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マネー特集─今さら聞けない、お金の疑問

「民泊新法」で、副業&住まいのコミュニティ化が加速する?

「民泊新法」で、副業&住まいのコミュニティ化が加速する?
Images: Shutterstock.com

生活する」のって、どうしてこんなにお金がかかるんでしょうか?

特に東京で暮らしていると、家賃のために働いているような気持ちになる時もあります。部屋を空ける時間は多いけれど、安くて条件の悪い部屋に住めばいいって訳でもないし、家を買うとしても、自分がなにをしているのかさえ想像できない何十年先まで続くローンのことを考えると二の足を踏んでしまいます。

ああ、暮らしや住まいにまつわるマネーハックはないものか…。

そんな時に、2018年6月15日に施行される民泊新法(‎住宅宿泊事業法)で、副業として民泊が行いやすくなりそうだ、なんて話を耳にしました。これまでライフハッカー[日本版]でも、民泊物件の探し方選び方については紹介させていただいていますが、新法施行でそれらはどう変わるのでしょうか? 専門家に聞いてみることに。

お話を伺ったのは、簡易宿所・合法民泊の立上・運営及びサポートを行う株式会社「TAROコーポレーション」代表取締役・児山秀幸さん。同社は、鎌倉でゲストハウスの運営も手がけています。

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児山秀幸(こやま・ひでゆき)
1964年東京都新宿区生まれ。千葉大学法経学部法学科卒業。簡易宿所や合法民泊のコンサルタント。不動産業界紙・週刊住宅に「民泊革命」「民泊大学から」を連載。Facebookグループ「簡易宿所・民泊ビジネス研究会」を主宰している。民泊関係者の交流会や民泊新法、旅館業法、特区民泊などに関するセミナーも開催。 マンスリー賃貸、シェアハウスを中心とする不動産活用や相続の相談にも乗り、大都市・地方の空き家活用、旅館再生などを得意とする。

「民泊新法」施行でどう変わる?

ーー「民泊新法」施行で、具体的にこれまで何がどのように変わりますか? これから始めたい人の参入ハードルは下がるのでしょうか?

ハードルが下がるというよりは、民泊が抱えていたグレーな部分が少なくなるということだと思います。これまで合法的に民泊を運営しようとすると「旅館業」の許可や「特区民泊」の特定認定が必要でした。これらは条件が厳しいため無許可で民泊が行われることも多かったのですが、ここ数年の民泊ブームも手伝って、ここにきてようやく新しい法律「住宅宿泊事業法」、いわゆる民泊新法が来年施行される…という流れです。

噛み砕いて言うと、新しい法律ができて合法的に運営しやすくなりますよということ。もちろんこの法律もかなり条件を絞っていて、必ずしもすべての民泊をOKにしてくれる訳ではありません。1年間で180泊という制限があって、1年間の半分は稼動できないことになります。

ーーこれまでいわゆるグレーで民泊を行っていた人たちのように「がんがん稼働して儲ける」ことはできないということでしょうか。

これまでより儲けられる、とはいえないでしょうね。3年くらい前だと、月10万円くらいの家賃で部屋を借りて、民泊運営代行の会社に依頼して清掃もやってもらって30万程度の売り上げがありました。当時、代行会社は報酬として30%程度取っていたので手数料9万円として、清掃代が3、4万程度。つまり月の運営費が12、3万円なので月5万以上のプラスになりますといったシミュレーションをよくしていました。それだけの売り上げが上がることは1年以上前の段階でなくなっています。というのも、この4年でかなり民泊物件が増えたからです。

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データ提供: TAROコーポレーション

どれくらい増えたかというと、2013年の12月にAirbnbサイトの日本語版ができて、次の年の儲かると言われ出した2014年暮れには約5000件の民泊登録がありました。それが2015年の年末には2万5000件くらいまで増えて、2016年には4万件。今年の末には5万件を超えています。登録物件数が3年前の約10倍になっていますので、ばっとやってばっと儲かるというのは難しい状況になっています。

よく聞く「民泊を始めるなら、新法施行のタイミングがチャンス」という言葉には、代行業者の思惑も含まれているので鵜呑みにするのは危険というのは、民泊を長くやっている人たちの共通の意見ですね。

