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過去に囚われ、未来に悲観的。実はそれ、脳の仕業って知っていましたか?

過去に囚われ、未来に悲観的。実はそれ、脳の仕業って知っていましたか?
Image: Horia Varlan/Flickr

世界全体がギスギスして住みにくくなったと感じる昨今。テレビをつけたりインターネットを開けば、ほぼ間違いなく、悪いニュースが押し寄せてきます。しかし、世界は本当に絶望的状況にあるのでしょうか? それともこれは動物的脳が私たちの心理にいたずらを仕掛けているせいでしょうか?

元気を出してください。世の中は、思うほど悪いことばかりではありません。実は脳に騙されているだけ。ここでは、その理由ご紹介していきます。

「悲観論」の高まり

たとえば、大半のアメリカ国民が国の将来を危ぶんでいるようです。米国心理学会の調査によると、アメリカ人の63%が自国の将来について悩んでおり、59%が「自分の記憶にある限りでは、今が米国史上最悪の状況」と考えているといいます。

こうした考えは、「悲観論」に由来するものでしょう。「悲観論」とは、ある社会や組織の状況が、時とともに悪化の一途をたどっているという、認知バイアスのかかった信念で、どんな事実があろうともそう考えてしまうことです。平たく言えば「かつてのようなよい時代は二度と来ない」といった考えです。

最近は「2017年はひどい年だったね」とか「これ以上悪くなることはあり得ない」という物言いをしょっちゅう耳にする気がしますが、こうした認識は間違いです! 今以上に悪い状況は明らかにあり得ますし、そういう過去が存在しました。昔にさかのぼるほど、過酷な状況が見られました。

現在取り組むべき問題が山ほどあることはたしかです。しかし、実際、世界状況は徐々に好転しているのです。事実を見れば、 米国民の健康状態はこれまでになく良好です。それは、認知心理学者(そして、究極の楽観主義者)であるSteven Pinker博士の本を手に取ればわかります。博士の名著『暴力の人類史』や近刊書『Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress(新啓蒙主義:理性、科学、人間主義、進歩の弁護論』は、歴史が始まって以来、世界で起こる「悪いこと」の多くは、実は、徐々に減ってきていると説いています。それなのに、すべてがどん底の状態に見えるのはなぜなのでしょう?

バラ色の眼鏡で過去を振り返っている

私たちの悲観的態度を生んでいる要因は2つ。それは「レミニセンス・バンプ」そして「ポジティビティ効果」とよばれる、認知バイアスです。

1つめの「レミニセンス・バンプ」とは「人は年を取るにつれ、10代から30代のよい出来事をよく思い出し、懐かしむようになる」というもの。

つまり、自分の若かりし頃の古き良き思い出を想起していると、当然、その時代のほうがよかったように思えてくるが、現実には、本当によい時代だったわけではなく、自分が若かったので、今より仕事のストレスも、お金の心配もなく、時事問題にもあまり注意を払っていなかっただけというわけです。

もう1つの「ポジティビティ効果」というのは「年を取るにつれ、ネガティブなことよりもポジティブなことを多く覚えている」というものです。2005年に行われたある研究で、人は高齢になると、脳のいたずらによって、情動的な満足を重視するようになり、ポジティブなことを記憶にとどめる割合が無意識に増えることが証明されたのです。つまり、年とともに、過去のよいことだけを考えたくなるというわけで、ある時代を批判的な目で振り返ったつもりでも、このポジティブ効果が働き、その時代がよかったように感じてしまうというのです。

Archer氏いわく、ポジティビティ効果とレミニセンス・バンプは、パーフェクトなコンビだそうです。

年をとってくると、脳がネガティブな刺激よりもポジティブな刺激を好んで記憶にとどめたがるだけでなく、ポジティブな記憶を重視し、ネガティブな記憶を過小視するようになります。過去を懐かしみ、ポジティブな思い出だけを重視するのが、脳の仕組みであるならば、今が昔より悪く見えてしまうのは、当然ではないでしょうか?

