特集
カテゴリー
タグ
メディア

社会人もラップする時代。ビジネスパーソンが本音をぶつけ合う「社会人ラップ選手権」とは?

社会人もラップする時代。ビジネスパーソンが本音をぶつけ合う「社会人ラップ選手権」とは?

「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系)のヒットをきっかけに、即興のラップで競い合う「フリースタイルラップ・バトル(MCバトル)」が大きなブームとなりました。

中高生への影響力もさることながら、そのブームは社会人にも及んでいます。2016年4月にスタートした社会人ラップ選手権は、文字どおり、さまざまな職業に就く社会人が、マイクを通じて白熱のバトルを繰り広げる大会。今年6月に開催された第三回大会も、大好評のうちに幕を閉じました。

なぜプロのラッパーを目指しているわけではない社会人を対象としたMCバトルの大会が、いま盛り上がっているのか?

大会を主催する、大会名誉顧問で審査員も務める三浦崇宏さん(株式会社GO)、大会の企画制作を行う株式会社ハイのコンテンツプロデューサー瀬崎章太郎さん、大会MC(司会)でラッパーのマチーデフさんにお話を伺いました。

「MCバトルってなに?」という方は、百聞は一見にしかず、ということで、まずは下記の動画をご覧ください。

最初の名刺交換は意義のある儀礼

shakaijin_rap1
Photo: ヨコヤマコム

三浦崇宏(みうら・たかひろ)

The Breakthrough Company GO代表取締役 PR/Creative Director 博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。『表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事』が信条。 日本PR大賞・CampaignASIA Young Achiever of the Year・ADfest・フジサンケイグループ広告大賞・グッドデザイン賞 カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル 2013 PR部門ブロンズ・2016 ヘルスケアPR部門ゴールド・2017年 プロダクトデザイン部門ブロンズ。

——そもそも、社会人ラップ選手権を始めたきっかけを教えてください。

三浦崇宏さん(以下、三浦): 今フリースタイルバトルが流行しつつありますよね。ぼく自身もヒップホップが好きですし、ブームとして盛り上がるのは素晴らしいことだと思うんです。けれど、この先ブームがなくなったとき、この盛り上がりによって影響を受けた人たちの受け皿となる場所がないといけない。そう思ったのがきっかけです。

—— あえて社会人にターゲットを絞ったのはなぜですか?

三浦: 「高校生ラップ選手権」はもうあるので、ないものをやりたかったんです。それにヒップホップって、もともとは社会に届ける言葉を持ってない人たちの音楽でした。社会的に厳しい状況に置かれた人々が、ビートに乗せて、世の中に言いたいことを言っていくというところから始まった文化ですよね。で、いまの日本で、言いたいことがあるのになかなか言えない人って、普通のサラリーマンたちなんじゃないかと。彼らがラップすることが、本当のヒップホップなんじゃないか、と思ったんです。

—— 募集するとどのくらいの人が集まるんですか?

三浦: 第一回大会が100名。第二回は150名。第三回からは「定例会議」という予選を細かくやって、累計で250人くらいの参加者が集まりました。

shakaijin_rap

—— 最初に名刺交換するという発想はすごくおもしろいと思います。

三浦「名刺交換から始まるフリースタイルバトル」というキャッチコピーでやってます。社会人らしさの象徴です。なにより、名刺に書いてある職業や生き方を背負ってラップをすることで、その人の生き様がよくわかるので、意味のある儀礼だと思います。

マチーデフさん(以下、マチーデフ): もしかしたら出場者の中にも、普段の生活では積極的に主張しないように見えている人もいるかもしれません。でも、心の中に沸々としたものはみんな持っているわけで、発散する場所として機能しているのかもしれませんね。

ラップがうまい必要はない

shakaijin_rap3
Photo: ヨコヤマコム

マチーデフ

ラッパー、作詞家、ラップ講師。渋谷区生まれ、渋谷区育ち。メガネのやつは大体友達。 1997年にラップを始め、オトノ葉Entertainmentのラッパーとして数多くの作品をリリース。 2014年発売のソロアルバム「メガネデビュー。」は、自主制作ながらiTunesヒップホップアルバムチャートで1位を獲得した。 また、アイドルのラップ指導やCMソングの作詞、監修を手がけるなど“ラップクリエイター”としてもマルチに活動中。 複数の専門学校で毎週授業を行う“ラップの先生”でもある。 ウェブサイト:http://www.macheedef.com/

—— スキルのある人からない人までさまざまですが、参加者はどういう選考基準で選んでいるんでしょうか?

マチーデフ:まず、ラップのスキルはそこまで重要な基準にはしていないんです。大切なのは、ちゃんと言いたいことが言えているかどうか。社会と自分の関わりとか、どれだけ自分の会社を背負ってるかとか、内容重視なんです。予選でも評価されるのはラップのうまさより自分の主張。

—— でも、スキルがある人も多いですよね。

三浦:第1回、第2回、第3回と続けると、みんなだんだんとスキルが上がってくるので。でも、うまくならなくてもいいんですよ。

マチーデフ:MCバトルの大会はたくさんありますけど、それらはプロのラッパーになりたい人たちが参加する大会。社会人として働きながら、たしなみとしてラップしたい人にはハードルが高くなってしまう。そこには、ガチの人たちがいますからね。そういう意味では、そこから漏れる人たちの受け皿が社会人ラップ選手権なんです。

—— 求めているものはうまさよりも主張ですか?

