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HOW I WORK

アドビの「フォント」はこうやって作られる。タイプフェイスデザイナー・西塚涼子さんの仕事術

アドビの「フォント」はこうやって作られる。タイプフェイスデザイナー・西塚涼子さんの仕事術

敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回は、PhotoshopやIllustratorなどのソフトウェアでおなじみのアドビシステムズで「フォント」の制作を行う、タイプフェイスデザイナーの西塚涼子さんの仕事術を伺いました。

西塚涼子(にしづか・りょうこ)

アドビシステムズ、Typekit、日本語タイポグラフィー、チーフタイプデザイナー。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒後、1997年にアドビシステムズに入社。小塚昌彦氏指揮のもと、「小塚明朝」、「小塚ゴシック」の開発に携わる。その後、アドビオリジナルかな書体「りょう」および「りょうゴシック」ファミリー、フルプロポーショナルかな書体「かづらき」、「源ノ角ゴシック(Source Han Sans/Noto Sans CJK)」「源ノ明朝(Source Han Serif/Noto Serif CJK) 」をリリース。

居住地:東京都

現在の職業:タイプデザイナー

仕事の仕方を一言で言うと:1日100グリフのノルマ

現在の携帯端末:iPhone6 Plus

現在のPC:MacBook Pro 15inch, 13inch

1. 「これがないと生きられない」アプリ/ソフト/道具は何ですか?

自社の宣伝じゃないのですが、「Adobe Creative Cloud」。アドビ入社前から「Illustrator」は相棒のような存在です。それがサブスクリプションになり、社内と自宅勤務間でのファイル管理がとてもしやすくなり、「今日使うファイル、会社のMacから持って帰ってくるの忘れた!」と言うことがなくなりました。

あとは「Glyphs」。これはフォント作成ツールです。通常タイプフェイスデザインは言語ごとにとても複雑なので、多くの国の言語を制作できるようになっていて、UIもローカライズされていてわかりやすいです。

2. 仕事場はどのような環境ですか?

明るくオープンな感じで、デスクの仕切りも低くコミュニケーションを取りやすい環境です。ただ私の作業はひたすら文字を作ることなので、昔の大きなUSの本社と同じキューブ型のデスクに篭って仕事をするのが好きでした。

会議室も多くあり、それぞれの名前に私の手書きの筆文字と「かづらきフォント」を合わせたものをネームプレートとして使っています。

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会議室「卯の花」
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会議室の名前一覧

3. お気に入りの時間節約術は何ですか?

私の仕事は時間の節約よりも、じっくり、かつ大量に文字をデザインする時間を確保することが重要なので、仕事以外での時短が必要になります。

中学生の娘がいるので、お弁当や食事作りなどクックパッドで献立を決めたりすると、買い物もある程度無駄が省け助かっています。家事の効率化は結果的に仕事や休憩時間にも影響するので、ワーキングマザーには重要です。

4. 愛用している、仕事をうまく進行させるためのツール(ToDoリスト、アプリ、道具など)はありますか?

スケッチや原字を作る時に、いきなりコンピューターではなく手書きで起こすことが多いので、文房具や筆をいろいろ揃えています。特に小筆は書く文字のテイストや大きさで微妙に変わるので、書家の矢島峰月(やじま・ほうげつ)先生にいろいろアドバイスいただき試しています。

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5. 携帯電話とPC以外で「これは必須」のガジェットはありますか?

ルンバ。まだ使って日が浅いですが、家事の時短に一番貢献しているかも。フローリングくらいにしか使えないと思っていたのですが、茶々(チワワ)の毛だらけになったラグが掃除機やコロコロではどうしてもキレイにならず、だいたいな感じで諦めていたのですが、ルンバの稼働初日で見違えるくらいきれいに! 働き者の姿を横目で見つつ、せっせと文字を製作しています。

6. 仕事中、どんな音楽を聴いていますか?

キリンジ、LOVE PSYCHEDELICO、Basement Jaxxなどグルーヴ感がある音楽が好きです。あと、文字エピソードをからめて言うと、星野源さんはSAKEROCKの頃から大原大次郎さんのグラフィックと共に好きです。

ドラマの逃げ恥で星野さん演じる平匡さんがメールを見るシーンで、スマホのフォントが源ノ角ゴシック(Noto Sans CJK)だったときに「源ちゃんが源ちゃんを!!」と一人高まったこともあり、勝手に文字つながりを感じて聴いています(笑)。

7. 仕事において役に立った本、効果的だった本は何ですか?

