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NYの金融業界で20年活躍し、子どものための活動に転身したキャリアウーマンが考える「これからの子育て、教育、生き方」

NYの金融業界で20年活躍し、子どものための活動に転身したキャリアウーマンが考える「これからの子育て、教育、生き方」
Photo: Kasumi Abe

日米をまたにかけて活躍する、寺尾のぞみさんの熱い夏が過ぎ去りました。子どものためのインターナショナル・サマーキャンプ「ミステリオ(Msterio)」が、今年は7月28日から8月4日の8日間にわたって自然豊かな群馬県利根郡で行われ、無事に終了しました。

今でこそ世界中の子どものために奔走している寺尾さんは、意外な経歴の持ち主です。以前は世界的企業、モルガン・スタンレー証券のニューヨーク本社で働くキャリアウーマンでした。約20年間金融業界の第一線で活躍後、惜しげもなく退職してミステリオを旗揚げ。また、ミステリオはサマーキャンプ以外に、世界中の恵まれない子どもへ手作り人形を届ける活動を行っています。

寺尾さんに、子どもに関わるようになったいきさつや、現代の子育てや教育について思うことを聞いてみました。

寺尾のぞみ(Nozomi Terao)

東京出身、ニューヨーク在住29年。非営利団体「ミステリオ(Msterio)」の代表として、子どもを対象にしたバイリンガル・サマーキャンプや、世界中の子どもに手作りの人形を届ける活動をしている 。立教女学院大学英文科を卒業後、アメリカ大使館商務部アカウント・エグゼクティブ、フジテレビ制作部AD、伊藤忠商事アメリカの社長秘書を経て、1987年モルガン・スタンレー証券に入社。89年ニューヨーク本社に異動し、エグゼクティブ・ディレクターとして18年間勤務。2001年、夏季休暇を利用してサマーキャンプ、ミステリオをスタートし、活動を本格化させるため06年6月に同社を退職、現在に至る。

「いつでも戻れる故郷」を作りたかった

ーまずは、「ミステリオ」の活動について教えてください。

寺尾:ミステリオは 、子どもの育成のための活動を行なっている非営利団体です。活動内容は主に2つで、1つは子どもを対象にしたインターナショナル・サマーキャンプ。また、人形を手作りして世界中の子どもに届ける活動もしています。

ミステリオを通して人と繋がり、そこで得たことを実社会で活用し、今度は自分が媒介となって誰かを繋げる人になってほしい。また、自分のためだけでなく世の中のために何かできる人になってほしいという願いを込めて、2001年に活動を開始しました。

ミステリオの紹介動画
Video: ミステリオ提供

ーミステリオを立ち上げるまで子どもとは無縁の生活を送られてきたそうですが、子どものために行動を起こした動機は何でしたか。

寺尾:当時、モルガン・スタンレー証券のニューヨーク本社に勤務していました。10年くらいして仕事も生活も脂が乗ってきたとき、同僚が「君もがんばったらこのような家が買えるよ」と言いながら、建てたばかりという豪邸の写真を見せてくれたことがありました。しかし、その写真を見ても不思議と何とも思わない自分がいました。

当時の私は数字だけで結果が出て判断される世界にどっぷりといたので、お金以外で社会に還元できる方法はないかと思うようになっていました。そして一時帰国するたびに耳に入ってきたのは受験戦争、ニート、コンビニ漬けの食事など、子どもに対するネガティブな情報ばかり。バランスが取れてない子がとても多いと思いました。

サマーキャンプという形態で、子どもがいつも「自分」でいられいつでも戻って来られる故郷(ふるさと)のような場所を作りたいと思ったのが発端です。とは言っても素人ですから、夏季有給休暇を利用して一時帰国し、友人の力を借りながら手探りで始めました。

サマーキャンプの様子1
Photo: ミステリオ提供
サマーキャンプの様子1_
群馬県で毎夏開催されるサマーキャンプ「ミステリオ」は、小学生~高校生を対象に日英のバイリンガルで行われている。
Photo: ミステリオ提供

誰かのことを思いやるだけで繋がれる

ー初年度から50名弱の子どもが集まったそうですが、17年経った今では倍近くになりましたね。

寺尾:広告はいっさいせずに、インターネットや口コミだけで増えました。現在3分の1のキャンパーは香港、中国、韓国、アメリカやヨーロッパなど海外からの参加者です。

立ち上げ当初から参加していた子たちは17年経ってすっかり成長し、ミステリオで出会って結婚した子もいるし、スタッフとして参加してくれている子もいます。また、スタッフ同士が結婚して生まれた子どもがキャンパーとして参加しているケースもあります。

