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これからの時代のキーパーソンになる「乾けない世代」とは?

これからの時代のキーパーソンになる「乾けない世代」とは?
Photo: 印南敦史

「なんのためにがんばるのか」という働くための価値観、すなわちモチベーションが、ある世代を境に大きく変わってきている。そう指摘するのは、『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』(尾原和啓著、幻冬舎)の著者です。

お金を稼ぎたい、広い家を建てたい、いいクルマを買いたいなど、欲望への飢餓感と上昇志向をバネに成り上がってきた「団塊世代以上」とは、まったく異なる価値観を持っているのがいまの30代以下。生まれたころからなにもかもが揃っていたので、なにかが欲しいと「乾けない」というわけです。そのため、この世代のことを本書では「乾けない世代」と定義づけています。

著者は、そんな世代こそが、AI(人工知能)によって仕事がなくなっていく時代のなかで希望の世代なのだとも主張しています。そして、本書を通じて伝えたいことは大きく3つあるのだとか。

・ 上の世代から理解されないなか、自らをダメと思ってしまっている「呪い」をどうやってといていくのか

・ 自らのうちにある「本当に大事なもの」をどうやって育んでいくのか?

・ 上の世代とコラボレーションしていくため、変化の時代に対応していくためにいかにチームを作っていくか?

(「はじめに」より)

アメリカの心理学者、マーティン・セリグマンが唱えた人間の欲望は、「達成・快楽・意味合い・良好な人間関係・没頭」の5つ。団塊世代以前が前の2つ、「達成」と「快楽」を強く欲したのに対し、うしろの3つ、「意味合い」「良好な人間関係」「没頭」を重視するのが「乾けない世代」。

「自分ががんばる意味が持てるもの」に「自分が好きな人たち」と「とことんハマる」ことを、金銭や物理的な報酬とは関係なく重要視する。そんな新しいモチベーションを持つ「乾けない世代」が、これからは社会の中心になっていくということです。

社会とテクノロジーが進化しても、人間の身体の形はほとんど変わっていません。しかし、その人間を動かすガソリンである、モチベーションの形というのは革命的に変わってきているのです。

モチベーションの変化は目に見えないものですが、この「モチベーション革命」を正確に捉えられなければ、自分をドライブできないし、チームとしても仕事と人を上手く動かすことはできません。

本書は未だ誰も言語化できていない「モチベーション革命」の全貌を把握するために生まれた本です。

(「はじめに」より)

第2章「偏愛こそが人間の価値になる」から、いくつかのポイントを引き出してみましょう。AIによって仕事のあり方が大きく変わろうとしているなか、世界を変えるような新しいサービスやイノベーションは、1人の人間の偏愛によってしか生まれないというのです。

仕事の永遠のルールは「ありがとう」

今後「人工知能革命」が加速していくと、単純作業のような仕事はどんどんAIが担っていくことになるといわれています。だとすれば、人間が仕事をしていくうえで、どんなことが重要になっていくのでしょうか? シンプルな表現を用いるなら、それは「他人から感謝されて、お金をもらえること」。当たり前なことのようですが、それこそがどんな時代が訪れても変わらない仕事のルールだというのです。

「ありがとう」という言葉は、漢字で「有ることが難しい」と書きます。つまり、自分には有ることが難しいから、それをしてくれた相手に対して「有り難い」と思う。だから「ありがとう」と言うのですね。

これは、どんな時代の変化が起きても、永遠に変わらない法則です。たとえ「人工知能革命」が起きても、人は「有ることが難しい」ことにはお金を支払う。つまり、それは「仕事」として成立し続けるということです。(71ページより)

そんな仕事をするうえでもっともハッピーなのは、「自分にとっては好きで楽にできることと、相手にはできないこととがかみ合うこと」。簡略化すれば、「こんなに楽で楽しくできることで、相手からお金をもらって、しかも感謝されるなんて!」と思えるような状態になること。

ということは、これからの仕事で重要なのは、自分にとって得意なことで有ると同時に、いかに相手にとって「有ることが難しいこと」を探し当て続けるか、ということになります。そして、どんな人にもひとつくらいは、そういうものがあるはず。パソコンの配線をしただけで感謝されたり、冷蔵庫にあるものだけでささっとご飯を用意してありがたがられたり、自分にとって意外なところに「長所」の芽が隠されているものだということです。(68ページより)