これから民泊を始めるとしたら…

ーーその一方で、民泊を始めたいという人に向けたビジネスも増えてきていますよね。民泊許可の物件を紹介するサイトだとか。

その場合の「民泊許可」という言葉は、すこし誤解されやすいと思います。大家さんがOKを出していることを「民泊許可」物件と表現していますが、現状では、その上で合法的に民泊を始めるのに保健所の許可、「旅館業法」の許可が必要なんです。

マンションだと、管理組合が禁止していないことが条件になっています。保健所の管轄によっても判断が変わりますが、マンションの一室は認めてないところが多いんですよ。東京都では北区では取れていますが、そういった物件は全国的には少ないです。なので、勘違いしたまま民泊を始めて、保健所に通報がいって撤退しなければいけない…なんてことも。

「旅館業法」の許可を取らなければそのぶんコストは下がることにもなるのですが、たとえば始めたその日に通報されたりすると、初期投資が全部無駄になります。それではただのギャンブルですね。

ーー来年から民泊を始めるとしたら、初期費用はどれくらいかかる?

民泊新法では「家主居住型」「家主不在型」の区分があって、「家主居住型」であれば届け出だけで始められます。この居住型であれば、ホームステイと同じように自宅にゲストを招き入れる形になるので新たに部屋を借りて…といった費用はかからない訳です。なので、いま住んでいる場所、自宅の空いている部屋でやりたい、ということであれば初期費用はベッドや寝具、リネン類で5万円前後しかかかりません。

「家主不在型」でイチから賃貸で始めようとするなら、家財道具が50万円くらい、消防対応が20〜50万円程度かかってくるので、普通の敷金礼金あわせて初期投資として100万前後かかるでしょうね。

ーー民泊物件の増加に宿泊日数の制限と重なると、初期投資を回収するのに時間がかかりそうですね。

そうですね。これから物件を借りて副業として成り立たせるというのは都市部では難しくなっているという印象です。東京でいうと新宿区と渋谷区、大阪だと市内の中央区に民泊が集中しているのですが、その辺りは飽和状態に近いので、イチから利益を出すとなると難しいところですね。仮にやるとしたら「田舎」でですね。ものすごく安い家賃で借りることができて、ある程度人の行き来のある場所であれば、180泊フルで入れなくても十分利益がでるかなといったところ。

都市部で「家主不在型」を考える方は年180日の規制がある民泊新法より、来年6月民泊新法施行と同時に規制緩和される「旅館業」の許可を取得することをおすすめします。許可を取ると初期費用はかかりますが、それでも投資の観点からいうと、年間の利回りが20%という物件もありますので、10%を切ってきている普通の不動産投資と比較すると悪くないと考えています。

ーーそれは、具体的にはどんなところですか?

船橋駅徒歩23分、4LDKの一軒家を具体的な例として出したいと思います。普通に考えると、どうしようもない場所なんですが(笑)、もともとご両親の自宅として使っていた家を、ご両親に1部屋残して、残りの2階の3部屋を簡易宿所にしたらいいんじゃないかと考えた人がいたんですよ。

日の出ハウス外観
写真提供: TAROコーポレーション

簡易宿所の許可を取る際に自動火災報知器を設置しなければいけなくて、それにかかったお金が40万円、旅館業の許可取りで2万で初期費用は42万だったのですが、初月の売り上げが40万程度あってほぼ1カ月で取り返しました。その後はコンスタントに月4、50万売り上げています。

どうして、この物件が稼働しているかですが、基本的にはディズニーランドに行く前後に泊まる方が多いそうです。駅からは23分なんですが、たまたま高速の出口が近いそうで、1部屋1つずつ駐車場が有ったのも幸いしました。こんなところでと思っていても、近くにイベント会場があるとか、観光客の集まる場所があるなど、意外な需要のある場合があります

また、この物件で良かったのは、代行業者を使わず自分たちで運営していたところ。ゲストとのやり取りは自分で行い、清掃はお母さんだし、実家なので家賃がかからない。コストが大きくかかるところを自分でやれているので利益率が高いといえます。

運営するにあたっての注意点やトラブルは?

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写真提供: TAROコーポレーション

ーー鎌倉で実際に運営されている物件「タローズハウス鎌倉小町」についてはいかがですか?

