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HOW I WORK

シリコンバレーで培った「違う土俵で戦うということ」。伊藤園・角野賢一さんの仕事術

シリコンバレーで培った「違う土俵で戦うということ」。伊藤園・角野賢一さんの仕事術
Photo: 大崎えりや

敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回は、飲料メーカー株式会社伊藤園角野賢一(かくの・けんいち)さんの仕事術を伺いました。

これまでに至る略歴と、現在の仕事に就いたきっかけを教えてください

2001年に株式会社伊藤園に入社し、2005年に海外研修生として1年間NYに赴任しました。日本に帰国後は国際部、経営企画部を経験し、2009年6月より5年間、今度はシリコンバレーに赴任して、「お〜いお茶」の営業活動を行いました。現地のIT企業を中心に「お〜いお茶ブーム」を起こし、現在シリコンバレーの大手IT企業で「お〜いお茶」導入されていないところはほぼありません。

2014年6月に日本に帰国してからは、お茶と座禅から始まるアイデアソン「茶ッカソン」というイベントを行いながら、伊藤園が「世界のティーカンパニー」になることを夢見て、新しいお茶の広め方を模索しています。

現在の仕事について教えてください

Video: 伊藤園

広告宣伝部のデジタルコミュニケーション室に所属し、デジタル関連の広告配信の配分を決めたり、動画広告の企画を考えたりしています。近年のデジタル社会に対応すべく、昨年度からこの部署ができました。

ただ、僕自身がものすごくデジタルに詳しいかと言うと、そういうわけでもないんです。「茶ッカソン」もそうですが、どちらかと言うと僕が大切だと思ってるのはリアルの場で、デジタルはそれを広げていく時の手段だと考えています。

伊藤園はどのような会社ですか?

お茶のスタートアップだと思います。

特に一般の若い方にとっては、伊藤園は伝統的なお茶メーカーだという印象があるかもしれないんですが、実は全然そんなことはなくて、まだ50年ぐらいの歴史なんです。お茶の業界ではまったくの新参者。

創業の話をすると、現在の会長の本庄八郎とそのお兄さんが自動車のディーラーで働いていて、そこでトップセールスになって貯めたお金で、食品問屋をやろうと言って起業したんですよ。

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自らお茶を入れてくれた角野さん。伊藤園の社内検定ティーテイスター2級の腕前。筆記テストと論文、検茶などの試験をクリアした者だけが、ティーテイスターの称号を得られる。3年おきに更新試験がある。
Photo: 大崎えりや

だけどなかなかうまくいかなくて、そのうちにお茶の利益率が一番高いということに気付いて、お茶をやろうとなりました。でも、お茶の業界って結構封建的な世界で、のれんがないと商売がやりずらかったのです。それで、「伊藤園」という上野の茶問屋ののれんを買ったというのが、伊藤園の始まりです。

その当時は商店街にお茶屋さんがあって、お茶が量り売りされていました。でも伊藤園は何をしたかというと、お茶をアルミパックに入れ保存が利くようにして、スーパーなどでも置けるようにしました。その後は缶入りのお茶を作り、ペットボトルのお茶を作り…と。

お茶の価値である機能性や健康性などはそのままで、容器だったり飲まれ方だったりを変えて、より多くの人がお茶を飲める状況を作ってきた。そういう意味で、僕はお茶のスタートアップなんじゃないかなと思ってます。

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Photo: 大崎えりや

愛用している、仕事をうまく進行させるためのツール(ToDoリスト、アプリ、道具など)はありますか?

正直そこまで特別なものはないのですが、まずは「Evernote」。そして、めっちゃ原始的ですけどノートと鉛筆です。ToDoリスト等はEvernoteに書きます。だけど、アイデアを出すときは紙と鉛筆でやりますね。

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角野さんのノート。企画やイベントのアイデアがメモしてある
Photo: 大崎えりや

ロジカルなことはデジタルでできるんですけど、クリエイティブなことやフィーリング的なことはノートに書きたいんです。

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Photo: 大崎えりや

あともう1つはこの付箋。電車で本を読んでると、この言葉いいなと思っても、なかなか線が引けないじゃないですか。そんな時にダイソーで買ったこの半透明の付箋を貼るんです。ペンと違って剥がせるので、人や図書館で借りた本にもチェックが入れられますよ。

お気に入りの時間節約術は何ですか?

