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ビジネスパーソンにも役立つ、池上彰さんによる「高校生のためのニュース解説」

ビジネスパーソンにも役立つ、池上彰さんによる「高校生のためのニュース解説」
Photo: 印南敦史

新聞やテレビに出てくる日々のニュース。なんとなくわかっているようで、よく考えてみると、はっきりとはわからない。 こんなことがよくあるのではないでしょうか。とりわけ新聞を読み始めた高校生には、そんな思いが強いようです。

「ニュースについての高校生の疑問に答えてみませんか?」 こんな誘いに乗って、中日新聞に毎月ニュース解説を掲載しています。同じものが東京新聞の夕刊にも転載されています。それをまとめたのが、この書籍です。(「はじめに」より)

もっと深く知りたい! ニュース池上塾』(池上彰著、祥伝社)の冒頭にはこう書かれています。高校生たちからは多彩な質問が寄せられ、その多くは素朴であるだけに本質を突いているとも。

しかし、その質問のなかには、高校生のみならず大人が知りたいことも含まれているのではないでしょうか。より深く知りたいという思いはあっても聞くに聞けない疑問は、現実的に少なくないはずだからです。

そういう意味において本書は、ビジネスパーソンにとっても大きな意味を持ちそうです。

きょうは第3章「そのニュース、本当はこういう意味だったんです」のなかから、いくつかの質問と答えを抜き出してみたいと思います。

アメリカの金利政策で、なぜ日本の株価が影響を受けるのですか?

2017年2月6日に、日経平均株価が急落しました。アメリカの金利が上がるからだといわれていますが、どうしてですか? 金利や為替相場の話題は社会の授業で扱われますが、深く知りたいと思っています

(高二女子)

この問いについて著者は、「世界経済がつながっていることを示す動き」なのだと答えています。

景気がよくなってくると、中央銀行は金利の引き上げに動きます。ちなみに日本の中央銀行は日本銀行ですが、アメリカの中央銀行は連邦準備制度理事会(FRB)という名称。

金利が低いと、企業や個人が金融機関から資金を借りやすくなるので、そのお金で新しい仕事を始めたり、マイホームを買ったりして景気が回復します。

しかし放っておくと、景気がよくなりすぎてインフレになる恐れがあります。そのため、金利が引き上げられるわけです。

金利が上がりそうだという状況になると、多額の資金を御客から預かって増やす仕事をしている「投資家」は、次のような連想をすることになります。

金利が上がる→企業は資金を借りにくくなる→借りた資金で株を大量に買うという動きが止まる→株価が下がる可能性がある→だったら、下がる前に売ってしまおう(105ページより)

こう考えて株を売りに出すと、本当に株価が下がってしまいます。すると今度は、日本の投資家がこう連想します。

アメリカの株価が下がった→アメリカの景気が悪くなる可能性がある→アメリカの景気が悪くなると、日本企業のアメリカ向け輸出が減る可能性がある→日本の企業の利益が減る→日本の株価が下がる→その前に株を売っておこう(106ページより)

こうして日経平均株価が下がったわけです。アメリカで金利が少し下がった程度ではアメリカの景気は悪くなりませんし、日本の会社の利益がすぐに減ることもありません。

ところが「みんながこう考えるだろう」と、みんなが考える結果、その方向に動いてしまいがちだということです。

アメリカの株価が下がっても日本の景気がすぐに悪くならないことは投資家も承知の上ですが、株を売らないと損をしてしまうとわかるので、「売る行動」に出るわけです。つまり株価は、「みんながこう考えるだろう」という方向に世界レベルで動くものだということ。(104ページより)

ドローンはどんな使い方をされる?

2015年4月22日に、東京・永田町の総理大臣官邸屋上に小型無人機ドローン(正確にはマルチコプター)が落下し、大騒ぎになったことがありました。これがきっかけとなって、ドローンに関する規制がほとんどないことに多くの人が気づき、「なんとかしなくては」と考えるようになったからです。

端的にいえば、技術が先に進む、それに対応したルールが間に合わないという状況になっているということ。以前、3Dプリンターの技術が進んだため、個人で拳銃をつくってしまったケースがありましたが、それと似たような問題だということです。

とはいってもドローンは、使い方によっては無限の可能性を秘めているものでもあります。そのため、「安易な規制は好ましくない」という、難しい問題を抱えてもいるわけです。

