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「炎上」させているのは、年収の高い役職クラス? 炎上とクチコミの間違った常識とは

「炎上」させているのは、年収の高い役職クラス? 炎上とクチコミの間違った常識とは
Photo: 印南敦史

なにか新しい商品を購入しようというとき、あるいは誰かと食事するお店を選ぶとき、以前であればテレビのCM、書籍や新聞の広告などマスメディアの発信する情報などを頼りにしたはず。

しかし、いまや情報との接し方は変化しつつあります。事実、食べログなどのクチコミサイトや、アマゾンなど通販サイトのカスタマーレビュー、フェイスブック、ツイッターなどのSNSを通じ、他の消費者の投稿を参考にすることが多いのではないでしょうか?

現代では、このようないわゆる「ソーシャルメディア」を通して、社会的地位や人種に関係なく、誰でも自由に情報の発信が可能となっている。ソーシャルメディアが普及する前であれば、不特定多数の人に情報を発信できるのは、せいぜいマスメディアに登場する著名人くらいであった。それを踏まえると、これは情報発信・情報シェアの「革命」といってもよく、まさに「一億総メディア」時代が到来したといえる。(「まえがき」より)

こう語るのは、『炎上とクチコミの経済学』(山口真一著、朝日新聞出版)の著者。「計量経済学」を専門とする国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師です。計量経済学とは、理論に基づいて数学的モデルを構築し、統計学的手法によって定量的な実証分析を行う学問だそうで、たとえばGDP(国民総生産)算出などに利用されているのだといいます。おもな特徴は、次の3つ。

①何が影響を与えているのか、要因が特定できる

②効果を定量的に把握できる

③将来予測をもとに最適な戦略を導出できる

(「まえがき」より)

つまり、豊富な統計データと、このような手法を用いたさまざまな実証分析によって、クチコミと炎上という「ネット上の発信」の実態を明らかにしているのが本書だということ。またそのうえで、炎上への具体的な予防・対処法を提示し、ソーシャルメディアを効果的に活用する方法をまとめているわけです。

きょうは基本的なことを解説した第3章「炎上とクチコミの間違った常識」のなかから、いくつかのポイントを抜き出してみることにしましょう。

ネット炎上は「多数者の怒り」?

ネット炎上させている人については、「暇人」「引きこもり」などさまざまなイメージがあるのではないでしょうか? また「書き込んでいるのはみんなストレス発散や楽しみのためであり、取るに足らない発言ばかりだ」と思っているかもしれません。あるいは逆に、いままで声を上げることのできなかった大勢の人々の声、すなわち「サイレント・マジョリティ」が見えてきたものだと考えている人がいる可能性もあります。

そんななかで著者は、炎上に適切に対応するためには、炎上の実態を正しく理解することが重要だと主張しています。そして実際に2014年と2016年に取得した、総勢約6万件のアンケート調査データをベースに、統計分析・モデル分析などによって、炎上に対する「なんとなく思われていた常識」について検証しているのです。

ご存知のとおり、炎上によるネット世論は、人々、企業、実社会に大きな影響を与えるようになってきています。そして、ひとたび炎上が始まると、対象への攻撃が連日行われるようになるため、あたかもネットユーザー総出で叩いているような印象を持ってしまいがちです。では実際のところ、それはどれくらいの人の意見が反映されてできた世論なのでしょうか?

2014年の約2万人を対象とした調査分析の結果は、驚くべき炎上の実態を示した。炎上について、過去全期間を通して1度でも書き込んだことのある人はネットユーザーの1.1%にとどまり、これをさらに過去1年間――つまり「現役の炎上参加者」に絞ると、わずか0.5%しかいないことが分かった。(95ページより)

ちなみにこれは、ネットアンケート調査に伴うバイアスをコントロールしたうえで産出された数値。つまり、200人に1人しか、現役で炎上に書き込んでいないことになるというのです。この結果は、2016年の約4万人を対象とした調査分析でも大勢が崩れず、現役の炎上参加者は0.7%程度。

一方で、炎上を認知していない人は全体の約8%と10人に1人以下であり、炎上の認知度は高いのだとか。炎上が起こると大多数の人が攻撃しているように思えますが、実際には炎上に参加して攻撃的なコメントを書く人は、ごくわずかだということです。

そればかりではありません。これは「1年以内に1回でも」という条件なので、1件あたりで考えるとさらに少数になるそうなのです。2014年における炎上発生件数は667件だというので、現役の炎上参加者が平均して年間2件以上の炎上に書き込んでいると考えても、わずか0.0015%程度。7万人に1人しか、ひとつの炎上事件に書き込んでいないということ。つまり、1件あたり平均して1000人程度しか書き込んでいないということになるというわけです。

