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10周年特集ーPAST ◀▶FUTURE

個人に最適化された「睡眠」を実現。スリープテック・ベンチャー「ニューロスペース」の挑戦 ─「10年後の睡眠」を考える

個人に最適化された「睡眠」を実現。スリープテック・ベンチャー「ニューロスペース」の挑戦 ─「10年後の睡眠」を考える
Image: Olena Yakobchuk/shutterstock

「睡眠版のインテル」が日本から生まれる…かもしれない。

ライフハッカーの10周年記念特集「PAST ←→ FUTURE」では、これからの働き方や暮らし方について、今後の10年を占う記事を展開しています。

多くの人が悩みとして挙げることが多いだろう「睡眠」は、あらゆる言説が飛び交っている状況が続いています。そこで、先日は睡眠を科学する研究者に「睡眠の基礎知識」を教わりました。

今回は、これから10年の睡眠を変えていく可能性を秘めた、あるテクノロジーベンチャーに話を伺いました。

そのベンチャーとは、最先端の睡眠テクノロジーをもとに、睡眠評価デバイスと解析アルゴリズム開発などを手がける株式会社ニューロスペース。得られた知見から企業向けに睡眠改善プログラムの提供も行っています。

今年、アメリカで開催されるテクノロジー見本市の「CES」にもエリアが設けられるなど、注目を集めている「スリープテック」。日本でもその先駆例たらんとする彼らは、睡眠をいかに変えようとしているのでしょうか。

スリープテックは、あらゆる場所に実装されていく

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

ニューロスペースは、代表取締役CEOの小林孝徳(こばやし・たかのり)さんが、2013年12月に設立した企業。自身も睡眠障害を抱えていた経験から、現代人が抱える睡眠の悩みや障害に対して問題意識を覚えたことがきっかけです。

現在は大学や医療機関と連携し、「法人向け睡眠改善プログラム」を開発し、大手外食チェーンや家電メーカーなど数10社へ導入を手がけます。

また、ニューロスペースの大きな事業の柱が、センシングデバイスやテクノロジー開発による「スリープテック」への展開です。

取締役CTOの佐藤牧人(さとう・まきと)さんは、テキサス大学や筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)の研究員を経て、ニューロスペースにジョイン。睡眠測定に関する技術開発などに努めてきました。それらの技術をビジネスとして落とし込んでいく、まさに真っ只中の過程にあります。

一口にスリープテックと言えど、簡易的なスマホアプリからセンシングデバイスまでさまざま。ニューロスペースは、自らの事業を「目指しているのはインテル」と喩えました。インテルが世界中のPCに導入されたCPUを生み出したように、睡眠におけるコア技術を実装していくのが狙いです。

「ニューロスペースでは睡眠のパーソナライズ解析を可能にする、独自のテクノロジーを開発しています。そのコア要素をあらゆるものに実装することがミッションの一つです」

たとえば、スマートホーム事業者と連携することで、リアルタイムの睡眠データに基づいてエアコンや家電を制御し、効率良く眠りに誘うような「家電制御エンジン」が実装されるかもしれません。

ニューロスペースが手がけるのは、睡眠学の最新研究から導かれた技術をもとにした、個人に最適な睡眠評価をするようなアルゴリズムやハードウェア。それだけに、世界中の人々の眠りを改善する可能性を持っているのです。

スリープテックの盛り上がりは、世界規模でも萌芽があります。前述のCESをはじめ、Appleが2017年に睡眠センサーのベンチャー企業「Beddit」を買収、スマートマットレスの開発企業「Eight」がシリーズBで1400万ドル調達といったニュースも聞かれています。

非接触デバイスで睡眠データを取得

ニューロスペースが開発を進めるのは、マットレスの下に敷くことで睡眠データを取得できる薄型のセンシングデバイス。設定場所ゆえにデバイスが接触している感覚は「まったくない」といいます。

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ニューロスペースが開発する、睡眠データを取得するためのセンシングデバイス
Image: ニューロスペース