民間用ドローンが急速に広がったのは、バッテリーが小型化されて長持ちするようになり、カメラも小型軽量化が進んだから。

かつての無線操縦の飛行機やヘリよりも操作が簡単で、リモコンの代わりにタブレットでも操作できる点も評価につながりました。

そんなこともあり、最近は映画やテレビ番組の制作においてもドローンが頻繁に利用されています。

「この映像はヘリコプターで撮影できたのだろうか」と疑問に思うような映像が増えましたが、そうした低空からの撮影には、多くの場合ドローンが使われているわけです。

また、山中に延びる高圧線の点検にも使われていますし、将来的には、砂漠のなかやツンドラ地帯に延々と延びるパイプラインの点検などへの活用が期待されているのだとか。

あるいは、離島で急病人が出て、薬が至急必要になったときにもドローンで運ぶことが可能。GPS機能を搭載しているため、目的地を入力すれば、自動で運んでいってくれるわけです。

あるいは広い農地を使う大規模農業でも、稲や小麦のでき具合を一気に確認することができるようになるでしょう。

もちろん、問題がないわけではありません。たとえば軍事の世界では、イスラエル軍と米軍によるドローンの開発が進んでおり、特に米軍は、アフガニスタンやパキスタンなどでテロリストを上空から見つけてはミサイルで暗殺することに使用しています。

しかし上空からの攻撃は、しばしば誤爆も引き起こすため、大きな問題になってもいるのです。

とはいえ基本的に、ドローンは無限の可能性を秘めているもの。そのため、安易な規制は好ましくないと著者は主張しています。(108ページより)

新国立競技場はどこが問題なんですか?

高校の運動会をどう盛り上げるか、生徒会が考えることになり、生徒会の役員も加わって検討委員会が設置された。

一年に一度の運動会なのだから、派手なイベントにしたいという委員が多く、希望を聞いていたら、とても時間内に収まらず、必要なお金も巨額になってしまった。

でも、検討委員会が盛り上がっているので、他の生徒は誰もおかしいと言い出せない。とうとう学校の校長が登場して、「最初からやり直し」と宣言した。宣言したとたん、「実は自分も反対だった」と言い出す人が続出した。(132ページより)

今回の新国立競技場の問題を、読者が通う高校に置き換えるとしたら、こういう構図になるのではないかと著者は説明しています。そしてそれは、太平洋戦争の日本とも同じなのだといいます。

戦前の日本は、ソ連の脅威に備えるため、中国大陸の「関東州」に陸軍(関東軍)を駐在させていました。

ところが、そんな関東軍が中国大陸で勝手に戦闘をはじめてしまいます。日本政府は戦火が広がらないようにしようとするものの、誰も関東軍を止めることはできない状態に。

そんななか、「これだけ日本軍の兵士に犠牲が出ているのだから、ここで戦争をやめるわけにはいかない」という声が高まり、ついには全面的な日中戦争やアメリカとの太平洋戦争へと拡大していくことになったのです。

しかし多くの人が「戦争をやめろ」とは言えませんでした。

戦争が終わったあと、連合国による東京裁判は開かれたものの、日本人自らによる開戦責任の追及は行われませんでした。

「一億総懺悔(一億の国民全員が反省しなければならない)」という言葉でうやむやになってしまったわけです。つまり、新国立劇場の問題を戦争に置き換えると、こういうことなのだと著者は主張しています。

つまり日本という国は、巨大なプロジェクトがいったん始まると、誰もおかしいと言い出せず、途中でやめられない。

どうしようもなくなって中止になると、誰も責任を取らない。「みんなの責任だ」で終わってしまう。

太平洋戦争は、まさに典型でした。 こうして見ると、いまも日本は、同じような体質を持っていることがわかります。これは健全なことではありません。(134ページより)

大切なのは、目的を明確にすること。なぜなら多目的にこだわると、無目的になってしまうからです。

そこで、担当者の責任の範囲を明らかにして、問題が起きたらきちんと責任を取らせるべき。そのような基本を徹底させないと、いずれまた同じ失敗を繰り返すことになってしまうわけです。

いってみれば新国立競技場の建設問題から、目的と責任を明確にしない日本人の体質が浮き彫りになったと著者は指摘しているのです。(132ページより)




ひとつひとつの問題について、わかりやすく解説しているところが本書の魅力。気になる疑問を、難なく解消することができるというわけです。

そういう意味では、高校生のためというよりも、世代を超えて多くの人に役立つ1冊だといえそうです。


Photo: 印南敦史

印南敦史

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