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トラブルが起きるからこそ順調? 「小心な楽観主義者」が最強な理由とは

トラブルが起きるからこそ順調? 「小心な楽観主義者」が最強な理由とは
Photo: 印南敦史

優れたリーダーはみな小心者である。』(荒川詔四著、ダイヤモンド社)の著者は、株式会社ブリヂストン元CEO。いうまでもなく、グローバル・ビジネスの最前線で戦い続けてきた人物です。しかし、そうであるからこそ意外にも思えるのは本書のタイトルです。優れたリーダーには、大胆なことをやってのける「図太い人物」というイメージがあるからです。

しかし、単に神経が図太いだけでは、本当の意味で優れたリーダーにはなれないのだといいます。事実、著者がこれまでに接してきた一流のリーダーは、みな「繊細さ」を持ち合わせていたのだとか。

周囲の人々に対して細やかに気を配り、常にリスペクトの気持ちを忘れない。心配性だからこそ細部まで徹底的に考え抜き、臆病だからこそあらゆるリスクに備えて万全の準備を怠らない。そのため、いざというときに決然とした意思決定を下すことができる。そして、その決断を支持する人たちの力を借りながら、難局を乗り越えていくというわけです。

いわば、細やかな神経を束ねて図太い神経をつくる。

これこそが、真に強靭なリーダーになる秘訣なのです。つまり、「繊細さ」「小心さ」は短所ではなく長所だということ。これらの内向的な性質をコンプレックスとして捉えるのではなく、「武器」として活かすことができる人が優れたリーダーへと育っていくのです。(「はじめに」より)

では、そのためにはどうしたらよいのか? 本書では、著者の経験を踏まえながら、その秘訣を明かしているわけです。第1章「『小心な楽観主義者』が最強である」から、いくつかの考え方を抜き出してみましょう。

トラブルが起きているからこそ、「仕事は順調だ」と考える

トラブルを解決することは、リーダーの重要な役割のひとつ。責任が重いだけに、部下からトラブル報告を受けるとイヤな顔をする上司も現実的には存在しますが、著者に言わせれば、そういう人は「言語道断」。むしろ、トラブル報告を受けたら、「これこそ自分の出番だ」と喜ばなければならないと記しています。

ただし、そうはいっても予期せぬトラブルに見舞われれば、誰だって心臓がドキドキしてくるはずで、小心者ならなおさらのこと。なにごとにも動じないというような状態にはなかなかなれないものなので、著者は常々、トラブルが発生したときは「順調にトラブルは起きる。トラブルが起きているから順調なのだ」と言い聞かせてきたのだそうです。

世の中は自分を中心に回っているわけではないので、どんなに完璧を期したとしても、こちらの見込みどおりに仕事が進むとは限らないもの。むしろ仕事をしていれば、必ずトラブルは起きるのが普通です。ましてや新しいことを始めるときには、初めからうまくいくことなどあり得ず、順調にいっているときが例外。だからこそ、「トラブルを気に病むな。やっぱり起きたか。順調だな、と思え」と言いたいというのです。

トラブルに見舞われると、取り乱したり、言い訳を始めたり、誰かを責めたり、喚き立てたりする人がいますが、それらは最悪の反応。そんなことをしても周囲の信頼を損ねるだけで、そもそも時間がもったいない。トラブル・シューティングはスピードが命なのですから、そのためにも「順調にトラブルは起きるんだ。落ち着け」と自分に言い聞かせ、気を確かにする。そして冷静に解決策を考え、一刻も早く行動に移すべきだといいます。(39ページより)

なぜ、「繊細な人」ほどトラブルに強いのか?

ただし、それは単なるおまじないではないのだと著者は念を押します。40余年のビジネス経験を踏まえ、「ビジネスにおけるトラブルで解決不可能なものはない」と確信したからこそ、「順調にトラブルが起きても、なんら恐れる必要はない」と強く伝えたいというのです。

では、なぜ必ず解決できるのでしょうか? 著者によればそれは、「あらゆるビジネスは人間対人間の営みだから」。利害の対立など、なんらかの理由によって人間関係に亀裂が入ったとしても、逃げずにまっすぐ相手と向き合って信頼関係を結びなおす。それができれば、お互いに譲り合ったり、知恵を出し合うことによって必ずトラブル解決の糸口を見出すことができるという考え方です。

ただし、条件がひとつだけあるのだとか。それは、絶対に逃げないこと。というよりも、トラブルから逃げるからこそ問題は大きくなり、手に追えないものになってしまうのだといいます。しかも逃げている限り、相手は絶対に納得しません。そして不信感をよりいっそう募らせた結果、さらにこちらを追い詰めるような行動に出るものでもあります。

