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佐々木俊尚が語る「コミュニケーションの10年後」。ロングトレイルな生き方の中で「広く弱いつながり」がより浸透する

佐々木俊尚が語る「コミュニケーションの10年後」。ロングトレイルな生き方の中で「広く弱いつながり」がより浸透する
Photo: 小原啓樹

働くにも暮らすにも欠くことのできないのが“コミュニケーション”。

それだけに、コミュニケーションについて悩みを持つひとは多いでしょう。コミュニケーションやコミュニティは、この10年でどう変わってきたのか、そして今後10年でどう変わっていくのか。

『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎新書)や『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)の著者でジャーナリストの佐々木俊尚さんに、「コミュニケーションの10年後」について伺ってきました。

「広く弱いつながり」とは、太い1本のロープではなく、細い10本のロープでつながること

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佐々木俊尚 作家・ジャーナリスト。1961年生まれ。毎日新聞社の記者、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。ITから政治・経済・社会・文化・食まで、幅広いジャンルで、綿密な取材と独自の視点で切り取られた著書はベストセラー多数。Twitterのフォロワーは80万人と日本でもトップクラス。著書に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる』(アノニマ・スタジオ)など。
Photo: 小原啓樹

――今回のテーマは「コミュニケーションの10年後」です。佐々木さんは「広く弱いつながり」を提唱していますが、これはどういったものなのでしょうか。

佐々木:10年後を語るにあたって、10年前を考えてみましょう。2008年はリーマンショックの年です。大企業も倒産の危機に見舞われ、「寄らば大樹の陰」という状況ではなくなったと思います。

企業が大樹だったときには、その企業に頼っておけば安心でした。これは「狭く強いつながり」です。例えるなら、岸にある大樹につながった1本の太いロープにつかまって川に入っている状態。しかし、もしその木が倒れたりロープが切れたりすると、すぐに流されてしまいます。

一方、「広く弱いつながり」は、会社だけに頼らず、さまざまなコミュニティーでさまざまな人材と関係を結ぶこと。これは、岸にある10本の木に10本の細いロープをつないで川に入っている状態。1本や2本切れてもなんとか持ちこたえます。これからの時代は、10本の細いロープを持っている方が安全で生きやすいのではないでしょうか。

これは、私の実体験からきた考え方。2003年からフリーランスとして活動していますが、当時、フリーランスはリスクが高く不安定、勤め人はリスクが低く安心と思われていました。しかし、出版不況で版元自体がなくなることも珍しくなくなった今、いくら大きな出版社に勤めていても、潰れてしまえばゼロです。一方、フリーランスで10社と取引があれば、1社が潰れても致命的にはならない。

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Photo: 小原啓樹

――さまざまなコミュニティでさまざまな人材と関係を結ぶのが、「広く弱いつながり」なのですね。具体的にはどんな「場」がありますか。

佐々木:難しいものではありません。典型的なのは、NPOが主催するトークイベントやワークイベントに出向いて、そこで知り合った人とFacebookでつながるとか。ただし、流行りのオンラインサロンなどに多い、著名人の話を聞いて終わりというイベントはオススメしません。なぜならそれは、主催者対会員という関係でしかないから。そこにはつながりが生まれない。重要なのは、参加者同士のコミュニケーション。そこで初めて、弱いつながりが生まれます。

ほかには、趣味の集まりもいいでしょう。私は登山が好きで、月に一度山登りの会を開いています。ここでは、仕事や会社とは関係ない人と知り合える。そこで知り合った人とはFacebookでつながっていて、山以外の分野でやりとりをすることもあります。単純な趣味のつながりだけでなく、別のところに波及するんですね。

今、徐々に広がりつつある多拠点居住も「広く弱いつながり」を構築させます。私は東京以外に、軽井沢と福井にも拠点を持っていますが、それぞれの土地に知り合いが生まれています。地方は地縁血縁、同窓生などでマウンティングが発生し「狭く強いつながり」になりがちですが、ほかにも拠点があることで、別の人間関係を築いて気分転換をすることもできます。

