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科学が共感力を生み出す遺伝子に迫る

科学が共感力を生み出す遺伝子に迫る
Image: Michael Brace / frickr

私たちは「共感力」のことを、筋肉やパズルゲームのスコアのように、努力次第で鍛えたり高めたりできるものであるかのように語ります。しかし、Natureに掲載されている最近の研究によると、個人の共感力は(少なくとも部分的には)遺伝子で決定されているという理論を支持する証拠が見つかりました。

共感力は大きく2つの種類に分けられます。1つは他人の感情や思考を認識し理解する能力である認知的共感力。もう1つは、そうした観察に基づき正しく反応する能力、情動的共感力です。共感力の測定には共感指数テスト(EQテスト)が用いられます。テストの被験者は「私は相手に合わせて適切な振る舞いをすることができる」とか、「新しいことを学ぶのが好きである」などといった項目について、自己申告で点数付けを行います。

ここ数十年のバイオテクノロジーの進歩にともない、研究者たちは、がんリスクや自閉症、統合失調症、セクシュアリティ障害といった問題の解明のために、DNAに注目するようになってきています。そうした取り組みの多くは「がん遺伝子」や「自閉症遺伝子」の発見を目指していますが、めぼしい成果はまだ出ていません。同じく、研究者たちは、10年以上にわたり、共感力と遺伝子の関係を探っており、その関連性を示すいくつかのサインを発見してはいますが、「共感力遺伝子」を特定できるまでには、まだかなり時間がかかりそうです。とはいえ、最近の研究(たとえば先日Translational Psychiatryで発表された研究)は、この課題にかなりいいところまで迫っています。

ケンブリッジ大学、パストゥール研究所、パリ・ディドロ大学、フランス国立科学研究センターの科学者チームと、23andMeの遺伝子専門家らによって行われたこの研究は、これまでに行われた共感力に関するゲノム規模の関連研究のうちで、史上最大規模のものです。23andMeが4万6861人の顧客の唾液を提供し、すべての被験者がオンラインでEQテストに取り組みました。

さまざまな遺伝子がそれぞれに小さな役割を果たす

この研究により、過去の研究結果が確認されるとともに、新しいデータも追加されました。自己申告のEQスコアの平均は、80点満点中46.4点でした。これは、過去の研究結果と一致します。女性のほうが男性よりスコアが高く、高齢者のほうが若年者よりもスコアが高い傾向がありましたが、こちらも過去の研究結果と一致しています。また、DNAと共感力の間に「わずかだか無視できない程度の」相関があることもわかりました。平たく言えば、DNAと、被験者らが自己申告した共感力との間に、11%程度の相関が見られたということです。

しかし、DNAの違いが共感力の違いをどのように引き起こすのかは明らかではありません。研究者らは、SNP(スニップ)と呼ばれるDNAのわずかな違いが、特定の遺伝子において存在するのかを調べ、2つの遺伝子が、関連するSNPを特に多く含んでいることを発見しました。SEMA6D(神経細胞の発達に影響を与える遺伝子)と、FBN2(皮膚の繊維や靭帯、血管の発達を助ける遺伝子)の2つです。とはいえ、すべての遺伝子のすべてのSNPに目を向けると、データセットの全体に特別な関数は見受けられませんでした。たとえば、DNAの違いのすべてが、神経細胞の発達に関連する遺伝子において見られたとすれば、そこから特定の結論を導くことができます。しかし、実際には、違いはさまざまな遺伝子の間に分散しており、これは、遺伝子が、私たちがまだ理解していない形で共感力に影響を及ぼしていることを示唆しています。あるいは、遺伝子は共感力にあまり影響を与えていないということかもしれません。言い換えるなら、共感遺伝子の捜索は今後も続けられるということです。

この研究に関わったパリ・ディドロ大学のThomas Bourgeron教授は、この研究結果は、科学が正しい方向に進んでいること、すなわち、私たちが世界を認知する際や、世界とやりとりする方法に、遺伝子がどのような影響を与えるかを理解する方向へ向かっていることを示唆していると言っています。