トラブルを解決するうえで、最大のポイントは「信頼」。トラブルの渦中で信頼関係が傷ついている以上、それを修復するのは楽なことではないでしょう。しかし逃げずに、まっすぐ相手と向き合えば、絶対に信頼を回復する道はあるのだということ。

そして、ここで威力を発揮するのが「繊細さ」だというのです。トラブル対応で最悪なのは、相手のことを考えず、一方的にこちらの主張を押し通そうとすること。相手にも事情や考え方がある以上、それを真摯に受け止めなければ対話は成立しないわけです。無理を通そうとしても相手の反感を買うだけ。それでは信頼を生み出すどころか、不毛な争いを生み出す結果に陥ってしまうということです。

だからこそ、相手の立場、利害、感情を細やかに察知する「繊細さ」こそが武器になるという発想。相手の言い分に真摯に耳を傾け、その真意を正確に理解する。たとえ相手が怒っていたとしても感情的に反応するのではなく、まずは相手の真意をしっかりと受け止めることが重要だということです。

そのうえで、相手に対するリスペクトを持って、謝罪すべきは謝罪し、譲れない点があればそれを率直に伝える。そのように誠実に努力する姿勢を徹底すれば、必ず「こいつは、人間として信頼できそうだな」と思ってもらえるもの。そして信頼関係さえ取り戻すことができれば、自然と問題は解決に向けて動き始めるはず。経験からそれを理解しているからこそ、著者は「好戦的な人物」よりも、「繊細な人物」のほうがトラブルには強いものだと確信しているのだといいます。(41ページより)

「誠実」であれば必ずトラブルは解決する

しかもこうした考え方は、日本人はもちろんのこと、世界中どんな人種にも当てはまる心理なのだといいます。著者自身、入社2年目で体験したタイ人従業員とのトラブル(これは「はじめに」で紹介されていますが、なかなか読みごたえがあります)を皮切りに、世界中で無数のトラブルに対応してきたそうです。しかし、タイ、中近東、ヨーロッパなど地域によって文化も異なるだけに、トラブルになったときの相手の出方も多種多様。

そのたびに右往左往せざるを得なかったといいますが、本質に変わりはないからこそ逃げないことが重要。相手の立場、利害、感情などを細やかに察知し、誠実に対応する。それさえ徹底すれば、世界中どこででも信頼関係を結ぶことができるのだと断言しています。

たとえばトルコに駐在していたころ、ある客先に西欧流の契約概念が定着していなかったため、受注契約を結んでいるにもかかわらず、「やっぱりいらない」などと言い出されることがあったのだといいます。当然のことながらトラブルが発生するわけですが、彼らはイスラム法に基づく考え方をするためか、西欧流の契約概念を押しつけようとしてもうまくいかないわけです。そこで、彼らの考え方を理解し、それに応じた対策を講じるしかなかったそうです。

しかし、トラブルに誠実に対応しながら、プライベートでも人間関係を構築することによって、やがて信頼関係が生まれてくることに。すると、徐々に状況が変わり始めたのだといいます。具体的にいえば、西欧流の契約概念で仕事を進めたほうが、彼らにもメリットがあることを理解してもらえるようになったというのです。そのため、それ以降はトラブルが激減し、とても良好な関係を築くことができたそうです。(43ページより)

「小心な楽観主義者」こそリーダーにふさわしい

その後もいろいろなことがあったといいますが、そのたびに著者のなかには「楽観主義」が育っていったのだそうです。トラブルが訪れても、なにも恐れることはない。逃げずに真正面から取り組めば、あらゆるトラブルは必ず解決することができる。むしろ、トラブルをきっかけとして信頼関係を築いていけば、思いもよらないギフトまで与えてもらえることがある。いわばトラブルはチャンスでもあるのだという考え方です。

リーダーとしての役割を果たすためには、この「楽観主義」を養うことが重要です。部下からトラブル案件が上がってきても、「順調にトラブルは起きるんだ。任せろ」と腹を据えて対応できるからです。そして、これは後天的に獲得できるものです。どんなに小心者であっても、トラブルから逃げずに誠実に対応する経験を積むことで、必ず身につけることができるのです。むしろ、トラブルは小心で繊細な人のほうが得意ですから、「小心な楽観主義者こそリーダーにふさわしい」と言えるのです。(48ページより)

実際、著者はブリヂストンのCEOになってからも、この「楽観主義」に支えられたのだとか。(47ページより)


実体験を軸にしているからこそ、著者の主張にはとても納得できるものがあります。そして、それらはきっと、現在のリーダー、そしてこれからリーダーになっていく人たちのとっても役立つものであると断言できます。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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