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拠点間を異動する際に持っていく必需品。折りたたみ傘以外は左下のポーチに入れている。1:使い捨てコンタクトレンズ、2:ピルケース、3:キーホルダー、4:目薬。防腐剤なし、5:歯間ブラシ、6:フリスクケースに入れた付箋、7:充電器&ケーブル、8:小銭入れと財布、9:モバイルバッテリー、10:軽さが特長のモンベルの折りたたみ傘、11:ハッカ油。虫除けになる、12:歩いたあとなどの足のマッサージ用のアロマオイル、13:懐中電灯。USBで充電可能。三拠点生活で街灯が少ない地方では必要、14:ホイッスル、15:左右独立のBluetoothイヤホン、16:中国製MP3プレイヤー。主にFMラジオとして使用、17:ボールペン、18:名刺入れ
Photo: 小原啓樹
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Amazonで見つけたという折りたためる保冷バッグ。これに食材をいれて拠点間を移動しているという。
Photo: 小原啓樹

これからはリアルの人間関係も含めたコミュニティの構築と維持と活性化が重要になる

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Photo: 小原啓樹

――佐々木さんは、「広く狭いつながり」の場に参加するだけでなく、自ら場を提供していますね。佐々木さんが主催していた21世紀の教養を身につける『LIFE MAKERS』と『くらしのきほん』『灯台もと暮らし』『箱庭』といったメディア集合体である『スチーヴ』が一つになった『SUSONO(すその)』です。

佐々木:『LIFE MAKERS』は議論型コミュニティだったのですが、どうしても運営者対参加者という関係になってしまい、勉強会以上のものになりにくい面がありました。そこで、会員同士が活発に関われるように設計し直したのが『SUSONO』。より広い分野で、ゆるやかにつながりながら、新しい暮らしの文化圏を作ろうというプロジェクトです。

昔はいろいろな文化を雑誌が支えていました。分かりやすいところでは、鉄道マニアは鉄道雑誌に集まった。しかし、そういった雑誌が乏しくなった現状では、自分たちで意識的に場をつくらなくてはいけない。以前と違うのは、ひとつの文化にひとつの雑誌ではないこと。これでは、「強く狭いつながり」にしかならなりません。『SUSONO』は、いろいろな文化がひとつの場に集まることで、「広く弱いつながり」が生まれる場です。

クローズドな公式サイト上で、メンバーなら誰でも簡単にイベントの呼びかけができる仕組みになっているので、『SUSONO』の参加者はそれぞれがイベントを開催しています。今、有料会員が200人近くいるのですが、月に1〜2回の公式イベント以外に、仲良くなった会員同士や『SUSONO』内で勝手につくった部活動で小旅行に行ったりしています。主催者や事務局は、あずかり知らない(笑)。

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Screenshot by ライフハッカー編集部 via SUSONO

――『SUSONO』は2年間限定の取り組みですが、これにはどういった意味があるのでしょう。

佐々木:コミュニティを持続させるのは、意外に難しい。『LIFE MAKERS』も徐々に参加者が減っていきました。その理由は、常連の存在です。常連がいると新しい人が入りにくくなくなる。居酒屋と同じですよ。結果として、全体的には減少傾向になります。だったら、期間限定で希少価値を高めたほうが盛り上がると考えて、実験的に始めました。2年経ったら、改めて運営方法を考えます。

SNSを通じてリアルに波及するコミュニティの運営は、未だノウハウがありません。これからは、新しい人に馴染んでもらったり、会員同士のやり取りを活発化させたりする「コミュニティマネージャー」とでも言うべき新しい形の仕事が出てくると思っています。

昔、面白法人カヤックが「大工さん」と「大家さん」という例えをしたことがあります。初期のWebコミュニティは、「2ちゃんねる」のように掲示版を設置するなど仕組みを構築したら終了でした。作るだけだから「大工さん」です。ミクシィやはてなが台頭してWeb 2.0といった言葉が使われるようになった後は、Web上のコミュニティを上手く維持していく仕組みが求められました。これは、住人が快適に暮らせる環境を整える「大家さん」です。

