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「電話」は時間を奪うので使わない。アマゾンの急成長を実現した「スピード感」の秘密とは?

「電話」は時間を奪うので使わない。アマゾンの急成長を実現した「スピード感」の秘密とは?
Photo: 印南敦史

アマゾンの日本上陸によって日本の小売業のクオリティが劇的に高まったのは、もはや疑いようのない事実です。 なかでも「商品が欲しい」と思ってから「商品が手元に届く」までの早さは、驚くほど進化しています。

ついこの前まで「翌日配送」が当たり前だったのに、「当日配送」そして「最短1時間配送」が当たり前となり、今や購入時の手間まで限りなく簡略化され始めているのです。

「プライムナウ」や「ダッシュボタン」のような“驚異的”なスピードを誇るサービスの実現は、当然ながら、“驚異的”なスピードで仕事を処理する組織でなければできるはずがありません。

つまり、アマゾンのサイトの「お客様への商品サービス提供のスピード」が常に加速し続けているということは、それ以前にアマゾンという組織の「仕事のスピード」が常に加速し続けていることを意味しているのです。(「はじめに」より)

こう主張するのは、『1日のタスクが1時間で片づく アマゾンのスピード仕事術』(佐藤将之著、KADOKAWA)の著者。2000年のアマゾンジャパン立ち上げ時に17番目の社員として入社し、約15年にわたり、おもにオペレーション部門のマネージャーとしてアマゾンの急成長を内側から見続けてきたという人物です。

現在は経営コンサルタントとして活躍されているそうですが、客観的に比較できる立場となったことにより、アマゾンの成長を支える基本思考や仕組みのすばらしさを再認識しているといいます。本書においてはそんなアマゾンの成長理由を、「スピード」という観点から分析しているのです。

キーワードが「スピード」である理由は、それをもうひとつのキーワードである「顧客満足度の向上」と組み合わせることによって、アマゾンならではの仕事術が明らかになるから。

そして、その仕事術は、アマゾンだけのものにとどまらず、今後の働き方のロールモデルになるというのです。

そんな本書のなかから、きょうは第5章「最高のスピードを生む組織・人材づくり」に焦点を当ててみたいと思います。

組織と情報のヒエラルキーはスピードの敵

アマゾンには「ピザ2枚ルール」という、プロジェクトチーム編成の考え方があるのだそうです。CEOのジェフ・ベゾスが、2002年に示した組織編成の重要な考え方。

組織が巨大化すると、「なかなか決められない」「決めてもすぐに動けない」といったジレンマを抱えることになりがちです。

組織のあり方について先進的な考え方を持っていたジェフ・ベゾスも、アマゾンの巨大化とともにこの悩みに直面することに。

90年代の終わりごろにはすでに、「ヒエラルキー(階層)型の組織では、めまぐるしい市場の変化に対応しきれない」と気づいていたのだといいます。

そんななか、この問題を解決するために仮説と検証を繰り返しながら、「誰も知らない答え」を追求する分野においては「自律的な実働部隊だけがあればよく、実働部隊を管理する人間はいらない」と考えたのだそうです。

そして、「『ピザ2枚チーム(トゥー・ピッツァ・チーム)』で全社を再編する」というアイデアを社内に導入しようとしたわけです。

「ピザ2枚」とは、「ピザ2枚で全員のおなかを満たせる程度の人数」という意味。実際の人数でいえば5~6人程度、多くて10人程度未満というイメージだそうです。

1つのプロジェクトに関わる人数が10人を超えると、必然的に「管理する人間(上長)ー実働する人間(部下)」というヒエラルキー型の編成になってしまいます。

上下関係ができてしまえば、何か問題が生じたときに部下は上司に判断を仰ぐことになります。

上司が預かり、問題の対処について協議し、部下に伝え、部下が行動する。それでうまくいかなければ、再び上司が預かり、問題の対処について協議し、部下に伝え、部下が行動する…。

「それでは圧倒的に遅すぎる、チームのメンバーがその場でジャッジし、次の行動に移れなければ意味がない」とジェフ・ベゾスは考えました。そして、いちばん効率よくスピーディーに動けるのが、「ピザ2枚」程度のチームなのだーーというわけです。(221ページより)

現在、「ピザ2枚ルール」が機能しているのは、開発チームの組織編成の際。全社的な普及に至っていないのは、法務部門や財務部門などには適用しづらかったから。

また開発部門はアメリカのシアトルに集約されているため、アマゾンジャパンにも「ピザ2枚ルール」は存在していないようです。

しかしそれでも、「社員の自律的行動を妨げるヒエラルキー型の組織をつくらないように注意しよう」という意識は、世界核国のアマゾンで常に共有されているのだそうです。(220ページより)

メールの一斉送信でヒエラルキーの壁を壊す

日本の企業においては、「情報を得ることが職位の権限」という考え方が根強くあるのではないかと著者。「これは部長でないと手に入れられない情報です」「これは課長でないと聞けない情報です」といった情報が存在しているということ。

しかし、アマゾンにはこのような考え方がなく、「情報ヒエラルキー(階層)を持たせない」という考え方をするのだといいます。

もちろん、「この情報は、このタイミングまでは一部の経営者だけの公開にとどめよう」と配慮することはあるでしょう。

しかし、そういった特別な情報以外の、「業務を遂行していくうえでの情報であるにもかかわらず、一部の人間だけが握っていればいい情報」などはないとみなしているのです。

情報の階層をなくし、関係者に情報の横展開するのに活用されているのが、メールアドレスの登録者に一斉送信が可能なメーリングリストです。

これで情報公開すれば、部長も、課長も、係長も、一般社員も、全員が同じ内容を目にすることができるわけです。(223ページより)

