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「シアトルの最低賃金が15ドルに上がると雇用が減る」という調査結果には、Amazonが入っていないという重大な不備がある

「シアトルの最低賃金が15ドルに上がると雇用が減る」という調査結果には、Amazonが入っていないという重大な不備がある
Image by shutterstock.

「最低賃金の引き上げ」は企業に雇用の大幅削減を強いり、人々を助けるはずの政策が、究極的には人々を困らせることになる――というのは本当でしょうか?

このほどシアトルで行われた調査で、それを裏付ける結果が発表されました。ところが、その調査対象には同市の最大手雇用主のAmazonをはじめとする大企業が含まれていないことから、重要な要素が欠けていると指摘されています。

単純労働者に高い賃金を払わなくてはならなくなった雇用主は、人件費の予算オーバーを回避するために雇用を減らさざるを得ないだろう、という考えは、筋の通った理屈に聞こえます。しかし、長年にわたる最低賃金に関する複数の調査結果を見ると、そうはならないことが示されているのです。

そして先月、最低賃金を段階的に15ドルまで引き上げるというシアトル市の試みに対し、詳細な調査を行っていたワシントン大学の研究者らが調査報告をまとめました。

結果は、シアトルの雇用主らは、たしかに最低賃金アップを相殺するために解雇や労働時間の短縮、採用予定の延期などを行い、雇用数を減らしていたというものでした。単純労働者にとって、最低賃金アップは3対1の割合で負担がメリットを上回ると、ワシントン大学の研究者らは言っています。

その数字は、最低賃金アップのせいで雇用主が低賃金労働者の労働時間を平均9%削減した一方、この条例による収入の増加は平均3%だったというデータに基づくものです。最終的には、労働者にとって月平均125ドルの損失という計算になるそうですが、これは低所得者層の人にとってはかなり大きな金額です。

この調査報告は、過去何十年にわたる研究結果と矛盾する結果となった点、そして、ワシントン州に特化した労働者所得や労働時間のデータが使用され、これまでにない詳細な調査となった点で、多くの注目を集めています。しかし、このワシントン大学の調査の方法に疑問を呈する声も他の研究者から上がっています

最も声高に主張しているのは、最近同様の調査を行った、カリフォルニア州立大学バークレー校の研究チームです。バークレー校の調査で使われたデータは、ワシントン大学が使ったデータほど詳細ではありません。そして、その調査結果は、シアトルの最低賃金の引き上げが労働時間や雇用数の有意な減少を引き起こしてはいない、という従来の調査報告と一致するものでした。

さて、どちらが正しいのでしょう? 過去のどの調査よりも詳細なデータに基づいたワシントン大学の調査のほうが、説得力が高いように思われますね。しかし、ワシントン大学の調査には重大な欠陥が1つあるのです。同大学の研究チームは、シアトル市の条例に該当しない雇用主が勘定に入らないよう、シアトル以外の地域にもオフィスをもつ企業――つまり、すべての大企業――を対象外としていたのです。その結果、シアトル地域の最大手雇用主である、Boeing、Microsoft、Amazonがすべて調査対象から除外されています。

特にAmazonは現地雇用の大半がシアトル市内で、倉庫で働く多数の単純労働者が今回の条例の対象です。にもかかわらず、同社が除外されているということは、調査結果に大きく響いているはずなのです。Amazonは、本拠地であるシアトルに新しいオフィスや倉庫を増設し、それに伴い雇用も急拡大しています。シアトル市内で働くAmazon従業員は現在30,000人ですが、さらに10,000人を雇用する計画です。2022年に新しいビルが完成すると、シアトル市のオフィス面積の20%をAmazonが占めることになります。

大手企業を除外して最低賃金条例の調査を行ったら、結果が完全にゆがむ――というのが、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームの主張です。たしかに、中小企業で労働時間をカットされた労働者が、現在Amazon(あるいは他の大手企業)でも仕事をしている場合、実際は、最低賃金アップ以前より収入が上がっていても、この調査ではAmazonは数えられないので収入が低くなったことになってしまいます。

低賃金労働者の多くが複数の雇用主のもとで働いているので、これは気になる問題です。しかしワシントン大学の研究者らは、最低賃金アップにすばやく反応し、労働時間や雇用を削減するのは中小よりもむしろ大手雇用主のほうだという証拠を示し、(やはり収入は下がっているはずだとして)自分たちのデータの正確性を主張しています。

低賃金とはいくらを指すのか?

