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キャリアのカリスマたちから、働き方を考える

BUSINESS INSIDER JAPAN

キャリアのカリスマたちから、働き方を考える
BIのイベントにて多様なキャリアの実践者・識者が自身のキャリアに迷う参加者からの質問に応じた。
今村拓馬

「人生100年時代」と言われ、副業解禁など働き方の制度改革が急速に進もうとしている今、「どんなキャリアを目指せばいいかわからない」と迷う20、30代は少なくない。1月24日、“キャリアのカリスマ”として注目されるスピーカーを招いて開催されたBI主催イベントは、立ち見が出るほどの大盛況となった。

後編は、複業研究家の西村創一朗さん、経済産業省産業人材政策室室長補佐の藤岡雅美さんを加えて、参加者からのリアルな悩みに答えた第2部の様子をレポートする。

キャリアを考えるために覚えて起きたい4つのポイント

  • たとえ今が絶望的な状況でも、「会社や世の中は変わる」と想像し、その日のために備える
  • 「好きなこと」が見つからなければ、半径5メートル範囲で「役に立つこと」から始めてみる
  • 普段、無意識に目に入ってくる“興味の種”に敏感になる
  • 少し背伸びが必要な経験で、集中力を高める

スピーカー・プロフィール

東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 柳川範之さん1963年生まれ、経済学博士。専門分野は金融契約、法と経済学 。父親の海外赴任をきっかけに“中卒”のまま独学生活を送り、通信教育過程で慶應義塾大学を卒業。“独学で東大教授になった”という異色のキャリアの持ち主。2013年に「40歳定年制」を提唱し、注目を集める。

経済産業省産業人材政策室参事官 伊藤禎則さん1994年、経済産業省入省。米コロンビア・ロースクール修士、NY州弁護士資格取得。日米貿易摩擦交渉、エネルギー政策などを担当。筑波大学客員教授、大臣秘書官を経て、2015年より現職。経産省内で「柔軟な働き方に関する3研究会」(2016年10月〜2017年3月) や「人材力研究会」(2017年10月〜18年3月) を主導するなど、働き方改革 と人づくり革命 の“官の旗振り役”として知られる。

オールラウンダーエージェント、morichi代表 森本千賀子さん1993年にリクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社し、2010年より経営層のキャリア支援に特化したリクルートエグゼクティブエージェントに所属。これまで約2000人の転職に携わる。2017年3月に会社設立。会社員との兼業期間を経て、同年9月に独立。パラレルキャリア(兼業・複業)を自ら実践しながら、キャリアの市場価値を高める手法として発信中。2児の母。

パナソニック社員、One JAPAN 共同発起人・代表 濱松誠さん1982年生まれ。2006年パナソニックに入社し、北米向けテレビのマーケティングを担当した後、インド事業推進室へ。2012年、社内公募に手を挙げ、「転職するくらいの気持ちで」人事へ異動。グループ内の若手社員交流会「One Panasonic」を発起人として活動を広げる。他社も巻き込んだ大手企業若手の交流会「One Japan」へと発展。2016年、パナソニックとして初となる資本関係のないベンチャー企業(パス)への出向。現在はIoT家電プロジェクトを担当。

複業研究家、HARES・CEO 西村創一朗さん1988年生まれ。3児の父。2011年リクルートエージェント(当時)で中途採用支援、人事・採用担当を経験。2015年に複業の普及や育児と仕事の両立を目指すHARESを設立。会社員との兼業期間を経て、2017年に独立。

経産省産業人材政策室長補佐 藤岡雅美さん2010年京都大学医学部卒後、経済産業省入省。サービス産業の生産性向上、資源外交、ヘルスケア産業の育成などを経て現職。現在は働き方改革、子育て、教育に関する政策立案などを担当。

藤岡 :僕は看護師と保健師の免許を持っているという、経済産業省では異色の経歴で、ヘルスケア分野がとにかく好きで、ヘルスケア産業課という部署で業務に没頭していました。あまりに好き過ぎて異動が決まった途端「辞めようか」とも迷ったりもしたのですが踏み止まり、今の上司(伊藤さん)に行き着きました。迷いつつ、ぶつかりつつ、皆さんと同じ気持ちでやっています。

西村:では、さっそく会場から質問を。

質問者A :私も会社員をしながら副業を始めていますが、実際にやってみて感じるのが「時間の壁」です。本業で9時から17時まで縛られる世の中では、なかなか副業は浸透しないのでは?経産省内での議論は進んでいるんでしょうか?

