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デンマーク流の心地いい暮らし方「ヒュッゲ」とは?

デンマーク流の心地いい暮らし方「ヒュッゲ」とは?
Photo: 印南敦史

Hygge(ヒュッゲ) 北欧生まれの「世界一幸せなライフスタイル」実践法』(ピア・エドバーグ著、永峯 涼訳、サンマーク出版)は、北欧デンマークで古くから大切にされてきたという「心地よさ」の概念である「Hygge(ヒュッゲ)」の魅力を明らかにした書籍。フィリピン人の母親とデンマーク人の父親との間にデンマークのニュークビン・ファルスターに生まれた著者も、その影響を受けて育ってきたのだそうです。しかし、そもそも「ヒュッゲ」とはなんなのでしょうか?

デンマーク語の「ヒュッゲ」とは、名詞であり動詞でもあり、なかなかうまい訳語が見つからない言葉です。もっとも近いところで「居心地のよさ(coziness)」があげられますが、これもぴったり当てはまるわけではありません。

物理的な居心地のよさを軸としながら、そこには「精神的な幸福感」や「周りとの一体感」も含まれます。自分自身、そして周りの人たちとの親密さ、つながり、あたたかさを丁寧につくっていく。そのアプローチ全体が、デンマーク流の「心地いい」暮らし方なのです。(22ページより)

自分の好きなものに囲まれて過ごし、その時間をいつくしむ「心地いい」暮らし方。家の中で過ごすとき、私的な、自分だけの時間を意識的に楽しむこと。そんな「ヒュッゲ」を実践していると、自然なかたちでシンプルな物事のなかにも喜びを感じられるようになるのだそうです。PART2「デンマーク流『心地いい』暮らしの基本」から、その本質を抜き出してみましょう。

[心地いい]暮らしの基本1. シンプル

「心地いい暮らし」の基本は、「日々の暮らしの小さなあれこれを愛でる」というシンプルな考え方。というのもデンマーク人は他の国の人たちとくらべ、物質的な豊かさへの執着心があまりないというのです。なぜならモノをため込むことよりも、家族や友人との時間や絆を大切にしているから。

つまり、人生でもっとも価値のあるもの、もっとも記憶に残る出来事は、えてしてお金のかからないものだという考え方。たとえば公園でのピクニックとか、仲のいい友人とホットチョコレートのカップを手に雪が降るのを眺めるとか、そういう些細なことにこそ価値を見出すわけです。

その心地よさを知っているからこそ、著者は「誰もが生活の中に少しだけ『ヒュッゲ』のシンプルで心地いい時間の過ごし方を取り入れたなら、もっと幸せな気持ちになり、心に余裕ができておたがいにやさしくなれると思います」と記しています。(45ページより)

[心地いい]暮らしの基本2. スローダウン

私たちは不安定な世の中に生き、情報過多に苦しんでいます。さまざまな情報が間断なく押し寄せてきて、落ち着く間を与えてくれないわけです。To Doリストにがんじがらめになってしまい、一息ついて緊張をゆるめたり、スローダウンしたりすることを忘れてしまいがちだということ。

しかしスローダウンは、心地いい暮らしの大切なキーワードのひとつだといいます。理由は、速度をゆるめることで、自分を取り戻すことができるから。そこで著者は、試しに一度、電子機器の電源をすべて切ってしまおうと提案しています。ろうそくを灯し、携帯電話などの機器類をすべて片づけてしまうということ。

もちろんスローダウンは簡単なことではありませんし、はじめは緊張感すら覚えることになるかも。でも、その静かな時間のなかで初めて、私たちはバランスと元気を取り戻し、人と“きちんとつながる”ことができるというのです。自分とだけ向き合うことは、とても重要だということです。(46ページより)

「ゆっくり行きなさい。

人生には速度を上げるより

大切なものがある」

マハトマ・ガンジー

(47ページより)

[心地いい]暮らしの基本3. 空気感

あたたかさや居心地のよさが滲み出ている雰囲気。安全でおおらかで、ゆったりとしていて、人とくらべたり競争したりしない。それこそが、心地いい暮らしが持つ「空気感」だといいます。大切なのは、すべてを楽しむこと。とはいっても、パーティのようなにぎやかな雰囲気のなかで盛り上がろうということではないようです。もっとくつろいだ、親密なもの、満ち足りて、充足感を得られるものだというのです。あれこれと気を散らせたり、明日やるべきことについて思い悩んだりすることも不要。急ぐ必要はないからです。

たとえば政治や宗教について暑い議論を戦わせるのは、心地いい暮らしとは相容れないかもしれません。しかしその一方、静かな空間で、深刻なものから軽いものまでさまざまな話題の会話を楽しみつつ、仲のいい人たちと親密かつ貴重なひとときを過ごすことができれば、それこそが心地いい暮らしの鍵になるということです。

