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「あなたはいつこの幼稚園を辞めるの?」マレーシアのローカル幼稚園は驚きの連続

「あなたはいつこの幼稚園を辞めるの?」マレーシアのローカル幼稚園は驚きの連続
ディーパバリというヒンドゥー教の祝日を祝う子供達の様子
Photo: 中川真知子

前回の記事では、マレーシア生活5年目の私がネガティブ引きこもりからポジティブに変化した経緯を書きました。今回は、私が息子をローカル幼稚園に入れた理由と、そこで知り合ったママ友たちを通して感じたマレーシアでの教育について触れていきたいと思います。

いじめがないって本当?

きっかけは息子が生まれる前。私が“ホームレス”となり、北海道の親戚にお世話になっていた頃です。何気なくテレビを見ていたら、教育移住したご家族を取り上げる番組が流れてきました。その時からマレーシアはやたらといい国だと宣伝されていて、「いかに子どもに優しく」「物価も安くて」「素晴らしい教育が他国と比べれば安価で」といった胡散臭いほどアゲアゲな内容でした。

「へーほー」程度な気持ちで見ていた私ですが、学校生活を紹介するシーンで耳を疑うような言葉が発せられました。

マレーシアの学校にはイジメがありません

そんなことって可能なの⁈ 宗教のおかげ? 20歳まで日本で過ごし、幼稚園から高校まで様々な形のいじめを目撃してきた上に、高校3年生では他クラスの女子グループから軽いイジメのターゲットにされたことがある私は、この一言で一気にマレーシアという国に興味が湧きました。

ローカル校の色々と私の幼稚園への希望

上記の経験から、マレーシアに来たからには、絶対にいじめゼロの秘密を探ろうと思っていました。そんな理由から息子の幼稚園はローカル一択

でも、ローカルといっても種類が豊富です。例えば、ざっくり分けてマレー系勉強重視の中華系。時間は昼まで夜まで。建物のつくりも校舎があるタイプ、一軒家のバンガロータイプ、ショッピングモールやオフィスビルディング、コンドミニアムの一角にある一部屋、ふた部屋タイプに細分化されます。

私は自然と動物が大好きなので、子どもにも外遊びをしながらいろんなことを学んでほしいと思っていたため、広い園庭がある幼稚園を望みました。そのほかの条件は以下の通りです。

外遊びは毎日。机に座らせて詰め込むお勉強系ではなく、遊びを通して生活の基礎とマナーを教えてくれる。体罰は無しCCTV(セキュリティカメラ)あり、英語教育。誘拐のリスクを考えて、目の行き届く少人数制

CCTVと英語教育を除けば、日本の一般的な幼稚園に見えますが、実はマレーシアでこういった幼稚園を探すのは一苦労。

特に外遊びを必須にするとハードルがグンと高くなります。というのも、デング熱ジカ熱といった蚊を媒介した病気を予防するために、遊び場は有害な生物を害のないレベルにする「ペストコントロールを定期的にする必要がありますし、外に出る前には虫除け日焼け止めクリームを塗ることが欠かせません。さらに短時間といえど、子どもの運動量と汗っかきなことを考えるとこまめに水分補給をさせなければならず、学校側の負担が増えてしまうので、外遊びはあっても1週間に1回だけ、しかも夕方30分のみ、なんてところも珍しくありません。

また、体罰も当然のように行われることがあり、厳しいといわれている中華系の幼稚園では定規を使って腕や足をバシッとやると聞きます。実際に私の友人の2歳半の娘が足に定規で叩かれた痕をつけて帰って来たことがありました(誤解がないように書くと、全ての中華系幼稚園が幼子相手に体罰をするのではなく、ひときわ厳しいところだったようです)。

幼稚園を見学しているときに案内をしてくれる先生に躾の方法を伺うと、「おいたをすると手のひらをつねります」や「生徒自ら腕を出させて定規で軽く叩きます」といった返事がかえってくることも。私が見学した幼稚園の中には、悪さをした子どもは一定の時間教室の片隅に設置された反省椅子に座らせる罰を与えるところがありました。

ちなみに、私にとっての必須条件ではありませんでしたが、モンテッソーリ教育に興味があったので試しにそのシステムを取り入れているという幼稚園に見学に行くと「週に1回アートクラスを設けていることをモンテッソーリの手遊びに関連づけているだけ」なんてことも。この手の「モンテッソーリ系」「モンテッソーリ・インスパイア」のカリキュラムは珍しくないようです。

それに、見学を重ねていくうちに加えた条件ですが、先生方の大体の勤続年数も重要です。今やどこの国でもそうだと思いますが、マレーシアでも教育はビジネス。先生はより良い条件の幼稚園や学校に移っていってしまいますし、幼児教育の経験が全くないような先生ばかりで構成されている幼稚園もありました。近所にある幼稚園は1年に何度も先生が変わるので、子ども達と先生の関係はとてもドライです。幼少期に親以外の大人と信頼関係を結ぶ上で、幼稚園ないし保育園の先生との関わりは大切ですが、そこは「教室にいる大人の監視員」と「客」のようでした。