ワシントン大学の調査方法のもう1つの問題は、低賃金労働者を時給19ドル以下の人と定義し、その人たちのみを対象としていることです。この線引きなら大部分の人が最低賃金条例の対象となる、という点では良いかもしれません。しかし、この調査における低賃金労働者の一部が時給19ドル以上の別の仕事を得ても結果には現れない、とバークレー校の研究チームは主張しているのです。

ワシントン大学の調査では、境目である時給19ドルの仕事が増えたという結果が出ています。ということは、それよりわずかに高い時給の仕事も増えた可能性が大なのですが、それはこの調査報告には出ないのです。

時給19ドル以上の仕事にはどんな人が就いているのかということは、このデータからはわかりません。しかし、賃金の底上げを余儀なくされた雇用主は、どうせ誰にでも高給を払わねばならないなら、もう少し高い給料を出して熟練労働者を雇い、人件費が上がる分を生産性アップで埋め合わせしたいと考えているのではないか、とワシントン大学の研究者らは考えています。

その仮説が正しければ、たしかに賃金底上げは最低賃金の労働者には不利です。しかし、時給が上がったのはシアトルの労働者市場が変化してきているからかもしれません。

「人工」シアトル

もし最低賃金が引き上げられなければ、賃金や雇用情勢はどうなっていたか、という問題もあります。この種の調査ではたいてい、底上げがなければ何も変わらないであろうと想定されるのですが、今回のシアトルの場合は、地元経済が急速な発展を遂げているので、何も変わらないとは考えにくいのです。

そこでワシントン大学の研究者たちは、以前に同様の動向が見られた他の町のデータを使い、仮想的な「人工」シアトルを作って、賃金底上げ無しの変化を再現しようとしたのです。しかし、データ源であるそれらの地方自治体は、ワシントン州内ではあっても、シアトルのあるキング群ではありません。シアトルは、州内のどの地域とも違う特異な都市なので、よその市町村のデータを使ったのでは仮想のシアトルを作ることはできず、その方法は有効ではない、というのが批判者の言い分です。

3年間シアトル地区に住んでいる私は、どちらかと言えばその意見に賛成です。シアトルは、Amazonの急拡大だけをとっても特異で、Amazonがシアトルを著しく変貌させる様子を、地元住民がアルマゲドンならぬ「アマゲドン」と呼んでいるほどなのです。

シアトルには失業問題はないとしても、住宅問題は間違いなくあります。さまざまな推定値が出ていますが、シアトルの家賃上昇率は7~9%というのが大方の見方です。目を見張る建設ブームの影響で、いずれ物件供給が充足し、家賃の上昇が減速するとよいのですが、まだその兆しは見えていません。ホームレス問題も危機に発展しています。

つまり、底上げ反対派の最大の理由の1つである、最低賃金が上がればインフレ率を上回る賃上げが起きる、という現象は、シアトルには当てはまらないのです。住宅費がここ10年で50%以上も上がっているので、単純労働者の賃金が底上げされたところで到底追いつきません。

シアトルは唯一無二

これは、この問題の一番重要なポイントです。シアトルは大きな転換の最中にあります。林業、漁業、海運業、航空機産業に支えられた二流都市から、IT関連産業の巨大な集積地である一流都市に変わりつつあるのです。

よそから移り住んでくる人の多さは、ゴールド・ラッシュ以来最大です。このような環境下での最低賃金アップは、単純労働者にとってプラスかマイナスか? ということなのです。私の直観ではプラスですが、相反する調査報告の存在が判断を難しくしています。

1つだけ確かなのは、シアトルの調査報告を使って、他の都市で最低賃金を15ドルに引き上げたらどうなるかを判断しようとしても無駄ということです。シアトルは比類のない都市だからです。

Researchers 'Prove' Seattle's $15 Minimum Wage Kills Jobs--but Ignore the Existence of Amazon | Inc.com

Source:Inc ,NBER WORKING PAPER SERIES,Seattle’s Minimum Wage Experience 2015-16

Image by shutterstock.

Minda Zetlin (訳:和田美樹)

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