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タイの働き方改革「Happy 8」に日本が学ぶべきものとは?

タイの働き方改革「Happy 8」に日本が学ぶべきものとは?
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2003年に開発された、タイ政府による「働き方改革」がいま、注目を浴びています。職場での従業員の健康促進やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上を目的として始まったHWP(Happy Workplace Program)がそれです。HはもともとHealthyを意味していましたが、「幸福感」が心身の健康に大きな影響を与えるとして、Happyを使うようになったようです。

社員の幸福感が業績を上げる

いまや4000以上のタイ企業が導入し、成果をあげているHWP。最初に導入した会社は意外にも日系企業の「ライオン・コーポレーション・タイランド」。日本ではお馴染み、ライオン株式会社のタイ現地法人です。HWP導入前(1997-2003)の年間成長率は5.1%でしたが、導入後(2004-2014)は10.8%と2倍以上になっています。

また、他のHWP導入企業においても、「欠勤率の下落」や「職務満足度の向上」などの成果が確認されており、離職率の低下にも大きな効果があると考えられています。

HWPは「Happy 8」と呼ばれる8つのコンセプトから構成されています。

1. Happy Body(心身ともに健康な体をつくる)

2. Happy Relax(リラックスする時間をもつ)

3. Happy Heart(親切心と思いやりをもつ)

4. Happy Soul(道徳心と信頼を培う)

5. Happy Brain(生涯学習を促進する)

6. Happy Money(適切なお金の管理方法を学ぶ)

7. Happy Family(社員の家族にとっても幸せな環境をつくる)

8. Happy Society(充実した社会の実現および周りの人をいたわる)



各企業ごとに取り組み方は異なりますが、以下、具体的な施策例を参考までに列挙してみます。

1. Happy Body(心身ともに健康な体をつくる)

・会社内にジムやフットサル、ボクシング(サンドバッグ)などの施設を完備する

・パーソナルトレーナーを常駐させ、利用者に専門的なアドバイスをする

・社員食堂で提供する食事が無農薬野菜などの安心安全な食材を使っている

2. Happy Relax(リラックスする時間をもつ)

・カラオケ、ビリヤード、卓球台などのアミューズメント設備を完備する

・メディテーション(瞑想)ルームがある

・マッサージが受けられる

・ライブ演奏ができるステージがある

3. Happy Heart(親切心と思いやりをもつ)

・定期的に献血イベントがある

・近隣の清掃活動を行う

4. Happy Soul(道徳心と信頼を培う)

・ 週一で僧侶に会社を訪問してもらい、従業員がお布施をする機会を提供する

※ タイは国民の9割以上が仏教徒。家の近所のお寺で托鉢をしたいが、時間がなくできない人が多くいるため。

・お祈り部屋がある(イスラム教徒向け)

5. Happy Brain(生涯学習を促進する)

・社内図書館を充実させる

・社外から定期的にゲスト講師を招待する

・英会話レッスンを提供する

6. Happy Money(適切なお金の管理方法を学ぶ)

・株式投資の専門家によるレクチャーを行う

・副収入を得る手段を教える

・稼ぎがなくなっても生きていけるように農業のやり方を教える

7. Happy Family(社員の家族にとっても幸せな環境をつくる)

・授乳室や保育所、遊具がたくさんあるプレイルームを完備する

・従業員の子どもを夏休み期間中に会社へ招き、サマーキャンプを開催する

・従業員の子どもに対して奨学金を支給する(小学校から大学まで)

8. Happy Society(充実した社会の実現および周りの人をいたわる)

・フリーマーケットの収益を寄付するチャリティイベントを開催する

・従業員(特に高齢者)に対して、退職後の社会貢献のアイデアを提供する


さて、皆さんはどう感じられたでしょうか?

ジムやカラオケ、マッサージ、図書館、英会話・投資講座、老後のプランニング、献血、保育所、サマーキャンプ、等々。通常は会社外で提供されているサービスが、社内で受けられるように設計されており、会社が1つの小さな街のように、多くの機能を兼ね備えています。

HWPの開発者であるチャンウィット・ワサンタナラット氏は次のように述べています。

今の若い世代は、職場を仕事の場所としてだけではなく、生活の場としてもとらえています。職場は、仕事もするけれど、友達との接点であり、社会やコミュニティーとしての機能も果たす場所です。ワークプレイスではなくコミュニティープレイスに来て、たまたまアウトプットが仕事という形なんです。

コミュニティープレイスとなると、人間関係に関しても、仕事上だけのつながりではなく、他の各種アクティビティも一緒に経験しているので、上司・部下という感覚よりも、友達や家族といった感覚が強まります。結果として、愛社精神も高まり、離職率が下がる効果も出てきます。

日本の働き方改革は、職場(ワーク)とプライベート空間(ライフ)を分ける議論がメジャーです。長時間労働を是正する(職場の滞在時間を減らす)ため、残業禁止やプレミアムフライデーなどの制度を導入していますが、より短時間で成果をあげることが求められるので、よりストレスがかかる可能性も大きくあります。

タイ方式と日本方式、どちらがベターなのかという話をしたいわけではありません。ただ、HWPの8つのコンセプトのうち、日本の会社で足りていないことで、お金をかけずに導入でき、かつ効果も高いものは何だろうと考えてみると、Happy Relax(職場でリラックスする時間をもつ)ではないでしょうか。

喫煙者は喫煙ルームで、営業さんは外回り中にリラックスできたりもしますが、ノンスモーカー且つデスクワークがメインで、リモートワークもNGというワークスタイルの方の中には、常に上司に監視されているように感じてしまい、昼食・トイレ以外の離席は皆目できず、仕事が終わっていても上司や先輩が退社するまでは、気まずくて家路につけないという人も多くいると思います。

ただでさえ、通勤の満員電車がストレスになり、疲弊してしまっています。始業時刻から終業時刻までの9時間、ランチ・トイレ休憩以外の時間ももう少し肩の力を抜くことができる時間・環境が担保されていなければ能率も下がり、パフォーマンスも上がらないのではないでしょうか。

ちょっと近くの公園まで散歩したり、ハンモック(社内)で昼寝したり、メディテーションルームで瞑想したりが自由にできるような「リラクゼーション文化」が会社に生まれると、従業員の幸福感が高まり、ワークとライフのバランスが整っていくように思います。

長時間労働を規制し、ワークプレイスの滞在時間を減らすことも必要だと思いますが、ワークプレイスの快適性や自由度を高めることも効果的だと感じます。

永崎 裕麻(ながさき・ゆうま)Facebook

fiji_happiness 11.jpg 「旅・教育・自由・幸せ」を人生のキーワードとして生きる旅幸家。 2年2カ月間の世界一周後、世界幸福度ランキング1位(2011/2014/2016)のフィジー共和国へ2007年から移住し、現在11年目。現職は在フィジー語学学校(Free Bird Institute)のマネージャー。 100カ国を旅した経験を活かし、内閣府国際交流事業「世界青年の船」「東南アジア青年の船」に日本ナショナル・リーダー(2017)や教育ファシリテーター(2013)として参加、教育企画の立案、スカイプ・コーチング、旅ライターとして執筆、などの活動もしており、フィジーと日本を行き来するデュアル・ライフを実践中。関心が強い分野は「留学」「海外就職」「海外移住」「難民支援」。1977年、大阪府生まれ。神戸大学経営学部卒業。一児の父。著書に「世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論」(いろは出版)。

※ 参考文献:『WORK MILL』 企業は「幸福度」で成長する (発行 株式会社 岡村製作所)

(永崎裕麻)

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