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20年間苦しみ続けてきた精神科医だからこそわかる、「発達障がい」との上手なつきあい方

20年間苦しみ続けてきた精神科医だからこそわかる、「発達障がい」との上手なつきあい方

自分の「人間関係がうまくいかない」を治した精神科医の方法』(西脇俊二著、ワニブックス)の著者は、テレビドラマの医療監修を担当したり、自らメディア出演をするなど、幅広く活躍する精神科医。

人の悩みを聞き、心の問題を解決する立場にいるわけですが、実は中学生時代から30代半ばまで20年以上、自身も苦しみ、もがき続けてきたのだそうです。「人の心を治す」という職についていながら、そのころは周囲への違和感ばかり抱え、心はグラグラと不安定に揺れていたということ。

そのため、「なぜ自分は人間関係がうまくいかないのか」という問いへの答えを求め、学会などに参加したり、文献をあさったり、セミナーや講義を受けるなど、「医学以外の分野」に答えを求めていたのだといいます。しかし意外なことに、本業である精神医学の最先端を学ぶことで、答えはすんなりと見つかることに。そして実生活で「治療」を重ねるようになってから、人生が大きく好転しはじめたというのです。

精神科医である僕がようやくたどりついた答え。 それは「発達障がい」という、生まれつきの脳の機能障がいでした。 なかでも僕は、アスペルガー症候群(AS)とADHD(注意欠如・多動症、注意欠陥・多動性障害とも)、二つの要素をあわせもっていることがわかったのです。

僕は過去に11年間、国立の重度知的障がい児施設に勤め、施設改革にまで携わりました。その頃、子供たちを診察しながら勉強していくうちに、ある日「自分はまさに発達障がいだったんだ」と気づいたのです。 それからの僕は、発達障がいの専門家としてのキャリアを深めながら、自分の発達障がいからくる生きづらさを解消していきました。 人間関係の築き方や深め方を意識的に改善し、相手と気持ちのよい関係を結ぶよう自分を変えていったのです。(「はじめに」より)

その結果、自身が悩んできたさまざまなことに納得でき、いろいろな局面で「ここはこう振る舞ったほうがよさそうだ」と察知できるようになり、対人トラブルの数は激減。「大人になっても、生き方はまだまだ変えられるのか」と驚いたのだといいます。

つまり本書では、精神科医としてのノウハウに加え、自身の体験をも踏まえたうえで、「生きづらさ」が軽くなる方法を示しているわけです。きょうは第4章「『生きづらさ』は最強の武器になる」中の「こうして生きていけばうまくいく」から、いくつかのポイントを抜き出してみたいと思います。

原因がわかると自分と向き合う姿勢が変わる

著者が発達障街であることをカミングアウトしたことには、大きな理由があるそうです。「周囲との違和感を抱えていたり、まわりとうまくやっていけないと感じている人は、どこにでもいる」のだということを、知ってほしかったからだというのです。

そして、それは単に性格や気の持ち方の問題ではなく、「(著者がそうであるように)アスペルガー症候群などの発達障街が原因になっている可能性がありますよ」と認識してほしかったからだともいいます。

また精神科医という仕事柄、発達障がいが生きづらさの原因となるということを、もっと多くの人に理解してもらうことが必要だと感じてもいるそうです。なぜなら、原因を知ることで、格段に気分が楽になるから。すると、モヤモヤした違和感や漠然とした不安がすーっと消えていくことになるわけです。

さらに「そうだったのか」という気づきから、「じゃあどうすればいいのか」「なにに気をつけるといいのか」という前向きな姿勢が生まれることに。そして「自分はうまくいかない」「周囲に理解されない」という後ろ向きな姿勢が、ふっと変わるというのです。(165ページより)

生きづらさが武器になる理由

アスペルガー症候群は生まれつきのものであり、特に有効な治療法は確立されていないのだそうです。そのため現在の治療の基本は、問診を中心に、その人に応じたさまざまな指導を行うこと。

と聞くと不安に思えるかもしれませんが、それでも効果はあるのだといいます。なぜなら、生きづらさの原因を知ると、自分を客観的に見て、行動や考え方の分析ができるようになるから。違和感を抱えたまま、ただ漠然と自分や他人を責めるよりも、ずっと健全な心でいられるようになるというわけです。

また特性がわかってくるため、「弱みもあるけれど、自分のいいところを伸ばそう」という判断ができるという利点も。生きづらさの原因を知り、自分を知ることは、「強みを生かす」という武器になるということです。

たとえばアスペルガーの人には、特定の物事への興味やこだわりが強いという特徴があるもの。著者も小学生のころ、ラジコン模型づくりに凝って、それをやっているときは長時間集中できたのだそうです。

つまり、そうした強いこだわりや集中力は、専門性の高い職能を獲得することに生かせるわけです。なんでも無難にこなすことができるゼネラリストは無理だとしても、特定分野のスペシャリストを目指せばいいということ。(166ページより)

“弱みを強みにして”仕事選びに生かす

原因や自分の特性がわかったのだとしたら、それをぜひ仕事選びにも生かしてほしいと著者はいいます。これから就職活動をするという人も、現在の仕事が合っていないと感じ、新たな職場を探そうという人も、自分の特性に合った道を選ぶべきだということ。

