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横浜DeNAベイスターズの初代球団社長が考える、チームの売上を「倍増」させる方法

横浜DeNAベイスターズの初代球団社長が考える、チームの売上を「倍増」させる方法
Photo: 印南敦史

2011年12月、プロ野球界に新しい球団「横浜DeNAベイスターズ」が誕生すると同時に、私は初代の球団社長に就任しました。

当時35歳。史上最年少の球団社長でした。(中略)

そして5年におよんだ在任期間中、たくさんの失敗をしながらも、一つひとつ成功体験を積み重ねていくことで、球団に大きな変化をもたらすことができたと思っています。

11年には24億円もの赤字を出していたベイスターズの球団経営は、5年後の16年、5億円を超える黒字に転じました。

決して経営者ひとりで成し得たことではありませんが、チームが初めてクライマックスシリーズに進出したことと合わせて、ベイスターズが本当の意味で新しい球団に生まれ変わったことを証明する象徴的な成果が示せたと思います。

(「はじめに」より)

こう記しているのは、『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方 35歳球団社長の経営メソッド』(池田 純著、文藝春秋)の著者。今年19年ぶりに日本シリーズ出場を果たした、横浜DeNAベイスターズの球団社長を2016年まで務めた人物です。

プロ野球やスポーツビジネスに関して“素人”だった状態からスタートし、これほどの実績を打ち立てたことは大きな評価に値するはず。

また、そこにはビジネスパーソンとしての手腕も影響していそうです。事実、“マーケティング”をテーマにした『空気のつくり方』(幻冬舎)、“球団社長を辞任した理由”に触れた『しがみつかない理由』(ポプラ社)に次ぐ本書では、“経営”と“スポーツビジネス”についての持論を展開しているのです。

そのなかから、きょうは第2章「『売上』を倍増させる18のメソッド」に焦点を当てたいと思います。球団の売り上げ、お金を「稼ぐ」ということについて解説した章。

その根底にあるのは、「スポーツが日本に文化としてより深く根づき、産業として発展するためには、日本における最大のプロスポーツである野球の先進的ビジネス化が大切」だという発想です。

売上を構成する“5本柱”

12球団の年間売上高の総額は、推定約1500億円。球団によって多寡はあるものの、1球団あたり年間50億〜200億円ほどの売り上げがあるのだそうです(ちなみに「球団」と「球場」の経営が別々になっている場合と、一体経営の場合とで、売上の構成も多少変わってくるのだとか。しかしここでは、球場との一体経営を前提として解説されています)。

売上の構成は、「チケット」「グッズ」「スポンサー」「放映権」が従来から言われている『4本柱』。これらに加え、従来は「シーズンシート(年間の買い切りシート)」をチケットの売上のなかに混在させて考えるケースが多かったものの、現在はシーズンシートの意義を考えなおすべき時代環境なのだといいます。

「シーズンシート」を切り分け、「チケット」「シーズンシート」「グッズ」「スポンサー」「放映権」の『5本柱』で考えるのが、これからのスポーツ経営に適した項目の立て方だということ。さらには、「ファンクラブ」「飲食」「スクール事業」「新規事業・その他(イベント事業など)」といった項目を挙げることもできるそうです。

しかし「興行」ビジネスである以上、「観客動員数」がいちばんのKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)であると著者は主張します。しかも、ただ観客動員数という数字だけを増やすのではなく、いかに「チケットの価値」を高められるかがとても重要だというのです。

理由は明白で、チケットの価値が高まれば高まるほど、顧客動員数の増加に伴って、チケット売上のみならず、5本柱をはじめとした他の売上項目の数字を掛け算的に高めていくことが可能になるから。(69ページより)

顧客心理を読む

球団の売り上げ構成のうち、最も大きな比率を占めるのが「チケット収入」。球団によってバラつきがあるとはいえ、それが売上全体のおおむね30〜50%を占めているのだそうです。そんななか、球団が目指すべきは「プレミアムチケット化」させること。「購入希望者が殺到し、チケットを手に入れるのが難しい。だから、発売されたら一刻も早く買っておこう」という顧客心理をつくれるかどうかが、大きな分岐点になるということです。

しかし2011年シーズンの時点で、ベイスターズの観客動員数は約110万人で、本拠地・横浜スタジアムの座席稼働率は50.4%。プレミアムチケット化にはほど遠い状況だったわけです。

そのような状況において、空席を埋めるための単純施策として考えられがちなのは、無料招待券をたくさん配るという方法。プロ野球に限らず、集客に悩む多くの興行ビジネスが選択してしまいがちな戦術だといいます。しかし、招待客が多くなると応援の熱、スタジアム全体の熱狂が生まれにくく、プロ野球観戦の本当の魅力を観客に感じてもらえないというジレンマに陥ることにもなります。しかしそんななか、有効な戦術のひとつが、対象を子ども(小学生以下)に限定して、無料で招待するというものなのだそうです。

