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自転車をそのまま持ち込める電車「B.B.BASE」が運行スタート。開発に関わった人たちの思いとは

自転車をそのまま持ち込める電車「B.B.BASE」が運行スタート。開発に関わった人たちの思いとは
Photo: 今井麻裕美

オランダをはじめ、ヨーロッパでは自転車を快適に乗るためのインフラが整えられており、羨ましく感じてしまいますが、日本でも自転車をそのまま持ち込める電車、「B.B.BASE」が1月6日から運行を開始します。

これまでのように電車に乗り込むときに自転車を折りたたんだり輪行袋に入れたりする手間はいらず、組み立てなしですぐにサイクリングコースに乗り出していけるというもの。普段乗っている「愛車」とそのまま移動して、首都圏から千葉県の房総半島の各地でサイクリングを気軽に楽しむことが可能になります。

また、ライフハッカー[日本版]では移住にもフォーカスしていますが、「B.B.BASE」運行の背景にはスポーツーリズムの推進のほか、地域活性化のねらいがあるとのこと。そんな「B.B.BASE」についてJR東日本千葉支社の方々にインタビューを行いましたので、体験で実際に乗ってみた感想とともにご紹介します。

至るところに感じる自転車のために作られた電車ゆえの快適さ

体験では始発駅の両国駅から、途中の千葉駅まで乗ることができました。実際は館山駅や和田浦駅に行く「内房コース」、勝浦駅まで行く「外房コース」、銚子駅までの「銚子コース」、佐原駅までの「佐原コース」と4つのエリアに行くことが可能。行き先は運転日によって変わるので、どこのエリアを楽しみたいかを自分の行きたい日程に合わせて検討することになります。

また、現状は旅行ツアーとしての商品なので、日帰りプランのほかに房総をより満喫できる温泉宿泊などと組み合わせたプランも用意されています。

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Photo: 今井麻裕美

両国駅に「B.B.BASE」が入ってきました。

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Photo: 今井麻裕美

電車としては珍しい、都会的でシックなカラーに自転車のイラストやロゴが描かれたオシャレなデザイン。非日常な旅の始まりを感じ、乗車前から気分もアガるというものです。

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Photo: 今井麻裕美

乗り込んだら専用のスタンドに自転車を固定します。後述しますが、このスタンドは数々の試行錯誤の上に開発された「B.B.BASE」独自のもの。

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スタンドに前輪をはめこみます。
Photo: 今井麻裕美

固定できる自転車は、タイヤとフレーム、ハンドルの大きさによりますが、18インチから可能です。

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仕上げに車体をベルトで固定。
Photo: 今井麻裕美

前輪をはめこんで車体をベルトでとめる2ステップでしっかりと固定されますし、降車のときに外すのも簡単。電車が動いているときはもちろん、衝撃を受けやすい発進と停車のときも見ていましたが、グラグラ大きく揺れるようなことはありませんでした。

自転車を立てることでスペースもとりません

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Photo: 今井麻裕美
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Photo: 今井麻裕美

座席は全席指定席。テーブルを囲むような形なのでグループで行っても話が盛り上がりそうですし、一人旅でも自転車という同じ趣味を通してコミュニケーションが生まれそうです。

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Photo: 今井麻裕美

各席には電源がひとつずつついているので、電子機器の充電も安心。

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Photo: 今井麻裕美

4号車の車両はイベントスペースになっています。自由に座れるのでさまざまな乗客が集まって語り合う場所になるほか、大きなモニターが4つ取り付けられているので、上映会や広いスペースを活かしたさまざまな催し物の会場になることが想定されているそう。

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Photo: 今井麻裕美

向かう先の地元の方々によるイベントや自転車メーカーによる展示会など、色々な使い方が考えられます。乗車時間は2時間くらいの長さがあるので、楽しめるような仕掛けを考えていきたいそうです。

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運転室
Photo: 今井麻裕美

まさに「サイクリストのために作られた電車」ということを実感したわけですが、運行にいたるまでの背景には、何があったのでしょうか。

コンセプトは「移動基地」

まずはコンセプトについて営業部販売課の山田さんにお聞きしました。「B.B.BASE」のコンセプトは「移動基地」。なぜそのような発想になったのかというと、列車はサイクリストにとってはサイクリングを楽しむところへ移動するための移動手段ですが、全ての座席に自転車を搭載でき、現地に着いたらすぐにそのまま走り出せることをイメージしたときに『移動基地』というコンセプトがピッタリではないかとなったそう。

