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「与える」思考を持てば、周囲との相乗効果で良質なパフォーマンスを発揮できる

「与える」思考を持てば、周囲との相乗効果で良質なパフォーマンスを発揮できる
Photo: 印南敦史

「与える人」が成果を得る』(辻 秀一著、ワニブックス)の著者は、メンタル・トレーニングによるパフォーマンス向上を専門とするスポーツドクター/産業医。「心理学」と「人間が成長するためのフロー理論」を駆使し、企業やビジネスパーソン、アスリート、芸術家、アーティストのパフォーマンス向上に務めているのだそうです。

そんなキャリアをベースとして書かれた本書は、「与えることで成果が得られるカラクリ」を明かしたもの。というのも、「与えること」には自分自身のパフォーマンスが上がるというメリットがあるというのです。

「金品などを相手に与える」という他動詞的な与え方は、心を乱す原因になるかもしれません。しかし「なにを」という目的語を必要としない「自己完結型の与える思考」は、心を整え、安定させてくれるということ。だとすれば結果的には、与えることによってパフォーマンスが上がることにもなるわけです。

ところで著者は、「与える」には、「感謝する」「応援する」「思いやる」と3つの原則があると主張しています。そして、そんな考え方を軸に、本書においては「与える思考が、ハイパフォーマンスを実現する仕組み」「与える思考を習慣化するコツ」「与えることで、モチベーション、集中力、行動力、実行力、人間関係力を高める技」「与えることで、心配事を足り切る方法」を紹介しているのだそうです。

でも、与えることが本当に成功につながっていくのでしょうか? その点を確認するために、CHAPTER 1「『与える人が成功する』という通説は本当なのか?」を見てみたいと思います。

「いただきます」という言葉から、ハイパフォーマンスの仕組みがわかる

食事の前に「いただきます」と手を合わせて感謝することは、日本人が昔から行なっている当たり前の習慣。しかしそれは、ベストパフォーマンスを生み出す言葉でもあるのだと著者は主張しています。「いただきます」と手を合わせるとき、そればかりか「いただきます」とただ考えるときにも、パフォーマンスは確実に上がるというのです。

これは「ライフスキル」という、脳の使い方による効果です。

ライフスキルとは、言葉の通り「生き方の技術」です。自分らしく生きるための方法とも言えます。

ライフスキルとは、「心の状態」を整えるための脳の使い方になります。

(16ページより)

心の状態を整えることが、自分らしく生きることにつながるとは、ちょっと不思議な気もします。しかしそれは、人間のパフォーマンスが心の状態に大きく影響されるからだというのです。

心の状態には、「フロー」と「ノンフロー」の2種類しかないのだそうです。簡単にいえば、フローとは“機嫌のいい感じ”で、ノンフローは“機嫌の悪い感じ”。そして当然ながら、心が整っているとは、「心がフローで、機嫌がいい感じ」のこと。心がフローであるなら、自分の機能が上がり、能力を発揮できるということ。つまり、ベストパフォーマンスを発揮できるというわけです。

ライフスキルを使って心がフローになっているときは、モチベーション、やる気、集中力、行動力、執行力、判断力、決断力もアップして、自分のベストパフォーマンスを引き出せる状態になるでしょう。そうして自らの機能を高めて生きることができるのであれば、それは自分らしく生きていることの証だということです。(16ページより)

「与えよう」と考えるだけで成果が得られる本当の理由

いうまでもなく、成功しているビジネスパーソンや一流のアスリートだからといって、常にベストパフォーマンスを生み出せるわけではありません。彼らも緊張や悩みごと、心配ごとで心が乱れたり、思うようにことが運ばず、不機嫌になったりすることはあるわけです。しかし彼らは、自分で自分の心の状態を素早く切り替え、フローなほうに傾ける技を身につけているというのです。

重要なのは、モチベーションが上がらないからパフォーマンスが上がらないのではない、ということ。あるいは、心配事があるから、パフォーマンスが下がるのではないということ。そうではなく、心が乱れたノンフローな状態でやるから、パフォーマンスが上がらないわけです。シンプルな話ではありますが、多くの人はなかなかここに気づけないものなのだそうです。

人間の脳は、もともとノンフローな状態をつくりやすいようにできています。しかしその一方で、フローな心をつくるライフスキルという機能も兼ね備えています。

ただし、ライフスキルが働いていない人は、機能が退化し、サビついているのでうまくパフォーマンスを発揮できません。

本書でみなさんにお伝えしたいのは、

「サビついて退化しているライフスキルを鍛え直し、自分の機能を上げて、毎日元気に、機嫌良く生きていきませんか」

ということです。

(19ページより)

よいパフォーマンスを生み出すことができれば、おのずとよい結果がついてくるもの。いってみればライフスキルは、人生の質をよくする重要なカギになるのだと著者はいいます。(18ページより)

「いいこと」をすれば「いいことが起こる」と楽観しない

冒頭でも触れたとおり、成功の要素として「与える」というキーワードが注目されているのだそうです。とはいえ本書で著者がいう「与える」思考とは、欲しいものを得るための方法論ではないのだといいます。

人は、「相手の喜びを自分の喜び」として感じることができます。たとえばプレゼントをあげた結果、相手が喜んでくれたとしたら、それだけで自分もうれしくなれるわけです。それどころか、「プレゼントをあげよう」と計画するだけでも、なんとなく幸せな気持ちになれるのではないでしょうか?

見返りなどなくても、相手が喜んでくれるという事実だけで自分もうれしくなる。具体的に何かを与えなくても、「与えよう」と考えているだけで、気分が良くなるのです。(20ページより)

著者によれば、これは「フォワードの法則」と呼ばれているものなのだそうです。与えることによって、自分自身がフローになるという考え方です。(20ページより)

ハイパフォーマンスを実現する「与える3原則」

「感謝」「応援」「思いやり」

これが、私の考える「与える3原則」です。

(21ページより)

「ありがたい」と考える。

「がんばれ」と考える。

「思いやろう」と考える。

ただ主体的に「与えよう」と考えるだけではあるけれども、そのように自分から「与えよう」と考えるだけで心の状態が整い、エネルギーが高まるといいます。いわばお金や物を与えることではなく、「与えると考える」ことが重要だということ。

しかもそれは「いいことをすれば、いいことが起こる」という意味ではないそうです。「与える」思考は自分の心を整え、「自分」という人生の試合に勝つための基本となる成功思考だということ。

与えると考えることは、相手のためになるでしょう。しかしそれは、なにより自分のためになるという考え方。このような考え方こそ、まさに「与える」というライフスキル。そして、自分の思考のエネルギーによって自分の心にフロー化を起こすスキルだということです。

大きな視野で考えれば、「生きる」こと自体が人間のパフォーマンス。「自分から与える」という主体的な生き方をしていれば、結果的に周囲もフローになり、相手の人生を豊かにしていくこともできるというわけです。

そして、このようなフローの好循環を生み出せることを、著者は「リーダーシップのある生き方」だと考えているのだそうです。質のよい仕事、質のよい人間関係、質のよい成果、質のよい人生を望むのであれば、「なにを」与えるのか、「なぜ」与えるのか、「どうやって」与えるのかという認知的な思考から離れ、「ただ与える」という思考法を習慣化していくべきだということ。

「与える」思考でフローの好循環に乗れば、周囲との相乗効果で良質なパフォーマンスを発揮できるということです。(21ページより)


さまざまな意味において利他的な価値観が注目されていますが、著者はその本質をわかりやすく解説した書籍だといえそうです。本書を通じ、いまこそ意識すべき「与える」ことの重要性をぜひ意識してみてください。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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