでどう昇華させるかが重要だということなのでしょう。(31ページより)

視覚的なつながりと言語的なつながり

ほとんどの人には、自転車は自転車に見えるはずです。ところがピカソは、そこに牛を見ました。自転車のサドルにハンドルの角をつけた有名な立体作品「雄牛の頭」について、ピカソはこう述べているそうです。

「わたしがどんなふうにこの牛の頭をつくったか想像できるかな? ある日、がらくたの山のなかに古い自転車のサドルが錆びたハンドルと並んでいるのを見つけたんだ。

その瞬間、頭のなかでその2つがくっついた。考えるより前に、牛の頭というアイデアが浮かんでいたよ。あとは溶接してつなげただけさ」(35ページより)

つまり、クリエイティブな思考を使わなければ、ありふれた風景のなかにあるつながりを見つけることはできないということ。

しかし、つながりの発見は視覚芸術だけにとどまらないといいます。文学もやはり、つながりであふれているというのです。

何世紀にもわたって、作家、詩人、ラッパー、政治家たちは直喩や隠喩を駆使して説得し、熱を込めて語り、人々を楽しませ、教え、統治してきたということ。

いわば作家とは、あるものを別のものとつなげることで鮮やかに描写する達人だというのです。

「わたしの愛は赤い、赤いバラのようだ」と、詩人ロバート・バーンズは書いた。もちろん、彼の愛がバラではないことはみんな知っている。愛は感じるものだが、バラは花だ(35ページより)

言語は、文字どおりの意味を伝える以外の働き方をすることもあるということ。“愛”と“バラ”という、まるで異なるものがつなげられると、読者は言葉の意味が理解できず、その隙間を想像力で埋めるしかなくなります。

そして無意識のうちにそのふたつの言葉の共通点を思い浮かべ、「彼の愛はバラのように生き生きとし、花咲き、美しく、繊細で、際立ち、赤く激しいものなのだ」と想像することになるわけです。

そして、「“連想”は直喩や隠喩よりもさらに複雑で、多くのものを一度につなげることを必要とするものだ」とも著者は記しています。そして、その例として注目しているのは、小説『フォレスト・ガンプ』の主人公が示した、無垢な“連想”による驚くべき知恵です。

「人生は箱入りチョコレートのようなもの。なかからなにが出てくるかは絶対にわからない」(35ページより)

最高のつながり

最高の創造は、ひとつではなく、無数のつながりと小さな気づきの瞬間が積み重なることで生まれるもの。このことを説くにあたり、著者はモーツァルトのことを引き合いに出しています。

モーツァルトは5歳で作曲を始めた。今日、誰もがモーツァルトを天才音楽家だと認めているが、実は初期の作品は独創性のない凡作ばかりだ。

「わたしが簡単に作品を生みだせると思っている人は間違っている」と語っている。「わたしくらい作曲に時間をかけ、そのことを考えている人はいないと断言できる」

モーツァルトの作品はバッハやハイドン、ヘンデルの作品を下敷きにしている。すべて、新しい音楽的なつながりの展開なのだ。その作品数は600曲を超え、35歳で亡くなったとき、彼は実際に音楽の天才になっていた。(37ページより)

活動初期において、他の芸術家とあまり見分けがつかない作品を描いていたという点では、ピカソもまた同じ。なぜなら彼は、古典と同時代の画家の両方から学んでいるからです。

70年以上の間に5万点近い作品を生み出していますが、そのひとつひとつが、彼にさまざまな視覚的つながりを広げさせたということ。そして彼の名作によって、我々の世界に対する見方も変わったわけです。(37ページより)

科学的なつながり

科学者は、意図的につながりを生み出しているもの。科学的発見とは、たったひとつのつながりから生じるものではなく、ひとつひとつがそれ以前のつながりを前提とした、いくつものつながりによって生じたものだと知っているからだといいます。

トーマス・エジソンはつながりを見つけることの価値がわかっていた。正しいつながりを見つけることが発明のカギだと知っていたのである。発明品の多くは失敗作だったが、気にしなかった。

「わたしは、ほかの誰よりも失敗をしている。そして遅かれ早かれ、だが失敗したものについても、いずれはほとんどの特許をとるだろう」(38ページより)

エジソンが、コンクリート住宅や電気式投票記録機、写真、車のバッテリーの特許を取り、20世紀を通じて特許数の世界記録を持っていたことは有名な話。

それは、うまくいったつながりを見つけるのと同様に、うまくいかなかったつながりを排除することに意識を向けていたからだと著者は指摘しています。

「大切なのは結果だよ。いいかい、わたしはたくさんの実験結果を手に入れた。どうすればうまくいかないか、それを1000通りも知ることができたんだ」(38ページより)

これは、1000以上ものフィラメントの素材を試したあとで残した言葉だそうです。(38ページより)




このように、身近な話題を取り上げながら、クリエイティブの本質を解説しているところが本書の魅力。

紙質もよく、美しい写真や図版もふんだんに盛り込まれているため、画集を手にしているような感覚で、楽しみながら大切なことを無理なく理解できるわけです。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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