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時間や場所にとらわれない働き方を実現するために定めるべきルールとは?

時間や場所にとらわれない働き方を実現するために定めるべきルールとは?
Photo: 印南敦史

最高の職場をつくる働くルール』(坂上和芳著、ぱる出版)の著者は、現場主義をモットーに、さまざまな企業や職場を訪ね歩き、職場の問題について労使双方の立場に立ってアドバイスしているという人事労務コンサルタント・社会保険労務士。現場に寄り添ったコンサルティングに定評があるそうです。

電通事件が社会的に大きなインパクトを与え、政府は長時間労働の是正を柱とする「働き方改革」をひたすら推進し、世間ではいま、「残業削減」「ワーク・ライフ・バランス」の機運が一層高まっています。

「でも、一体何をすればいいのだろう…」

具体的にどうやって業務を改善し、生産性を向上させるかについての議論もされずに「残業削減!」の大号令だけがかかっても、そんなに簡単に残業は減りません。

働き方のルールを変えて、職場のしくみを変えないと、社員が働きやすい職場環境には改善できません。人は定着しません。

(「まえがき」より)

制度だけつくっても働き方は変えられないということ。業務改革と社員の意識改革を促し、生産性の向上につながるルールやしくみをつくる必要があるというわけです。

そこで本書では、効率的に残業を削減するためにルール、社員が自律的な働き方ができるようなルール、「休み方」のルールなど、さまざまなルールについてわかりやすく解説しているのです。きょうは第3章「時間や場所にとらわれない働き方のルール」のなかから、いくつかのポイントを引き出してみましょう。

働く長さを変えずに始業・終業時刻を変える働き方

社会的にワーク・ライフ・バランスが叫ばれるなか、個人に合わせた自由な働き方ができることは、従業員満足度を高めるためには重要な施策。「自由な働き方」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「フレックスタイム制度」ですが、もっと簡単に出退勤の時間を変えたりする方法もあるのだそうです。

一般的に、どこの会社でも「始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ」のルールを就業規則に規定していますが、働く側は意外とその内容を知らないもの。たとえば9時始業の会社で、業務の都合で7時に出勤しなければならない場合、そのまま決められた終業時刻まで働くと2時間の残業になってしまいます。そこで、退社時刻を2時間早めることで、雇用契約で決められた1日の所定労働時間を変えることなく働けるというのです。

単純に、始業・終業時刻を同じ長さだけスライドさせるのが原則。また当然ながら、1日の法的労働時間の範囲内であるなら、始業・終業時刻をスライドさせて働かせても、会社は割増し料金を支払う必要はないそうです。なお始業・終業時刻の繰上げ・繰り下げについては、終業時刻に記載する以外に特別な手続きや届け出は不要。終業時刻に次のように定めるのだといいます。

「業務の都合その他やむを得ない事情により、就業時間を繰上げ又は繰り下げることがある。この場合において業務の都合によるときは前日までに通知する」(69ページより)

たとえば荷主の都合や道路事情などで始業・終業時刻が左右されやすい運送業でも、このルールを日常的に活用している会社があるそうです。荷物により、始業時刻よりも早く出勤して積み込みをしたり、終業時刻後の雑多な作業が日常的にあるため、必要なときだけ、2時間を限度に始業・終業時刻の繰上げ・繰り下げを認めているというようなケース。

これはドライバーの判断によるフレックス勤務的な柔軟な利用法ともいえると著者は記しています。荷物などの状況により、2時間分をそのままスライドできないときは残業扱いとするものの、時間外労働の削減に効果的だということ。

また、働く時間を変えずに出退勤の時間を人によって変える「時差出勤」に取り組む企業も増えてきたといいます。たとえば、今年6月1日から個人単位での時差出勤制度を開始した三井物産がそれにあたります。1日の所定労働時間は変えずに、始業時刻を午前7時45分から10時45分まで15分刻みで選べるというもの。前日までに申請すれば、始業時刻は毎日変えることも可能。社員がもっとも効率的に働ける勤務時間を日替わりで選択できるという、画期的な制度です。(68ページより)

「週休3日で週40時間働く」しくみ

今年6月に、宅配大手の佐川急便とヤマト運輸が相次いで導入を発表したのが「週休3日制」。深刻なドライバー不足の解消につながるのかが注目されるところですが、ユニクロやヤフーなど、週休3日制の働き方を導入する企業側は増えているそうです。厚生労働省の調査によると、1週間に3日以上の休日を従業員に与えている企業は、2016年1月時点で5.8%なのだとか。