成長した彼らを見て思うことがあります。彼らは会社に入ったり留学したりで外の世界に出て行ってはじめて、どれほど自分が恵まれた環境にいたかと気づき始めます。そして、実は世界という大きな枠から見ると、そのように恵まれている人はほんの一部だということにも。

彼らはにもぶつかります。情熱を持って打ち込める仕事をするべきだとわかっているけど、それでは生活ができない。片や大企業に入社したけど、お金のために働いている気がするなどと。そして、ミステリオを通して私やスタッフに相談がきます。

このように、ミステリオというコミュニティの中で心と心を通い合わせる彼らを側から見て、「繋がる」ってやっぱり大切なことだと確信しているところです。安易にSNSで繋がろうと言っているわけではなくて、誰かのことを想うだけでも繋がることができます。一言で言うと、「思いやり」でしょうか。

相手を思いやることで共感ができるようになりますが、かわいそうという哀れな気持ちで共感するのではなく、ただ横にいて寄り添う、そういう形の思いやりも十分に価値があるのだということを、成長した子たちが伝えてくれるようになりました。

手作りの人形を通して人と人とを繋げたい

【手作りドールの写真シリアル番号】
手作りした人形にはタグが付いており、シリアル番号でどの国の子どもに届けられたか追跡することができる(詳細)。
Photo: ミステリオ提供

ーサマーキャンプのほかに、2011年から手作りの人形を発展途上国の子どもに届ける活動もされています。そちらはどういう経緯で始めたのですか。

寺尾:2009年に、ある日本人女性と出会ったのがきっかけです。「人形を作り、ニューヨークの病院を回って入院中の子どもに贈りたい」と相談され、お手伝いをしました。子どもたちにとても喜んでもらえ、病院以外でも人形を通して人と人を繋げる活動をしたいと思うようになりました。とはいえ、最初のころは有志を集め、自宅でこぢんまりと作っていました。

これも「恵まれていないからかわいそう」という気持ちで贈っているわけではなく、人形を喜んでくれる子たちを思いやって繋がるための活動の一つととらえています。

【人形をもらった子ども】
この7年間で贈った手作り人形は全部で1万6000体。主に南米、アフリカ諸国、インドの児童養護施設や、アメリカのホームレスシェルターの子どもに贈ることが多い(詳細)。
Photo: ミステリオ提供

教育は上に立つ人の教育がまず大事

ー手作りにこだわった理由は何でしょう。

寺尾:作るというプロセスがあるからです。これは1つのポイントなんですが、最近の社会の傾向として、できるだけ時間をかけずに儲かれば良しという、結果だけが求められるようになっています。でも、それでは十分な教育はできません。

人を育てようと思ったら、100年後を考えて向き合うぐらいの熱量がないとうまくいかないです。だから、結果ではなくプロセスが大事だと思っています。それに、1つのモノを作るのにいろいろな人の手が入ることで、そのモノがすごくスペシャルなものになりますよね。

【人形作り】
人形はボランティアによって作られていて、ミステリオのキャンプでもプログラムに入っている。「資金が限られているから無料で作ってもらっているのに、参加者は楽しんで取り組んでくださいます」と寺尾さん。
Photo: ミステリオ提供

ー人形を贈るようになって気づいたことはありますか。

寺尾:いろいろな国を訪れて気づいたのは、孤児院でもどこでも教育をする人たちの教育が大切だということです。モノが不足している国を対象にしているので、人形をあさり尽くすようなところ、きちんとシェアし合うところとさまざまな国や文化を見てきました。

後者のようなところで働いているのは、人してすごく苦労をしてきたけどきちんと教育された人たちで、彼らは自分たちの環境が貧しいというのは理解していますが、ちっとも哀れだとは思っていません。譲り合いや思いやりの心がきちんと備わっています。

これは私の大きな気づきでもあるのですが、最初のころは恵まれない子のために何かを「してあげる」感覚で取り組んでいたところがありました。でもある日、人形を届けにスリランカの孤児院を訪れた際、「なんで私たちはいつももらうだけなの? 私たちだって何かをあげたい」って言われてドキっとしたんです。

そこにいる子はみんなすごく綺麗な目をしていて、笑顔がとてもすばらしいんです。モノはないけど人形をシェアし合って、すごく愛に満ちている印象です。私がそれまで思っていた「かわいそう」なイメージは全然ありませんでした。そういう体験を通して、上に立つ人の教育がまず大切なのだと実感しています。

【CSRを利用した、人形作り】
人形はCSR(企業による社会的責任)を利用して作ってもらうこともある(写真は6月にニューヨークの某大企業で行われたCSRの活動の様子)。
Photo: Kasumi Abe

教育や子育ての問題を解決するには?