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Photo: 今井麻裕美

基地らしさは、色使いなどシンプルなデザインでも表現しているとのこと。確かに駅に入ってきたときにも落ち着いた色によるインダストリアルなカッコよさが感じられました。

また、「B.B.BASE」は既存の車両を改造して使っているそうです。そのため、改造には機能上の制約があり、どこまで理想に近づけるのか関係者間で調整するのに苦労したとのこと。

構造のこだわりと立ちふさがる壁

「B.B.BASE」で気になるのは、自転車をそのまま乗せても安心なよう、構造上どのような工夫をされているかという点でしょう。運輸部車両課の田口さんにお聞きしました。

開発の際に、限られたスペースで多くの自転車を搭載しつつ、ゆったりとした空間を捻出するというのが前提条件としてあったので、省スペースで自転車を配置する必要があり、まずは自転車の配置方法で試行錯誤が行われたそうです。「出入りドアを数か所閉鎖する」「ロングシートにして、車両の片側に寄せて配置する」 「クロスシートにして、進行方向に対して斜めに配置する」 など、床に水平にまたは角度をつけて自転車を置く形で検討していたとのこと。しかし、「スペースが確保できない」、「乗降に時間がかかる」、「自分の自転車を置く場所を探そうとして車内が混乱する」などの懸念がありました。

またスタンドには簡単に自転車の取り付けと取り外しができる「操作性」も必要です。乗降時なのでスムーズにできないと最も混んで混乱しそうなところですからね。実際、京浜東北・根岸線を走る209系電車を用いてサイクルトレインを運行していたときもあるそうですが、つり革に自転車のハンドルを固定するために少々手間がかかっていたのだとか。そのため、自転車の積み降ろしは始発駅や終着駅といった時間がとれる駅に限られていたとのこと。そこで「B.B.BASE」では、「気軽」に、かつ「スピーディー」に「乗客自身が自転車をのせたり降ろしたりが出来る」ことを目指したそうです。

さらに、鉄道車両の最優先事項として、安全性は欠かせません。安全に乗ってもらうため、列車走行中の三次元の揺れに対して「自転車が脱落しない」「スタンドそのものも破損しない」「中長期的に継続して使用できる」ということを、ほかの要求事項と共にクリアする必要があります。

これらの課題を検討した結果、客室内で「縦に自転車を搭載」、「自転車を固定するスタンドは、出入りドアから入ってすぐ」、「スタンドを強固に取り付けできるクロスシート」というレイアウトで進めることが決定したそうです。縦に自転車を配置できるスタンドは既製品で存在はしているものの、動的な環境下での使用を目的としてないため、新たに設計・開発する必要があったのだとか。ところが、自転車スタンドを新規に設計することが決まってから、すでに残された時間はたったの半年。

自転車のスタンドはオリジナルで開発

残された時間が少ない状況でスタンドの開発が進められました。安定して自転車を縦に固定できるポイントは「前輪の動きを抑えて固定する」という仕組みがベストと考えられたので、まずはヨーロッパなどで一般的な「前輪を吊り下げる」方法を検討したそう。しかし比較的安価とはいえ、カーボン製のリムへの傷入りや割れが懸念されたので断念することになりました。リムとは車輪の外周のリング状の部分で、外側にタイヤを装着する部品のことです。とはいえ、直接自転車のフレームやフォーク、ハンドルなどで荷重を受けると、やはり傷が入ってしまうリスクがあります。

そこでとったのは、前輪のタイヤ部分で荷重を受けるという方法。小径から大径のものまで色々なサイズのタイヤに対応するために、前輪を受けるガイドフレームをタイヤサイズに合わせて2段階に引き出す方式に。そして部材にはステンレスを使用し、強度の必要な部分はしっかりと板厚を設けて、強度を確保したそうです。

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Photo: 今井麻裕美
ガイドフレームをたたんでいる状態。黄色いつまみをひっぱって展開する。
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1段階目。子ども用の小さいタイヤの自転車や小径車はこの状態で使用。
Photo: 今井麻裕美
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2段階目。大人が使う通常のサイズの自転車はこちらで使用。
Photo: 今井麻裕美