いくつかある理由のなかで筆頭に位置するのは、野球をする子どもの数が減ってきているという事実。10代男子がよく行う運動・スポーツ種目として、野球はバスケットボールに抜かれて3位になったとの調査結果も出ているなか(1位はサッカー)、プロの選手や試合を「観る」という体験は、そのスポーツを「する」機会となりうるという考え方です。

プロ野球に触れる機会を子どもに与える作戦を講じることは、未来のプロ野球選手輩出を含む野球界全体の将来的な発展のための戦略としても、球団の未来の顧客づくりという戦略のためにも大切なことだと著者は記しています。

また、無料招待を子どもに限定することにより、同伴する親などの大人にはチケットを購入してもらうことになります。そのため球団としては、完全無料のサービスではなく、一定の収益を確保できるというわけです。

無料招待施策のポイントは、それ自体が観客動員数を稼ぐための「戦略」ではなく、あくまでそれ以外の戦略と組み合わせて活用されるべき「戦術」であるということです。

肝要なのは、もともとのチケットの価値を損ねないことです。自分でお金を払って手にしているものと、タダでもらっているものに対する価値観は大きく異なります。むやみな無料招待券のばらまきは、チケットの本来価値を下げてしまいます。(73ページより)

ベイスターズでは平日のナイターゲーム(通常18時試合開始)を対象に、「730(ななさんまる)チケット」という、19時半以降の購入者に対する割引を導入したことがあるそうです。平日のナイターゲームが万人にならないことが多かった当時、ベイスターズとの心の距離が離れてしまっていた人たち、特にスタジアム周辺で働いている人たちに対して、業務終了後の時間帯からでもプロ野球を“再体験”してもらうために導入した割引チケット。

まずはお手軽な価格で、仕事を終えてからの無理のない時間に、生まれ変わったベイスターズの野球観戦の楽しみに触れる機会を提供するという作戦。マーケティングセオリーでいわれる「獲得コスト」の低い、リピーターの呼び出し戦略の一環だというわけです。

このように、「とりあえず空席を埋めるため」という一元的な目的ではなく、値引きの理由づけを明確にし、戦略的に値引きを導入することで、チケットの本来価値を落とさないように意識し続けることが重要だということ。(71ページより)

“飢餓感”を醸成する

同時に、最も効率的な「売り方」を構築することの重要性にも著者は注目しています。現状においては、予約・発券業務を代行するプレイガイドチケットの販売方法や、チケット販売システムを委託しているケースも少なくないはず。しかし、そろそろチケット販売のシステム全般を大幅に見なおす必要がある会社が多いのも事実だというのです。

何より重要なことは、スマートフォンに最適化した販売システムを構築することと、顧客データを自社のデータベースとして活用可能にし、CRM(Customer Relationship Management=顧客との関係の維持運営管理)とマーケティングを丁寧に実施することです。(75ページより)

ベイスターズの場合も、もともと球団が直接販売していたのはチケット販売全体の1〜2割で、しかも球場窓口での販売が主だったそうです。しかし球団公式のチケット販売サイトベイチケを開設してからは、ベイチケに割り当てる座席数を大幅に増やし、独自の割引や人気の座種も多数用意し、自社チケット販売サイトの優位性を明確化させたのだといいます。

そうやってプレミアムチケット化するにつれ、顧客が優位性のある自社のチケット販売ルートである「ベイチケ」に集約されていったということ。その結果、多くの顧客データを収集でき、そのデータをもとにマーケティングやCRMを構築。さらにはプレイガイドへの手数料も効率化したのだそうです。

一方で、プレイガイドの販売力や、スポンサー度、関係性も重要。7〜8割ほどのチケットを球団自社サイトから直接販売しつつ、残る2〜3割程度についてはプレイガイドの力も利用する。それが、現状における理想的なバランスではないかという考え方です。

さらには「チケットが入手しにくくなっている」という空気を醸成するため、チケット販売サイトのカレンダーに「○(余裕あり)」「△(残りわずか)」「×(売り切れ)」など一瞬で資格的に理解できる表示方法を駆使し、ファンの“飢餓感”を醸成する表示方法や言葉、デザインなどを編み出していくことも大切だと著者。

「最近、ベイスターズのチケットが取りにくくなってきたらしいよ」という口コミが生まれること、プレミアムチケット化に拍車をかけることを念頭に置きつつ、あらゆる側面から“飢餓感”を醸し出す方向へと施策を推し進めているのだそうです。

これらのことを含めて、多くのプロスポーツの経営において、Webデザインやシステム開発・運用・プロジェクトマネジメントなどができる人材の重要性はこれからもっと高まって行くでしょう。インターネット戦略とシステム関連の部署をしっかりと構築することは、もはや前提事項です。(77ページより)

こうした考え方はスポーツの世界だけでなく、あらゆる分野についても言えることではないでしょうか。(75ページより)


スポーツビジネスに関する書籍は数あれど、予備知識を持たない人間がゼロから結果を導き出したというケースは決して多くないはず。

「前例」の有無に惑わされることなく、柔軟な発想によってハードルを乗り越えて行ったその道筋は、多くのビジネスパーソンにもヒントを与えてくれることでしょう。

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Photo: 印南敦史

印南敦史

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