lifehacker

特集
カテゴリー
タグ
メディア

書評

短期留学で覚えた英語をビジネスに使うのは危険? 大切なのは「気くばり」を感じさせる言葉

短期留学で覚えた英語をビジネスに使うのは危険? 大切なのは「気くばり」を感じさせる言葉

本書は、筆者が約40年にわたり、総合商社というグローバルビジネスの現場で、50カ国余りのビジネスパーソンとの仕事を通じて体得した「人を動かす英文ビジネスEメールの書き方をまとめたものです。

重視したテーマは、「プロの心を動かすメッセージ」「プロに喜んでイエスと言わせる言葉の洗練度」「日本人が日常生活で大切にする“思いやりの精神”を、世界のプロに称賛される“気くばり”にパワーアップさせるノウハウ」です。(「はじめに」より)

人を動かす英文ビジネスEメールの書き方 信頼と尊敬を勝ちとる「プロの気くばり」』(定森幸生著、ダイヤモンド社)の冒頭には、こう書かれています。

日本語でも英語でも、ビジネスコミュニケーションの目的は「相手の心をつかみ、モチベーションを高め、自分の期待どおりの行動を起こしてもらうこと」。

その決め手は論理性や合理性ではなく、信頼と尊敬にもとづく「気くばり」

プロ同士のコミュニケーションで求められる「気くばり」とは、自分(自社)はもちろん、「相手(取引先企業)がなにを優先し、なにを懸念し、なにを回避しようとしているか」を正しく認識することから始まるもの。

そして、それをもとに、相手の心に響くメッセージを発信しなければならないということです。

そんな考え方に基づく本書のなかから、きょう焦点を当てたいのは序章「英文ビジネスEメールの書き方」内の「人の心をつかみ、動かす5つのポイント」

「相手の心を動かし、自分の期待どおりの行動を起こさせるビジネスメッセージ」を書くためには、次のようなアプローチが必要だというのです。

ポイント1 要件の伝達にとどまらず、「信頼関係の構築・発展」を目指す

ポイント2 受動態より能動態で「心理的な距離感」を縮める

ポイント3 スラング、過度に馴れ馴れしい表現、くだけた表現を避ける

ポイント4 相手の自尊心に深く配慮する

ポイント5 「敬辞」と「結辞」は相手との距離感で決める

(18ページより)

この中から3つをピックアップしてみましょう。

要件の伝達にとどまらず、「信頼関係の構築・発展」を目指す

たとえば自社製品の販売業者から、「市況の悪化で製品在庫が思うようにさばけないので、契約済みの製品の半分をキャンセルしたい」という依頼があったとします。

その場合は、大きく2つの選択肢が考えられるそうです。まずひとつは、短期的視点での対応。

「契約は契約、注文は注文」を盾に、相手の製品の買取を迫り、訴訟を起こすことも辞さない覚悟でキャンセルには応じないメッセージ。

We try not to refuse any requests from preferred customers, but we have no other alternative but to insist that you honor our contractual agreements. Your order has been processed and, regrettably, we cannot accept your cancelation request.

重要取引先のご要望にはできる限りお応えしたいのですが、本件については弊社との契約上の合意を守っていただかざるを得ません。

貴社のご注文に即して弊社は出荷手続きを済ませており、残念ながらキャンセルには応じかねます。 (17ページより)

一方、こちらは長期的視点での対応。訴訟は時間とコストの無駄であり、別の市場での販売も期待できるはず。

優良顧客との関係を大切にするため、キャンセルに応じ、置かれた状況に寄り添うメッセージです。

We try our best to oblige our preferred customers and in the circumstances you explained, we will accept your cancelation request. We do hope your sales will improve soon and you will be able to take up the balance of your order at a later date.

ご事情を勘案のうえ、重要取引先である貴社のご要望に最大限お応えすべく、本件キャンセルのご依頼をお受けいたします。

貴社の販売が早急に回復し、今回のキャンセル分を後日再注文されることを心待ちにいたしております。 (19ページより)

「短期的視点」での対応は、自社の本年度の売り上げ増には貢献することになるわけですから、100%間違いだとは言えないかもしれません。

しかし相手企業の立場で考えてみると、市況悪化の影響で販売不振に見舞われるなか、発注品の一部キャンセルを拒否されているということになります。

そのため、このようなメッセージを送られたら、「今後は他の仕入れ先に切り替えよう」という感情がこみ上げてくる可能性もあるでしょう。

そんなとき、もしも自社と競合する同業他社が「長期的視点」の対応をしたら、どうなるかは自明の理。

ビジネスとは「人と人との心が新しい価値や富を紡ぐ創作活動」。長い取引関係のなかでは、お互いの立場が逆転することもあるもの。

難局を乗り越え、ビジネスを継続していくためには「相互主義」、すなわち「困ったときはお互いさま」という包容力に満ちた、ブレない信頼関係がなにより大切だということです。