ところが、スタンドが形になってきたときに「最近のロードレースタイプの自転車は、前輪とフレームの隙間が狭い形状」という情報が入ってきました。しかし設計中のスタンドは、前輪荷重を直接受ける部分が樹脂性のローラーで、最近のトレンドの自転車は搭載できない可能性があることが判明。

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Photo: 今井麻裕美

そこで急遽、厚みの薄いベルトタイプに変更することで、なんとか課題をクリアすることができたのだそう。

「このように短い時間で壁にぶつかりながら開発を進めてきましたが、かなりインパクトのある、面白みのある車両になったのではないかと感じています。スタンドがそびえ立つ移動基地に愛車をセットし、房総に発進する。鉄道車両と自転車の接触点を創り出せたことが喜びです」と語る田口さんの言葉には、これまでの苦労と実現した喜びが感じられました。

「サイクリストの聖地」を目指して

「B.B.BASE」の乗車には、5日前までに申し込みが必要です。今回実際に乗車してみて思ったのが、水木あたりに「今週末は晴れだし、ふらっと愛車と旅をしたいな」という気持ちになりそうということ。天気や仕事の状況次第で直前でも予約ができるといいのですが、営業部販売課の吉橋さんによると、自転車のサイズなど普通の旅行商品に比べて注意事項が多いため、中身をきちんと理解し、了承した上で乗って欲しいので、現時点では旅行商品のみにしたとのこと。せっかくいいものなのにと残念に思いました。ただ、運行開始後の反応やニーズなどをふまえて、購入形態に限らず求められるものがあれば検討していきたいそうです。

また、今後は「サイクリストの聖地」を目指していくという言葉が印象的でした。サイクリストの聖地というと、広島県の尾道から愛媛県の今治までを通る「しまなみ海道」をイメージしてしまいます。行ってみたことがあるのですが、私は普段自転車に乗らないものの、トラブルがあったときボランティアによる工具レンタルやトイレの提供、道に迷わないように道路の色分けなど、旅行者でも安心できるサポートが充実しており、何も特別なことをしなくても楽しんでこれました。

吉橋さんも「しまなみ海道」の視察を行い、サイクリストにとって本当に魅力のある場所だと感じ、関わる人たちにも話を聞くなかで、現在の「聖地」の姿は多くの人たちが協力をし、時間をかけていくことで創りあげてきたものだと学んだそうです。よって、房総でもしまなみ海道と同じように、自治体や観光施設の方々や房総に住む人々と一体となって、創り上げていくことが大切であると考えているとのこと。

よって房総のサイクリングコースでも、自転車のタイヤに空気を入れられるところや、「エイトステーション」と呼ばれる、サイクリストをサポートするために協力してもらえる施設が用意されているそうで、まずはそこからと考えているのだとか。とはいえ、進む道は同じでも、たどり着くゴールはしまなみ海道とは違う形でもいいとも思っているそうです。

房総のサイクリングに関わる皆様が幸せになれるということが、サイクリストの皆様を迎え入れ、最終的にサイクリストが必ず訪れたいと思う『聖地』になると考えています。そこに弊社のB.B.BASEが力添えできればと思っております」と吉橋さん。

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Photo: 今井麻裕美

房総半島は比較的平坦な地形が多く、風光明媚なところも多いのでサイクリングには適している地域。「B.B.BASE」では用意されている4つのコースでそれぞれ特色や押しているものが違うので、より多くのエリアにきて欲しいと思っているし、利用状況や意見も反映させて、地域も一緒に活性化していけたらと考えているとのこと。

今の季節、房総といえばイチゴ狩り。すでにシーズンが始まっていますし、南房総は花の栽培も盛んな地域。これから菜の花なども見頃になってきます。自転車に乗れば、全身で春の訪れをはじめ、季節の移り変わりをより身近に実感できますね。休日の過ごし方に新しい選択肢のひとつとして加わりそうです。

予約は「えきねっと」でインターネットから、もしくは「びゅう予約センター」(0570-04-8928)に電話することで申し込むことが可能です。


Photo: 今井麻裕美

Source: B.B.BASE | JR東日本旅客鉄道株式会社千葉支社

Reference: えきねっと, Wikipedia 1, 2

今井麻裕美

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