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自信のない人のほうが向いている? 「広報になりたての人」が知っておくべきこと

自信のない人のほうが向いている? 「広報になりたての人」が知っておくべきこと
Photo: 印南敦史

私はよく「広報の世界は不平等だよ」と話しています。たまたま入った会社が大企業だったら、手取り足取り教えてくれる先輩や上司がいて、そこまで苦労することなくメディアとの人脈も作れて、ある程度の成長も残せます。メディア側は自分の会社のことを知ってくれているので、それだけで仕事がしやすいのです。これが名前も知られていない中小・ベンチャー企業だと、まず信頼してもらうところから入らなければいけません。途方もなく低い位置からのスタートであり、その後も高くて分厚い壁が幾つも立ちふさがります。(「はじめに」より)

このように、中小・ベンチャー企業にとっての広報の難しさについて語るのは、『現場の広報担当2500人からナマで聞いた 広報のお悩み相談室』(栗田朋一著、朝日新聞出版)の著者。株式会社ぐるなびを筆頭とする企業で広報としての実績を積み上げ、現在は自身で立ち上げた株式会社外食広報会と株式会社PRacademyの代表取締役を務めているという人物です。

ただし広報の世界が不平等で不公平だとはいえ、不可能なことなどひとつもないとも断言しています。どんなに小さな会社でも、狭き門をくぐり抜け、大手企業を差し置いてメディアに取り上げてもらう戦い方やノウハウは山ほどあるというのです。

事実、そのように不可能を可能にする「武器」をいくつも手に入れてきたからこそ、著者はそれを、中小・ベンチャー企業で困っている広報担当者たちに授けたいと考えているのだそうです。

そのため本書においては、多くの広報担当者が直面するであろう課題や問題について、その解決法をひとつひとつ提示し、正しい方向に導こうとしているわけです。きょうはそのなかから、基本的な部分を解説した第1章「広報になりたての人は、まず何をしたらよいのか?」に目を向けてみたいと思います。

Q: 広報について教えてくれる人がいません。まずなにから始めればよいですか?

A:まずは「自社を知ること」から始めましょう。

(36ページより)

大企業と違って、中小・ベンチャー企業では、「突然、広報に任命されたものの、教えてくれる人がいない」ということがよくあるもの。では、広報業務に携わったことがない人が広報になったら、なにから始めればいいのでしょうか? このことについて著者は、まず「自社をよく知ることから始めましょう」とアドバイスしています。

すでに何年も働いていたとしても、自分の会社のことは意外に知らないもの。自社の商品やサービスの特徴、会社の歴史などはある程度知っていたとしても、

・すべての事業部の事業内容

・今期や前期決算の正確な数字

・会社の経営戦略と、各部門別の事業計画や戦略

・会長や社長の生い立ちから現在までの詳細なプロフィール

(37ページより)

などは知らないかもしれません。しかし、どれも(広報でなくても)答えられなければいけない基本中の基本。なのにそれを広報が知らなければ、話にならないわけです。さらに広報担当者であれば、

・会長や社長の挫折や失敗などのどん底エピソード

・自社商品・サービスの市場の規模や状況

・自社が置かれている業界の現状と、抱えている課題

・業界には、どんな競合がいて、それぞれどんな特徴があるのか

・自社商品のユーザーはどういう人で、どんなニーズがあるのか。どんなクレームが入っているのか

(37ページより)

これらを知らなければ、メディアから問い合わせがあったとき、すぐに応えることは不可能。いちいち調べなおしているようでは信頼されなくなってしまう可能性もあるため、「自社を知ること」はとても重要だということです。(36ページより)

Q: 口下手なのですが、こんな私に広報が務まるのでしょうか?