これもあまり思いつかないですね。僕は要領のいい方でもないし、あまり効率というのも考えられないんですよ。この前も、ある会社の新入社員の人たちに僕がこれまでやってきた仕事についてお話する機会があったのですが、2時間ぐらい時間をもらってたのに、なかなか考えてきたことが組み立てられず、茶ッカソンの話までたどり着かなかったですからね(笑)。ペース配分というのができなくて。

ちょっと変化球な答えかもしれませんが、例えばなにかチームで話し合っていて、なかなかアイデアが出ずに行き詰まることがありますよね。そういう時に、「ちょっとみんなでお茶でも飲もうよ」という感じで一息入れる、ということは意識的にやるようにしています。ちょっとしたクッションを挟むことで、チームが仲良くなって、結果的にはいいアイデアがすぐ出て終わる。そういうことが、回り回って意外と時短術になっているような気はします。

良いアイデアを生み出すためのコツはありますか?

アイデアは常に考えてます。人に会いに行くことも大事にしていますね。

何か思いついたら、詳しい人やその周辺にいる人に会いに行きます。これだと思うキーパーソンを見つけた時も、とにかくすぐに連絡して会いに行く。あとはもうひたすら自分で四六時中考えて、考えて、考えて。そうすると、ある時パッとアイデアが出ます。

最初は予算とかスケジュールのことは考えないで、「これ、超イケてるな」「クールだな」というものをひたすら追い求めます(笑)。それだけだと言葉足らずだとは思うんですけど、自分の中の判断基準があるんです。僕は机の上で考えるのはあまり得意じゃないので、まずはやってみて、トライアンドエラーしていくようにしています。

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Photo: 大崎えりや

シリコンバレーから日本に帰ってきた後に、Evernote日本法人会長(当時)の外村仁さんと対談したんです。その対談のときに、「角野さんは、あんまり考えすぎないで行動するのがいいよね」と言われたのが印象に残っています。

外村さん曰く、「頭は良いのに行動に繋がってない人が多い。何かをやる前から、やってもうまく行かない理由を素早く考え、結局行動しない」と。そんな中で、「久々に若くてストレートなやつが来たな」というのが角野さんの印象でした。「ちょっと外村さん、暗に僕のことを頭悪い単純な野郎と言ってませんか?」なんてやり取りをしたことを覚えています(笑)。

まあでも、その通りだなと思います。自分はシリコンバレーに行って、スタンフォードを卒業してGoogleやAppleに入ったというようなエリートの周りで仕事をしていたわけですけど、正直敵わないなと思ったんです。だけど、こういう人たちと同じ土俵で戦うために、今から発奮して勉強してスタンフォードに行って…とか、そういうことでもないなと。

僕は僕なりに、日本の伊藤園という会社に入って、ルートセールスを経験しました。その時は重たい飲料箱をトラックに積み込んだりするんですけど、この人たちはそんな汗をかく経験しないだろうなと。別の苦労はしていると思うんですけど(笑)。そういう風に、「違う土俵で戦う」というやり方もありだなと思っちゃったんですね。

だから、バケツと氷とお茶を持って、ひたすらシリコンバレーの会社に行って営業をしたんです。たくさんの企業が集まるセミナーやミートアップに足を運び、スーパーで氷を買って、車からバケツを降ろして、一人で重い荷物を運んでセッティングして、終わったあとは全部一人で片付けて車に積んで…みたいな。 でもそういう風にやっていると、その姿を見ていた人たちが、「なんか君、おもしろいね」って思ってくれるんですよね。自分で言ってるんですけど、僕の営業は同情営業みたいな感じです(笑)。

そのときは見せようと思ってやってたわけじゃないんですけど、地道にやっていると、なんとなく応援したいなと見てる人が思ってくれるんですよね。

「大企業」で新しいアイデアを実現させるには?

茶ッカソン」の時は、すごく特殊な技を使いました(笑)。

遡ると、僕がまだサンフランシスコにいた時に「伊藤園でハッカソンをやってみよう」と思いついたんですが、イベントをやったことがなかったので、先ほど話したEvernoteの外村さんに相談に行ったんです。

そしたらニフティで東京カルチャーカルチャーを運営していた河原あずさんを紹介され、すぐにイベントの企画を一緒にやってくれることになって。その時点で僕は日本の広告宣伝部に帰ってくるのはもうほぼ決まっていたんです。でも、いきなり僕が広告宣伝部に帰ってきて、テレビCMの一つも作らずに茶ッカソンをやりたいなんて言っても、たぶん日本の上司はわけ分からないだろうなと。

