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経営理念の重要性を表す「桶論」とは?

経営理念の重要性を表す「桶論」とは?
Photo: 印南敦史

私は30歳で海外出張専門の旅行代理店を立ち上げ、大手がひしめく旅行業界で年商40億円企業に育て上げて売却しました。その後、存続の危機にあった千葉ジェッツの再建を担う形で社長に就任し、売上高、集客力ともにトップクラスの球団へと再生することができています。(「はじめに」より)

こう語る『オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか? 最強の組織を作るマネジメント術』(島田慎二著、アスコム)の著者は、「私はあらゆる場面で理念と行動を一致させます」とも主張しています。

何のための事業計画なのか。 何のための中長期目標なのか。 何のための行動目標なのか。 事業活動のすべてのPDCA(計画、実行、評価、改善)に「何のために」という1本の強力な筋を通すのです。

PDCAサイクルを1つのギヤに例えるなら、ギヤがバラバラにまわっていては、いくつものモーターが必要です。小さなギヤ、中くらいのギヤ、大きなギヤががっちりとかみ合うからこそ、1つのモーターで大きな力を生み出せます、(「はじめに」より)

つまり、そんな経営理念に基づく徹底的なPDCAがあったからこそ、千葉ジェッツの成功が実現したということなのでしょう。そうした考え方を軸に、「島田塾」と呼ばれる著者のマネジメントメソッドを公開した本書から、きょうは第3章「PDCAは人でまわす」に焦点を当ててみたいと思います。

人材こそ組織のエンジン

企業活動は、大小さまざまなPDCAの連続によって成り立っているもの。経営という大きな単位で考えてみても、事業戦略を立て、目標を決めて実行し、検証して改善するというサイクルが、四半期、半期、あるいは通年というスパンで繰り返されるわけです。

各部署は全体の戦略をもとにそれぞれ戦略を立て、実行、検証、改善する。そして一人一人の社員も、同じように個人のPDCAをまわす。こうしたすべてのPDCAサイクルがバラバラにならないように、「一本の絶対的な筋」を通すのが経営理念なのだと著者は言います。

重要なのは、実際にPDCAを回すのが「人」だということ。だからこそ、経営理念が社員全員に共通の意識として浸透しているかどうかが、マネジメントに大きな影響を及ぼすわけです。

とはいえどんな業種の企業でも、まったく異なる職種や立場の人が混在しているのは当然。そればかりか、拠点が世界に広がっている企業もあるため、そんな場合はじかに顔を合わせる機会も限られることになるはず。そのような場合はなおさら、「経営理念の浸透」が重要な意味を持つということ。

千葉ジェッツの場合、たとえどんなに仕事ができる社員でも、いくら主力といわれる選手でも、経営理念や、そこから生まれたミッションから逸脱した行動をすれば、メンバーから外されることもあります。(71ページより)

そんなときには、経営理念を再度見なおし、自分の姿勢を振り返ればいいということです。そうやって実際に経営理念に沿って行動し、PDCAサイクルを前へ前へと走らせるためのエンジンの役割を担っているのは、ほかならぬ社員。

そうした絶対的な指針があるからこそ、社員、選手、クラブスタッフを含めた千葉ジェッツの団結が強くなり、熱い組織に生まれ変わることができたのだと著者は思っているそうです。(69ページより)

組織の「桶論」

経営理念が全社員に浸透することが、会社の成長につながる。そのことを訴えかける際、著者がよくする話が「桶論」なのだそうです。

桶は、板を1枚1枚つなぎ合わせてつくられています。ピンとこない人は、五右衛門風呂をイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。この桶全体が会社で、板1枚1枚が社員です。(73ページより)

桶に水を入れると、水がたまります。いわば、この容量が最大化された状態が、いい会社の条件。ところが、なんらかのアクシデントで1枚の板が壊れて半分になってしまったとしたら、その半分になった部分から水が流れ出てしまいます。どれだけ水を注いだとしても、その低い板以上に水がたまることはないわけです。

つまり、1枚でも板が壊れて低くなると、桶の能力は半減してしまうのです。会社も同じです。1人でも、他と異なる状態になると、会社全体の力が落ちてしまいます。経営理念が浸透していない会社とはそういうことです。 だからこそ、時間がかかっても、全社員に経営理念を浸透させることが必要なのです。とくに、1枚壊れたから新しい1枚を、と簡単にはいかない中小企業ならなおさらです。(74ページより)

