特集
カテゴリー
タグ
メディア

書評

「一筆せん」を活用すれば、コミュニケーション下手も克服できる?

「一筆せん」を活用すれば、コミュニケーション下手も克服できる?
Photo: 印南敦史

私は幼少期に患った吃音のトラウマにさいなまれながら、社会人になりました。そして病が再発。コミュニケーションが取れず、仕事に支障をきたし退職勧告を受けたり、自ら退社の道を選び、職を転々とする。アルバイトで食いつなぐ日々が、13年も続きました。コミュニケーションへの苦手意識が消えないまま、時間が過ぎていったのです。(「はじめに たった一枚の『一筆せん』で、心が通い合う」より)

こう明かすのは、『たった3行! 心を添える一筆せん。』(臼井由妃著、現代書林)の著者。しかし、ひょんなことから、「多くを語らなくても、思いを込めたひとことで人の心は動かされる」ということに気づいたのだそうです。

とはいっても、「たったひとこと」で気の利いたことや素直な思いを口にすることは容易ではありません。そこで思いついたのが、「一筆せん」を使ったコミュニケーションだったのだとか。

たしかに、伝えたいことをタイミングよく話すのが難しいとしても、相手の顔を思い浮かべながら素直な思いを書いて伝えることなら誰にでもできるはず。そこで本書では、時間をかけず簡単に楽しみながら続けられる「一筆せんのコツ」や「ひとこと添えの魅力」を紹介しているわけです。

きょうは「プロローグ『一筆せん』で、おもてなしの心を届けよう」中の「心を添える書き方の基本」に焦点を当て、いくつかのポイントを抜き出してみることにしましょう。

少ない言葉で多くの情報を伝えるコツ

美辞麗句で、人の心は動かないもの。ましてや、多くを語って相手の心を捉えようとするのは勘違いだと著者。むしろ多くの言葉を伝えれば伝えるほど、相手の心は離れていくものだというのです。

大切なのは、心に浮かんだ相手に対する素直な思いを、たった「ひとこと」だけ手書きでしたためること。なぜなら、そうやって届けられた言葉は、思いやりや愛情を伝えてくれるから。

言葉遣いが多少おかしかったとしても、相手と自分にしかわからない表現でもOK。シンプルな言葉で気持ちを伝えることができれば、相手はきっと「友だちでよかった」「大切にしたい人」と見なおしてくれるそうです。

たとえば夫婦やパートナー同士なら、「手料理がおいし過ぎてメタボだぞ(笑)」「あなたより先に天国に行かないからね」など、ふたりで歩んできた道のりを振り返りつつ、愛情あふれるジョークを交えるのもひとつの方法。

あるいは両親に対して、「お母さんをお手本にしています」「お父さんのように、カッコよく年齢を重ねたい」というように、飾らず素直な言葉を贈るのもいいでしょう。いずれにしても、そんなひとことを添えられて、うれしくない人はいないわけです。

このことを著者は、食べものを例に挙げて説明しています。どれだけおいしいものであっても、いつも食べていたら飽きてしまって当然。それと同じことが、言葉にも言えるというのです。読んだ相手の気持ちをよくするためには、「おいしい言葉は少し」でかまわないということ。

理由は、そのほうが余韻が効いてくるものだから。多くなりがちな言葉を外したほうが、言葉に重みが増すということです。すると相手は何度でも読みなおしたくなり、そのたびに心豊かになれるわけです。(25ページより)

感じがよい人の「手紙」には、漢字が少ない

受け取ったものの、なぜか読む気が起きない手紙があるものです。その原因として、著者は漢字の量を挙げています。堅苦しい文面や四字熟語、普段はほとんど使わない漢字表現などからは、重々しさが伝わってきてしまうということ。ここではその一例として、著者が実際に受け取った手紙が紹介されています。

「時下益々ご盛栄のこととお喜び申し上げます。

平素は、格別のご厚情を賜り、熱く御礼申し上げます。

さて来たる○月○日、18時より拙宅にて銀婚の集いを開催することと相成りました。

これも臼井様始め皆様方のお力添えのお蔭と衷心より感謝する所存です」

(29ページより)

銀婚式を迎えるので、自宅でパーティーを行うという案内。つまり目的は、親しい友人や気のおけない仲間を招き、和気あいあいと過ごすことであるはず。ところがこの文面から、そうしたパーティーへの期待感を膨らませることはできません。

「ご盛栄」「ご厚情」「来たる」などはビジネス文書のようですし、ちょっと古くさい印象も。ホーム・パーティーであるにもかかわらず、「本当はフォーマルな集まりなのではないか?」と読む側を警戒させてしまう雰囲気になってしまっているわけです。

(訂正例)

「こんにちは、臼井由妃さん お元気でいらっしゃいますか

このたび銀婚式を迎えるにあたり、自宅に親しい方をお招きしパーティーを開くことにいたしました。

大いに飲んで食べて楽しい場になればうれしいです。

日時 ○月○日(土) 18時〜21時」

(30ページより)

このように、漢字を減らしてひらがなを多く使うと、距離が近づいてきて親しみを覚えるもの。ちょっとした工夫だとはいえ、文章の趣旨や相手の立場を考えながら、やさしい言葉やひらがなを上手に使い、わかりやすく伝える。それこそが、本物の気遣いだということです。(29ページより)

悪筆でもなぜか美文字に見える「書き方」

著者は字が下手だといいますが、それでも「臼井さんが書いた一筆せんを読むと安心する」「なんだか和むよね」などと言われることが多いのだそうです。それは、いくつかの工夫をしているから。どんな工夫なのか、確認してみましょう。

1. 文字は、右肩上がりに書く

文字の横棒が右肩上がりになっていると、かっこいい文字に見えるのだそうです。たとえば「大」などの単純な漢字を水平な線だけで書くと、子どもっぽく間が抜けた印象になってしまうというのです。

2. 「とめ」や「はね」、「はらい」はていねいに書く

字が汚い人は、文字を書くことにかける時間が短いような気がすると著者は記しています。特に「とめ」や「はね」、「はらい」などには無頓着になりがち。

文字のはねは、筆記用具の先を跳ね上げるようにして紙から放す。

とめは、止めた場所から動かないようにして紙から放す。

はらいは、ペンをさっと流すようにして紙からペン先を放す。

(33ページより)

このポイントを意識するだけでも、読みやすい文字になるといいます。

3. 等間隔で書く

「巨」や「三」といった文字を書く際には、空ける間隔(字間)を等しくするとバランスがとれて読みやすい文字になるそうです。試しに字間を無視して「巨」「山」「三」などを書いてみれば、普段は美しい文字を書いている人でも間違いなく汚い字になるといいます。(32ページより)

4. 数字には特に気を配る

縦書きで一筆せんに数字を書く場合には、「十一月十八日」というように漢数字を使うもの。なお、この場合「一一月」ではわかりづらいので「十一月」にしているということ。ときに算用数字を使う場合もあるとはいえ、その際「6と0」「1と7」「7と9」などは、わかりにくくなりがちなので注意が必要。

いずれにしても、文字は下手でもいいと著者は断言しています。大切なのは、上手に書こうとしないで、きちんと書こうと心がけること。それが安心感や清潔感につながり、人の心を動かすというわけです。

(32ページより)




当然のことながら、紹介されているのはどれも著者自身が行い、成果を上げてきたものばかり。だからこそ説得力があり、応用しやすいのです。「言葉で伝えるのは苦手で…」という方は、本書を参考にしながら一筆せんを利用したコミュニケーションを試してみるのもいいかもしれません。

Photo: 印南敦史

印南敦史

swiper-button-prev
swiper-button-next