コミュニケーションがどうしても苦手だと自覚することができれば、対人交渉が多かったり、人間関係が密で上下関係が厳しいような職場は避けようという判断ができるわけです。そして選ぶ職種によっては、自分の弱みを強みに変換できることもあるはず。

具体的にいえば、人との会話が苦手で、自分の話がなかなか相手に理解してもらえないという人は、あまり人と顔を合わせずに、自分の技術でできる仕事が向いているでしょう。たとえばコンピュータ・プログラマー、SE(システムエンジニア)、技術系の職人などの道があるわけです。

凝り性でこだわりが強い人であれば、技術職でも和食の料理人や菓子職人、フレンチのシェフなども考えられるかもしれません。日本の修行制度や厳しい上下関係はつらいという人なら、海外で学んでオーナー・シェフを目指すという道もあるでしょう。

なおアスペルガーの人に関していうと、接客や顧客対応の多い仕事や、常に時間に追われ、予定変更や至急の業務が多い職種は向かないと考えたほうがよいそうです。人に干渉されず、自分のペースでコツコツと進められる仕事がいいということで、事実、研究者やアーティストの道に進んで名を成す人も多いのだといいます。ハードルは上がるものの、医者や弁護士など独立した職業にも多いと著者は説明しています。(168ページより)

「TO DOリスト」で簡単スケジュール管理

「どうしても段取りが悪い」「時間管理が苦手だ」という人は、自分がやるべきことを視覚化してスケジュール管理する方法をとってみるといいそうです。有名なものは、アメリカのノースカロライナ州立大学で研究された自閉症児のための「TEACCH」という指導法。これは「時間・空間・活動」をそれぞれ視覚的に区切って理解しやすくする手法で、成人したアスペルガーの人にも有効な方法とされているのだといいます。

そこで著者は、これを応用して「時間の視覚化(構造化)」をすることを勧めています。記入にはシステム手帳のリフィルを利用しても、あるいは自分で専用のノートをつくってもいいそうです。

①まず一日のタイムスケジュールを書き出して行動の流れを把握します。

②さらに週間・月間の予定表を作って、今週やること、今月やることを確認しておきます。

ここからが大事です。

③毎朝、朝の十五分を利用して「今日やること」のリストを作るようにします。仕事なら、ミーティング、レポート提出、会議資料のコピー、商品サンプル確認、メールチェックなど、やることを(五~七点までと数を決めて)書き出します。

④今日やることリストに、「A」「B」「C」の優先順位をつけていきます。

「A」絶対に今日やること

「B」なるべく今日やること

「C」明日でも大丈夫なこと

⑤「A」が複数あるときは「A1」「A2」「A3」としてさらに優先順位を決めます。

(170ページより)

この一連の流れを、朝の15分の日課にして習慣づけるということ。そうすれば1日のスタートにその日のスケジュールが視覚的に整理でき、時間のロスを減らして段取りよく行動できるようになるというわけです。(169ページより)

苦手なところでは勝負しない

アスペルガー傾向の強い人は、得意なことと苦手なことのギャップが多いもの。しかし自分でも「できること」「できないこと」がよくわかっていないというケースもあるでしょう。そういうときは、「仕事、人づきあい、会話、趣味、娯楽」など、分野を大まかに分けて、得意・苦手の両方をノートにリストアップしてみるといいそうです。

なぜなら、「パソコンゲームが得意」「簡単な料理が得意」「細かい作業が苦手」「グループでの行動が苦手」など思いつくものをすべて書いて仕分けしていくと、自分の興味の方向や得意分野、苦手分野がはっきりしてくるから。

また、あらためて自分の特性がわかってきたら、苦手なことはもう「自分には向いていない」と割り切ってしまうことも必要。そして「得意なところで勝負して、苦手なところでは勝負しない」という基本方針を決めてしまうのがいいということです。

「苦手でも、どうしてもやる必要がある」ことは、そこそこやればいいという考え方。勝負は捨てて、「5割できなくても4割できればいい」と、そのくらいの気持ちを設定しておく。そう決めると、余計なものが入ったリュックを下ろしたように気分が楽になるといいます。

もし「得意なことが思いつかない、なにもない」という場合は、とりあえず可能性のあるものを大事にしてみることが大切。「得意というほどではなかったとしても、苦手とまでは言えないもの」「そのなかでも特に好きなもの」を伸ばそうと考えるべきだということ。

新たに自分の「得意なもの」を得る可能性があるのですから、悲観する必要はなし。「努力して苦手なことや弱点を克服しよう」などと考えることが、いちばん心の負担になり、生きづらさの元になると著者は指摘しています。(179ページより)




発達障がいは治らないとしても、「得意な面をひたすら伸ばし、不得意な面は無理せずそこそこに」という原則を指揮するだけでも、とても生きやすくなるそうです。

つまり、早く気づいた人から幸せになれるということ。だからこそ、自分自身を知り、正しく対策を立てることが大切だと著者は主張するのです。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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