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「売れる空気」はできているか? 世の中を動かす「戦略PR」の基本とは

「売れる空気」はできているか? 世の中を動かす「戦略PR」の基本とは

戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(本田哲也著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、2009年にベストセラー『戦略PR』を生み出した著者による最新作です。

同書のヒットから年月が経過して「PRブーム」といわれた時期も過ぎ、マーケティングや企業コミュニケーションにおける「戦略的なPR」の必要性はおおむね認識されたと著者はいいます。とはいえ、世界的に見れば日本はまだまだ周回遅れだとも。

その一方、この10年でFacebook、Twitter、Instagramなどのソーシャルメディアとスマホが生活インフラとして定着し、「マーケティングのデジタル化」が実現してもいます。時代が大きく変化したわけです。

そこで僕は、このタイミングで『戦略PR』をまったく新たに書き下ろすことにした。普遍的な考え方とフレームワークはそのままに、大きく2つの方向性でアップデートしている。ひとつはこの間の急激な情報環境変化を反映させたこと。そしてもうひとつは、グローバルな視点を全編に持ち込んだことだ。

これにより、グローバルな潮流の中でのPRの役割を、最新のマーケティング環境を前提に解説することができたと自負している。それが本書である。(「はじめに」より)

とはいえ、やはりまずは基本を押さえたいところ。そこで第1章「戦略PRは空気づくり」から、戦略PRについての基本的な考え方を抜き出してみたいと思います。

戦略PRは空気づくり

同じ商品カテゴリーなのに、なぜ「売れるもの」と「売れないもの」が生まれるのか?——それは「商品力」や「宣伝力」の問題ではない。その商品が売れるための「空気」ができているかどうか、だ。商品を売るためにつくり出した空気=「カジュアル世論」をつくり、売上につなげる。それが「戦略PR」なのだ。『戦略PR』(アスキー新書)(34ページより)

これは、著者が2009年に『戦略PR』で提唱したこと。これまでの広告キャンペーン主導型のやり方とは発想が異なることがわかります。でも、「空気をつくる」とはどういうことなのでしょうか? このことを解説するために、著者は「おむつ」の事例を紹介しています。

そのおむつは、従来品よりスリムで吸収力も向上させた自信の新商品だったが、それを購買層である母親たちにどのように伝えていくか。王道的な方法なら、テレビCMでブランドを訴求し、店頭プロモーションで伝えようとするだろう。しかしすでにブランドの認知率は100%近い。また店頭は価格競争の真っ只中だ。

そこでメーカーは、戦略PRの手法に着手した。具体的には、「赤ちゃんの睡眠」の話題を喚起し、「快適な睡眠環境を提供するおむつ」の購買に結びつけたーーつまり、「空気づくり」を行い、それを商品へとつなげたのだ。(35ページより)

メーカーはまず小児睡眠の専門家と組んで、「赤ちゃんの睡眠」に関する国際調査を実施。そして、日本の赤ちゃんの睡眠環境がいかに問題か(日本の赤ちゃんの実に50%近くが夜10時以降まで起きているなど)というデータを整備し、発表したのだといいます。

その結果、マスコミはこの事実をこぞって報道し、ソーシャルメディア上の口コミも急増。「赤ちゃんの睡眠が問題である」という空気が、ものの2ヶ月ほどの間に醸成されたというのです。

そして、このタイミングでメーカーは、最小限の投資で広告と店頭施策を展開。当然ながら、そのメッセージは「あなたの赤ちゃんの睡眠を考えたブランドです」というもの。その結果として、赤ちゃんの睡眠の空気づくりと、その解決策と位置づけた商品訴求が功を奏し、売上は向上したとか。

ここには、注目すべきポイントがあると著者はいいます。それは、インターネットの普及により情報コンテンツの主役が企業から消費者へと移行するなか、「オレがオレが」という企業発信の情報よりも、報道情報やクチコミの影響力が増していったということ。

そうしたメディア状況下においては、「企業が主語」ばかりではダメで、「第三者話法」を取り入れないといけないということに、企業もやっと気づいた。2008年のリーマンショックで世界的に広告投資が見直されたことも、それを後押しした。そんななか、「戦略PR」は一躍注目の的となっていった。(34ページより)

こうして戦略PRが日本で一気に注目されたのは、「空気」という説明が、日本企業や広告業界の人々の心に刺さったからではないかと著者は推測しています。日本人は古来より「空気」を大事にしているので、老若男女問わず、「空気」といえばピンとくるというわけです。(34ページより)

そもそもPRって?