結局、学費が高いことで有名な名門幼稚園からインターナショナルスクール、参考までに一部屋幼稚園から中華系の厳しい幼稚園まで色々と見学しましたが、どこも一長一短。自分的には最も条件から遠いと思っていた一部屋幼稚園のきめ細やかで行き届いたケアに感動したこともあれば、人気のブランド幼稚園の「金儲け臭」にガッカリしたこともありました。

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園庭にシートを敷いて太陽の下でお勉強
Photo: 中川真知子

マレーシアの常識、やっと入れても幼稚園は安住の場所ではない

息子の幼稚園は、セキュリティ重視の一部屋幼稚園希望のローカルママ友に教えてもらいました。「私には全く合わないけれど、あなたが好きそうな幼稚園を知ってる」とのこと。入園してから知ったことですが、実は知る人ぞ知る幼稚園で「妊娠がわかると同時にウェイティングリスト」なんだとか(実際、妊娠19週目の胎児がウェイティングリスト! )。想像するに、息子は外国人枠並びに約30年ぶりの純日本人というレア度ゆえに入園できたのではないかと思います。もしかしたら、一生分の運をここで使い果たしてしまったかもしれません(もう宝くじは絶対に当たらないと思う)。まぁ、とんでもなく恐ろしく倍率の高い幼稚園なわけですが、入園してすぐにあるママ友から驚くべき質問が飛んで来ました。

いつ退園する?

ついさっきまで「入園できて本当に良かった〜」という話だったのに、なぜ退園なんて言葉が出るのでしょう。「え、なんでなんで? 入園したばかりだし、卒園はまだ先でしょ。何もなければ卒園までここにいるよ」無事に入園できてほっと胸をなでおろし、これからしばらくはゆっくりできると考えていた私には晴天の霹靂でした。

しかしマレー系、中華系、インド系、外国人で構成されていて、それに対応する教育機関が用意されているマレーシアでは、家族の背景懐事情子どもの適性を考えて早い段階から小学校を決めるそう。英語のほかにマレー語中国語タミル語を話し、学校の入学条件によっては小学校入学までに二か国語話せないといけないなんてことも珍しくないので、言語習得には本気です。

そのため、例えば中華系の公立に行くなら中国語をある程度マスターさせるために途中から中華系のお勉強重視な幼稚園に転園させたり、インターナショナルスクールなら、小学校に入れるために幼稚舎から通わせる必要があると言って転園したりしていきます。マレー系の公立でも、教育水準が高く人気の学校は試験があるので、お受験準備をするそうです。

息子の幼稚園は8時半から12時半の4時間のみ。ゆったりしていて私も息子も気に入っていますが、中華系やインド系といった勉強重視の幼稚園に転園していく子どもの親御さんから「早く夢から冷めさせて現実を見せなきゃね」といった内容を言われると、無性に焦って自分の教育理念(そんな大層なものではありませんが)が揺らぎます。

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遊びを通して学ぶだけじゃ足りない。子どもたちはそれぞれの道を進む…。
Photo: 中川真知子

どの小学校に通わせるべきか

一言で小学校といっても、それに公立、私立、インターナショナルスクールといっても、人種や国籍によって経験した、することは様々だとママ友らは言います。聞いて興味深かった友人の教育観を少し紹介します。

ママ友の中にひときわ裕福な人がいますが、彼女は子どもをインターナショナルスクールに通わせずローカルに行かせると言います。その理由は、インターナショナルスクールの子どもは遅かれ早かれマレーシアを離れてバラバラになってしまうから。自分たちは地元で生きていくので、地元の友達を数多く作ってあげたい、というものでした。

同じローカルでも、中華系のママ友は多国籍が在籍しケアが手厚い私立を希望していました。彼女はクアラルンプールから離れたエリア出身ですが、自分が通った学校では高学年になると成績に関わらずマレー系と中華系でクラス分けが行われ、それまでトップクラスにいたにも関わらず人種が理由で下から二番目のクラスにされてしまったそうです。子どもにはフェアな環境で学ばせたいと強く願っており、公立では叶わないと考えているといいます。

将来夫側の母国であるイギリスに移ることを見越して、インターナショナルスクールに通わせる人もいます。マレーシアのインターナショナルスクールは「イギリスやアメリカと比較すれば安い」と言われますが、必ずしもそうではなく、トップ10となるインターナショナルスクールだと小学校低学年の1年間費用がイギリスの大学の1年の学費よりも高いなんてこともザラ。こういった学校に通わせられるのは、会社が学費を負担してくれる駐在員や一部の超裕福層と言われています。友人は自腹で通わせていますが「学費のために臓器売らなきゃ!」だそうです。

ただ、将来留学させたいなら絶対にインターナショナルスクールでないといけないというわけでも無いようです。というのも、パパ友の中にはローカル学校を卒業してハーバード大学スタンフォード大学マサチューセッツ大学ストレート入学した人たちがいます。アメリカ同時多発テロ911があった頃にお互いアメリカにいたため、思い出話から大学時代の話になったことで知ったのですが、彼らは教育にお金をかけまくってアメリカに行ったわけではないそうです。