「この研究結果は遺伝子が共感力へもたらす影響について、新しく興味深い視点を提供している」とBourgeron教授。共感力のような複雑な特質においては、多くの遺伝子がそれぞれ小さな役割を果たすことが多いのだそう。また、次のステップは「より多くの人を調査し、今回の研究結果を確認するとともに、個人間の共感力の違いを生み出す生物学的経路を特定することである」とBourgeron教授は話しています。

どの遺伝子が共感力と関係があるのか

結局、遺伝子は共感力にどのような影響を与えているのでしょうか? 過去の研究に手がかりがあります。遺伝子は体に、何種類かのタンパク質をつくるよう指示を与えます。こうしたタンパク質には、オキシトシン(「幸福ホルモン」または「愛ホルモン」として知られている)やバソプレシンのようなホルモンに対する受容体が含まれています。そして、どちらのホルモンも社会的行動に影響を及ぼすことがわかっています。一部の人は、こうしたホルモンに対する受容体を多く持っていて、それが共感力の高さにつながっているのかもしれません。最近、双子に関する研究を分析したメタ研究で、対象となった7つの研究のうち6つにおける、少なくとも1つの年齢グループで、共感力の違いをもたらす遺伝子があることが発見されています。また、別の研究では、遺伝因子が個人の共感力の違いの要因の35%を占めていることがわかりました(これらの研究や関連記事についてはこちらを参照)。

今回の新しい研究は、自閉症、統合失調症、拒食症の人々における共感力の違いに関する、過去の研究結果を確認するものでもありました。共感力、3つの疾病のどちらに関しても、遺伝子との明確なつながりは発見されませんでしたが、EQテストのスコアと3つの疾病の関連性は見つかりました。

この研究に参加したケンブリッジ大学のサイモン・バロン・コーエン教授は、この研究結果は、他人の気持ちを想像することが苦手な人びとを理解するのに役立つだろうと言っています。そして、「こうした共感困難は、他の障害以上の障害を引き起こす可能性がある」と同氏。「私たちは社会として、こうした障害を持つ人びとをサポートする必要がある。新しい指導方法や回避策、合理的調整によって、社会の包摂性を高めなければならない」

また今回の研究は、自己申告のEQテストにおいて、女性は平均して男性よりも共感的という結果が出てはいても、その傾向と相関するような男女間の遺伝子の相違は見つからないことも示しています。これは、男性と女性の共感力の差が、DNAよりも、社会化のされ方に関係があることを示唆していると研究者らは考えています。

今後解明すべきこと

ビッグデータは研究にとって有用ですが、脳を扱うときには期待するほど役に立つわけではありません。今回の研究でも、共感力に影響を与える特定の遺伝子や遺伝子の断片は発見できませんでした。研究者らは、その原因の1つとして、データセットが小さすぎることを挙げています。これはゲノムワイド関連研究に共通する問題でもあります。

「23andMeが大量のデータを提供してくれましたが、まだ十分ではありません。もっと大きなデータが必要です」と、今回の研究には参加していない、ジョージ・ワシントン大学精神医学の助教授Jean Kim博士は指摘しています。「行動を決定する単純な遺伝子バイオマーカーは存在しません。遺伝子や変異の1つを取り出して、それでオンとオフを切り替えられるようなものではないのです。脳のような複雑な事象に関しては、お手軽で簡単な答えが見つかることはないでしょう」

このようなゲノムワイド関連研究では、膨大な統計的テストが必要となるため、偽陽性の可能性が平均以上になると言われています。

とはいえ、Kim氏らは、共感力がDNAによって決定されているかを判断できる方向に科学が進歩していることに勇気づけられています。「このような研究は、人間の行動をよりよく理解するために必要となる無数の小さなステップの1つなのです」と同氏は話しています。


Image: Michael Brace / frickr

Source: Nature, Psychology Today, Institute Pasteur, ResearchGate, George Washington University

Kaitlin Ugolik - Lifehacker US[原文

訳:伊藤貴之

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