ところで、そもそもPRとはなんなのでしょうか? この問いに対して、著者は次のように答えています。

PRとは、本来はパブリックリレーションズ(Public Relations)の略で、直訳すれば、「公的な(Public)関係性(Relations)という意味だ。仮に企業であれば、消費者はもちろん、株主や取引先企業、従業員、メディアや専門家といった周囲の利害関係者たちと良い関係を築き、それを維持するということになる。(37ページより)

つまりは「企業や組織がいかに世の中とうまくやっていくか」ということ。そのための戦略はノウハウの総称が「PR」だということになるのです。

しかし日本でPRは誤解されがちで、とりわけ「広告との違いは?」という問いがいまだに少なくないのも事実。

広告PR
買う広告枠を買うか買わないか買わない
低い信頼性が高いか低いか高い
しやすいコントロールしやすいかどうかしにくい

まず、「広告枠を買うかどうか」。広告はテレビや雑誌の「枠」を購入し、そこに企業が発信したい内容を「出稿」するかたちになっています。対してPRは、メディアやインフルエンサー(影響者)に「情報」を提供するのみ。それを取り上げるかどうかは、彼らの判断だというわけです。

そしてこのことが、中段の「信頼性」につながるのだそう。お金を払って言いたいことをいうのと、第三者の報道やクチコミでは、どちらが信頼されやすいかということ。

最後の「コントロールしやすさ」は、PRの弱点でもあるといいます。発信したい情報が「いつ、どこで、どんなかたちで世の中に出るか」が他人任せになってしまうため、100%のコントロールは不可能だからです。逆に、ペイドメディアである広告手法の強みはここにあることになります。(37ページより)

PRは「ステマ」なのか?

近年、「ステマ」という言葉をよく見かけます。これは「ステルスマーケティング」の略で、つまり消費者に宣伝だと気づかれないように宣伝行為をすること。当然ながら法的にも倫理的にも、真意を隠して宣伝すべきではなく、タチの悪いステマは撲滅されるべき。

しかし問題は、「PR=ステマ」という“見え方”が醸成されてしまうことにあると著者。日本では「PR=パブリックリレーションズ」という理解がまだまだ乏しいだけになおさら、PRを実行する側は指針をしっかり持って臨むべきだということ。また受け手である生活者も、情報の背景を疑ってみることが大切だそうです。

ちなみに、ステマとPRの違いを生む、2つの重要な視点は次のとおりだといいます。

1. 「関係性の明示」の視点

まずは情報の開示にまつわること。相手がメディアであれインフルエンサーであれ、PR主体企業や組織との「金銭の授受」の有無が論点となるわけです。「あったからダメ」「なかったからOK」というものではなく、重要なのは「なんの対価だったか」。たとえばインフルエンサーに物品を提供する場合、「紹介してもらえることを期待して供与する」のはセーフですが、「紹介してくれることの対価として供与するのがグレーだということ。これを「関係性の明示」というそうです。


2. 「編集権の所在」の視点

次の「編集権」「編成権」は、「提供された情報をどう扱うか」という権利であり、「どう扱うか」には内容のみならずタイミングも含まれるといいます。テレビなら「いつ放送するか」、新聞なら「いつ記事にするか」、ブロガーであれば「いつ投稿するか」。それがPR活動の一環であるなら、どんなに予算があろうと「編集権」を買うことはあってはならないということです。重要なのは、権利所在がメディアなど第三者にあるという事実であり、逆にいえば、編集権ごと買い上げてしまうと「広告」になるということです。

(40ページより)




このように基本的な事項もわかりやすく簡潔にまとめられており、さらには情報環境の変化にも対応。また、グローバルな視点も盛り込まれているわけです。そのため、戦略PRを使いこなすためのメソッドが確実に身につくということ。ビジネスパーソンなら、ぜひとも目を通したいところです。


印南敦史

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