A:大丈夫です。

重要なのは、流暢に話すことではありません。

(53ページより)

「口下手で、人に説明するのが苦手なので、メディアの人にPRしたり、説明したりしなければならない広報の仕事が務まるとは思えません…」

広報になりたての人からそんな悩みを打ち明けられることが多いという著者は、そんなときには自信を持って次のように答えているのだといいます。

「大丈夫、心配ありません。広報にとって大切なことは、上手に話すことではなく、口下手でもよいので熱意を持って話すことです」

そこまで断言できるのは、「流暢な説明よりも熱意が勝る」という実例を数多く目にしているから。その例として引き合いに出しているのが、複数のメディアを回る「メディアキャラバン」を行った際のエピソード。

東京に本社のある企業の広報を4、5人連れていき、訪問先の新聞社などで一人3分程度プレゼンをしていったそうなのですが、その結果、もっとも取材を多く取れたのはベテランの広報ではなく、新卒1年目の広報が来ていた会社だったというのです。

そしてその理由について、その会社の事業に魅力があっただけではないと著者はいいます。その新卒の広報は、決して説明がうまいわけではないものの、会社の魅力を本気で熱く語っていたというのです。

新卒の社員は、たった1年ほど前に、就職活動で世の中に何百万社ある中から、今の会社に何らかの魅力を感じて入社しています。だから、その会社の魅力をそのまま新鮮な気持ちでストレートに話すことができます。(中略)キラキラした瞳で熱く語る彼女の話は、大いにメディアの人たちの心を動かしたのです。(54ページより)

同じことは新卒に限らず、口下手な人にも言えると著者は主張しています。多少説明がぎこちなかったとしても、熱意を持って話せば、メディアの人には伝わるものだということ。そう考えれば、口下手は信頼されるための武器になるとさえ言えるというのです。だからこそ、説明が下手だったとしても、そんなことは気にせずに思いを伝えるべきだというわけです。(53ページより)

Q:他社の優れた広報さんを見ていると、自分に広報は向いていない気がします

A:大丈夫。

広報は自信のない人の方が向いています。

(56ページより)

以前、著者が主宰するPRアカデミーのメンバーに「いまの悩み」についてアンケートをとった際、予想以上に多かったのが「他社の優れた広報さんを見ていると、自分には広報は向いていない気がします…」という回答だったのだそうです。

広報の勉強会などでは、積極的で社交的で話もうまく、コミュニケーション力に長けている他社の広報を目にする機会も多いもの。そのため、「自分に広報は向いていない」と感じてしまうのかもしれません。

ところが多くの広報担当者を見てきた著者は、興味深いことを指摘しています。うまくいっている広報担当者には、「自分に自信がない」という共通点があるというのです。いいかえれば、それこそが広報として成功する条件なのだとも。なぜなら、広報にもっとも大切なのは「謙虚さ」だから。

ご存知の方も多いでしょうが、広報の仕事は、きらびやかなようで実際には泥臭いことの積み重ねです。まず、取材を成功させるためには、関係部署を取りまとめて協力体制を作ることが必要。また、自社の希望に沿った形でメディアに取り上げてもらうためには、粘り強く交渉していくことは不可欠。そのため、謙虚さが求められるわけです。

しかし、根拠なく「自分は広報に向いている」という自信を持っている人は、

わからないことがあっても、素直に人に聞くことなく、自分だけで物事を進めようとするもの。だから社内外の人との関係を築くことができず、うまく物事を進められないことが少なくないというのです。

同じことは、他社で広報の経験を積んできた人にも言えるといいます。過去の経験則に当てはめようとして、うまくいかなくなってしまうということ。

一方、自信がない人は、謙虚に相手の話をしっかり聞いて話を進めていこうとするもの。そして、そういう人のことは、周囲も助けてくれるものでもあります。理由はいたってシンプルで、自分の意見をちゃんと聞いてくれる人に対しては、好感を持つことになるから。

このような理由から、自信がないからといって「自分に広報は務まらない」などと思う必要はまったくないと著者はいいます。むしろ、そのことが武器になると考えてもよいくらいだそうです。(56ページより)




著者は本書を、経験の浅い人や若手の広報担当者だけでなく、広報歴の長いベテランの方にも読んでほしいと考えているのだそうです。なぜなら会社が広報に求めることや仕事の範囲は広がっていて、それに伴い、新たな広報活動の方法を見出し、実践して行く必要があるから。

広報業務がどんどん進化を遂げているからこそ、古い常識にとらわれるべきではないということです。そういう意味において本書は、若手かベテランかに関係なく、広報に携わるすべての人々が手に取るべき1冊だといえそうです。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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