なお、ここでいう週休3日制は、短時間勤務のパート・アルバイトの働き方とは異なります。一般的な週休3日制のしくみは、正社員を対象に、1週間の勤務時間数を変えずに休日を増やすというもの。

具体的には、「1日の勤務時間8時間、週休2日制」の会社の場合、1日の勤務時間を10時間にして週休3日とすれば、1週間の勤務時間は同じ40になります。つまり休日を増やすぶん、1日の勤務時間を長くするという考え方。働き方改革の一環として、導入を検討する企業が多いといいます。

ちなみに法定労働時間は1日8時間なので、「1日10時間にすると、毎日2時間の残業代を支払うの?」という疑問も出てきそうですが、そうではないのだとか。このしくみは「変形労働時間制」という法律上の制度を導入することによって、1日10時間働かせても残業代を支払わなくていい制度だというのです。

変形労働時間制には、1カ月単位、1年単位、1週間単位の3種類があり、一般的に導入されているのが「1カ月単位の変形労働時間制」と「1年単位の変形労働時間制」です。

1カ月単位の変形制の場合、1カ月の期間で、1週間あたりの平均労働時間が法定労働時間の40時間の範囲内であれば、特定の日や特定の週に法定労働時間を超えて働かせてもよいというものです。

例えば、毎月決まって月初の1週間が忙しいというような場合、その1週間は1日9時間(週45時間)働くと設定して、他の日や週の労働時間を短くすることで、1カ月の法定労働時間の総枠(30日の月は171.4時間、31の月は177.1時間)を超えなければいいのです。だからこの制度を使うと、「1日10時間勤務、週休3日」とすることも可能になるわけです。(91ページより)

1カ月の変形労働時間制は、月初や月末、あるいは特定の週が忙しいと言った場合に採用するのが一般的。1年単位の場合は、特定の月や季節が忙しいといった場合に導入するのだそうです。

また変形労働時間制を採用すると、病院の看護婦さんのように、16時間拘束の夜勤勤務といった、最初から法定労働時間を超えた特殊な勤務時間の設定も可能。この場合、割増賃金の支払いが必要なのは、所定の16時間を超えた時間(休憩時間を除く)。

変形労働時間制は、閑散期と繁忙期の差が激しい業界などの場合、柔軟な対応ができたり、残業代を抑えられるといったメリットが会社にはあるわけです。ただ、制度を導入するための手続きや勤怠管理が面倒なので、導入する場合はしっかりと検討してから導入すべきだと著者は記しています。(90ページより)

「会社に行かない」という働き方

政府も働き方改革を推進する起爆剤として推進している「テレワーク」とは、「IT技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」のこと。会社の仕事を自宅でできる「在宅勤務」、移動途中に仕事をする「モバイルワーク」、勤務先以外のサテライトオフィスで働く形態などがあるわけです。仕事と家庭生活の両立、介護や育児を担う人の就業促進、地方における就業機会の増加による地域活性化、交通渋滞や通勤混雑の緩和など、さまざまな波及効果が期待されているそうです。

政府は、「2020年東京オリンピック・パラリンピック」までには、テレワーク導入企業を2012年度(11.5%)比で3倍とする目標を掲げているのだといいます。しかし、現在、トヨタ自動車や三井物産など、IT系以外の大手企業でもテレワークを導入しているものの、実際の導入状況はまだまだ低調。

では、これを働く側の視点で見るとどうなるでしょうか? このことについて、興味深い例として取り上げられているのが、連合総研が全国の民間企業に勤める男女2000人へのインターネット調査。

調査では、テレワーク制度が勤務先に「ある」と回答した従業員は9.7%。「テレワーク勤務したいと思わない」が3割いますが、理由として、「今の働き方で問題ない」「今の仕事をテレワークでおこなうのは難しい」「仕事と私生活の区別がつかなくなりそう」と続き、新しい働き方への不安感があるようです。

欧米ではテレワークは普及していて、米国で85%、イギリスで38%、ドイツで22%、フランスで約14%の企業等がテレワークを導入しています(総務省「平成26年通信利用動向調査」)。

(97ページより)

日本では、「場所や時間を提供すること」は重要な働き方として根づいているということ。仕事と私生活を切り替える意識も含め、労使の意識改革と、導入する場合の細かいルールづくりが必要だと著者は主張しています。(96ページより)


おもに経営者サイドをターゲットにした内容であり、いくぶん専門的でもあります。ただし難解だということではなく、難しくなりがちなことをわかりやすく噛み砕いて解説しています。そのため、働く側が基本的なノウハウを身につけておくための参考書としても、有効に機能してくれることでしょう。


印南敦史

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