「将来的にアメリカの大学に通わせたいからとアメリカン・シラバスのインターナショナルスクールに通わせる必要は無い。ただ、絶対に必要だと言えるのは英語教育。自分はインド系なのでタミル語を話すが 、英語が第一言語で家庭では徹底して英語が話されていた」と言っていました。

もちろん、英語を勉強した=アメリカのエリート大ではないでしょう(だったら英語圏の人はみんなアイビーリーグです)。しかし、将来的に子どもを世界で通用するくらい大きく羽ばたかせたいなら、母国語を二の次にする覚悟も必要だとアドバイスされました。

選択肢が豊富ということ

ローカルの親友(おやとも)と学校の話をしていると、この国の教育における選択肢の多さに心底羨ましくなります。繊細な子ども、リーダーシップを発揮したい子ども、集団が苦手な子ども、学習障害がある子ども、どんなタイプの子でも手を伸ばせば個性を活かす学校に通わせることができるのですから。

実は私たち家族は今年日本に帰ることが決まっています。それは息子の教育と私のひとり娘としての責任、経済状況、夫婦のキャリア諸々を考えたうえでの判断です。しかし、今はそれが正しいことのかどうか正直分かりません。日本人との交流が殆どなく、マレーシア文化にどっぷりつかった息子が日本に適応できるのか、今のランゲージ・スキルを維持できるのか、将来的に留学させるほどの学力を日本でつけてやれるのか…。去年報道された「髪色が明るいから登校させない」という日本の学校のニュースを聞き、多様化を認めない日本の教育現場のあり方にウンザリしているのも否めません。

こういった状況を踏まえ「選択肢が多いこの国に住むあなたたちが羨ましい」と素直に口にすると、彼女たちは彼女たちで選択肢の多さに「これという答えがないから常に不安」で、むしろ「この学区ならこの学校、と国が決めてくれるシステムだったら親の心理的負担は少ないでしょ」と言います。

後日、この言葉を身をもって経験する出来事がありました。というのも、毎日のように揺れ動く私を心配して、ある時、夫が私と息子だけマレーシアに残って学ばせても構わないと言ったのです。

その瞬間、目の前に途方もない数のマレーシアン教育オプションカードが並べられた気がしました。万が一の可能性を考えて色々と調べてみましたが、今度は費用と入学の為のスキル不足という現実を突きつけられえ頭を抱えました。外国人なら基本はインターナショナルスクールですが、学費はバカ高い上に必ずしも親が満足する素晴らしい教育が受けられるわけでもない。ローカルに入れるのは不可能ではないけれど、ビザを切り替える必要がありマレー語は授業に付いて行けるほどのレベルが必須。

いわゆる学校ではなく、塾のようなラーニングセンターと呼ばれるところに通わせたり、ホームスクーリングで家庭教師をつけつつ入学に向けてみっちり詰め込みをしたりすることも可能ですが、集団の中で学ぶことの多さを考えると、それも正解とは思えないーー。

豊富な選択肢の中から「我が子にはこれ! 」と言える学校を探すためには、子どもの適性の把握学校が提供してくれるものへの正しい理解、それに対する綿密な準備潤沢な教育資金、そして親の惜しみない送迎苦労が欠かせません。私にこれができるのか?という問いを前にして、初めて「日本の学校が良いかも…」と思いました。

私は日本の「こうあるべき」なあり方に強い不満を持っていましたが、この国がある程度定めたレールを取っ払われた瞬間、どうしようもなく不安になりました。同時に、自分が求めていた自由が、言うならば「仕送りを貰いながら自立したと思い込んでる学生」レベルだったことにも気づきました。本当の自由は責任が伴って怖い、と言いますが、私はわかっているようで、まるでわかっていませんでした。「さぁ、あなたの子どもの人生を自由に決めて良いですよ。こんなにカードがあります!」とされたその瞬間まで、本当の自由と責任感を知らなかったように思います。

ママ友らが私より若くても遥かにしっかりしているのは、覚悟の違いなのでしょう。幼稚園生活3年目ですが、毎日が驚きの連続です。

さてさて、今回も随分と長くなりました。次回は私が2年ちょっとかけてリサーチ(?)した「イジメが無いのは本当か」と「多様性」について書いていきたいと思います。ではまた来月!

中川真知子 | Twitter

1981年、神奈川県生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。評論家を目指していたが、とある映画関係者から「作る苦労を知らずに映画の良し悪しを語るな」とアドバイスされ、帰国後はアニメ会社GONZOで制作進行を務める。結婚を機にカナダに引っ越し、オーストラリアではVFXスタジオのAnimal Logicでプロダクションアシスタントを経験。その後、オーストラリアでソーシャルワーカーと日本語チューター、Kotaku Japan翻訳ライターの三足のわらじを履き、夫の仕事に合わせてフロリダに引っ越す。現在はマレーシアでゆったり子育てを楽しみつつ、GIZMODO JAPANとライフハッカー[日本版]、金融サイトのZuu Onlineで執筆中。好きな動物はヒグマ、爬虫類(ワニ、コモドドラゴン)、両生類。好きな映画ジャンルはホラー。

Photo: 中川真知子

Reference: Wikipedia

中川真知子

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