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新人マネジャーが抱きがちな「5つの誤解」とは

新人マネジャーが抱きがちな「5つの誤解」とは
Photo: 印南敦史

本書は、マネジャー(管理職)に昇格したばかりの人、マネジャーとして孤軍奮闘している人、マネジャーの職務の壁にぶち当たって困惑している人、そうしたマネジャーを指導する立場にいる経営層、そして将来のマネジャー候補の人向けに、世界の俊英が書いた論文を集めています。(「はじめに」より)

マネジャーの教科書――ハーバード・ビジネス・レビュー マネジャー論文ベスト11』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編、ダイヤモンド社)の冒頭にはこう書かれています。

ベースになっているのは、長い実績を持つマネジメント誌『Harvard Business Review(HBR:ハーバード・ビジネス・レビュー)』とダイヤモンド社が提携して1976年に創刊した日本語版『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)。月刊誌として、「優れたリーダー人材に貢献する」という編集方針の下、学術誌や学会誌のような難解さを廃した論文を提供しているのだそうです。つまり、そんなHBR誌の掲載論文から、「マネジャーとして読むべきもの」として厳選した論文を集めたのが本書だということ。

きょうは、初めてマネジャー(管理職)になった人が直面しがちな課題を挙げ、それらへの対処法を示した第1章「新任マネジャーはなぜつまずいてしまうのか」に焦点を当ててみたいと思います。ハーバード・ビジネス・スクール教授のリンダ・A・ヒルによる論文です。

新人マネジャーが抱きがちな5つの誤解

当然のことながら、人の上に立つのは生半可なことではありません。しかし著者の調査によれば、新米マネジャーは新しい役割を誤解しているため、管理職として行動できるまでの時間が必要以上にかかってしまうケースが多いのだそうです。彼ら彼女らが抱いているマネジャー像はあまりに単純か、不完全なものが大半なので、誤った期待を抱かせてしまうというのです。

そのため、期待と現実のギャップを埋めようとして四苦八苦するはめになるというわけです。しかし、次の5つの誤解を自覚することによって、成功のチャンスが飛躍的に広がるのだそうです。(21ページより)

【誤解】1:管理職の権威は絶対的なものである

新米マネジャーたちに「あなたの役割はなんですか」と尋ねると、たいていは人の上に立つことで得られる権利と特権について語られるのだといいます。マネジャーになったことで権威が高まり、自由と自律性が高まると思い込んでいるというわけです。

ところが、そのような思い込みを抱いたマネジャーたちは、早晩冷水を浴びせられることになると著者は指摘しています。権威を手にするどころか、いつのまにか複雑な人間関係にからめ取られてしまうということ。上司や同僚、部下、社外からも相矛盾する要求が容赦無く突きつけられ、それらの人間関係のせいで身動きできなくなってしまうわけです。

だからこそ、権力者になったなどという幻想をさっさと捨て、交渉しながら相互依存関係を深めていかなければならないのだと著者。そうした現実を受け入れない限り、新米マネジャーはリーダーシップなど望むべくもないということです。

真のリーダーシップを身につけるには、自分の部下だけでなく、チームが置かれている環境も含めて管理する必要があるという考え方。チームを支える各関係者との「あるべき姿」を具体的に思い描き、実りある関係を構築しない限り、チームがその使命をまっとうするうえで必要な経営資源は得られないということです。(23ページより)

【誤解】2:管理職の権威を過大視する

たしかに、新米マネジャーにも一定の権限が与えられていることは事実。ただし問題は、「管理職というポジションはまさしく権威であり、自分の権限はその権威によって保証されている」と、新米マネジャーが誤解してしまうことだといいます。

しかし当然ながら、そのように過大視して部門の管理に当たった場合、独裁的なコマンド・アンド・コントロール(指示・命令)に走りがち。与えられた権力を行使したいからではなく、「しかるべき成果を実現するには、それが最も効果的である」と思い、そうしてしまうわけです。ところが、上意下達の命令に部下たちがいつも従うとは限らず、それどころか優秀な部下ほど従順ではないものだったりもします。

そこで、まずは自分の「人格」、すなわち「まっとうに行動する意思」の持ち主であることを示す必要があると著者は記しています。とりわけ、それは、新しい上司の真意を探ろうとする部下との関係において大切だとも。