とはいえヒュッゲは、他人との社交だけに限るものではないのだそうです。1人でできるのはもちろんですが、毎朝の身支度の習慣や夕食づくりなど、日常生活のルーティンのなかでもできるものだというのです。

自分がどんな人なのか、どこから来たのかなど関係なく、誰でも実践できるのがヒュッゲのよいところ。自然発生的なヒュッゲでも、計画されたヒュッゲでもかまわない。つまり、そこに決まりなどはないというわけです。(48ページより)

「ヒュッゲは、自分が望むすべての中に存在する」

(49ページより)

[心地いい]暮らしの基本4. 仲間

誰かと心地いい暮らしを実践するなら、相手は一緒にいて楽しい人がいちばん。もちろんそれは、親しい友人や家族、パートナー、隣人、同僚など、あるいは1人でもOK。大切なのは、安心して自分らしくいられる人たちとともに過ごすことだといいます。また仲間は人間とは限らず、ペットも相棒として申し分ないそうです。

ちなみに著者の場合は、(「ありきたりかもしれませんが」と前置きしていますが)親しい友人たちと床に輪になって座り、照明を落として、ワインを飲みながら人生について語る時間がお気に入りなのだといいます。(50ページより)

「よき仲間がいれば、どんな道のりも長くはない」

トルコのことわざ

(51ページより)

[心地いい]暮らしの基本5. オーセンティック

「オーセンティック」という言葉の意味を突き詰めていけば、「本物であること」「誠実であること」「地に足がついていること」ということになると著者。また、これは「本当の自分でいること」にもつながるそうです。大切なのは、自分の喜びに忠実に、自分の価値観にしたがって生き、誰かから言われたことではなく、自分の純粋な心の声に耳を傾けること。

そしてオーセンティックであることを追求するためには、まず必要なのは自分を知ること。「自分は何者か」ということがわかれば、キャリアでも人間関係でも、趣味や人生の目標においても、幸福で満たされた人生を歩むことができるからです。そこで、他のことをする手を少し止め、自分が好きなことや大切にしていること、それに対する思いや感情を書き出してみることを著者は勧めています。「自分らしいこと、自分らしくないことはなにか?」について、直感を信じながら、内なる自分と対話するわけです。

著者いわく、自分の心の声を探す旅は誰もが経験すること。歳を重ねて成長していくにつれ、私たちの個性もまた成長し、進化していきます。だからこそ、自分を振り返ってみれば、日々新しい発見があるはずだという考え方。

ヒュッゲにおいて、オーセンティックであること、つまり「自分らしく生きること」はとても大切。逆にいえば、自分以外の誰かのふりをしたり、別のイメージを演出しようとしたり、どんな自分を演じようかなどと思い悩んだ瞬間に、ヒュッゲの感覚は失われてしまうことに。心を開くこと、人に親切にすること、そして自分自身の気持ちをも楽にすること、それこそがヒュッゲなのだから。

誰かに認めてもらおうとか、よく思われようとする必要はなし。大切なのは、自分をなにかに見せかけようとせず、自分らしくあることだけに集中し、その瞬間にじっくりひたること。そうすれば心は解放されて楽になり、自分らしい自分を受け入れ、また人にも受け入れてもらえるようになるといいます。つまりは、「なにを持っているか」で自分を評価したり、されたりすることをやめるということ。

「すべての人から好かれることはできない」ということを、少なくとも頭にとめておいてください。嫌われたくないがために自分ではない誰かのふりをすれば、自分とは合わない人を引きつけてしまうことになります。反対に、自分らしくいれば自分と合う人と引かれ合い、仲間になることができます。(54ページより)

心地いい環境に身を置くことは、平和を得ること。自分の心の安全な居場所を得ることでもあると著者はいいます。端的にいえば、ヒュッゲとは、快適さを見出せない対象をシャットアウトして、安心で安全な場所をつくり、時間をともにしたい仲間とだけ、安らぎのひとときを過ごすことだというのです。強制されることはなにもなく、ただただ自然に、居心地のいい空間と時間が広がる場所だということ。

だからこそ大切なのは、話すときに興味のある話題をどんどん出すようにすること。自分の夢や、夢をともに叶えたい人、叶える喜びを分かち合いたい人について話しているうちに、自分と感覚が合う人と出会えるかもしれないと著者はいいます。あるいは気が向かなければ、なにも話さずに沈黙を楽しむのでもいいわけです。(52ページより)

「あなたらしくあることだけが、あなたを解放する」

エックハルト・トール

(53ページより)


たしかにヒュッゲは北欧で誕生したものですが、まったく異なる環境下にいる私たちにとっても重要な意味を持つはず。本書を読んでみれば、きっとそう実感できるはずです。「自然な心地いい状態に立ち戻りたい」という思いがあるのなら(そうでないとしても)、読んでみる価値のある良書だといえます。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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