誰でも、過去・現在・未来について考えるときは、どうしても主観的になってしまいます。でもそれは、欠陥ではなく、脳の仕組みなのだとArcher氏は言います。この認知バイアスが生じないようにするのは無理です。しかし、そのことを知っているだけで、少しは客観的に考えられるようになるでしょう。

現在のネガティブ要素に目が向きがち

私たちが忘れがちなのは、偉大なる地球の覇者である人間も、基本的には生き延びることに一生懸命な、低次元な動物だということです。動物的、原始的な生存本能が働いて、私たちの脳は「常に脅威を警戒する」「危険を過大に見積もる」「あまり長いことポジティブな考えに浸りぼうっとしないようにする(さもないと飢えたり捕食されたりするから)」といった努力をしているのです。この本能のことを「ネガティビティ・バイアス」と呼びます。要は、よい物事よりも悪い物事のほうをはるかに重要視する傾向です。

このバイアスは、人間が生き延びるためには重要だったかもしれませんが、現代社会においては、生まれながらにして悲観主義者ということになります。私たちは、過去をポジティブな気持ちで振り返るようにできているだけでなく、現在のほぼすべての物事をネガティブな気持ちで見るようにもできているのです。

まったくありがた迷惑な話です。さらに悪いことには、こうしたネガティブ志向のことが世の中に知れ渡っているおかげで、マーケターや政治家、メディアがいいように利用しているのです。なぜこんなにひどいニュースが続くのか、と思ったことはありませんか? それはほかでもなく、メディアが視聴率を稼ぐ必要があるからです。自覚のあるなしにかかわらず、世界で起きている残虐行為を眺めるのが大好きな私たちの習性を、彼らは利用しているのです。

また、2011年のこの研究を始めとする複数の研究で、うつを患っている人は、ネガティビティ・バイアスの影響をより大きく受けることがわかっています。ネガティビティがネガティビティを呼ぶ悪循環を生んでいます。しかし、人間がそのようにプログラムされているのですから仕方ありません。

思い込みから抜け出せないのが問題

誰もが、自分は、自らの国、世界、そして人生について正確な認識をもっていると信じています。それ自体は悪いことではありません。自分の信念を守りたいのは当然です。しかしそこに「確証バイアス」というものが絡むと、自分の考えを信じ込むあまり、ネガティビティの連鎖を断ち切れなくなります。知らない人のために説明すると、確証バイアスとは、自らの世界観を支持する事実だけを探し集め、反証する事実は否定する傾向です。要するに、都合のいい事実を選択的に集めることであり、希望的観測の一種と言えます。これは誰にでもある傾向なので、知っておくことが重要です。

確証バイアスは、知らずに放っておくと危険な場合があります。また確証バイアスは、ひねくれた目で世界を見るという私たちの本能的な癖を治すのがむずかしい原因ともなっています。

「ネガティビティ・バイアス」のせいで今がひどい時代と考え、「レミニセンス・バンプ」と「ポジティビティ効果」のせいで昔はよかったと考え、「悲観論」のせいで状況は悪化の一途をたどると考えてしまう私たちのしょうもない脳。それをアイスクリームサンデーにたとえるとすれば、「確証バイアス」はてっぺんを飾るチェリーと言えるでしょう。これを読んでいるあなたは今こう思っていませんか?「いや、状況はマジでひどい。証拠を探して見せてやるよ」。でもその考えこそが問題なのです! 悪いことばかり探さないで、よいことを探すよう努力する必要があります。世の中によいことは、あなたが思っている以上にたくさんあります。

以上は、世界に問題が存在しないと言うつもりで書いたわけではありません。ただ、こうした認知バイアスを知ってもらうことで、あなたの世界を見る目が変われば……。

あるいは、すべてが最悪に見えてしまう理由を理解してもらえればいいと思うのです。対処すべき問題を見失ってはいけませんが、脳に踊らされるままに厳しい世界状況に絶望し右往左往するのも考えものです。


Image: Horia Varlan/Flickr

Source: APA, Wikipedia(1, 2, 3, 4, 5), Steven Pinker, Science Direct, Springer Link

Patrick Allan - Lifehacker US[原文

訳:和田美樹

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