そして自分の「コンピタンス」、すなわち「まっとうに行動する能力」を持ち合わせていることを示すこと、そして自分の「影響力」、つまり、まっとうに振る舞い、やり遂げる力があることを示す必要もあるのだといいます。(26ページより)

【誤解】3:統制しなければならない

慣れない役割への不安も手伝って、新米マネジャーの多くが部下たちに服従を望むのだそうです。一日も早くてなずけないと、やがて好き勝手をやらかしかねないと危惧するわけです。しかも「統制しよう」という気持ちのせいで、ついつい権威に訴えてしまいがち。

しかし、いかにことがうまく進んだとしても。このやり方には問題があります。制度上のものであろうと、自ら努力して獲得したものであろうと、権威に頼った方法では偽りの勝利しか得られないのですから。権威による服従が、自発的なやる気に勝ることはないのがその証拠。誰でもやる気が損なわれれば、持てる力を発揮しようとはしないもの。部下たちが自発的に考えて行動しない限り、望むような成果は得られないということです。

大きな影響力を行使できるのは、自分の権威を部下たちと共有しようと努めるマネジャー。部下たちが主体性を発揮できるようなリーダーシップを身につけることが、部下たちの信頼を勝ち取る近道だというのです。(29ページより)

【誤解】4:部下一人ひとりと良好な人間関係を築かなければならない

新米マネジャーがお互いに信頼しあう関係を大切にし、周囲の信頼によって権威を身につけるためにはどうしたらいいのでしょうか? この問いに対して著者は、「さまざまな関係者から信用を勝ち取り、自身の影響力を広げ、周囲と期待しあう関係を築いていくこと」だと記しています。生産的な人間関係が築かれれば、たいていの目的は叶えられるというのです。

とはいえ最終的に新米マネジャーに求められるのは、チーム全体の力を最大化する方法を見つけること。ただし、一対一の個人的な関係を重視しすぎると、チーム全体に悪影響が及びかねないので注意が必要。

昇進した年は、チームづくりという責任をまだ自覚できず、それに取り組むことも現実的には不可能。それどころか、「チームを管理するには、まずは部下から」と、部下一人ひとりと良好な人間関係を築くことこそマネジャーの仕事だと誤解してしまうものだといいます。その結果、メンバー個人の業績にばかり目が向かってしまい、組織文化や部門の業績には無頓着になってしまうことに。チームで議論し、問題解決や原因の究明に当たることなど、めったにないわけです。

つまり一対一の関係にこだわる新米マネジャーは、リーダーシップの基本である「グループの結束力をテコに、個人業績を改善し、やる気を高める」ことを無視することになってしまうのです。しかしマネジャーは、健全な組織文化を形成すること、すなわち規律と価値観を定めることによって、さまざまな才能の持ち主の問題解決力を発揮させることができるのだといいます。(31ページより)

【誤解】5:なによりも円滑な業務運営を心がける

すべての業務を円滑に運営するのは、信じられないくらい難しいもの。実際、マネジャーは数え切れないほどの業務を捌き続けなければなりません。新米マネジャーにとっては、現状を維持するだけでもひと苦労でしょう。

その一方で、チームの業績をより向上させる改革案を示し、それを実行する責任を追っていることも自覚しなければならないといいます。また、自分の権限が及ばないプロセスや組織構造に異を唱えることも求められます。そのような役割を理解できて、初めて新米マネジャーはリーダーへの道を歩み始めることができるというのです。

ところが現実は、新米マネジャーの大半が、上から支持された改革プランに従うだけ。改革者としての自覚に欠けており、ヒエラルキーに従った思考と権威へのこだわりのせいで、自分の責任をあまりにも狭く定義してしまうというのです。その結果、チームが失敗した場合は、責任を制度や経営陣に転化しがち。また、誰かが解決してくれるだろうと他力本願にもなりがち。

しかしマネジャーたるもの、職掌(しょくしょう)の範囲内であろうが、それを超えていようが、自分のチームの成功に向けて改革を起こす義務を負っているもの。そこまでの権限が与えられていないことを無視してでも、チームのために取り組まなければいけないのです。そのように視野を広げられれば、新人マネジャー本人のみならず、会社にとっても有益だということ。(33ページより)

たしかにこれらの「誤解」を認識することができれば、不必要な悩みからは抜け出すことができそうです。他にも新任マネジャーをサポートしてくれる有力なノウハウが凝縮されているだけに、管理職になったらぜひとも読んでおきたい内容だといえます。


Photo: 印南敦史

印南敦史

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