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対話力を身につけるために知っておきたい。「自己開示」と「自己呈示」の違いとは?

対話力を身につけるために知っておきたい。「自己開示」と「自己呈示」の違いとは?

会社の業績を上げること、組織のミッションを達成すること、出世することなどは、どれも組織で働く人間にとって欠かせない目標であり、欲求でもあるはず。しかし、そこに「部下の人生の幸せ」という要素を加えることはできないだろうか? そう問いかけるのは、『リーダーの「対話力」ノート できる大人は「言葉選び」で人を幸せにする』(細谷知司著、ぱる出版)の著者です。

人は命令されてやるよりも、自らの発意に基づく業務のほうが圧倒的に高いパフォーマンスを発揮するもの。つまり、部下の組織での生活が幸せであれば、それだけ組織としてのアウトプットが高まるという考え方。

とはいっても幸せの形は人それぞれなので、立ち入りすぎることはできないでしょう。しかし、個々の幸せを実現するために必要な手段はあり、それが「対話」だというのです。

対話を通じて、一人ひとりの部下の「今ここという場所」を理解し、それぞれの場所が、今よりも、少しでも幸せになること。それによって組織としてのアウトプット自体も高まり、対外的な価値提供の質もまた向上する。そのようなマネジメントの在り方が私たちに求められているのだと言えます。(「はじめに」より)

だとすれば気になるのは、「では、どうやってその質を向上させればよいのか?」ということであるはず。そこで本書においては、そのための具体的な手法にまで踏み込んでいるのだそうです。

きょうは具体的な「対話力」に焦点を当てた第三章「『対話力』が飛躍的にアップする10の基本原則+1」のなかから、「【開示する力】自分を開示する」に 注目してみたいと思います。

「対話」はここから始まる

著者は、対話の起点となるのは常に「自己開示」であると考えているのだそうです。自己開示とは、「自己に関わる情報(感情、経験、人生観といった主観的世界に関わるものも含む)を、言語を介して他社へ伝達する行為」。

ここで大切なのは、「言語を介したコミュニケーションであること」と「肯定的な事柄も否定的な事柄も、すべてありのままに伝える必要があること」の2つ。そして、さらに注目すべき要素に、返報性の原理」というものがあるのだといいます。

これは、他者は一般的に与えられた情報量と同じだけの情報を発信者に対して返すという心理学的な特徴のことを意味しています。自己開示を起点としたコミュニケーションにおいては、返報性の原理を活用して同じ質量の情報交換を行うことが重要になってきます。(74ページより)

自己開示には他にも、感情を吐き出す(=告白する)ことでストレスを発散したり(=感情の表出機能)、話すことで自らの意見や態度をはっきりさせられたり(=自己明確化の機能)、他者からのフィードバックによって自分自身の能力や妥当性を評価できたり(=社会的妥当化の機能)といった効果もあり、認知行動療法の場面でも用いられることがあるのだといいます。また一般的には、男性よりも女性のほうが開示のレベルが高いと言われているのだとか。(74ページより)

「自己呈示」との違い

なお、自己開示と似て非なるものに「自己呈示(じこていじ)」があり、両者を比較し眺めることによって、私たちが陥りがちな間違いに気づくことができるのだそうです。

自己呈示とは、他者からの好意的な評価や社会的な承認、あるいは、金銭などの物質的な報酬を得る目的で、自分にとって不利益にならない情報だけを、限定的に開示する行為のことを言います。また、自己開示が言語での伝達に限られる一方、自己呈示は動作や表情など非言語的コミュニケーションをも含むところが特徴だとされています。そこから「印象操作」などと言われることもあります。(75ページより)

もちろん、自己呈示にもいくつかのメリットがあるといいます。まず、自分の意図や目的を実現するために、あるいはコミュニケーションそのものを活性化するために、意識的に情報を限定することは、ひとつのスキルとみなせるわけです。実際に、そうした態度が功を奏する場合も多いもの。

また個人にとっては、アイデンティティや自尊心を維持する、あるいは高揚するといった機能(他者からの評価によって自尊心が高まるなど)もあるとされているというのです。

大切なのは、情報発信の相手や場面、話題などを正しく見極めながら、自己開示と自己呈示を適切に使い分けること。それに失敗すると、信用を大きく損なう怖れがあるといいます。(75ページより)

あるメンバーの失敗

ここで、ひとつの失敗例が紹介されています。周囲のメンバーとのコミュニケーションに悩む、ある若い男性社員のケース。彼は5名程度のチームリーダーとしてマネジメントを任されており、メンバーからの質問や難しい案件への対応など、おおくの業務を精力的にこなしていたそうです。ところが、チームのメンバーからの評価は芳しくなかったというのです。

その理由を掘り下げてみた結果としてわかったのは、「彼の本音が見えない」「聞いたことに直接答えてくれない」「回答内容が非常に表面的だ」といった不満を、ほとんどのメンバーが抱えていたこと。

著者は、なぜそのような批判を受けることになったのかを一緒に考えてみたそうなのですが、質疑応答を繰り返すなかで見えてきたことがあるといいます。

それは、間違った答えを出してしまうことを、彼が極度に怖れていたこと。そのため「模範的な」回答を常に探していたというのです。また、間違いたくなかったのは、メンバーからの評価を落としたくなかったからだというのです。

皆様もお気づきの通り、彼が(結果的に)やっていたのは自己呈示であって、本来必要であるはずの自己開示ではありませんでした。残念なことに、真摯に取り組んでいても、こうした行き違いが生じる怖れは十分にあります。その危険性を正しく知っておくことがとても大切です。(76ページより)

彼のケースでいうと、実際に多くのメンバーは、彼が心の底で思っている本音を聞きたがっていたというわけです。(76ページより)

「知らない」人にならないために

著者は以前、数人のワーキングマザーに「自己開示が必要な理由はなにか?」と質問したことがあるそうです。その際の答えは、「だって、お子さんには、知らない人についていっちゃいけないって言うでしょ」というもの。

半分冗談で半分本気だといいますが、重要なポイントは、子どもを部下に置き換えてみても同じだということ。上司の人となりを「知らない」のに、ついていく部下はいないわけです。

マネージャーである自分がなにを考えているのか、組織をどういった方向へ持っていきたいのか、そのために部下になにを期待しているのか? 部下たちは、そうした問いへの答えを内心で必ず求めているということ。

自己開示は、良い点も悪い点も包み隠さず、自分の言葉で伝えるところに意味があります。弱点は弱点として、変わらぬ一人の人間として想いを伝えること。無論、明らかに信頼を失う内容を口にする必要まではありませんが、実像を離れて「できる」上司を演出すること(自己呈示)はそれと同じくらいのリスクがあると思っておいた方がよいと考えます。(77ページより)

いわば部下からの信頼は、提供する情報の質量にかかっているということ。そのため「返報性の原理」を思い起こしながら、積極的に自己開示してほしいと著者は訴えています。(77ページより)




著者は人材育成コンサルタントとして活躍する人物ですが、その文章からは、少し硬い印象を受けるかもしれません。しかし読み進めて行けば、そのバックグラウンドに誠実な姿勢があることがわかるはず。「対話力」を高めたいという方は、ぜひ手にとってみてください。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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