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危機を乗り越える「3C」とは? JALから学ぶ、ミスをふせぐための仕事術

危機を乗り越える「3C」とは? JALから学ぶ、ミスをふせぐための仕事術
Photo: 印南敦史

仕事の成果をあげるためには、なんといっても、まずは可能な限りリスクを少なくすることが先決です。そして、日本人が不得意なリスクマネジメント・危機管理を徹底したうえで、自信を持って仕事のパフォーマンスを上げる工夫こそが、結果的に確実でいい成果につながります。

本書のテーマは「ミスをふせぐ仕事術」となっていますが、単にミスをふせぐことだけでなく、確実な仕事を完遂するための知恵についても、読み取っていただければ幸いです。(「はじめに」より)

JALで学んだ ミスをふせぐ仕事術』(小林宏之著、SBクリエイティブ)の冒頭に、著者はこう記しています。1968年から2010年にわたり、日本航空に勤務した人物。総飛行時間18500時間の実績を持ち、日航退社後は危機管理・リスクマネジメントの講師として活躍中です。

つまり本書においては、ミスが人命に大きく関わる航空会社の仕事で得たノウハウを、「誰もがあらゆる仕事で応用できるヒント」として明らかにしているわけです。きょうは第4章「ミスが起きたらどうするか?」のなかから、いくつかのポイントを抜き出してみたいと思います。

決断に迷ったら「人に嫌われる」ほうを選択する

トラブルや不測の事態に遭遇したら、トラブルの影響を最低限に抑える決断をすることが大切。改めて強調するまでもない当然の話ではありますが、このことに関連して、著者は印象的な主張をしています。もしもこの決断に迷ったら、「みんなから嫌われる決断をする」勇気を持つことが大切だというのです。

では、なぜ「嫌われる決断」が重要なのか? そのことを解説するうえで、著者はひとつのエピソードを紹介しています。

1966年3月4日、羽田空港でカナディアンパシフィック・エアライン(現エア・カナダ)が濃霧のために滑走路の手前で墜落し、乗員乗客72人のうち64人が亡くなるという事故がありました。

この日、その少し前にJAL機は羽田への着陸を諦め、福岡へ向かいました。機長が「濃霧のために目的地を変更します」とアナウンスを流したとき、機内では非難の声が上がったといいます。

羽田(東京)に到着すると思ったら、福岡に行くというのですから当然です。(中略)

たとえどんな理由でも、当初の予定を変更すれば、乗客の失意や落胆、叱責を招くことはわかっています。それでもこの機長は、乗客から嫌われることを覚悟で、福岡へ向かう決断をしました。

到着した福岡空港でカナダ機の事故が知らされると、乗客の声はたちまち賞賛に変わりました。テレビや新聞などのマスコミも、こぞってカナダ機の事故を報道し、それと比較するようにJAL機の機長を英雄として褒め称えました。(159ページより)

著者によれば、このエピソードから得られる教訓は、「危機に遭遇した場合、みんなに好かれようとか、よく思われようとはしない」ということ。こ「のアクシデントのときにしても、他機にどうくらべられようと、乗客からどれほどのそしりを受けようと、嫌われ役を演じる決断ができたからこそ、JAL機は安全性を確保できたというわけです。

著者自身も機長を務めていたころ、悪天候のために着陸を諦めたことがあるそうです。そこで決断を迫られた際に役立ったのは、「臆病と言われる勇気を持て」「機長の判断を尊重する」というJALの社風だったそうです。そうした考え方が頭にあったからこそ、多くの人命を預かる機長として、危機に直面したときは、みんなから石を投げつけられる覚悟で、最悪の事態を回避することだけを考えて決断できたというのです。

そして同じことは、どんな職種についても言えると著者はいいます。人の命がかかったような状況ではなかったとしても、せっかくみんなで苦労して積み上げてきた物を捨てるしか手段がなかったり、自分たちの商品やサービスを傷つけなければならない決断を迫られることもあるはず。

そんなとき「みんなによく思われたい、好かれたい」という気持ちで決断してしまうと、ときとして大きなトラブルにつながることがあるわけです。それをふせぐには、「なにがいちばん大切か」を常に把握して業務ができる組織風土を構築していくことが大切だということ。

「みんなから嫌われる決断をする」とは、別な言い方をするなら「非常時には完璧を目指さない」ということでもあるといいます。異常事態やトラブル時には、「最悪の事態を回避する」という一点に絞った対処が必要。そういう場合は完璧な対処などありえず、あれこれ考えていては状況が悪化するばかりなので、素早い決断が必要となるわけです。