文章を読んで役に立てるというよりも、参考になる字のデザインを探すことが多いです。

東京築地活版製作所の明治、昭和初期の見本帳(本に入れていいのかな笑)。これは昭和初期に無くなってしまった活字の会社のなのですが、今のクラシックな明朝体の基礎になっています。眺めているだけでも幸せになれます(笑)。

『描き文字のデザイン』(グラフィック社)は最近出版されたものなのですが、中村不折(なかむら・ふせつ)から現代のデザイナー・アーティストまで網羅した魅力的な手描き文字を収録しています。会社用、自宅用と2冊入手しています。

『もじのみほん』(誠文堂新光社)は、例えば「あ」の一文字を各書体で比較できるようになっている本です。ある意味一番の実用書です。ただ、電車の中など外で食い入るように見ていると変態感が出るので要注意です!(笑)

8. 現在、どんな本を読んでいますか?

読むというとちょっと違うかもしれませんが、上記の『描き文字のデザイン』をじっくり見ています。ときどき臨書(?)もしています。

9. 睡眠習慣はどのようなものですか?

1時半あたりに寝て、7時前に起きます。7時間とりたいのですが、だいたい5〜6時間くらいになってしまっていて、毎日反省しています。

10. 仕事をよりよく進めるために「習慣」にしていることはありますか?

筆をこまめに使い練習することですね。書道を習わないと文字デザインをできないわけではないのですが、やはり実際手を動かすことだけでなく、目を肥やすためにも常に練習しています。

11. いまお答えいただいている質問を、あなたがしてみたい相手はいますか?(なぜ、その人ですか?)

ブックデザイナーの名久井直子さん。名久井さんがデザインされたものがとても素敵で、いつもその世界に文字だけでも入れないかなと思いながらフォントを作っています。本人もおしゃれで自分の世界観を持っている人なので聞いてみたいですね(会う時に聞けばいいのだけど、面と向かってはねぇ!照)。

12. これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください。

元アドビの上司、小塚昌彦さんに言われたことですが、「フォントは約20年をサイクルに大きく変化してきた。常に次を見据えてデザインしていかないといけない。」と。活字、写植、デジタルと体験してきた小塚さんにしかできないアドバイスだと思っています。

製作期間も流行もサイクルが長いフォントだからこそ、先読み力が大事だと思っています。しかも小塚さんは定年の年齢をすぎてから、アメリカの会社であるアドビに入社して私たちのチームを立ち上げ、新しいツールの基礎を作ったツワモノです! 私の中で、新しいもの好きといったら一番に小塚さんを思い浮かべます。

美大生の時にタイプフェイスデザインの恩師、大町尚友先生にはデザインだけでなく精神的にも支えていただきました。当時の私はレタリングのみが得意で(でも特別好きというわけでも、ただ単にできる作業という感じ)、でもまだどの分野もぱっとした作品を作ることができず、友達の垢抜けた作品を見ては焦っていたところがありました。

その時に「焦らなくていい、そのための時間は必要なんだよ」と言われました直接作品に結びつかなくてもたくさんの体験をすること、表面は見栄えの良い作品に見えても浅いものもたくさんある、大事なのはそこではなく、結果はどうあれゆっくり焦らず向き合うことが大事、ということ。

その言葉をいただき、スッと気持ちが軽くなったのを覚えています。まず得意なレタリングを本気でやってみたらどうなるんだろう、得意じゃなくて好きになるとこから始めようと目指したところからもう約25年。同じことをやっていますよ、先生!(大町先生は2017年3月31日に残念ながら他界されました。)

13. 最近購入したものの中から、特に気に入っているものがあれば教えてください。

バルミューダのトースターを毎朝使っています。5ccの水を入れてからパンを焼くのですが、まさに表面はサクッと、中はふわっと焼けます。バルミューダの製品が大好きで、扇風機は3台も持っています。次は炊飯器を狙っています。

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