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これからのマーケティングのキーワード「ファンベース」とは?

これからのマーケティングのキーワード「ファンベース」とは?
Photo: 印南敦史

30年以上にわたって広告コミュニケーションに携わってきた実績を持ち、現在はコミュニケーション・ディレクターとして活躍する著者は、きょうご紹介する『ファンベース』(佐藤尚之著、ちくま新書)を通じて新たな提案をしています。

人口急減、高齢化、超成熟市場、情報過多などにより新規顧客獲得がどんどん困難になっている現代だからこそ、生活者の消費行動を促すためには「ファンベース」が必要だというのです。

ファンベースとは、ファンを大切にし、ファンをベースにして(ベースには、土台、支持母体などの意味がある)、中長期的に売上や価値を上げていく考え方だ。(「はじめに ファンベースは、あなたが思っているより、たぶん、ずっと重要だ」より)

たとえばファッションでもアプリでも、個人的に強く惹かれ、愛用し、思わず友人に薦めたようなブランドや商品は誰にでもあるもの。つまりはそれが「支持」です。そういう意味で著者は、「ファン=支持者」だと考えているのだそうです。

さらにいえば、本書においてはファンのことを「企業やブランド、商品が大切にしている『価値』を支持している人」と定義したいのだといいます。

支持する価値は、「まさにこの機能が欲しかったんだ!」から、「この味、好みに合う!」まで多種多様。しかしいずれにしても、企業やブランド、商品が大切にしている価値にグッとくる人、その価値にワクワクして喜ぶ人、その価値を支持して友人に進める人が「ファン」だということ。そしてファンベースでは、そういう「支持者」を大切にしていくというわけです。

「現代は新規顧客を狙うアプローチだけでは売上を増やすことが難しくなってきた」と著者はいいます。そしてその解決法として、ファンベースという考え方が必要だというのです。

きょうは第二章「ファンベースが必要な3つの理由」に焦点を当て、なぜファンベースが必要なのかに焦点を見ていきましょう。

なぜファンベースは必要なのか

先に触れたとおり、ファンベースの「ベース」とは、売上を中長期的に支える「土台(ベース)」のようなイメージ。また、ファンを、企業やブランド、商品が大切にする価値を支える「支持母体(ベース)」として考えるのも、ファンベースの大事な一面なのだそうです。

ブランドや商品の「価値」は時代とともに変化し、使われ方、愛され方、喜ばれるポイントなどは少しずつ変わっていくもの。その変化をファンという支持母体とともに見極め、改善を繰り返す過程もまたファンベースなのだといいます。

ただし、「いまいるファンを大切にする」=「そのブランドや商品の『現在の価値』を支持してくれるファンと一緒に、それをキープしていく」と考えることは間違い。

たしかにファンは、そのブランドや商品の「現在の価値」が好きでファンになっているはずです。しかし、その価値の延長線上にある、もっといい「本来の価値」にも強く期待しており、それを企業と一緒に夢見たいと思っているというのです。

たとえば、あるアーティストの支持母体があった場合、彼らはそのアーティストにいまのままでいてほしいとは思っていないはず。「これからももっともっといい作品を読み出し続け、そして私たちを楽しませてほしい」という思いを持って支持しているわけです。

それと同じことで、つまり彼らは「未来」を見て支持しているということ。だからこそ、そういうファンとともに変化・成長し、未来の価値を早出していくこともファンベースだという考え方です。

そう捉えていくと、ファンベースは、ファンから儲けようとするだけの「ファン・ビジネス」や「ファン・マーケティング」とは本質的に異なることがわかります。(37ページより)

ファンベースが必然な3つの理由

ファンベースは、短期・単発施策で得られた好意を資産化していくという意味でも必要なこと。しかしそれだけではなく、多面的に必然となってきているのだそうです。著者はその理由を、次の3つにまとめています。

(1)ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから

(2)時代的・社会的にファンを大切にすることがより重要になってきたから

(3)ファンが新たなファンを作ってくれるから

(39ページより)

ひとつひとつを確認してみましょう。まずは(1)「ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから」について。

ここで重要なのは、「コアファン」の存在です。本書が定義するコアファンとは、「ファン」の上位概念。「企業やブランド、商品が大切にしている価値を強く支持する人」のことを指すわけです。

いわゆるロイヤルティ(忠誠)が高い人々だということですが、実はこうしたコアファンが、売上の大半を支えているというのです。そのため、ファンを大切にして「ファンであり続けてもらうこと」が収益の安定に直結するという考え方。

もちろん業界によって多少のばらつきがあったり、ファンベース施策をやっているかいないかなどの違いもあるでしょう。とはいうものの、「少数のファンが売上の大半を支えている」ことは、さまざまな事例によって確認されているというのです。

次に(2)「時代的・社会的にファンを大切にすることがより重要になってきたから」を見てみましょう。

経済が伸び、商品が売れていた時代の名残もあり、いまでもマーケティングの目的を「新規顧客の獲得」に置いている企業は少なくないといいます。また、バブル時代も含め、マスという大きな塊に大量に売れた時代の「成功体験とそのやり方」を信じている役員や管理職も少なくありません。なぜなら彼らは、それで成功して出世した人たちだから。

とはいえ現場は、「効かない」「売れない」「すぐ忘れられる」「動かなくなった」というような声と実感であふれているもの。なぜこうした乖離が生まれたのかといえば、それは時代や社会の「変化」によるものだといいます。なお、その変化は大きく3つに絞られるそうです。

1. 日本社会の変化

2. 超成熟市場による変化

3. 情報環境の変化

日本社会が変化したからこそ新規顧客がどんどん減り、超成熟市場が新規顧客獲得をより困難にし、情報環境の過酷化で、新規顧客へのリーチはより困難になるということ。そして、そのような状況に伴い、ファンベースという考え方は相対的かつ絶対的に重要度を増しているのだといいます。

最後は(3)「ファンが新たなファンを作ってくれるから」

世の中に商品や情報やエンタメがあふれかえっているなか、「自分にぴったりの商品」や「まさにいまの自分に有益な情報」「自分のツボにはまるエンタメ」などに出会うためにはどうしたらいいのでしょうか? このことについて著者は、「友人からの薦め」の重要性を強調しています。

なぜなら、友人とは「価値観が近い人」だからである。

価値観が近い友人がツボにはまるコンテンツは自分もツボにはまる可能性が高いし、価値観が近い友人が愛用しているモノは自分も愛用する可能性が高いし、価値観が近い友人が熱中するコトは自分も熱中する可能性が高いからだ。世の中に様々な情報が砂嵐のように吹きすさぶ今、こんなにありがたいものがあるだろうか。(72ページより)

もちろんクチコミの威力は、昔からずっと語られてきました。しかし、その威力と重要度が、いまほど重要になっている時代はないというのです。逆にいえば、いまほど「企業からの都合のいい一方的な情報」が受け入れられにくい時代はないということ。特に、価値観が近い友人からの推奨にかなうものはないわけです。




こうした考え方をベースとして、以後の章では「具体的な施策にはどういうものがあるのか」「従来型のキャンペーンなどとどう組み合わせて組み立てていけばいいのか」などについて解説されます。

具体的な事例も豊富なので、ファンベースのポテンシャルを実感できるはず。「いままでどおりのやり方では、エンドユーザーに響かない」と悩んでいる方のみならず、すべてのビジネスパーソンが読んでおくべき1冊だといえます。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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