非効率な「好き」こそが次の産業

そうはいっても、自分にしかできないことであると同時に、相手にとって「有ることが難しいこと」を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか? この点を解き明かすにあたり、著者は「嗜好性」に着目しています。

人工知能にも代替不可能なもの…それは「嗜好性」です。簡単に言えば、「私は誰になんと言われても、これが好きだ」という偏愛です。人が頭で考えて、答えを出せるようなものは、人工知能のほうがより優れた答えを早く出せるようになります。一方で、人の嗜好性は、非常に非効率なものなのです。(75ページより)

なぜなら人の嗜好とは、無駄なものによって塗り固められたものだから。たとえば、人の嗜好性の最たるものであるがゆえに無駄な要素も多いのがファッションです。効率だけを考えるならファストファッションだけでこと足りるけれども、そこに人の嗜好性が加わるから、誰ともかぶらないデザイン、ひねりの利いたデザインが求められるということです。

そう考えると、日本には嗜好性、偏愛によって生み出されてきたコンテンツ、サービスが数多く存在することがわかります。非効率で無駄なものを、世界に発信してきた国だということ。任天堂やソニーのゲーム、スタジオジブリのアニメ映画、ドワンゴのニコニコ動画、カラオケなどは、すべて1人の人間が自らの偏愛を追求して生まれたエンターテインメントだということです。

同じように、これからも重視されるのは「他人から見れば非効率かもしれないけれど、私はどうしてもこれをやりたい」という、偏愛ともいえる嗜好性。それらを個人がどれだけ大事に育て、それをビジネスに変えていけるかが資本になっていくという考え方です。

もちろんそれば、ゲームやアニメ会社などのエンターテインメント企業で働くことだけが正解だという意味ではありません。しかし、どんな業種でも「偏愛」を突き詰めていくことが、生き残りをかけた分かれ目になるということ。そして「偏愛」を突き詰めることは、まさに「乾けない世代」の得意分野だと著者はいうのです。(74ページより)

時代の混乱を呼び起こす、4つの革命

著者によれば、いまの時代には4つの革命が起きているのだそうです。

ひとつ目は、「グローバル革命。これまで日本人は国内だけで比較されていましたが、いまではインドネシアやナイジェリアなど、加速度的に成長している国の若者たちがライバルとして追いかけてくる状況に立たされているということです。そして、それをさらに加速させたのが2つ目の「インターネット革命」。インターネットによってなにかコミュニケーションをしたり、発信するときにかかる時間と距離がゼロになったわけです。

さらに次に到来するのが「人工知能革命」ですが、これらに加え、「実世界指向革命」が訪れるのだとか。たとえば電子書籍が登場し、どんどんデジタル化が進んでいます。しかし、相変わらず「やはり紙のよさがあるから、本はなくならない」という人も多数存在します。

では、彼らが求めている「紙の質感」すら、デジタルに置き換わってしまったらどうでしょう? すでにアメリカのE Ink社によって、紙のリアルな質感や、インクの適度な濃さ、ページをめくる楽しさはデジタルで再現されています。ディスプレイ上のバックライトがなくても、自然光で読むことができるので目に優しい。さらに本棚に置くときの背表紙もデザインされるなど、物質的な価値を保っている。今後は、デジタルの特性を活かし、パチッと指を鳴らせば、本の表紙を変えることもできるようになるでしょう。これは、本棚の内容によって自分の内面を他人にアピールしたいという、本が好きな人ならではの欲求を満たしてくれる機能です。(86ページより)

こうしたことが起きてくると、「それでも紙のよさがある」とあぐらをかいてしまっている出版界の人たちはあっという間にデジタルに仕事を取られてしまうかもしれないと著者はいうのです。果たしてどうなるかは誰にもわからないけれど、未来が不確定だということ、それだけは確実だということです。

しかし間違いなくいえることは、一見非効率に見える人間の「好き」を突き詰め、その「好き」に共感する人が「ありがとう」とお金を払ってくれる“偏愛・嗜好性の循環”こそが残っていくということだといいます。(84ページより)


社会が大きく変化するなか、個人の嗜好性やモチベーションもが変化していくのは当然の話。だからこそ「乾けない世代」は、その可能性を突き詰めて見るべきなのかもしれません。

Photo: 印南敦史

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