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「個人」が働き方を選ぶ社会へ。なぜ僕が夫婦でリクルートを辞めて、家族で世界を廻ろうと思ったか

「個人」が働き方を選ぶ社会へ。なぜ僕が夫婦でリクルートを辞めて、家族で世界を廻ろうと思ったか

9年間勤めたリクルートを、僕はこの4月に卒業(退職)しました。そしてこれから1年間、妻と2人の子供たちと一緒に、家族で世界を廻ります。

この記事は「その理由」について、書いてみたいと思います。

リクルートでの経験と、その中で感じた違和感

僕がリクルートで携わってきた仕事は、主に企業の新卒・中途採用のお手伝いをすること。そこでの僕の仕事は、企業の人事の方とお話をし、「どういう人材を採用したいか?」「 そのためには企業の魅力を、どのように伝えると良いか?」、これを考え、ご提案することでした。

お客様は企業なので、その企業のことをよく知ることから仕事は始まりますが、貢献できるかどうかはむしろ、学生や求職者のリアルな気持ちを分かっているか、採用市場における競合企業の考えをどれだけ知っているかによります。そうした中で”個人の一次情報”を多く知っていくうちに、疑問というか違和感を覚えるようになりました。

つまり、就活のシステムや求職サイトなどは、企業目線の考えからサービス設計をし過ぎていないか? ということです。

例えば新卒採用。働いてみたい企業が複数あるが、なぜか1社しか選べないというシステム。ある学生は「国や民間企業だけでなく、NPOやフリーランスという選択肢も模索したいが、大手求職サイトにはその情報がなかった。新卒って人生で1回のチャンスだし、もし半年とかで辞めちゃったらやり直しが効かない。だから、もう少し効率的に情報収集したり、いろんな人に会って就職先を決めたかった…」という声を漏らしていました。

それから中途採用。職務経歴書には自分の職歴を記載する欄はあるが、働き方の事情を左右する家族構成を記載する欄はない。ある転職者は「自分はフルタイムで働いていたけれど、1歳の子供が生まれ、夫の収入を踏まえると共働きは必要。そういう時に、働き方もフルタイムがベストかは分からないし、正社員や派遣含めどの雇用形態が良さそうか? というレベルから知りたかったけど、大手求職サイトの入り口は雇用形態別で分かれていて、キャリアカウンセラーに相談するにも時間が足りなくて…」といった声もありました。

これらはすべて”個人の声”を聞く中で、自分が違和感を覚えた話の一例です。この話は、企業や社会の経済合理性の話もあるので簡単な議論ではないのは百も承知です。

しかし、個人を取り巻く家庭環境や”働く”ということに対する考え方が変化しているのに、その雇用システムや情報収集手段が硬直的過ぎやしないか。「日本では働くを語るとき、企業が主語になりすぎてやしないか? もっと個人起点で”働き方”を選ぶための機会があってもいいのでは?」。そう思う自分の感情を、抑えることができずにいました。

家族ができたことによって、より一層感じるようになった「個人が働き方を選ぶ」ことの必要性

そんな疑問がよりリアリティを帯びてきた背景には、自身のプライベートの変化がありました。2011年に結婚し、一姫二太郎の年子の子供たちが誕生したことは、仕事や生活に対する考え方をさらに変化させたのです。

僕の妻は、会社の元上司で5歳年上で、世の中的にいうバリキャリの象徴のような人です。そんな彼女ですら一度キャリア路線から外れ、母としての時間を過ごすことに対し、復職への不安と焦りを覚えていました。

休みの日は家族を大切にするが平日は仕事に没頭する父と、それを母が支えるという家庭に育った僕は、どこかで自分を支えてほしい気持ちを妻に抱いていました。そのせいか、何度も夫婦で衝突してきました。

その過程で、”育児は好きだが家事が嫌である”とか、”子供に当たりたくないから僕に当たるけど、そういう自分にも悩んでいる”など、相手の考え方や感情を受け止め、どうしたら良くなるか? を話し合う経験は、”旦那さんと奥さん”というよりは、”パートナー”という感覚に自分たちの関係を変えていきました。

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ライフ、そしてワークに対しても、適切な距離感や互いの感情のリズムをおもんぱかろうとすることが(当たっているかはさておき)増えてきたと感じています。そしてそれは、子供たちが親に抱く感情の変化にもつながり、僕らのリズムが良い時は「おとうとおかあは協力して頑張ってるんだね」と素朴に見透かされることも出てきました。

また、僕自身3カ月という短い期間でしたが育児休暇を取得したり、保育園のお迎えに行く日は仕事の都合が何であっても帰宅するという”鉄意志帰宅”という日を設けてみました。分かったことは、「仕事において捨てる事ができるものはたくさんある」ということ、「人は制約条件の中で初めて自分を進化させることができる」ということです。

環境変化や時間的制約によって働き方は変えざるを得なくなり、これまで当たり前のように見過ごしてきた1つ1つの会議や資料作成などの無駄を捨てる判断ができるようになり、ライフとワークの垣根を超えて「今この瞬間、最も自分が大切にしたいことは何か」を考える習慣も強く意識されるようになりました。

これはプライベートでも同じことで、僕と妻のそれぞれ得意なタスクを得意な方が担当するようになりました。僕は掃除・洗濯・皿洗いやお金の管理、子供たちとの”ごっこ遊び”を。妻は料理や、家族・友人とのイベント企画、最も効率的な休日プランの選定、子供たちと芸術肌のお絵かき遊び。祖母の助けに支えられてますが、家事と育児は、ほぼ半々で分担できるようになりました。

当たり前ですが、”働く”の背景には”家族”があり、それらは表裏一体の関係にあります。言い換えると、”家族”を進化させることができれば”働く”も進化させることができるのではないか。そう思うようになったのです。