今は「大家さん」からさらに進んで、リアルの人間関係も含めたコミュニティの構築と維持と活性化が重要な仕事になってきている。それが「コミュニティマネージャー」なのですが、現状ではノウハウがまだ確立していないので、試行錯誤して情報交換しているところです。

――会社など「狭く強いつながり」では、地位や立場、職責などによってある程度の関係性が決まります。「広く弱いつながり」で関係性を築くときに気をつけることはなんでしょうか。

佐々木:社会における人間関係では、他者をヒエラルキー構造のなかに位置づけることが多い。名刺交換をしても、相手先の企業の規模や地位、肩書きで、自分より上か下を推し量ったりしませんか。いわゆるマウンティング行為なのですが、特に、40〜50代の中高年では顕著。「広く弱いつながり」ではマウンティング行為は御法度です。年齢や地位、肩書きを捨て去って、ある分野において自分よりも見識が深い人に対しては、リスペクトする心がけが必要です。

あとは、「好きだからつながる」という気持ち。仕事やお金を目的にしないほうがいい。つながりが巡り巡って仕事に繋がることもあると思いますが、それは結果論。お金儲けのために人と付き合うのは不健全だし、だんだんと顔が卑しくなってくる(笑)。

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Photo: 小原啓樹

――現代の社会で、「広く弱いつながり」が求められる理由をどう分析していますか。

佐々木:二つ要素があると思っています。一つは、Facebookに代表されるSNSで人間関係の支援ができるようになったから。Facebookを使っていない人は「食べ物を自慢する場所」なんて揶揄するけど、それは大きな誤解。本質は、持続的な人間関係を支える装置であり人間の評価基準をつくってくれる装置であることです。Facebookをやっていると、友人の近況がわかるので、数年ぶりにあっても久し振りな気がしない。また、その友人の人間関係や趣味嗜好がわかるので、どういった人間かを知ることができる。

二つ目の要素は、旧来のコミュニティが消滅してしまったから。代表的なのは戦前の農村です。高度経済成長で消滅し、そのあとに企業社会が残りました。その会社のコミュニティも終身雇用が崩壊し、非正規雇用が4割に達する今、コミュニティが不安定になってきています。みんな、「属する場所がない不安」を抱えているんですよ。そこでもう一回、コミュニティにつながりたいっていう欲求が高まり、結果的に「広く弱いつながり」に向かっていると考えています。

これからのコミュニティは、中心が存在しない網の目のような人間関係から生まれる

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Photo: 小原啓樹

――この先の10年。コミュニティの進化や質の向上は、これまでの10年よりも加速度的に進むのでしょうか。

佐々木:その可能性はあると思っています。理由のひとつは世代の交代です。80年代生まれは、シェアリングエコノミーを自然に受け入れられる世代。例えば、「シェアハウスに住めますか?」と聞くと、70年代生まれの人はプライバシーを気にしますが、80年代生まれは二つ返事でOKする人が多い。

80年生まれは今38歳。10年経てば50歳に近づき、社会の主流になります。そうなると、シェエリングエコノミーやプライバシーに対する考え方も大きく変わり、今よりもさらにハードルが下がるはずです。SNSだけでなく、シェアリングエコノミーを通じたコミュニティやコミュニケーションも活発になるかもしれません。そして、それは今以上にリアルな世界に波及するのではないでしょうか。

既にその萌芽はあって、新宿のあるシェアハウスでは、赤ちゃんがいる夫婦も入居しています。その赤ちゃんを独身の東大生があやすのです。シェアハウスはもともと、血縁や地縁などからかけ離れた人たちが集まって過ごす場所。ある意味、無縁です。その無縁によって生まれたコミュニティが、介護も育児も支え合う。

――そこまで行くと、結果として「狭く強いつながり」になってしまわないですか。

佐々木:確かに、息苦しいコミュニティになってしまうと、結局は戦前の息苦しい「村社会」となにも変わらない。そうならないために、SNSを活用するのです。その一つの事例が、熊本にある『三角エコヴィレッジ サイハテ』です。

乱暴に言えばヒッピーコミューンのような場所で、若者から年輩者まで20人あまりが住んでいる。ヒッピーコミューンは70年代からありますが、だいたいは上手くいきませんでした。通信手段が電話くらいしかない時代、人里離れた小さいコミュニティは外部と行き来がなくなり、同調圧力が強くなりすぎてケンカ別れするのです。