三浦:というより、本気になってくれればいいんです。先ほどもマチーデフさんが言われたとおり、普段言いたいことが言いにくい人がラップすることが重要なので。ラップがうまい人しか出られなくなったら、そもそもこの大会の意義がなくなっちゃうんですよね。逆にうまい人が出ても、内容が「いかにもラップっぽい発言」だったりすると、全然おもしろくない。お客さんもそれを求めて観に来ていないので、なかなか盛り上がらないと思います。

—— これまでに、困るような出来事はありましたか?

マチーデフ怒って帰っちゃう人がいました。バトルで勝ち負けを決めるわけですが、その結果に納得できなくて怒ってしまったんです。お客さんが勝ち負けを決めたり、審査員の判定で決めたり、バトルごとに大会の審査基準もバラバラです。でも僕らが審査基準としているのは、社会人ラップ選手権としてのものなんです。

三浦: ラップがうまくて、普通のラップバトルだったら勝つはずのような試合でも、僕らの審査基準は違う。いかに社会人として自分の会社や職業に誇りを持っているか、自分の生きてきたことを表現できるか、なんですよ。

そこの基準をご理解いただけないと、「どう考えても俺の方がうまかっただろ!」と怒ってしまうことになる。でも、「俺は課長として家族を養ってる、娘が大学に入って学費が大変な中、がんばってるんだ」というように、たとえ下手でも、その人でしか言えない本気の主張が聞きたい。どっちがたくさん韻を踏んだとか、そういうことは評価していないんです。

バトルを通じてビジネスが成立?

shakaijin_rap3-1
Photo: ヨコヤマコム

瀬崎 章太郎(せざき・しょうたろう)

人材派遣会社、広告代理店を経て、2016年、株式会社ハイ入社。 イベント・映像・WEB・プロダクトと分野を跨いだ企画制作を得意とし、多数の企業PRを担当するとともに、コンテンツプロデューサーとして「社会人ラップ選手権」「tamapa」「the good day TOKYO」「ローション大運動会」など、世の中の話題になる各種の自社プロデュースのコンテンツ制作を手掛ける。

—— この大会に出ることは、社会人にとってどんなメリットをもたらすと思いますか?

瀬崎 章太郎さん(以下、瀬崎): 同じ趣味同士の方がこの場でつながって、20代のラップ好きと50代のラップ好きが大会後に飲みに行ったりしているんです。今まで接点を持ちえなかった人たちが、職種も世代も超えて出会う、社会人同士の異業種交流会の場としても機能していると思います。

名刺交換をして、自分の仕事や生き様を即興で言葉にしてバトルをするわけですから、お互いのことをよく理解できるんですよ。そこから、商談が成立してビジネスになったりした方もいます。

—— バトルを通じてビジネスが成立するというのはおもしろいですね。

三浦:IT企業で人事をやっている人がフリーターとバトルした結果、「おまえ、そんなにおもしろいやつなんだったら今度面接に来いよ」という展開になったりとか。

前回大会では、優勝したユースリーさんという小売業の方が不動産業の社長とバトルになったんです。そこでユースリーさんが「俺がほしいのは居抜きの物件。大型パチンコ店の跡地とかあったら紹介してくれよ」と言ったら「いくらでも紹介してやるよ、そんなもん」って言い返して、あとでコソコソ話しあってました(笑)。そうやって、けっこうリアルにつながってるんです。一番シンプルなところでいうと、歯科医師のDr.COYASSさんは、戦った相手を毎回患者にしてますし。

shakaijin_rap7
(左)第三回大会優勝のユースリーさん(右)審査員を務めたラッパーのDOTAMAさん

——なるほど。

瀬崎:それから、セラピーの側面もあります。仕事が嫌すぎてラップにぶつけている人もいれば、「仕事もがんばってラップもがんばってこその社会人じゃねえかよ」って励ます人もいて、最終的には二人とも泣きそうになっていたり。異業種交流会的なものと、ビジネスの可能性、そしてセラピーと、いろんなメリットがあると思いますね。

三浦:一般的には異業種交流会ってタテマエでの挨拶に終始して、なかなか距離が縮まらないじゃないですか。社会人ラップ選手権ではお互いに8小節ずつのバースでラップしていくので、異業種交流会に1時間参加するよりも濃厚な情報だったり、親密な距離感が生まれるんです。

ラップは声なき者の抵抗の文化

—— バトルを通して社会人を見ながら、「ストレスを抱えているな」と感じたりすることはありますか?