伊藤 :まさに今かなり議論をしている最中です。大前提として副業は、それがしやすい制度整備は進みますが、あくまで「やりたい人ができるようになる」というものです。全員しなきゃいけないという義務ではないということです。

その上で、副業解禁のネックになるのがやはり労務管理の問題。一人の人が労働過多にならないように制度的な配慮をしなければならない。本業と副業を合算した総労働時間を通算しようとしても、そもそも本業の労働時間を正確に測定できていない場合も多くある。

「そんなこと言っていたら副業も何もできなくなるから、労働時間の管理は個人がやるようにしよう」となれば、個人の自己管理能力が問われます。これは大きな責任転嫁になるので、慎重な判断と心の準備が必要ですね。今のところ、そういった議論まで進んでいます。

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経産閣僚としての立場から副業の意義とハードルを語る伊藤さん。
今村拓馬

藤岡 :濱松さんは大企業の社員でありながら、社外活動も活発になさっていますよね。時間管理はどうしているんですか?

濱松:僕の場合は副業ではないのであまり参考にならないかもしれないですが、だいたい毎日19時から20時ごろに会社の仕事が終わった後、2枚目の名刺の活動をやっているので、寝るのが遅くなります(笑)。(会場どよめく) 楽しいから苦にはならないのですが、どんな働き方の形態がフィットするかはこれから僕も考えていきたいテーマです。家族の理解を得ることも大事ですよね。

柳川:現行の制度面について補足すると、今の労働時間の通算にはNPO活動は含まれないんですよ。独立した社長も含まれません。でも、おかしいですよね。雇われて働く時間は労働時間に通算されるけれど、雇ったら通算されないというのは。やはり課題は、過重労働のリスクへの対処だと思います。解決策は本業の就業パターンを柔軟にすること。

「週3日勤務でもいい」「1日4時間勤務でOK」と本業の働き方を緩和できれば、トータルの労働時間も抑えて副業に費やす時間も確保できることになるはず。

森本:私も段階的に自分の働き方を変えてきました。まずは兼業・副業の形で個人事業主として働くスタイルを会社に申請したのが4年前。それから特別契約社員という立場に変え、そのタイミングで株式会社morichiを設立。まさに“複業”スタイルを取っていたのですが、結果的に、株式会社morichiに集約させる形で、独立しました。

都度の交渉は簡単ではありませんでしたけれど、「やりたいことを実現する働き方をつくりたい」という情熱を持って粘り強く! 「今の会社の制度ではできない」と諦めずに、一歩を踏み出すことが大事なんじゃないかなと思います。

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森本さんは自分から積極的に周りに働きかけてキャリアを築いてきた。
今村拓馬

質問者B:働き方を変えていく時に、セットで必要なのは会社の評価制度だと思っています。時間ではなく成果で評価していく仕組みは、これから進んでいくんでしょうか?

伊藤:ものすごく本質的な部分ですよね。成果主義による評価制度の導入は、働き方改革に必須の条件だと思っています。

今回の働き方改革の議論でも「同一労働同一賃金」が話題になっていますが、成果主義導入のためには「同一労働同一賃金」、同じ職務内容については同等の報酬を与えるという仕組みを取り入れていくことが大事。ですが、従来型の日本の企業社会は「上司から言われた仕事が職務内容」という文化で、職務内容の明確化がなされてこなかった。この部分の転換は大きな課題になっていくと思います。

これらの制度改革と並行して重要なのは、経営者の意識改革ですね。日経新聞の社長100人アンケートによると、副業を認めたくない社長は100人中86人。「本業に差し障りがあるから」という意見が大多数なんです。だから、平日夜や週末といった就業時間外の副業も禁止する。でも、「本業だけの働き方をしている人は、本業に専念しているか?」という疑問が残る。朝までカラオケや麻雀ばかりしている人は、はたして昼間に本業に集中できているのかと。

柳川:制度面で変えなきゃいけない点は多い。いまだに昭和の制度を変えられていないと嘆く声もあります。しかし、副業についてこれほど活発な議論が起きることは、5年前には予想もできなかった。時代は確実に変わっていく。しかも、そのスピードはどんどん加速しています。

副業も今は「認める、認めない」議論が中心ですが、数年も経てば、優秀な人材に対して「副業でいいから来てほしい」とオファーする企業は多数派になるでしょう。今、ここにいらっしゃっている皆さんが40、50代になる頃には、「2、3の組織に属す働き方」は当たり前になると思いますよ。だから、「会社は全然変わってくれない」と嘆かないで。来たるその時のために、力を備えておく方が建設的です。

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柳川さんは「2、3の組織に属する働き方が当たり前になる」と予測する。
今村拓馬

濱松:「会社が変わってくれない」という不満、ありますよね。これまで数え切れないくらい、聞いてきました。解決策は3つしかありません。1つ目は「辞める」。そんな組織に長くいることは非合理だと考えて、転職するのは、若い皆さんにとっては「アリ」だと思います。2つ目は「変える」。その組織で最速出世して好きなように改革してしまう。あるいは僕のように活動していろんな人を巻き込んで変える。3つ目は「染まる」です。もう諦めて、その組織の色になじんでしまう。でも、これは絶対に勧めたくない。やってほしくない。せっかくの自由な人生なのだから諦めずに動いてほしい、というのが僕の願いです。

質問者C:やりたいことが特に見つかりません。どうしたら見つかりますか?

