特集
カテゴリー
タグ
メディア

人工子宮で超未熟児を救える日が来るかもしれない

人工子宮で超未熟児を救える日が来るかもしれない
Kristina Bessolova / Shutterstock.com

病院の新生児室に入ってみると、そこに並んでいるのは保育器でなく、未熟児を浮かべた液体が詰まった袋がずらりと並んでいる光景を想像してみてください。これはSFの世界の話ではありません。2017年4月、「人工子宮」器の中で羊の胎児を育てることに初めて成功したことが研究チームにより発表されました。これは驚くべき成果です。しかし人間への適用となるとどうなのでしょうか。

母親の子宮は要らなくなる?

まずは大事なことから。この人工子宮は斬新極まりないものですが、従来の子宮に取って代わるものではありません。また、100%人工的な妊娠の実現が近づいている兆しでもありません。とはいえ、2014年に未来学者のZoltan Istvan氏は、子宮を使用しない「体外妊娠」が今から20年後には可能になり、30年後には広く普及するであろうと予言しています。このようなテクノロジーは、胎児にとっても母体にとってもより安全で管理された妊娠を可能にするので、妊娠を代行して母体から出産の負担を取り除けると唱える人が他にもたくさんいます。

もちろん、議論の余地は多々あります。妊娠中絶法は胎児が子宮外でも生存可能かどうかの点に依拠していますが、胎児があらゆる段階で子宮外でも生存可能になると、どう変わるのでしょう。また、親権はどのように変わるのでしょうか。赤ん坊が子宮内で育つことで得られる恩恵はまだ解明されていませんが、(精神的恩恵や微生物的恩恵以外にも別の性質の恩恵があるとしたら)、そうした恩恵を得られなくなるとすれば、どうなるのでしょうか。

幸いにして、まだそこまで考えなくても良い段階です。当面は妊娠初期の一部始終が、いまだにあまりにも複雑で謎が多いので、研究者は胎児を受精卵から育てて生存可能な状態まで成長させることができていません。

「現段階では技術的なめどはたっていないのが現実です」とCHOP(Children’s Hospital of Philadelphia=フィラデルフィア子供病院)の主任研究著者であるAlan Flake氏は記者会見で語っています。「妊娠のその時期を乗り越えられるのは、母親だけです」

人工子宮活用の可能性

この研究の目的は、全く子宮を使わずに子供を誕生させることでなく、ごくわずかでも生存の可能性がある赤ちゃんの命を救う方法を見つけることでした。

人間の正常な妊娠期間は40週間ですが、アメリカでは出産10件につき1件が37週未満の未熟児で誕生しています。新生児医学の発達によりこうした早産が原因で発生する問題は徐々に減少していますが、これは妊娠期間26週未満の「絶対的な早産」でも生存する新しいカテゴリーの赤ちゃんが増えることを意味します。このカテゴリーの赤ちゃんの生存率は現状30%から50%ですが、内臓が完全に形成されていないせいで何らかの合併症になる確率が90%もあります。つまりほぼ全員が誕生後まもなく死亡しており、生き残った子供も深刻な障害に苦しむ傾向があります。

「このような胎児は母親の子宮と外界のつなぎになるものがすぐに必要です」とFlake氏は述べています。「ほんの2、3週間でいいので、子宮外で子供の成長と内臓の完成を助ける子宮外システムを開発できれば、超未熟児の治療の結果を劇的に改善することができます」

言い換えるなら、医師は超未熟児を保育器の中に入れて点滴の管や人工呼吸器やモニターをとりつける代わりに、外側から中が見える子宮にさっと入れてしまうことになります。


Video: The Children's Hospital of Philadelphia / YouTube

どのような機能があるのか

この新しい研究は、人間の胎児でなく羊で実験しました。数年間にわたり、研究チームは人間の妊娠23週から24週に相当する早産の子羊を子宮外でサポートするように設計した、プロトタイプをいくつか開発しました。

人工羊水のおかげで新生児は未発達な体に優しい環境で、栄養素と成長因子を供給され、密封された環境なので感染症からも保護されます。血液を循環させるポンプや肺に空気を送り込む人工呼吸器で胎児の弱々しい肺や心臓に負荷をかける代わりに、人工子宮がへその緒を通して患者を生命維持とつなげ続けます。