部長だけが知っている情報を、課長が忖度しながら係長に下ろし、それを係長がまた忖度しながら若手に伝えるといった伝達の方法にメリットはありません。スピード感に欠け、曲解される危険性があり、伝達されない可能性もあるわけです。

ただしメーリングリストの場合、それが両刃の劔であることを念頭に置いて活用する必要があるのも事実。あまりにも多くのプロジェクトのメーリングリストに登録してしまうと、膨大な数のメールを受信し、読むことだけに追われてしまうことになるため、重要な情報を見逃してしまう可能性も高くなるということです。

そこで、そのような事態を避けるために著者は、ある程度の見通しが立ったプロジェクトのメーリングリストについてはアドレスの登録解除をお願いし、外れるようにしていたそうです。(222ページより)

メール、電話、チャットの使い分け

アマゾンでは情報共有を効率的に進めるため、メールとチャットを使い分けているそうです。なぜならメールにはメールの、チャットにはチャットのよさがあるから。

1 メール:かしこまった場合以外は極力使わない

メールがビジネスで活用されるようになって以来、電話やファクスなどでやりとりをしていた時代にくらべ、コミュニケーションは劇的に効率化されました。ところがそんなメールでも、使い勝手が悪いと感じることが著者にはあるのだといいます。

ひとつは、検索機能の弱さ。アマゾンではメーリングリストを頻繁に使うため、1日に受信するメールの数が膨大だったというのです、ところが検索機能があまり優れていないため、読みなおしたいメールを探し出すのが困難。

事実、著者がアマゾンにいた当時は、「過去に同じような出来事が起きていないか?」などが知りたくて検索するものの、なかなか探せないといったことが少なくなかったといいます。

もうひとつは文面。つまり、「ビジネスメール=ビジネスレターの電子版」という解釈があるため、取引先には「いつもお世話になっております」、社内であっても「お疲れさまです」といった枕詞をつける必要があるということ。

また内容を締めくくるには「ご確認・ご検討のほどよろしくお願いします」というような一文も不可欠。しかしスピードという観点からすると、こうした文章を加えることはわずらわしさを感じる要因にもなってしまうわけです。

とはいえ、そのような使い勝手の悪さがあったとしても、メールには「相手が都合のよいときに見ることができる」「ドキュメント(書類)として残すのに向いている」という大きなメリットもあるもの。

そのため、やりとりの履歴を残しておきたい場合は、アマゾン社員もメールを使っているそうです。

2 チャット:リアルタイムの会話ができるのでスピーディー

一方のチャットには、リアルタイムコミュニケーションのために開発されたというバックグラウンドがあります。そのため、同僚や部下などと、

「○○の件、進捗は?」

「確認中です」

「了解」

といった、余計な文面の必要ない、会話をするようにスピーディーなやりとりをすることができるわけです。ただし、「ドキュメントとして残す」という点においてはメールに劣るのも事実。

そこでアマゾンにおいては著者も、特に履歴を残す必要のないやりとりはチャット、履歴を残したいやりとりはメールという使い分けをしていたそうです。(235ページより)

電話はほとんど使わない

アマゾンでは、社内のコミュニケーションツールとしては、まったくといっていいほど電話は使用されないといいます。

通常のオフィスのように電話はあるものの、大半の社員がそのメリットを実感しておらず、また「お互いの時間を奪う」という感覚を強く持っているため、ほとんど電話を使うことはないというのです。

電話は、相手の仕事の手を止めることになります。そして、こちらの要件を伝え、何らかのリクエストをすることになります。

相手の仕事を中断するのも、自分の仕事を中断されるのもイヤなのです。 メールやチャットなら、受信した側に、いつどこで対処するかを決める自由があります。

そのため、すきま時間を上手に使うこともでき、結果としてお互いの仕事の効率化につながるのです。(239ページより)

もちろん、すぐに話さないとどうにもならないときには電話をかける必要があるでしょう。そういう意味において電話は、もっとも緊急性の高いツールだということになります。

だからこそアマゾンの社員は電話が来ると、「電話がくるなんて、よほどのことなのだ」という緊張感を抱くのだそうです。

取引先に電話を入れることも行なっていますが、メールで要件を伝えたあと、メールを頻繁に見ない相手なので念のために電話するといった使い方が大半だとか。

社風や社内のIT環境などによって“正解”は変わるものなので、必ずしもアマゾンの考え方が正しいとは言い切れないかもしれません。

しかし、「ツールの使い方を見なおすことで、より効率的なコミュニケーションがとれないか?」というように一考する価値はあるだろうと著者は主張しています。(238ページ)




本書を読み、「なるほど、アマゾンはそうなのか」とうなずいてもらうだけでは、著者として目的を達成できたとは言えないと著者は記しています。

アマゾンの仕事術に触れた方に、「そういう考え方、行動の方法があるのか。じぶんも明日から実践してみよう」と自分ごととして捉え、それを取り入れていただくことこそがゴールだというのです。

そこでぜひ、本書で明かされている「アマゾン・メソッド」を、自身の仕事術として活用していただきたいと思います。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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