だから、まずは1回サンフランシスコでやってみることにしたんです。それで写真の1つでも撮って、レポートのようなものを作ることできれば、多少イメージが湧くだろうと。で、帰ってきて実際に提案したんですけど、まあそれでも理解してもらえなくて…結局は色々とありましたがやっちゃいましたけど。

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Photo: 大崎えりや

そのときは地域販売促進部という部署があって、そこは全国各地でいろんなイベントをやっていたんです。

だから、そこの部長に僕の想いと、なぜやる必要があるのかということをちゃんと話したら、その部長は勘がいいと言うか、なかなかいい感度があったみたいで。無事承認をもらえて、そこから始まったという感じです。

仕事において役に立った本、効果的だった本は何ですか?

まず、サイモン・シネックの『WHYから始めよ!』です。一番印象に残ってるのが、「人を動かすためには、2つの方法しかない。それはマニピュレートするかインスパイアするかのどちらかだ」という趣旨のことが書かれている部分。

マニピュレートというのは「操作する、コントロールする」という意味です。よく上司が部下に怒って何かをやらせようとしたりするじゃないですか。怒り方も「君、そんなことをやってたら課長にもなれないよ」とか、恐怖心をあおって人を動かそうとするやり方があります。それって、マニピュレートですよね。

一方インスパイアというのは、アップルの「Think different」やNIKEの「JUST DO IT.」のように、自分たちの信念やモットーを打ち出して、自分たちの信じてることを信じたい人についてきてもらう、というようなやり方。この2つしか人を動かすにはなくて、どちらかと言えばインスパイアして人を動かしていくほうがいいよね、という主張にとても共感しました。

もう1冊は僕のバイブルである、岡倉天心の『茶の本』。僕は現代の岡倉天心になりたいと思ってるんですよ。岡倉天心はどういう人かと言うと、100年以上前にこの『茶の本』を、英語で『The Book of Tea』というのを書いて、欧米の人たちに読ませたという人なんですよ。東京藝大の前身、東京美術学校の校長でもあり、英語がすごくできたので、当時からボストン美術館で日本や東洋の美術品を管理するということもやっていたんですね。

でもそうやって海外によく行っていたら、日本や東洋の文化や美意識みたいなものがすごく誤解されていることにがく然としたらしいんです。「だったら俺が自分で本を書こう」と思って、お茶を題材にした本を書いたんですね。

100年以上前に英語で本を書いて、海外の人たちに日本の美意識みたいなものを訴えかけようとした。すごいチャレンジだと思います。僕はたまたまですけどお茶の会社に入ったし、またもう1回世界に出ていって、お茶を通じて日本の美意識だったり、精神性だったりを伝えていきたいなと。これから世界の人が生きていく中で、居心地のいいハッピーな日常を作るためのヒントになると思うんです。

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Photo: 大崎えりや

あともう1冊、日本語版は『クリエイティブ・マインドセット』という題名で、原題は『Creative Confidence』です。この題名が好きで、今日は英語版を持ってきました。これは世界的なデザイン会社であるIDEOのトム・ケリーとデビット・ケリーが書いた本なんです。この本の最初の方で、すごくグッとくる箇所があります。

「クリエイティブ」について書かれているんですが、パッとアイデアを思いつくことがクリエイティブということではないんだと。本当のクリエイティブというのは、その思いついたことを実行できる自信を持っていることなんだよ、と言っているんです。だからタイトルに『Creative Confidence』という言葉を使ってるんですね。

それを読んだときに、すごくいい言葉だなと思うと同時に、「自信って2つの持ち方があるな」と思ったんです。1つは根拠のない自信。もう1つは誰かからもらう自信で、これが大半だと思うんですね。

あるとき、大人ばかりが参加する茶ッカソンに、高校生が間違って紛れ込んじゃったことがあったんですよ。結構経験を積んだIT系の大人ばっかりだったので、大丈夫かなと思って見てたんですけど、終わってからその高校生に「大丈夫だった?」と聞いたら、「角野さん、僕の居場所が見つかりました」って言われたんです。

その子はすごく頭がよかったんですけど、高校では浮いている存在だったらしいんです。でも、茶ッカソンで大人と話して、Googleの人などから「君、おもしろいね。そんなこと考えてんの?」みたいなことを言われたときに、「あ、自分はいける。大丈夫なんだ」と思ったらしいんですよね。そこで彼は、自信をもらったんだと思うんです。そういう瞬間ってすごく大事だなと思っていて、そういう場所をお茶を通して作っていけたらなと考えています。

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Photo: 大崎えりや

ちなみに、僕は本を読んでいいなと思ったら、次の日から会社でまず5人ぐらいにその内容を話します。で、他所でも自分の好きな人にはめっちゃ話すんですよ。そうすると、だんだんと自分の言葉になってくるんです。

いまお答えいただいている質問を、あなたがしてみたい相手はいますか?(なぜ、その人ですか?)

