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もう広告で人は動かない。なら企業は生活者にどう歩み寄るべきか?

もう広告で人は動かない。なら企業は生活者にどう歩み寄るべきか?

広告をやめた企業は、どうやって売り上げをあげているのか。』(太田滋著、インプレス)の著者は、ビルコム株式会社代表取締役兼CEO。デジタル領域に強みを持つPR会社として「ブランド価値で事業に貢献する」ことをミッションに掲げ、さまざまな業種や規模の企業に対し、マーケティングの戦略立案から企画実行までをサポートしてきたのだそうです。

そんな立場にいて感じるのは、「広告がかつてのようには効かなくなった」という声が増えていること。しかし一方で、「広告ではないコミュニケーション」の効果は衰えていないどころか、高まっているともいえるといいます。

そこで本書では、広告的アプローチが効かなくなったという客観的な事実に着目し、いま起こっていることがらを冷静に読み解くところからはじめたのだそうです。また、社会において生活者のベースとなっているコミュニケーションのあり方についても分析し、さらには広告に代わって売り上げに貢献できるコミュニケーションについて解説しているのだといいます。

よくいわれるように、市場の成熟化、少子高齢化、ブランドの老齢化……と、現代の日本企業が直面している課題は多岐にわたっている。コミュニケーションの手法をあらためたからといって、そのすべてを即座に解決できるわけではないかもしれない。

だが、あらためてソーシャルメディア時代のコミュニケーションを見つめなおしてみて、企業と生活者との関係には、まだまだ大きな可能性があると感じる。あるいは、これまでは存在感を発揮しきれずにいた規模の小さな企業にも、今後は新たな可能性がもたらされるのではないだろうか。

本書ではそこに、私たちなりのひとつの解を示したつもりだ。

(「はじめにーーどうして『ちがい』が生まれたのか」より)

では、効かなくなった広告に代わり、どのような可能性が生まれようとしているのでしょうか? 第3章「広告に代わる『つぎのコミュニケーション』」のなかから、ヒントを探してみたいと思います。

「企業からのアプローチ」の3条件

生活者と企業を結びつけるために、もはや広告が最適ではないのだとすれば、今後は具体的にどのようなコミュニケーションをとる必要があるのでしょうか? この点についてまず重要なポイントのひとつとなるのは、「企業からの発信ではないほうがいい」ということだと著者は主張しています。

生活者達はすでに自己本位的にコミュニケーションしはじめているため、企業からの発信を受け入れようとしないから。もしくは、疑いの目を持って見る傾向があるから。

そのため、まずは「企業ではないほかの発信者」、つまりは「第三者」からの情報発信であることが求められるということです(当然ながら、ここにはクチコミも含まれます)。

発信する内容についてもそれは同じで、企業目線のものはあまり歓迎されないもの。「どうせ企業は、モノを売るために自分たちにとって都合のいいことをいっている」という猜疑心、警戒心のようなものがあるわけです。

事実、企業を含め特定の誰かだけに都合のいい情報は、生活者によって見破られ、場合によってはその事実がソーシャルメディアを通じて拡散され、すぐさま話題の外に追いやられてしまったりもします。だからこそ、発信する情報は、企業目線で都合のいいように演出を施したものではなく、客観性を担保できる「事実性」の高いものであることが求められるということ。

さらに、「マイクロコンテキスト(微細な文脈)」を踏まえていることも重要。今や生活者はさまざまな小さなグループのなかで、ある共通の価値観にのっとったコミュニケーションをしているもの。そのため彼らに受け入れられるためには、彼らの価値観や趣味に沿ったものでなくてはいけないということです。

いまの生活者にアプローチしたいなら、ターゲットとする小さなグループのなかで、けっして場違いにならないようなコミュニケーションをしなくてはいけない。そうやって「空気を読んだ」あるいは「空気に合った」情報を投げかけてはじめて、生活者はそれを「自分ごと」として受け止めるのである。