なお、炎上参加者がごくわずかであるということは、最近行われた別の実証研究でもあきらかになってきているのだといいます。たとえば帝京大学の吉野ヒロ子氏が2015年に行った調査では、ネットユーザーの1.2%が、炎上において、人や組織に対して批判的書き込みをしたと答えているとか。また文化庁が2017年に行った調査では、炎上を目撃した際に書き込みや拡散をするかどうか聞いた問いに対し、2.8%が「だいたいすると思う」「たまにすると思う」を選択。

実際にしたかどうかを聞いたものではないうえ、拡散まで含めているにもかかわらず、3%以下の低い値となっています。ちなみに著者が2016年に4万人を対象に行った調査でも、2.5%が炎上の拡散を行っていることがわかっており、近い値となるのだそうです。

ちなみにこのことは、実証研究結果が出て来る前から、ネット有識者には知られていたことでもあります。たとえば「2ちゃんねる」管理人だったひろゆき氏が、2ちゃんねる上のほとんどの炎上事件の実行犯は5人以内であり、たった1人しかいない場合もあると述べていたと、『ネットが生んだ文化』(川上量生監修、角川学藝出版)に記載されています。(94ページより)

ネット世論の信憑生は?

では炎上などに現れる「ネット世論」は、果たして社会の意見を反映したものなのでしょうか? もちろん、少数の発した意見だからといって「社会の意見を反映していない」ということにはならないでしょう。しかしネット世論には、通常の世論とは大きく異なる特徴があるのだと著者は言います。それは、ネット世論はきわめて能動的に発信された意見であるという考え方です。

通常の世論調査は、訪問調査であっても電話調査であっても、基本的には「聞かれたから答えている」、いわば受動的な発信。たとえば政党支持率の調査であれば、「電話で聞かれたから、あえて自分の支持政党を答えている」のだということ。

しかしその一方でネット世論は、発信したい人が発信するという、きわめて能動的な発信に基づくもの。発信したいと思わない人は、例え自分の考えを持っていたとしても発信しないし、発信したいという思いが強ければ強いほど、何回も書き込んで声が大きくなるわけです。

また炎上が起こると表現を萎縮させる人が増えるため、結果的には極端な意見ばかりがネットでは目立つようになることに。だとすれば、こうして形成されたネット世論が、社会全体の意見分布と一致しているとは考えにくいわけです。

さらに、ごくわずかの人が形成している「炎上によるネット世論」は、そのごくわずかのなかの、さらにごくわずかの人の声が非常に大きくなってしまっていることもわかってきているのだといいます。

本書ではそのことを詳細なデータによって明らかにしていますが、そんななか、この事実について重要なことがあると著者は指摘しています。1件あたりの書き込み回数が3回以下の「多数のライトな参加者」よりも、1件あたりの書き込み回数が51回以上の「少数のヘビーな炎上参加者」のほうが、書き込んでいる回数が多いというのです。つまりそういう限られた人たちが、炎上に置ける主役になっているということ。(105ページより)

炎上の参加者は「バカなヒマ人」「社会的弱者」?

炎上の参加者については、「イタい人たち」「社会的弱者」「バカなヒマ人」「ネットのヘビーユーザー」などと表現されることがあります。時間を持て余している人たちが、自宅に引きこもって、ネット上で誹謗中傷を繰り返していると考えられているわけです。

ところが著者が、データをもとに炎上参加行動に関するモデルを構築して分析を行った結果、統計的に有意な特徴として、「男性である」「年収が高い」「主任・係長クラス以上」といった属性が浮かび上がってきたというのです。つまり、こうした属性を持っていると、炎上に書き込みやすい傾向にあるということ。

「独身で教養が低く、暇を持て余しているネットのヘビーユーザーが、1日中パソコンの前で書き込んでいる」という従来持たれていたイメージとは異なり、一般的、あるいは少し裕福な人の方が、炎上に書き込みやすいのである。(120ページより)

とはいえ、あくまで「書き込みをしやすい傾向にある」というだけで、当然のことながら炎上参加者には主任・係長クラスしかいないわけではありません。しかしそもそも、暇でなくとも炎上に参加することは可能です。役職つきで忙しかったとしても、同居している家族がいても、仕事の休憩時間や帰宅後の自由時間に、きょう1日なにがあったかネット上で情報収集し、書き込むのはたやすいはず。

書き込むことに集中すれば、2時間も自由時間があれば数百件は書き込めてしまえるはず。結局のところ炎上とは、それほど簡単に起こせてしまうものだということです。なお炎上の動機は「ストレス発散」のためだと思われがちですが、実は「正義感」からやっている人が多いという指摘も興味深いところではあります。(120ページより)




炎上とクチコミの基本がわかりやすく解説されているため、その構造を無理なく理解することが可能。これからの時代の効果的な情報発信方法を知っておくために、ぜひとも読んでおきたいところです。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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