逆に、全社員に浸透している状態をつくることができれば、その桶の持つ最大限の能力を発揮できるという考え方です。(73ページより)

2:6:2は全体をレベルアップして総戦力化する

「2:6:2の法則」というものがあります。ご存知の方も少なくないと思いますが、どのような組織でもだいたい「2割の人間が優秀な働きをし、6割の人間が平均的な働きをし、2割の人間がよくない働きをする」ということを表す法則。

著者も経験的に、この法則の数値はおおむね正しいと感じているそうですが、強く思うこともあるのだとか。それは2:6:2が、人間の優秀さをレベル分けしたものではなく、その人が属する組織とのアンフィットやマッチングミスなどによる影響も大きいのだろうということ。

「組織とのアンフィット」とは、本人と組織のそりが合わないことを意味しているわけですが、単純に「合わない」ということよりも、「組織の方針に不信感がある」「会社の経営理念が明示されておらず、自分のやっていることに納得できない」など、組織側に問題があることも多いように感じるというのです。

「マッチングミス」とは、本人の適性や能力と、配属部署や担当業務が合っていないということ。こういった環境面の要因も含めたうえでの2:6:2という結果なので、必ずしも「この人はどこへ行っても必ず上位2割に入る」とか「この人はダメだから、いつも下位2割にいる」とはならないと考えているということです。

そういう意味においては、日ごろから経営理念の浸透に力を入れている千葉ジェッツでは、少なくとも現存メンバーのなかに、環境面に違和感を覚える人はいないと思っているのだとか。

とはいえ、それでも2:6:2はあるもの。そこで著者は、「下位の2だけに着目するのではなく、割合はそのままでも全体をレベルアップできるのではないか」「下の2がスライドして上に行けば、いまの6のパフォーマンスになれるのではないか」と、スキルやモチベーションの向上につながるさまざまな試みを行っているのだといいます。それはそのまま、中間の6や上位の2の人のさらなるレベルアップにもつながるわけなので、全社的に取り組めるという意味でもメリットがあるでしょう。

2:6:2が摂理であるならば、平均的な働きをする6割の人たちの力を最大化することがマネジメントの至上命題です。(78ページより)

この言葉は、心にとどめておくべきかもしれません。(76ページより)

経営理念を浸透させるには「繰り返すこと」

小さな組織ならともかく、組織の規模が大きくなってくると、考え抜いた経営理念を全員にしっかり浸透させるのは難しくなってくるものです。では、どうすればいいのでしょうか? この問いについて著者は、「一朝一夕でできることではないということを肝に銘じつつ、とにかく社長自ら繰り返し語ることが大切」だと主張しています。もちろん口に出すだけでは人の心に響かないので、社長自身の言動と行動が一致していることが重要。

決めたことを社長が自ら行動で示すこと。そのうえで、スタッフに言い続けること。これを繰り返すことによってトップの本気度が心に刺さり、社員は「お題目」として覚えるのではなく、価値観として感じるようになるのです。(80ページより)

いわば社長の大事な役割は、繰り返し経営理念を語るだけでなく、社員が個々人でもその価値観を行動に落とし込めるように導いてあげること。そうしていくうちに、社員が自分の仕事ひとつひとつに対して「これはなんのためにやっているものなのか」と自然に考えられるようになるというわけです。

そして「なんのためにやっているのか」を意識できるようになると、仕事のクオリティも大きく変わってくるものだといいます。計画や実行でミスが生じたとき、軌道修正のよりどころになるのは経営理念。結果を検証するときも、改善策を講じるときも、経営理念に照らし合わせるということです。

こうしてすべての社員の意識が「なんのために」に向かうことによって、PDCAサイクルの精度が高まっていくということです。(80ページより)




著者は自身の取り組みについて、「難しいことをしてきたわけではなく、しっかりした経営理念をつくり、それを全社員に浸透させ、PDCAをまわしてきただけ」だと記しています。

つまり本書に書かれているとおりにPDCAを操ることができれば、同じような好結果を生み出せるということ。組織を強化したいという方は、手にとってみてはいかがでしょうか。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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