しかし、『三角エコヴィレッジ サイハテ』は、SNSを上手く活用しているので、外部との交流が激しい。SNS経由で見学したい人もたくさん来ていますし、ゲストハウスに泊まることもできる。入って来る人もいれば、出ていく人もいる「オープンなコミュニティ・共同体」が作りやすくなっているのです。

――コミュニティ・共同体の形も変わりそうです。

佐々木:構造自体が変わるはずです。ネットのコミュニティで考えると分かりやすい。2ちゃんねるやミクシィは、真ん中に掲示版がありそこに人が集まる「広場型共同体」。広場は行く人と行かない人に分かれています。

一方、TwitterやFacebookは掲示版がなくて、フィードがあるだけ。自分のタイムラインしか存在しないので、集まる場所がないのです。それでも、常に誰かと誰かがつながっている。僕は『フィード型共同体』と呼んでいて、どこにも中心が存在しない網の目のような人間関係が共同体的な役割を果たしている。こういった『フィード型共同体』が、将来のコミュティとなっていくのではないでしょうか。

――これから先の10年は、SNSで生まれたコミュニケーションが核となり、リアルな世界のコミュニティを生み出していくのですね。最後に、今後の予想を聞かせて下さい。

佐々木:ネット空間からリアルな世界への普及はすでに始まっています。Facebookによる人間関係、Amazonによるネットショッピングは、まさにそれです。この先10年はわかりませんが、さらに先には人間の肉体さえも飲み込むかもしれません。

もっとも実現の可能性が高いのは、通信端末を体内に埋め込むインプラントと進化したVR・ARの融合です。こうなると、コミュニケーションのあり方はもう一段先へと進むでしょう。例えば、通信機能を備えたコンタクトとAR技術が融合すれば、リアルで会った人の情報がその人の頭の上に表示されることもできる。VR機能を使えば、場所を飛び越えます。その頃には、AIの進化で自動翻訳も実用化レベルだろうから、世界中の人間とコミュニケーションができるはずです。

――その頃には、確実に人生100年時代が到来していますね。

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Photo: 小原啓樹

佐々木:コミュニケーションとは少し離れますが、「ピークハント」から「ロングトレイル」な生き方へのチェンジが求められると思います。「ピークハント」は、標高が高い山の山頂を目指す山の登り方。会社で出世を目指して、頂上を取ったら退職して悠々自適な暮らしを夢見るのは「ピークハント」的です。

しかし、人生100年時代になれば、70代・80代でも働くという選択があります。そうなると、働き続けることをいかに楽しむかが大事になる。それは、縦走による長距離の山歩きをしながら、風景や途中での食事などを楽しむ「ロングトレイル」に似ています。

最近は、若い人にも「ロングトレイル」的な考え方が広がっています。社会全体が考える豊かさの概念が大きく変わってきているからです。例えば20代に「どこで服を買いますか」というアンケートを取ると、1位がメルカリでした。リノベ住宅も人気ですし、クルマも実用的な軽自動車が売れています。日本では東日本大震災の影響も大きいと思うのですが、実はアメリカ・ヨーロッパでも同じような傾向があります。これは、長い目で見ると先進国が低成長時代に入ってしまったから。今の50代以上が味わったような、世の中がどんどん豊かになる実感が持てないのです。

この5年ぐらい、いろいろな若い起業家と会いました。90年代の肉食系起業家と違って、「規模を求めるよりも、生活できる程度のお金を稼いで、自分たちのサービスを求めてくれる何千人かくらいのお客さんがいて、気の合う仲間と働き続けられればそれでいい」と言っている人が結構多い。企業でも出世優先で社長になりたいという人は減っていますよね。でも、私はそれでいいと思っています。これからは、そういった価値観の人がふえるのではないでしょうか。

――その価値観は「広く弱いつながり」とも相性が良いような気がします。今日はありがとうございました。


Photo: 小原啓樹

Reference: SUSONO , 三角エコヴィレッジ サイハテ

林田孝司

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