マットレスの厚さも40cmまで対応しており、一般家庭であれば問題なく設置可能です。

いつも通りに眠るだけで、心拍や体動、呼吸といったデータを解析し、個人ごとの睡眠改善に役立てます。販売価格は「3万円台を目指している」とのこと。

将来的には、個人に最適な睡眠パターンを分析した上で、専用アプリを通じてその人に最適なアドバイスをしていく図を描いています。

「既存のデバイスや寝具の問題点は、『8時間睡眠が最も良い』というように、個人によって異なる睡眠を『標準化』して捉えていることにあります。ニューロスペースのテクノロジーによって、自分にとって必要な睡眠時間や状態がわかるようにしたいと考えています」

「睡眠の長さや深さは年齢によって変わってきますから、デバイスで毎日センシングして、個人に最適な睡眠時間やレム睡眠/ノンレム睡眠のパーセンテージを導き出していくんです」

企業ごとに異なる「業務外改善」で本業をサポート

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Sansan株式会社にて行った睡眠研修の模様
Image: ニューロスペース

また、ニューロスペースでは企業向けの睡眠改善プログラムも提供。事前のウェブアンケートや企業ごとの勤務体系の違いなどを分析し、各企業にオーダーメイドのプログラムを作成するといいます。

「24時間営業の飲食店ならば、どういったシフトで勤務するのか。航空会社なら時差ボケが発生することが多いのか。そこへアンケートやヒアリングから得た情報を掛け合わせることで、社員に負担がかかりやすい勤務パターンを割り出し、仮眠のタイミングや食事のアドバイス、入眠しやすくなる呼吸のレクチャーなどを行っています」

丸の内に構える某大手企業では、プログラムの実施後1カ月で「起床困難」が従来の半分に減り、「慢性睡眠不足」も20%ほどの改善が見られたといいます。

企業ごとにパラメーターを設定し、生産性へのコンセンサスをそれぞれで取っていくわけです。

「睡眠の悩みは、業務効率の低下やヒューマンエラー、サービスレベルの低下などに表れるものですが、『業務外の改善』だけに着手が難しい。類似業界で蓄積したデータやノウハウも活用しながら、職場単位で睡眠課題の『見える化』を行い、改善プロセスを提供しています」

眠らない人間はいない。スリープテックが見据える世界

小林さんは、日本人にスリープテックが必要な根本的な理由に「資本主義」を挙げます。

「たとえば、今でもアフリカなど自然のリズムで動いている人たちは睡眠不足で困ってはいません。では、なぜ私たちは困っているのか。資本主義を生きる上で、限られた時間で売上や成果を上げて利益を出すことを考えると、『止まっている時間』とみなされる睡眠を削っていくからです」

「『24時間営業』を守るためにも、工場で溶かした鉄を冷まさないためにも、人間に本来インストールされている睡眠のリズムではなく、人間がそれらに合わせなくてはならなくなっています」

でも、今からリズムを戻すことは難しい。だからこそ、スリープテックで個人の解析評価を行い、睡眠のソリューション提供がなされない限りは、この資本主義社会では睡眠が良くなっていかないと考えるのです。

ニューロスペースは2020年代の上場を目指しますが、「上場時には売上の3割は海外で得たい」と展望を掲げます。今後、かつての日本のように経済成長していくプロセスで、ASEAN諸国などが睡眠を犠牲にするようなシーンが出てくるはずと睨んでいます。

そこで先行してスリープテックを日本で構築し、諸外国へ導入を図ることにより、グローバルカンパニーの礎としようという狙いです。

「遺伝子が睡眠に影響することを思うと、育ってきた環境や寒暖差という気象条件、あるいは日照量も、データとして見ていく必要があります。眠らない人間はいないからこそ、スリープテックは求められていくと考えています」


Image: ニューロスペース, Olena Yakobchuk/shutterstock

Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

Source: ニューロスペース

長谷川賢人

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