三浦:それはあると思いますよ。SNSが発達して、ようやく発言の自由が確保されたとか、個人が発信できる時代だとか、しょうもないキレイごとが横行しているじゃないですか。でも実際は、なんでも言える時代になったけれど、何を言っても怒られる時代にもなってしまったと思うんです。「自由に見える不自由」というか。そういった中で多くの人が言いたいことを言えないという現実はあると思います。

せっかくおじさんたちがフェイスブック始めてみても「おじさんがフェイスブック始めた、キモイ」とか言われる。でもラップってステージに上がったら、なにを言ってもよくなる。フリースタイルのバトルという、対等な立場でなにを言ってもいい自由な空間があることは、社会にとって素晴らしいことだと思っています。

それでいて、みなさんステージから降りるととても謙虚です。ステージで「顔も見たくねえFuck you!」といった直後に、満面の笑顔で挨拶し合ってます。

—— ラップやヒップホップの認知度は、まだまだ足りないと思いますか?

三浦:ラップやヒップホップは、不良が「YO!YO!」って言ってるだけのものじゃない。言いたいことを言えない世の中で、知恵を使って言いたいことをおもしろく言うための技術。声なき者の抵抗の知恵として発達してきた文化なんだということを伝えていきたいです。

—— たとえば、この記事を読む人に「ラップ選手権に出てください」と言っても、なにをしたらいいかわからないかもしれません。興味はあるけど、どうしたらいいかわからないという人に伝えたいことはありますか?

三浦:大原則として、「小説家になりたい」と言った瞬間にその人は小説家じゃないですか。あとは書けばいいんです。ラップに興味があってやりたいなら、やればいいんですよ。YouTubeで好きなビートを流して、「最近ラップやりてえ、会社にいるの少し気まずい、なんかもう言葉があふれ出てくる、やっぱ意外に難しい」みたいに思ってることを言えば、その人はラッパーなんですよ。

あとは一歩踏み出してみる。下手でも受け入れてもらえる場所は今たくさんあります。己の生き方を語るためにうちの大会に出てもらってもいいし。あるいはSNSでラップを発表してもいいし。始めることは簡単なので、ラッパーになるためにどうすればいいか? 答えは、ラップをすること。

本気でスポンサーを求めています

shakaijin_rap4
Photo: ヨコヤマコム

——今後、この大会にはどうなってほしいと思いますか?

三浦:あんまり大きくならなくていいんです。「武道館で!」みたいに規模が大きくなるよりは、小さな大会でいいので、いろんなところで開催していきたいなと思っているんです。

でも、これは書いておいてほしいんですけど、お客様を大事にするあまり、毎回壮絶な赤字を抱えております。絶賛スポンサー募集中です!

—— スポンサーにどういうものを求めていますか?

三浦: ひとつは、ヒップホップが好きで日本にヒップホップが文化として根づけばいいなと思っている企業があれば、ありがたいですよね。

もうひとつは、フットサルやカラオケ大会と同じような、新しいストレス発散の場所が社会人ラップ選手権だと思うんです。でもそれは、「どうしても言いたいことがある!!」っていうパワーのある人とか、賢い人じゃないとできない。

だから、パワフルな社会人と出会う場所としても機能すると思います。そこに対して情報を発信したいとか、彼らを味方につけたいって思っている企業にとってはすごくいい場所というか、メディアだと思います。

—— 最後に、読者の方にどんなことを伝えたいですか?

マチーデフ:言いたくても言えないっていうストレスを抱えている人に、ラップを始めてみてほしい。その先にもし社会人ラップ選手権があるのであれば、ぜひ参加してみてほしいということです。

三浦:僕はやはり、「チケット買ってください」「スポンサーになってください」ということです。やっぱり文化を作るためには、メイクマネーしないといけない。儲からないもの、人が得をしないものは文化にならないですから。

瀬崎: 僕は気軽に観に来てほしいと思っています。バトルだからといって気負う必要はなく、社会人たちが生き様をラップを通して伝えるさまを、笑いたければ笑ってもいいし、おもしろくなければ帰ってもいい。そこで1回観てもらって、出たかったらぜひ出てみてほしい。ライト層も多いですし、気軽に参加して、ラップに触れるきっかけになればと思っています。


これまでの3回が好評を博し、社会人ラップ選手権の認知度は順調に高まってきています。大会への出場をきっかけに選手が、「TENGA NIGHT CHARGE」「フリスク」などといった企業のプロモーション動画へ出演するなど、新たな展開も生まれているようです。

しかしその裏側には、深刻な経済事情もあるようです。「次回が開催できるか否かはスポンサー次第です。大会の存続はこの記事にかかっていますので、ぜひよろしくお願いします!」と三浦さん。

共感できる企業には、ぜひスポンサーとして手を上げていただきたいと思います。また次回開催の暁には、「興味はあるけど経験がなくて…」という方もぜひ参加してみてください。もしかしたら、そこから新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれませんから。


Photo: ヨコヤマコム

Source: 社会人ラップ選手権

印南敦史

swiper-button-prev
swiper-button-next