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良好なコミュニケーションに必要不可欠な「コミュ力2.0」とは?

良好なコミュニケーションに必要不可欠な「コミュ力2.0」とは?

なぜ、あなたの話は響かないのか』(蔭山洋介著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、パブリックスピーキング(講演、スピーチ、プレゼン)やブランド戦略などを裏側から支える「スピーチライター」

クライアントは企業経営者や政治家などのリーダーだそうですが、それらの人々は、いかにも優れたコミュニケーション能力を持っていそうです。ところが実際にはそうではなく、ごく普通のレベルなのだとか。

違いがあるとしたら、彼・彼女らは、普通の人たちのようにそのまま人前に出るわけではないという点です。こっそりトレーニングしたり専門家のアドバイスを受けたりしています。 バラク・オバマのような政治家、カルロス・ゴーンのような世界を代表する経営者の後ろには、一流の話し方のトレーナーやスピーチライターがいるのです。 つまり、オバマやゴーンの自信に満ち溢れたあの話し方は、生まれながらの才能ではなく、トレーニングによってつくられたものなのです。 どれだけ自信を持っていたとしても、それを表現するには、技術とそれを身につけるための訓練が必要となります。(「はじめに」より)

ここで重要なのは、「コミュニケーションはトレーニングできる」と著者が断言していること。リーダーのために開発されたメソッドは、会議などで堂々とコミュニケーションできるようになるためにも有効だというのです。

つまり本書では、そのためのメソッドが公開されているわけです。きょうは4章「相手の心を動かす『話し方2.0』」に注目してみたいと思いますが、その大前提となっているのは「コミュ力2.0」

本書におけるコミュニケーション力についての言葉を整理しておくと、人と関わっていくための力全般のことを「コミュニケーション力」、「空気」を読みながら「意見する」コミュニケーションを「コミュ力1.0」(もしくはたんに「コミュ力」)、価値があると信頼してもらえるようになるためのコミュニケーションが、「コミュ力2.0」です。(36ページより)

どんなに内容がすばらしくても「こいつの言っていることは信じられない」と思われれば、コミュニケーションは成立しないもの。しかし「こいつだったら期待に応えてくれる」という信頼があれば、つたない話し方だったとしても応援されることになる。

そんな「コミュ力2.0」の考え方に基づき、この章では「話し方2.0」が紹介されています。そのなかから、「キャッチする力」を見てみましょう。

キャッチする力① 相手の言いたいことを理解する

コミュニケーションの基本は、言葉を相手に投げることと、キャッチすること。しかし言葉を投げるためには、まず相手の言っていることを理解しなければなりません。とはいえそれは、実のところなかなか大変。そこで著者はここで、言い換えのテクニックを紹介しています。

たとえば「すみません、(地図を指差しながら)ここに行きたいのですが」と道を聞かれたとき、「ここですか?」と返事をするのではなく、「ああ、近くのレストランですね」というように、相手の言葉を自分なりに理解したものに言い換えて返事をすることが大切だというのです。

なぜなら言い換えることで、相手に対して「私はあなたの言っていることを理解していますよ。安心してくださいね」というメッセージを伝えることができるから。

もし理解を間違えていたとしても、「いいえ、近くのデパートなんですけど」などと相手から返事をもらうことが可能。するとこちらとしても、自分の理解を修正して「ああ、デパートのほうですね。そうしたら、こっちではないですか?」と誤解のない返事を返すことができるわけです。

このような言い換えは、言葉の向こう側にある、「言葉にできていないけれど本当に言いたいこと」を理解するためにも役立つそうです。(168ページより)

キャッチする力② 相手のやりたいことを理解する

相手の言っていることを理解するのはもちろん大切。しかしそれだけではなく、重要なのは、言葉の向こう側にある「本当に言いたいこと」のさらに向こう側、すなわち「本当にやりたいこと」を理解すること。そこではじめて、相手を満足させられるコミュニケーションをとれるようになるというのです。

先の例では、道を聞かれ、デパートに行きたいことがわかり、デパートへの行き方を教えたわけですが、そこで終わってはいけないというのです。大切なのは、こちらから質問を投げかけ、話をふくらませること。

「お友だちにお土産ですか?」と質問したとします。その結果、相手から「いいえ、彼女へのお土産です」という返事が返ってきたとしたら、その情報をもとに、さらに質問してみるべきだというのです。

「ああ、そうなんですね。きっと喜ばれますね。彼女はなにが好きなんですか?」

「チョコレートです」

ここまで話を進めれば、相手が本当にやりたいことは「彼女へのお土産に、彼女の好きなチョコレートを買うこと」だということがわかります。すると、「チョコレートで有名なお店がここの近くにあるんですが、ご紹介しましょうか?」と切り返すことができ、相手からは「ぜひ、お願いします!」との返事が。