茶ッカソンを一緒に作った河原あずさんです。彼からは僕なんかよりも相当おもしろくて、ちゃんとした話が聞けると思います(笑)。

本当に天才的な人で、僕が思うにあの人の一番すごいところは、区別や差別しないところなんですよ。カルチャーカルチャーでも、ものすごく幅広いジャンルのイベントをやるじゃないですか。

時々、「なんでこれやんの?」みたいなテーマもあるけど、あずさんはいろんなことに興味があるし、すべてのものに愛を持てる人です。どんなジャンルのどんな人でも、ちゃんと話を聞いてあげて、「君のいいとこってこういうことだよね」というのを理解して、活かしてあげる。絶妙なファシリテートをする男で、僕も茶ッカソンを作ってもらったことで活かされた一人です。

これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください。

これも、Evernoteの外村さんが言ってくれたことが印象に残っています。

僕が最初にシリコンバレーの会社を開拓し始めたときは、お~いお茶を片手にいきなりオフィスの受付のお姉さんのところに行って、「Hi,I'm from Itoen, Japan's No.1 green tea company!」なんて言いながら売り込んでいたんです。でも当然相手は「Whats!」みたいにびっくりしちゃって、うまくいかなかったんですね。

で、その後に外村さんと出会って最初に言われたのが、「角野くん、日本みたいに、『何回もプッシュ営業していったら、向こうが根負けして買ってくれる』ということは、シリコンバレーではまずない。だから、実際飲むお客さんに『欲しい』って言わせて、それから仕入れてもらう“プルマーケティング”にした方がいい」と。

さらに、「シリコンバレーはエンジニアの街だから、いきなり企業に行って決裁者に会えたら手っ取り早い、とかいう話じゃないんだよ。まずエンジニアの人たちがどういう暮らしをしていて、何を楽しいと思って、どんなものを食べて、どんなことで笑っているかというのを自分の目で見なさい。それをやってからもう1回その企業に営業に行ったら、きっとうまくいくと思うよ」と言ってくれたんですよね。

それから僕なりに考えてやった行動は、さっきも話した、バケツと氷とお茶を持っていろんな会社の人が集まっているミートアップやセミナー、ハッカソンに行くことだったんですよ。あとから考えたら、それはコミュニティに入り込むっていうことだったんですよね。別に、僕がこのお茶のことをめちゃくちゃロジカルに説明できたから売り込めたのではなくて、僕が人としてコミュニティに入り込んだから、皆が仲間として買ってくれたということなんです。

やっぱり本当にできる人って、「どうやったら売れるよ」という直接的なアドバイスしないんだなと思います(笑)。外村さんは今でも僕が何か質問しても、決して「こうやったらうまくいくよ」とか「これをやったら売れるんじゃないの?」という言い方はしないですね。

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Photo: 大崎えりや

僕ね、頭悪いんでだいたい意味が分からないんですよ、アドバイスを聞いた直後には。でも、とりあえず素直にそれを聞いてやってみようって思うんです。やってるとだんだん分かってくるんですね(笑)。

僕のパターンとしては、まずは自分でアイデアを思いついて、1回自分でやってみる。だけどすごく不十分で、いろいろと失敗をするんです。で、失敗したら今度は、自分の周りにいる優秀だと思っている人に聞きに行くんです。その時点では自分が思ったことは100%やり切ってるから、1回は聞いたことを素直にやってみる。

最初に思いついたアイデアは、たぶんベクトルが反対にいってるということはないと思うんです。外村さんに言わせれば、「ちょっとズレてるけど、大きく見れば方向性は間違ってないよ、角野くん」みたいな(笑)。

「だけどそれだと、だいぶ時間がかかるよ」「もうちょっとこういういい道があるよ」というようなことをいつも言われるんですけど、僕はそこには気付けないというか…。大きな道筋を見つけることの方が大事だろうという気がなんとなくしていて、そこをいつも追い求めています。


Video: 伊藤園

Photo: 大崎えりや

開發祐介

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