西村:僕の経験から、一つ、提案したいソリューションがあります。キャリアアップのために副業を始めたのですが、といっても最初は「ブログ」だったんです。ブログを始めたのも「好きだったから」なんですが、この「好きだ」という確信ももともとあったものではなく、小さな行動から始めたことがたまたま周りに褒められたんです。

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西村さんの副業の始まりはブログだった。
今村拓馬

藤岡:始めるキッカケが重要だったと思いますが、どのようなものだったのですか?

西村:僕がリクルートキャリアに入社したのが2011年4月で、東日本大震災の直後でした。経済全体では厳しい状況が予想されてましたが、唯一成長が見込まれていたインターネット専業部署ができたんです。新しい部署だったので社内にも精通している人が少なく、いろんな部署からメンバーが集められた。新入社員の僕でもできることはあるだろうかと先輩方にヒアリングしていくと、「業界知識を深めるための情報を効率よく知りたい」という声がちらほらと挙がって。だったらそのニーズに応えようと始めたのが、社内メルマガの『日刊創一朗』。多摩から東京駅までの通勤時間を使って、毎朝200〜300本の記事を読んで、ハイライトを5〜10本ピックアップ。解説コメントをつけてメールで一斉配信するということを毎日やりました。すると、「すごく役に立つ」と褒められて。褒められたことって好きになるんですよね。

だから、今「好きなこと」「やりたいこと」が見つからない時は、「半径5メートル範囲で周囲から必要とされていることをやってみること」から始めてみるといいと思います。

藤岡:毎朝それを続けるのってつらいと思うんですけど、どうして続けられたんですか?

西村:僕の場合は「負けたくない」という気持ちが強かった。詳細はここでは省きますが、僕は19歳で結婚して父親になったという自負もあって「入社1年目でも役に立つ人間になりたい」という思いが、人一倍あったんだと思います。

藤岡:なるほど。転職相談のプロである森本さんにも聞きたいですね。「やりたいことが見つからない」という相談を受けたら、なんとアドバイスしてきましたか?

森本:普段の生活の中で無意識に目に飛び込んでくるキーワードに敏感になって」とよく伝えています。新聞や本やウェブニュースを読んだり、街をただ歩いたりしている時に、なぜか気になるキーワードってあると思います。それをつかんだら意識的に調べてみるとか、ちょっと突き詰めてみる。

そして、西村さんのように外に向けて発信することが大事。発信すると、それに反応してくれる人が出てくるから。その人たちとつながっていくんです。自分の興味を見つける手段はちゃんとあるんですよ。

藤岡:単純に「カレーが好き」とかでもいいんですか?

森本:なんでもいいんです。一番いいのは本屋さんに行くこと。ざーっと本屋さんを回るだけで、気になるキーワードが浮き上がって見えてくると思います。あるいは、思わず手に取ってしまった本から自分の関心を分析するといい。

柳川:本屋巡りは僕もお勧めですね。もう一つ、大事な視点として言いたいのは、「やりたいことは見つからないから、何もできない」ではなくて、「やってみて初めて、やりたいことに気づく」というほうが正しいということ。限られた人生の中でできる経験なんて限られているし、わかったつもりになって全然知らないことのほうが多い。だから、とりあえず何かをやってみるという行動が大事だと思います。「調べてみる」「その業界の人に会ってみる」といったレベルの行動で充分。それだけで見える世界は確実に広がる。

森本:私自身が20代の時にやっていて、皆さんにも勧めたいのが、「気になったイベントや勉強会にはとにかく顔を出してみる」ということ。20代は30代以降に比べると圧倒的に「時間」という武器があるんです。その武器をぜひ使ってほしい。

例えば、気になるテーマのトークイベントがあったとして、たまたま日程が「行ける!」となれば、それは“ご縁”。ぜひ行くべきですね。自分の関心に素直に行動することを繰り返していくと、感性や直感力が研ぎ澄まされていって、いつの間にか自分が理想として求める場所に近づけると確信しています。結局、キャリアの決断をするのは自分の直感であり感性なので、そのセンスを磨くためのインプットを惜しみなくやっていただきたいなと思います。

質問者D:話題のパラレルキャリアを目指すには、一つひとつの仕事に集中する力を高める必要があると思っていますが。どんな心掛けをなさっていますか?