最終的には、デパートへの生き方ではなく、自分がオススメする近所のチョコレート屋さんを案内することで、相手に喜んでもらえたということになるわけです。

1:相手が言ってきたこと→「ここに行きたいのですが」

2:相手が本当に言いたかったこと→「デパートに行きたい」

3:相手が本当にやりたかったこと→「彼女へのお土産にチョコレートを買う」

という流れになるということ。

もし1でコミュニケーションを終えていたら、地図の場所にあるレストランへの行き方を案内していたかもしれません。2で終わった場合、デパートへの行き方を教えることで、相手の目的である「チョコレートを買う」ことはできたとはいえ、単に情報を提供しただけ。相手にプラスアルファの価値を提供できていないわけです。

しかし、そこから3に一歩進めば、質問によって「相手が本当にやりたいこと」を引き出し、それに答えることで、自分の情報によるプラスアルファの価値をもたらすことができるということ。(170ページより)

キャッチする力③ 相手のやりたいことに共感する

共感するとは、相手がうれしそうにしているときには「うれしいね」と言い、悲しそうにしているときには「悲しいね」と言うなど、言葉を通じて相手の感情に寄り添うこと。そうすれば相手は、うれしいときはよりうれしくなり、悲しいときはその気持ちが半減するわけです。

道案内の例でいえば、チョコレート屋さんの情報を伝えたあと、「とってもおいしいので、きっと喜んでくれますよ」と声をかければ、その男性は「彼女を喜ばせたい」という自分の感情に寄り添ってもらえたことをうれしく感じるはず。

また、感情を言葉で表現すると、その感情を意識の俎上にのせることができるので、ある程度コントロールできるようになります。 感情と意識は、「象」と「象使い」の関係にあると社会心理学者ジョナサン・ハイトは『社会はなぜ左と右にわかれるのか』(紀伊國屋書店)で論じています。 象使いは、圧倒的なパワーを持つ像の意思を尊重するしかなく、普段は暴走しないように飼いならしているにすぎないとしています。

コミュニケーションのために感情をコントロールするとき、ポイントになるのは意識(象使い)にアプローチすべきか、それとも感情(象)にアプローチすべきかという話になります。

意識(象使い)にアプローチすることで、感情(象)としてはあまり乗り気ではなくても、その力を借りながらパフォーマンスを行うことはできます。しかし、心から望んでいることではない以上、パフォーマンスの質は下がります。 一方で、感情(象)にアプローチし、心からそれを望んだ状態で、意識(象使い)と一体となって、より強い表現をした場合、そのパワーは圧倒的に大きなものになります。

また、コントロールも楽なはずです。 つまり、コミュニケーションにおいては、「感情」に意識を向けることから話が始まります。感情には自分の者に限らず、相手の感情も当然含まれます。(174ページより)

相手が怒っているとき「怒らないで冷静に話しましょう」という言葉を投げかけても、素直に受けとってはもらえません。

それより、「無理はありません」「ごもっともです」などの言葉をかければ、「その怒りに私は共感しています」というメッセージとなり、相手も自分の感情に意識を向けられるということ。だからこそ、相手の感情を言葉にして寄り添うことが重要だという考え方です。(173ページより)

キャッチする力④ 相手の言動を承認する

承認とは、相手の言動に対し、単に「いいね!」と自分が価値を感じているという事実を伝えること。つまり、表面的な承認であればとても簡単です。しかし相手の価値を受け取り、それに対して自分が心から高い価値を感じたということを伝える(これを著者は「超いいね!」という言葉に置き換えています)のはなかなか困難。

なぜなら、相手の努力や、強いこだわりなどを理解したうえでの承認が求められるから。表面的に「いいね!」と言ったとしても、そこに深い理解がなければすぐにバレてしまうもの。そのため「超いいね!」と相手を承認するときには、相手のことを深いレベルで認めるための事前情報や教養が求められるのだといいます。

先の例でいえば、すごく急いでいるなかでお土産を買おうとしていたことを理解したうえで、「僕は忙しいといつも空港で済ませちゃうんですよ。本当にすばらしいと思います」とすれば、それは「超いいね!」になるという考え方。

この④の承認まで行うことができれば、コミュニケーションを築いていく土台、すなわち信頼関係が完成したことになるそうです。(176ページより)




「コミュ力2.0」は、かつてないほど流動性が高まった社会において、これから必要とされるコミュ力。端的にいえば価値と信頼のコミュニケーションなのだと著者は主張しています。政治家や経営者でなくともコミュ力は必要であるだけに、本書を活用し、その能力を高めてみてはいかがでしょうか。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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