
「会計」「決算書」と聞くと、それだけで頭が痛くなってくるという方もいらっしゃるでしょう。しかし、決して難しくないと主張するのは、税理士である『会計と決算書がパズルを解くようにわかる本』(戸村涼子著、日本実業出版社)の著者。
大学生時代に簿記を学び、卒業後は会社の経理部で決算を組み、数字を開示する仕事を経験。その後、税理士として「決算書」を見ることが仕事のひとつになっているという人物です。
しかし最初から「会計」や「決算書」の本質を理解していたわけではなく、自分の仕事の半分はわかっていても、残りの半分はわかっていない状態だったのだとか。
そのような経験があるからこそ、本書は「会計」や「決算書」に苦手意識を持っている人たちに役立ちたいという視点で書かれているのだといいます。
「会計」や「決算書」の数字は、基本的に足し算、引き算をもとに表されています。さらに、使われている言葉の漢字自体は、小中高で習うようなものばかりです。
そこで、この本では、できるだけ「会計」や「決算書」の本質をシンプルにして、正面から向き合いながら、なおかつ苦手な方やコンプレックスを持っている方が理解できるように書いたつもりです。(「はじめに」より)
きょうは第1章「会計の『目的』と『全体像』を理解しよう」に焦点を当て、基礎的な考え方を確認してみましょう。
「会計(アカウンティング)」と財務(ファイナンス)」の違い
「会計」に苦手意識を持つ理由としては、「なんのために学ぶのか目的がわからない」「全体像がわからない」ということがあるでしょう。しかし、そもそも「会計(アカウンティング)」という分野は、下記のように会社の数字の全体の一部分。

「会計(アカウンティング)」に対し、「財務(ファイナンス)」も会社の数字を考えるうえで重要な分野。
そして、両者に共通して必要になってくるのが、会社の数字の集大成である「決算書」、そして決算を作成するための技術である「簿記」だというのです。
「会計(アカウンティング)」の目的
会社の数字全体のうち、「会計(アカウンティング)」の目的は、会社の状態を把握して外部に報告することと、意思決定に活かすこと。つまり数字をもとに、儲かっているのか、どのくらいの資産を持っているのかを把握・報告し、今後の経営戦略を考えていくわけです。
そして、「説明責任」とも訳される「会計(アカウンティング)」は、「誰のための情報か」によって「財務会計」と「管理会計」の2つの分野に分かれるのだとか。
「財務会計」とは、株主や会社にお金を貸している人など、会社と利害関係のある人たちに報告するためのもの。会社は定期的に、これらの人たちに「どれくらい儲かっているのか」「どれくらいの資産を持っているのか」を報告しなければならないわけです。
この報告は、法律や会計のルールに従って行われるもの。税務署に報告する税金の計算も、この「財務会計」に含まれるそうです。
一方の「管理会計」とは、経営者が数字を活かして意思決定をするためにあるもの。「財務会計」のように法律や会計のルールはないので、形式は自由。経営者や従業員が自身の経営や仕事に活かすために「決算書」の数値を活用するわけです。
「財務(ファイナンス)」の目的
「財務(ファイナンス)」は、会社の数字のうち「資金」に特化した分野。会社が「資金」を調達・運用し、企業としての価値を高めていくことを目的としているということです。
たとえば「資金の調達」に関していえば、銀行から借り入れるか、増資をするかといった判断に活用されるということ。「資金の運用」に関しては、調達した資金をどこに投資するか、といった判断に活用されるということです。
いわば「会計(アカウンティング)」のおもな視点が「経営者や従業員が会社の数字をどう報告・活用していくか」であるのに対し、「財務(ファイナンス)」では資金提供をしている投資家が会社をどう評価するかがおもな視点となっているわけです。(30ページより)
身につけるべき4つの会計スキル
外部へ数字を報告するための「財務会計」と、数字を生かすための「管理会計」があり、そのもとになるのが会社の「決算書」、そして決算書をつくるための技術が「簿記」だということ。そして、これらを身につけるべき会計のスキルごとに分類すると、次の4つになるそうです。
【数字をつくる】(簿記)