新規事業開発の部署へと異動。そこで出会った、”自由”な働き方を実践する人々

公私両面でそうした考えの変化が生まれてきた僕にとって転機となったのは、シェアリングエコノミーの新規事業開発に携わった経験でした。これはモノやコトの利用コストをシェアすることで一人当たりのコストを下げ、ベネフィットを受ける利用者を増やしていくという共助の考え方をもつビジネスです。

働く人のスキルや知識をシェアするクラウドソーシングという概念でビジネスを検討をするプロジェクトでした。そこで出会ったのは自身の経験やスキルを活かしてフリーランスとして働くエンジニアや翻訳者、営業の人たち。まだまだ日本では浸透しきっていない働き方なので、生活のための収入確保に苦しむ人や、稼げる仕事はあるけどやりがいのある仕事に出会えないなど充実感に悩む方のお話も聞きました。

一方で、普段は企業で働きながら、スポットで企業では任せてもらえない仕事を担うことで充実感を得ている人や、自分のライフスタイルに合わせて仕事の繁閑をコントロールし、子育てと趣味と仕事を両立させている人、中には企業でフルタイムだった時より収入を3倍に増やして家族を養っている海外の方にも出会いました。

僕が感じたことは、この人たちは”自由”だなということ。フリーランスが良くて会社勤めが悪いということではありません。「会社勤めをしなければ」「妻は家庭を切り盛りせねば」といったいわゆる普通の概念から自立し、個人としての価値観と選択、そして結果に責任を持っている。話していると何か清々しさを感じる。それが素敵だなと思いました。

「働き方改革」に携わり、『LIFE SHIFT』著者と出会って確信したこと

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またその翌年にはリクルートの従業員2万人の働き方改革を、何のために、どのように実現するか? というプロジェクトに携わりました。安倍総理が働き方改革は最大のチャレンジと掲げ、大臣を設置されたのが2016年8月のこと。

しかし、「トップからやらねばならいテーマとしてお題をもらったから」という理由で働き方改革を始める場合も多いと聞きます。そのような場合、コスト削減や長時間労働是正自体が目的となりやすく、全体最適・一律な手法の実施となることで、現場の変化や実情を蔑ろにしてしまう側面がありました。その意味で、経営と現場が乖離しやすいという問題点が挙げられます。

一方で、「100人いれば100通りの働き方」を掲げるサイボウズ社のように、従業員の個別具体的なニーズに寄り添った制度設計や環境整備を進めていくという考え方もあります。これは経営者の相当なコミットと企業文化の浸透を前提としながらも、個別最適・多様な手法を実施することで、変化には時間や労力がかかるものの、経営と現場の乖離は相対的に少なくなるように見受けられました。

このように、今の日本で繰り広げられている働き方改革には、”法人”としての人格、価値観が色濃く反映されるわけですが、リクルートホールディングスでは”個人をエンパワーメントする”という考え方を軸足とし、『LIFE SHIFT: 100年時代の人生戦略』の著者であるリンダ・グラットンさんにもお話を伺いながら、未来の働き方をチームで議論していました。

彼女は著書の中で「これからは100年生きる時代。不確実性が高く、変化の激しい世の中において、過去の歴史や所属する社会が形成しているさまざまな暗黙知(働き方・時間・家族のルールなど)を自分で再定義する必要が出てくる」と述べています。

また、伺った話のテーマの1つに「組織で成果を出す上での多様性とはなにか」がありました。

曰く、「多様性とは違いであり、性別や年齢、専門分野などの『目に見える差異』から『根底にある差異』、つまり思考様式やアイデンティティ、経験によって形成される差異へと解釈が変化している。そして組織における多様性は、そうした差異を本能的に理解できる人の存在や、それを構成し合える風土によって価値へと変わる 」。

そんな話を聞いて、自分の中でモヤモヤと考えてきた、感じてきた”点”がつながっていくように思えたのです。

「自分自身も”働き方”や”家族のあり方”、そして”教育”というテーマに対し再定義をしたいのではないか? そのためには、世界に存在するいろんな価値観に直に触れ、根底にある差異を理解できる”琴線のヒダ”を増やすことが大切なんじゃないか?」。そんな思いが湧いてきました。

海外には、齢10歳で生き方の分岐を迫る社会もあれば、28歳で”新卒”が当たり前で、その後の学び直しを国が保証する社会もあります。”個人が働き方を選ぶ社会” のリアリティを体感することで、自分の、そして家族の生き方の幅を広げたい。

これが、僕がリクルートを辞め、家族で世界を廻ろうと思った理由です。

いざ、冒険へ

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“働く” ”家族” ”教育”。いろんな世界を見たからといって、世の中を変える素敵な正解が見えることなどあり得ない。それでも、今、この瞬間にしかできない体験を紡ぐことで、一律から多様へと変容する日本において自分なりに感じられることや意見が増え、誰かの役に立つことができるかもしれません。

そしてそれは、僕1人でなく夫婦で、子供たちと、一緒に体感し意見交換することでより深まっていくと思いますし、その経験がいつか子供たちにとって、人生の原体験となるような教育機会の一端となったら嬉しいなと思っています。

始まりは福祉国家であり、世界幸福度ランキング1位と名高いデンマークから。期限は1年。前半は欧州を中心に中東を、後半はアジアを中心に廻りたいと思います。

現地のお宅に”民泊”し、その家族と生活を共にして”家族”についての考え方や価値観、そして”働く”のリアルを聞く。時には企業に突撃インタビューをし、”働き方”やその法人としての考え方について、日本との比較や自分の経験を踏まえた気づきをレポートしていきたいと思います。

佐藤邦彦

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