鎌倉は神奈川のなかでは比較的家賃が高い地域ということもあり、「タローズハウス鎌倉小町」は2LDKですが、家賃、バイトを雇っての清掃費、水道・光熱費、Wi-Fiや消耗品で、月40〜45万円の運営費がかかります。売り上げが月65万程度なので、月の利益は20万円くらい。

立ち上げ当初は売上が少なかったのですが、半年くらいで軌道に乗りました。初期投資が120万円程度だったので、開業1年足らずで初期投資を回収できました。

あとは、連泊しない=清掃が多い、です。場所によって、連泊してくれる地域としてくれない地域があって、鎌倉はしてくれないほう(笑)。一方で、東京や京都なんかは連泊が多い印象です。長期で日本に来る人は通常、東京や京都、大阪といった大都市を拠点に観光しますので。

ーー運営上のトラブルにはどのようなものがありましたか?

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写真提供: TAROコーポレーション

鎌倉に関してはゲストのマナーは良い印象です。先ほどお伝えしたように、何度か日本にきたことがある人が選びやすい土地だから、ある程度「日本のルール」みたいなものを知っている。もちろん、それでもトラブルと呼べるものはありました。まず、当初はお湯の出し方がわからないというクレームが多かった。これは、使い方のマニュアルをつくって対応しました。それから、髪の毛が排水溝につまって、業者を呼ぶこともありました。髪の短くしていると気がつかないことなのですが、髪の長い人が連続して使うとすぐに浴室の排水溝が詰まってしまいます。こちらは、排水溝にネットをするなどして対処しました。

あとは、京都でも簡易宿所の運営のお手伝いをしているのですが、観光地という土地柄か、低めに設定した宿泊単価が関係してか、そちらのほうがトラブルが多い印象です。灰皿があるにもかかわらず、路上にたばこを捨てて近隣から苦情がきたり。あとは、英語が通じなくて説明がままならないなんてことも…。

ーーこういう場合には、文化の違いを許容して臨機応変に対応できないといけないですよね。お話を聞いていると、お金だけでなく外国の人たちを「ホーム」に招き入れることで+αを求めている人が民泊運営に向いていそうな印象です。

そうですね。これから民泊を始めるにあたって必要となる要素は「すでに使える場所がある」「きれい好き」「コミュニケーションを苦としない」といったところでしょうか。

民泊運営には柔軟なコミュニケーションが求められますし、お金でないとことろに価値を見出せる人でないと難しいと思います。これは一例なのですが、英語の話せる親が自宅で民泊を始めたら、英語が苦手だった子どもが必要に迫られて話せるようになったなんて話もあります。お金をもらって勉強できると考えたら、お金だけでない価値がありますよね。それから、海外旅行が好きだったけれど、民泊を始めたらこちらから行かなくても来てくれるようになったから旅行する必要がなくなった、なんていう人も。

あとは、民泊のホストにお年寄りがいると喜ばれたりします。Airbnbにはかつて有名なおばあさんがいて、その人は英語を全く話せないんだけど、 純和風の朝食を出してあげたり、手芸を教えたりで、外国人に大変人気があったそうです。食事を出すことについては食品衛生法上の許可が必要なので法律上の問題がありますが、つくり方を教える形にするなどの対策が考えられます

コミュニケーションとしての民泊

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Image: Shutterstock.com

ーー法的なハードルは低くなっても、ホストに求められるものは増えそうですね…!

スーツケースの音がうるさいだとか、治安が乱れるだとか。民泊にまつわる議論を通じて、日本がまだグローバル化に対して抵抗がある、閉じている、というのは強く感じます。世界には多種多様な考え方があるので、海外の人たちが何を求めているのか、フラットなコミュニケーションを通して知ることも大切だと思います。何でも日本的な「おもてなし」だけに当てはめるのも良し悪しですね。

家や生活様式は世界中で変わるもの。旅慣れた人が、いろいろな国に行ってホテルに泊まって観光をして…といった旅行に飽きてしまって、現地で友だちをつくる、その国の人たちの考え方を知るというところに価値を見出し始める…。そういう意味では、「宿泊する」という行為自体が「体験」そのものにシフトしてきています。ゲストも体験を求めるし、ホストとしてもそういった姿勢で望める人が求められていると思います。

ーー2020年には東京でオリンピックが開催されますが、逆にいえば、このタイミングで民泊を始めることは身近なところから世界を知ることのできるチャンスでもある気がします。

そうですね。とりあえず自宅の空いているスペースで民泊を始めてみてはどうでしょうか? 民泊は、世界とフラットな形でコミュニケーションをとり、日本人の「心の開国」をするいいきっかけになるのではないかと思います。

Image: Shutterstock.com(1, 2, 3, 4, 5

(取材・文/ライフハッカー[日本版]編集部)

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