「この人は継続的な信頼関係を構築するに値する」と相手が判断できる手がかりを、メッセージの端々に添えることも必要。それこそが、プロの心に響く「気くばり」のメッセージだということです。(18ページより)

受動態より能動態で「心理的な距離感」を縮める

相手と良好な関係を築き、信頼関係を醸成するためには、少しでも「自分と相手との心理的距離感」を縮めることが大切。そのため著者は、受動態よりも能動態を優先することを勧めています。

Please be advised that a marketing strategy meeting will be held on Wednesday March 15 at 1 p.m.

Kindly notify me of your availability at soonest possible time.

マーケティングの戦略会議は3月15日(水)午後1時に開かれます。できるだけ早く出席確認の連絡をお願いします。

(20ページより)

このように受動態を使うと、他人事のような印象を与えてしまうもの。一方、次のように能動態を使うと、メッセージがストレートに相手に届きます。

We will have a marketing strategy meeting on Wednesday March 15 at 1 p.m. Please confirm if you can join us.

3月15日(水)午後1時にマーケティング戦略会議を開きます。出席確認をお願いします。

(20ページより)

なお、無人称(meeting)を使うより、可能な限り1人称(we)や2人称(you)を使うと、お互いが当事者であるという自覚を促す前向きなトーンにすることができるそうです。

「書き言葉」より「話し言葉」に近いトーンのほうが、それだけ相手との距離感を縮めてくれるということ。(20ページより)

スラング、過度に馴れ馴れしい表現、くだけた表現を避ける

グローバルビジネスで使われる英語は、「話し言葉」的なトーンを重視したもの。Write as you speak.(話すように書け)と同時に、Speak as you write.(書くように話せ)という姿勢も重視されるわけです。

これは、スラング、過度に馴れ馴れしい表現、くだけた表現、下品な表現を不用意に使ってはいけないという戒めだといいます。

でも、日本で英語を学んでいる人には有利と言えるそう。日本では、「書けるけど話せない」というコンプレックスの結果、文法や作文を軽視しがち。

しかし日本人の「書く力」は、他国の人とくらべてもさほど遜色はないというのです。そこで自身の経験から、著者は「日本人は書く力にもっと自信を持つべき」だと主張します。

むしろ問題なのは、1~2年の短期留学で覚えたスラングや下品な言葉を、そのままビジネスの現場で使うこと。たとえば以下のような言葉遣いは、学生や、親しい仲間の間でよく使われるスラングの一種だそうです。

ビジネスで気をつけるべきスラング一覧

・gonna[=going to~] ~するつもりである

・lemme[=let me~] ~させてほしい

・wanna[=want to~] ~したい

・gimme[give me~] ~をください

・gotta[=have got to~] ~しなければならない

・gotcha[have got you] わかった、見つけた、捕まえた

・oughta[=ought to] ~すべきである

・whatcha[what are you] あなたはなにを…

(22ページより)

こうしたくだけた表現は、プロは品格や洗練度の観点から意識して使わないようにしているそうです。外資系企業に採用された日本人の帰国子女が、米国人社長や顧客の前でこのようなスラングを使い、激しく叱責されたという話もあるのだとか。

ネイティブであれば、20年あまりの生活を通じて体得した言葉のセンスから、学生同士の「話し言葉」を社会人になってからも使う危険性を熟知しています。

自身が置かれた環境に巧みにスイッチできるのです。しかし、数年程度の海外留学で、さまざまなコンテクストに適した「気くばり」の表現を身につけるのは容易ではありません。(22ページより)

スラング、適度に馴れ馴れしい表現、くだけた表現を知っていることは必要。

しかしビジネスにおいては、自分から使うと恥をかいたり、ひんしゅくを買ったりするリスクが大きいということも認識しておく必要があるということです。(21ページより)




これらを確認してみただけでも、本書がかなり“気くばり”に特化した内容であることがわかるはず。

そうしたスタンスを軸に、「アポ」「商談」「顧客対応」「苦情・おわび」「慶弔・見舞い」などのベーシックから、さらに踏み込んだ応用表現までに深く納得することができるのです。

英文ビジネスEメールを書かなければならないという方には、きっと役立つことでしょう。

Photo: 印南敦史

印南敦史

swiper-button-prev
swiper-button-next