伊藤:私自身の実感では、前向きに取り組める分野で、自分のスキルのちょっと上くらいの仕事に取り組んでいる時が、一番能力が引き出される感覚がありますね。背伸びしてやっと乗り越えられるぐらいの修羅場経験を踏むほど、時間あたりのアウトプットは濃くなる気がします。働き方改革というのも、なんとなく「労働時間を短くする」という文脈で語られがちですが、「一人ひとりの働く喜びと能力を解き放つ」ための改革であるべきだと思っています。

西村:集中力を高める、つまり時間の密度を濃くするためには、とにかく自分が好きなことにチャレンジすること、そして、自分の成長角度を上げるためにストレッチしてみることが大事ということですね。では、夜遅くまで頑張っていらっしゃるという濱松さんの心得も伺いましょう。

濱松:いや、僕のケースはあまり真似しないほうが…。一つ言えるのは、仲間を増やして上手に「任せる」ことを覚えてからは、だいぶラクになりました。つい楽しいと、なんでも自分でやりたくなるけれど、「これやって」とお願いしてみる。するとこれまでよりも早く寝られる日も増えてきました(笑)。

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西村:よかったです(笑)。僕は、森本さんの著書に感化されて、朝5時起き生活に変えてからすごく生産性が上がったと感じています。活動時間を早朝にシフトするだけで、ぐんと集中力は増しました。提唱者である森本さんからもぜひ秘訣を。

森本:「朝3時起き」なんてタイトルに付けた本を出して、4時起きさえできなくなってしまい(笑)。そもそもやりたいことが多過ぎて1日24時間では収まり切らなくなった時に、いかに短い睡眠時間で効率を上げるかという試行錯誤を繰り返した結果なんです。私の最適な睡眠時間は5時間なのですが、その5時間を最も成長ホルモンが多く出ると言われている22〜23時に設定することで、疲労回復、いわゆる休息の深さがまるで違ったんです。9年前にこの生活を始めて、風邪もインフルエンザも引かない。お医者さんに頼るのは歯科のみ。

会場:おぉ〜!

森本:健康をキープできているのはストレスがなくなったからという理由もあると思っているんです。静かで集中できる早朝を使ってto do がサクサク進むから、「手帳に貼ったto do 付箋が対処できずに、翌週や翌月と後ろのページに送られ続けるストレス」が激減したんです。集中力を高める習慣として私が最近始めているのが、座禅・瞑想です。自分が何者なのか?何を志向するのかを見つめ直す時間を持つと、直感力が高まってくるのを実感します。あと、滝行も始めました。

西村:ますます突き詰めていらっしゃいますね(笑)。では、皆さんから最後に一言ずつメッセージをお願いします。

藤岡:人生100年時代の新しい働き方、大きなムーブメントとして、皆さんと一緒につくっていきたいです。

柳川:とにかく自分が好きなことに進むのが一番。好きなことをやっていると、自然と楽しい時間は増えていく。私は朝は寝たいですが(笑)。

森本:なんでもいいから行動してみる。ちょっとでも動くと、変化が生まれます。とあるデータによると、どんなにいい話を聞いたとしても、実際に行動に移すのは10人に1人とか。でも、やる、やらないが大きな違いになっていきます。ぜひその10人に1人になってください。

濱松 :とにかく染まらないで! 自分がやりたいこと、自分にしかできないこと、世の中の役に立つんじゃないかと思えることを、ぜひやってみてください。枠や境のようなものは、あるようでないんです。一歩踏み出せば、仲間とも出会えます。

伊藤:経済産業省というと、すごく無機質なイメージを持たれるかもしれませんが、今日お話ししたように悩みつつ迷いつつやっています。これからも走りながら、いろんな立場の方々と空気を共有していきます。異なる資産を交換する担い手、“花粉の運び手”になっていきましょう。

西村:好きなことにフルで時間を使うのが一番。でも、まだやりたいことが見つかっていない人もたくさんいると思います。『LIFE SHIFT』を書いたリンダ・グラットンも言うように、人生100年時代にはエクスプローラーとなる、つまり、模索する時期が重要だと思っています。こうやってイベントに足を運ぶアクションも、 濃密な模索の時間になったのではないでしょうか。今日からできる行動、ぜひ始めてみてください。

BUSINESS INSIDER JAPANより転載(2018.03.26公開記事)

文 : 宮本恵理子 撮影 : 今村拓馬

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