以前は同じようなシステムで胎児はほんの数日しか生きられませんでした。しかし新しい研究では、ほぼ1か月の在胎期間と母親の子宮の中にまだいるかのように発達し続ける健康な赤ちゃん羊のケースが報告されています。子宮と似た環境でさらにひと月発育した子羊は通常の人工呼吸器に移されて、全く普通の子羊の生活をしたようです。そして、少なくとも1匹は丸1年生存しました。


バイオバッグの中にいる早産の子羊
Video: Associated Press / YouTube


人間の超未熟児も救うことができるのか

この研究により、専門家は人間の胎児も救えると確信しているようです。トーマス・ジェファーソン大学の小児科医、Jay Greenspan氏はこの研究には参加していませんでしたが、この装置は「技術の生んだ奇跡」だとナショナル・パブリック・ラジオで語っています。また、テンプル大学のThomas Shaffer氏は、「稀にみる大成功」だと言っています。科学的研究に対するコメントとしてはどちらも最高の称賛です。CHOPの研究チームは、2、3年後には人間に試行できたらと語っています。

しかし、テクノロジーの成功が疑いの無いものである一方で、そのタイムラインは楽観的過ぎるかもしれません。

「臨床前の調査や開発がまだまだ必要なので、この治療法が臨床で使われる日は易々とは来ないでしょう」とエジンバラ大学生殖医療科学の教授であるColin Duncan氏は声明の中で述べています(同氏はこの新しい研究には参画していません)。「早産のリスクがある女性にステロイド注射を用いて胎児の肺の発達を促進する方法が、羊を使った実験により発見されました。これにより、未熟児の生存率が世界的に改善して、産科や新生児の治療法に大きな影響を与えました。しかし、この治療法が臨床診療に使われるまでには、ゆうに20年以上かかっています」

それに、羊は人間とは違う点がいくつもあります。まず、羊は在胎期間がたった152日間で、人間よりはるかに短いですし、胎児は人間より大きいです。ですから、研究チームは出産時の体重が4kgを下回ることが多々ある人間の赤ん坊にあわせて人工子宮の装置のサイズを小さくする必要があります。さらに、人間の胎児が差し迫った危険性が無くなるまで4、5週間易々と生存してくれるかどうかは何とも言えません。人間のへその緒が子羊のものと同じように機能しているかも不確かです。子羊は素晴らしい概念実証を提供していますが、研究チームは人間の生命を救うためにこの装置を盲目的に試行するつもりはなく、人間に使えるように現在の設計を変更することになりそうです。

またその先には、この新しいシステムがどの程度世の中に認められるかという問題があります。

「私が話した開業医の中には、赤ちゃんの家族は赤ちゃんが4週間も袋に入れられることを受け入れられないかもしれない、と考える人もいました」とライリー子供病院のBrian Gray氏はStat Newsに語っています。「とてもSFっぽい話ですから、受け入れられない人もいるかもしれません」

CHOPの研究チームは、この装置が人間に試行されるときまでに人間の赤ちゃんが袋に入れられて新生児集中治療室の壁につりさげられる形は取らないようにして、赤ちゃんの家族にも受け入れやすいものにすると主張しています。しかし、液体の中に赤ちゃんを密封するなどということは普通の人には間違いなく想定外の話でしょう。

さらに、たとえうまくいくようになっても、この装置ができることには限界があります。前述した通り、完全に自然妊娠の代わりになるものではありません。妊娠22週に満たない赤ちゃんをサポートできるところまでこの装置が進歩するのは、いつになるか誰にもわからないのです。また、こうした胎児の受け入れは適切に準備される必要があります。未熟児は帝王切開で母体から取り上げられ、未熟な肺の容量以上の空気を吸い込まないように薬物投与が必要です。その結果、繊細な肺に取り返しのつかないダメージを与える可能性があるので、すぐに袋に移して新しい胎盤につなげる必要があります。

ですから、この奇跡のような発明には細かい問題がついてまわります。実際に病院の臨床で使われるようになっても、なかなか世の中には受け入れられないかもしれません。しかし、いつかはこの新しい装置が多くの幼い命を救う日が来るかもしれません。


This 'artificial womb' is like science fiction—but uteruses aren't out of a job yet | Popular Science

Image: Kristina Bessolova / Shutterstock.com

Rachel Feltman(訳:春野ユリ)

swiper-button-prev
swiper-button-next