なお、ここでいう「決断」は、「判断」とは似て非なるもの。判断とは、いろいろな情報を集め、人の意見を聞き、それらの材料をもとに適切な結果を探し出すこと。一方、基準というものがなく、時間も豊富な材料もなく、一瞬一瞬がその後を左右するのが決断。そこには覚悟が必要で、その人の人生、哲学、価値観がものをいうというのです。(158ページより)

リスク管理は悲観的に準備して楽観的に対応する

危機に直面したとき、その状況を一刻も早く脱するために必要なのは、冷静に対応すること。しかし頭で理解していても、実際にやるとなると難しいことでもあります。そこで欠かせないのが、事前に「こんなこともあるかもしれない」「あんなことも起こるかもしれない」と、あらゆる方向からトラブルや不測の事態を想定し、十分に準備しておくこと。

ただしその一方で、十分な準備をしたら、次になにが起こったとしても最終的には「これだけ準備してきたんだから絶対に大丈夫」と楽観的にとらえ、最後まで決して諦めないことが重要だと著者はいいます。

もちろん根拠もなく、ただ「危ない」「怖い」と言っているだけでは、いざ危機に直面しても役には立ちません。重要なのは、「どういう状況になったら危ないのか」「危機が近づいたらどうすればいいのか」をあらかじめ想定し、対応策を準備しておくこと。そのうえで、もし実際に危機に直面したなら、事前に準備したそれを着実に実践すればいいだけだということ。

リスク管理の鉄則は「悲観的に準備」して、「楽観的に対応」することだと著者が強調するのは、こうした考え方があるから。悲観的に最悪の事態まで想定しておけば、いざというとき「大丈夫」という確信を持つことができ、落ち着いてトラブルと向き合うことができるわけです。

「準備」と「心構え」をしつつ、なにが起こっても冷静に対処すること。そして「あってはならない」ではなく、「すべてはありうる」を前提に準備する。そうしてこそ、堅実な危機管理ができるという考え方。たしかに、これはどのような業種にも言えることではないでしょうか。(171ページより)

危機を乗り越える「3C」とは?

危機を乗り越えるために必要なものとして、「コントロール」「クルー・リソースマネジメント」「コミュニケーション」からなる「3つのC」があるそうです。

まず注目すべきは自己コントロール。危機を乗り越えるにはさまざまな要素をコントロールすることが必要ですが、トラブルが起きたらあれこれ考える前に、なによりもまず自己コントロールをすべきだというのです。

そしてトラブルが起こったときにはとにかく冷静に、楽観的に対応できるように自分を制御すること。慌てたり、焦ったり、悲観的になってもなんの解決にもならないからです。

突発的なことや危機に直面したら、人は慌て、浮き足立ち、日ごろできることもできなくなってしまうもの。そうなることをふせぐには、まずは2〜3秒の間を取り、腹の底からゆっくりと話して自分自身をコントロールすることが大切。そうすれば自分を取り戻すことができ、ミスの拡大をふせげるわけです。

クルー・リソースマネジメントとは、「クルー=乗員(チームメンバー)」の「リソース=人的資源」を確認し、有効に活用すること。チームのメンバーの能力はもちろんのこと、その他、情報や機械・危機、ツールといった資源をすべて使って、最悪の事態を回避するという発想です。

コミュニケーションとはいうまでもなく、メンバー同士の交流を円滑にし、チームの血流をさかんにさせること。危機に陥っているときだからこそ、「いま、なにをすべきか」を声に出してチームのメンバーと共有する必要があるということです。

それぞれの役割がきちんとなされているかを互いに確認しあい、コミュニケーションをとることが大切であるわけです。

とはいえ、いざというときだけコミュニケーションを活発にしようとしても、それは無理な話。役立つのは日ごろのコミュニケーションなので、メンバー全員がなんでも積極的に口に出せるような雰囲気づくりをしておくことが重要。互いの役割を十分に理解し、トラブル時は声に出して確認することを習慣づけておくことが肝心だということです。

コミュニケーションは、人の体の血液の流れに相当するものだと著者。心臓、肺、胃、腸などの各器官が健全であったとしても、血液の流れが細ったり止まったりしたとしたら、病気になったり、最悪の場合は死に至ることもありうるでしょう。それと同じことで、どんなに優秀な社員が揃っていたとしても、コミュニケーションに失敗があると、トラブルや不祥事の回復は難しくなるというわけです。(180ページより)




他にも「準備」「チーム」「心」「体」と、さまざまな角度から「ミスのふせぎかた」についての解説がなされています。JALでの実体験も豊富に盛り込まれているため、とても理解しやすいはず。ミスを少しでもふせぐために、読んでみる価値はありそうです。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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