「第三者」「事実性」、そして「マイクロコンテキスト」——。

細かなポイントはほかにもあるだろうが、企業がいまの生活者にアプローチする際に最低限必要な条件は、この3つだろう。(79ページより)

そのため企業は、これらを満たしつつ情報を発信し、まずは生活者に受け止められなくてはいけないということ。そうしたうえで、クチコミによる拡散を目指すべきだというわけです。(76ページより)

「PR」は関係性をつくるもの

「事実性」はともかく、小さなグループにいちいち合わせるのは簡単なことではないでしょう。ましてや企業自身が発信者ではダメだとなると、「そんな条件を満たす手法があるのか」と思っても無理はありません。しかし著者によれば、そうした条件にうまく適応できるのがPRなのだそうです。

PRは「パブリックリレーションズ(Public Relations)」を意味する。

PR発祥の地であるアメリカのPR協会「PRSA(Public Relations Society of America)」では、パブリックリレーションズは、「組織とそれを取り巻く社会とのあいだに、相互に利益のある関係を築こうとする戦略的コミュニケーションのプロセス」であると定義されている。つまりは、広告や宣伝のようになにかを売り込もうとするのではなく、企業などの組織と、それを取り巻く社会的な存在とのあいだに、好ましい関係性をつくることをめざす活動なのである。(80ページより)

具体的な内容は多岐にわたるものの、原則的にはさまざまなメディアや専門機関、専門家に対して目的に即した情報提供を行うことにより、社会との関係をつくっていくということです。なかでも主要な活動となっているのが、商品や企業活動などに関する情報をマスメディアに提供し、それが報道されるように働きかける「パブリシティ」

実際にPR会社では、プレスリリースを作成したり、メディアが興味を持ちそうな情報を送付したり、メディア関係者にアプローチしたりしつつ、発信したい情報が記事や番組などのコンテンツのなかで取り上げられるように働きかけを行っているわけです。

とはいえソーシャルメディアが発達した現代においては、マスメディアを通じて情報発信しただけで、社会との間に好ましい関係が構築されるとはいい切れません。

また「炎上」などのリスクも考えると、コミュニケーションの「発信」よりは「効果」をより重視する必要性も出てきているとか。

個人の発信力が高まっていることもあり、生活者の生の声や生活者間の評判を交えつつ、企業の印象やイメージがかたちづくられていくのが現代のコミュニケーションの特徴。そのなかでの「社会との関係づくり」は、企業の経営を左右するものだといいます。

そして生活者が主役となった時代においては、企業は特別な存在ではなく、社会の一員であることが必要。利益を追求することのみにとどまらず、社会の発展に貢献できる存在であることが求められているということです。

このような背景を踏まえ、先ほどの「PRの定義」を現代に合わせると、次のようになるだろうと著者はいいます。

「パブリックリレーションズとは、組織とそれを取り巻く生活者とのあいだに、社会善を意識した相互に理想的な関係を築くべく、メディアや個人などの第三者の媒介を交えつつ、信頼にもとづいておこなうコミュニケーション活動である」(82ページより)

この価値観に基づき、企業として直接的に社会や生活者へ情報発信するのではなく、メディアのような中立的な存在に代わりに発信してもらうように働きかけていくということ。

そのために、メディアへの情報提供に加え、時にはイベントを企画、開催したり、コンテンツを制作、提供したりもすれば、生活者を巻き込んで商品の開発に取り組んだりもする。いわば、さまざまな方法を駆使して間接的に社会に働きかける。

そうすることで生活者との間に好ましい関係が築かれ、企業にとっての経営目標が達成されていくように仕向けていく、それがPRという活動だというわけです。(79ページより)




こうした基本的な考え方を軸に、以後もPRの有用性や、そこに絡まるリスクなどが解説されていきます。そして、その流れが「売り上げの上げ方」にもつながっていくということ。広告の先にあるものを見据えるために、手にとってみてはいかがでしょうか。

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Photo: 印南敦史

印南敦史

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