ー日本では、教育で悩んでいる親も多いですが、どう思いますか

寺尾:日本もアメリカも今の子たちは文字を書かない、読まないと言われています。でも、キャンプ中は携帯電話を持てないから、そのぶん本を読む時間にあてます。そうすると、みんなすごく本を読むんです。

また「静かな時間」というのも設けています。知らない誰かのことを想って手紙を書く時間ですが、みんな一生懸命に結構な量の文章を書きます。東日本大震災の年は、好きな本を1冊ずつ持って来てもらい、被災者に宛てて書いた手紙を添えて被災地にプレゼントしました。今の子たちは、塾やインターネットで時間がないだけで、本当は書けるし読めるんです。親も同じで、時間の余裕がなくて忙しい人が多いです。

日本は、子供を伸び伸び育てたいけど社会がそうさせない雰囲気で、子どもの教育から親自身の人生まで悩みは尽きません。でも忙しかったり悩んだりするのは自分がそうしているからなので、そうでない時間や環境を作ればいいのだと思います。

ー子育てで思うことはありますか。

寺尾:問題を抱えている子が生きづらい世の中になったと思います。昔は元気がありすぎたり集中力がなかったりする子がクラスにいたものですが、子どもって本来はそんなもんでしょうと受け入れられていました。

でも、最近は病名を当てはめた方が納得するのか、「うちの子は自閉症(とかADHDとかアスベルガー症候群)なんです」などとすぐに言うから、その子たちは行き場がなくなって疎外感を感じているのではないでしょうか。登校拒否の子も、受け入れルートや行き場がなく、社会の中で孤立しています。

ミステリオのキャンプにも問題を抱えたさまざまな子が参加しますが、私たちは分け隔てなく自然に受け入れるから、彼らは伸び伸びしているし、社会への自信にも繋がっているようです。

サマーキャンプの様子2
8日間のキャンプでは、水遊びやスイカ割りといった屋外アクティビティから、お芝居、知らない誰かのことを想いながら手紙を書く時間など、ミステリオ独自のプログラムも多数用意されている。
Photo: ミステリオ提供

17年間の活動から学んだこと

ー17年間のミステリオの活動を通じて学んだことは何でしょう。

寺尾:キャンプもそうだし何かにチャンレジしようと思うときって大変なことがいろいろあるけれど、最後まで諦めないってことでしょうか。キャンパーが90人近くに膨らんで、スタッフも50人ほどになりました。ミステリオの存在意義をぶらすことなく、スタッフ全員が8日間のキャンプ中、最高のエネルギーレベルを保ったまま365日分の思い出にするためにやり抜くのはとても大変なこと。

それに、人は2人集まると社会になりますが、その中で負のエネルギーを嗅ぎつけても、8日しかないから放り投げられません。彼らの気持ちをうまく汲み取り、諦めずに辛抱強く問題を解決しなければなりません。

さらに、キャンプ中は子どもの命を預かっているので安全第一です。 天候や気温次第ではスケジュールを大幅に変更しますが、そのような変更に柔軟に対応できなかったり、バイリンガルの環境に慣れなかったりで、2日目ぐらいからげっそりするスタッフもいます。

あるスタッフが「キャンパーが何度言っても聞いてくれない」と言ってきたことがありましたが、それは聞いてくれるような言い方をしていないからなんです。先ほどの「思いやり」にも通じることですが、こういう言い方をされたら嫌だろうと考えながら、常に相手の立場で伝えることが大切です。

集合写真
2018年のサマーキャンプには85名の子どもが参加した。
Photo: ミステリオ提供

また、こんな嬉しいことがありました。今春就職したあるキャンパーがいます。年間5日しかない有給休暇をわざわざ使って、今年のキャンプにスタッフとして参加してくれました。「大切な有給を使わないで」と伝えたのですが、「戻らないと自分をリセットできない」と言って参加してくれました。

その子が大学卒業のときに、私に手紙をくれました。大学で宇宙のことを勉強してきて、今春希望通りの仕事に就けた彼女は、ミステリオを通して気づいたこととして、「夢を持って生きることが自分の力になっている」と書いていました。「夢は1人の力では叶わないことを学んだ」とも。

そして「自分が宇宙と繋がることでもっと大きな世界が広がるが、それも1人ではできない。必要な仲間はミステリオで出会い、その仲間とは楽しいだけじゃないことも共有できる。辛いときも悲しいときも本当の自分を見せられる場所、それがミステリオだ」って伝えてくれました。そういうことを聞くと、これまで続けてきて本当によかったなと思っているところです。


Photo: ミステリオ

Source: ミステリオ

取材・撮影/安部かすみ

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安部かすみ

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