【数字をつくる】とは、会社の数字の集大成である「決算書」をつくるスキルのこと。図1-1の「簿記」にあたる部分。
具体的には、会社の「取引」をひとつひとつ「仕訳(取引を文字と数字で表現したもの)」して、一定のルールに従いながら「決算書」を作成していくわけです。そのルールは膨大ですが、日商簿記検定3級程度で、ある程度必要な知識を身につけることができるとか。
【数字を読む】(決算書)
【数字を読む】とは、「簿記」によってできあがった「決算書」を読むスキルを指し、図1-1の「決算書」が該当します。なお「決算書」とは、会社の「稼ぐ力」を表す「損益計算書」、「蓄える力」を表す「賃借対照表」、「お金(現資金)を回す力」を表す「キャッシュフロー計算書」の3つ。
これら3つの「決算書」を読み解き、会社の「儲け」や「資産」の状態を分析できるスキルだということです。
【数字を報告する】(財務会計)
【数字を報告する】とは、法律(会社法や金融商品取引法)に従い、株主や会社にお金を貸している人などの利害関係者に数字を報告するスキル。図1-1の「財務会計」にあたる部分です。
たとえば株主への報告としては、上場会社であれば決算速報である「決算短信」、金融商品取引法によって開示が義務づけられている「有価証券報告書」を作成することが該当。「財務会計」には、税金を法律に従って適正に計算し、税務署に報告するスキルも含まれるそうです。
【数字を活かす】(管理会計)
【数字を活かす】とは、「決算書」をもとに会社の意思決定をするスキル。図1-1の「管理会計」の部分です。たとえば会社の部門ごとの儲けの把握、事業計画書の作成、日々の意思決定などが該当するわけです。
(以上、34ページより)
立場によって、身につけるべき会計スキルは異なる
気になるのは、これら4つの会計スキルをすべて理解することは必要なのかということですが、その点について著者は、立場によって身につけるべきスキルは異なると記しています。

これは、先ほどの図1-1の「会社の数字の全体像」に経営者、経理担当、経理以外のビジネスパーソンのアイコンを追加したもの。それぞれのスキルの上に表示されているアイコンは「必ず知ってほしい人」になるそうです。☆印は「知っているとよりよい人」。
さらに、立場によって必要な会計スキルを
◎必ず知ってほしい
○できれば知ってほしい
☆知っているとよりよい
の3つで分類しているといいます。
経営者が学ぶべき会計スキル
経営者が学ぶべき会計スキルのレベルは、次のとおり。
・数字をつくる ☆
・数字を読む ◎
・数字を報告する ☆
・数字を活かす ◎
経営者にいちばん求められるのは、数字の大局をつかむスキル。「簿記」や「財務会計」などの専門的な知識より、「数字を読む」「数字を活かす」スキルが求められるということです。
経理担当が学ぶべき会計スキル
経理担当が学ぶべき会計スキルのレベルは、次のとおり。
・数字をつくる ◎
・数字を読む ◎
・数字を報告する ◎
・数字を活かす ○
経理担当のおもな仕事は「数字をつくる」「数字を報告する」こと。「数字をつくる」ためには「簿記」の知識に加え、「消費税」の知識も必要。数字を外部に報告するには、「会社法」や「金融商品取引法」「税法」などの法律や、さまざまな会計のルールを知る必要があるそうです。
経理以外のビジネスパーソンが学ぶべき会計スキル
経理以外のビジネスパーソンが学ぶべき会計スキルのレベルは、次のとおり。
・数字をつくる ☆
・数字を読む ◎
・数字を報告する ☆
・数字を活かす ○
経理以外のビジネスパーソンは、日常的に数字と接する機会は少ないかもしれません。しかし、だからといって「会計」がまったく必要ないということではないそう。具体的には、「数字を読む」スキルはどんなビジネスパーソンにも必要。加えて「数字を活かす」スキルがあれば、成果はより出やすくなるわけです。
(以上、37ページより)
これらはほんの一部分にすぎませんが、このように、数字に弱い人でも理解しやすく解説されているところが本書の魅力。「会計」や「決算書」についての知識を深めたい方には、必読の書と言えそうです。
Photo: 印南敦史
印南敦史
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